平成21年5月(皐月)の短歌
埠頭より霧立ち込むるこの朝は鳩の鳴き声くぐもりて聞こゆ
(ふとうより きりたちこむる このあさは はとのなきごえ くぐもりてきこゆ)

初夏の風部屋いっぱいに入れながら窓ガラス拭く連休二日目
(しょかのかぜ へやいっぱいに いれながら まどガラスふく れんきゅうふつかめ)

花房の甘き香満る藤棚に羽音せわしく虻しきり飛ぶ
(はなぶさの あまきかみつる ふじだなに はおとせわしく あぶしきりとぶ)

日の陰り雨呼ぶ風かさらさらとタイつり草の小花が揺るる
(ひのかげり あめよぶかぜか さらさらと たいつりそうの こばながゆるる)

ハーブ園わたり来る風をポケットにサワッと詰めて香を持ち帰る
(ハーブえん わたりくるかぜ ポケットに サワッとつめて かをもちかえる)

柿の実の色づくころにまた来よと緑の風を入れて封する
(かきのみの いろづくころに またこよと みどりのかぜを いれてふうする)

浜茄子の風を切りつつ盲導犬とハーネス軽く草原下る
(はまなすの かぜをきりつつ もうどうけんと はーねすかろく そうげんくだる)

クローバー咲き匂う芝生にふんわりと束の間偲ぶ遠き初恋
(クローバーさきにおう しばふに ふんわりと つかのましのぶ とおきはつこい)

帰らざる吾が見えし日の過去に浸りオルゴールの小箱静かに閉ずる
(かえらざる わがみえしひの かこにひたり オルゴールのこばこ しずかにとずる)

 「風薫る五月」すでに言旧されている時候の挨拶だが私は好きだ。玄関から一歩踏み出したとき、どこからともなくさわやかな風を感じるのである。耳を澄ますようにじっとその空気の動きを味わって佇んでいると「はやく歩こうよ」とターシャからしっぽを振って促されることしばしば。
 いつもの散歩コースに桜並木がある。この季節にこの並木の下を歩くのが大好きなのだ。みずみずした風を頬に感じながら坂道を上って行く。近づくに連れ、葉づれの音で若葉から深緑に変わりかける葉のつやめきや大きさが手に取るように分るのだ。その日によって、周辺に咲いている花の香りも運んで来てくれる。
 先日たずねたハーブ園で、アジアンタム、オーデコロンミント、ローズマリー、ライラックなど、いずれも香りのはっきりした苗を求めて来た。いつの日にか「風薫る五月」には、開け放った窓辺にこの香りを届けてくれるのを待つことにして、まだちっちゃな苗に水やりをしている。

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