平成21年6月(水無月)の短歌
早苗田の風も電車に乗せて来て降り立つ駅の土地訛り親し
(さなえだの かぜもでんしゃに のせてきて おりたつえきの なまりなつかし)
手術にて視力もどりし友の声紫陽花の花の色も告げつつ
(しゅじゅつにて しりょくもどりし とものこえ あじさいのはなの いろもつげつつ)
背を向けし友の心を計りかね 朝顔の蔓巻きつけている
(せをむけし とものこころを はかりかね あさがおのつる まきつけている)
梅雨晴れの路地を盲導犬と巡り来て風鈴の音の初なるを聞く
(つゆばれの ろじをもうどうけんと めぐりきて ふうりんのねの はつなるをきく)
日の暮れは七時になりしと声の便り聞きて盲いの明りを点す
(ひのくれは 7じになりしと こえのたより ききてめしいの あかりをともす)
シソの葉の香はたらちねの母の匂い香を満たしつつ黙して摘みぬ
(しそのはの かは たらちねの ははのにおい かをみたしつつ もだしてつみぬ)
焼きたてのピーマン四個に足らいたり初なりの香を夫と分け合う
(やきたての ピーマンよんこに たらいたり はつなりのかを つまとわけあう)
ここ3日間ほど真夏日が続いている。そんな中、久しぶりにさまよい歩行をしてしまった。つまり現在位置が分らなくなったのだった。
朝からの会合を終え友達と食事やおしゃべりの後、2時半過ぎのバスに乗り込んだ。一停留所前でバスを降り遊歩道に向かった。ターシャのトイレを済ませたところまでは良かったのだが。足もとでスースーと変な音が・・・。木の影あたりで人の気配が・・・。ターシャの動きもおかしくなるし、たて続けに異常なほどのくしゃみをし出した。後ろからついて来るヘンな音を気にしながら、もうメチャクチャにターシャをせかせて歩いた。
こんなときに限ってターシャの歩行はゆっくり。車の音やすれ違う人だって一人もいない。カーフェリーの駐車場だと思うのだが歩道に抜け出せない。おまけに一番暑い時刻。あと2週間で9才になるターシャの体調が心配。このまま暑さに負けて倒れてしまうのじゃないかと思われるほど足取りが乱れる。
ふっとリュックの中に氷水があったことを思い出した。あの変な音がしなくなったことを確認してからターシャと並んで地べたにしゃがみこんだ。アスファルトの上は暑い。もちろん、ターシャは水に飛びつきむさぼるように飲んだ。そう、寒中にもここで迷ったことがあったっけ。こんな風にさまよい歩行をする場合は、暑いときと寒いときとどっちが良いのだろう・・・。もう私の飲む水は1口しか残っていなかった。
気を取り直して「まっすぐお家よ!」とたしなめると、ちゃんと心が通じたではないか!すぐそばにいつもの遊歩道に抜けるコーナーがあったのだ。
家に着いてすぐに保冷剤でつらそうな呼吸をしているターシャを冷やしてやった。それにしても、あの音、あのターシャのくしゃみ、あの人の気配、いったい何ことが起こりかけようとしたのかしら?
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