平成20年12月(師走)の短歌
 
賜りしみかんに緑き葉添えられて友の便りの結ばれてあり
(たまわりし みかんにあおきは そえられて とものたよりの むすばれてあり)

霙降る一日の暮れゆく庭隅に迷いし猫か鈴しきり鳴る
(みぞれふる ひとひのくれゆく にわすみに まよいしねこか すずしきりなる)

淡々とニュウス読み継ぐアナウンサーの声詰まりたり女児殺害に
(たんたんと ニュースよみつぐアナウンサーの こえつまりたり じょじさつがいに)

終い湯に浸りつつ聞くチャルメラの笛の音路地を曲がり行くまで
(しまいゆに ひたりつつきく チャルメラの ふえのね ろじをまがりゆくまで)

パンを焼く匂いに誘われポケットの小銭数えつつ店のドア押す
(パンをやく においにさそわれ ポケットの こぜにかぞえつつ みせのドアおす)

「さあターシャ歩いて帰ろう」盲導犬と風のきれいな冬の日まといて
(「さあターシャ あるいてかえろう」 もうどうけんと かぜのきれいな ふゆのひまといて)

それぞれの生活の跡の積まれゆく連休明けのゴミステーション
(それぞれの たつきのあとの つまれゆく れんきゅうあけの ごみステーション)

大型店またオープンす 静もる露店に「野菜イランかねー」
(おおがたてん またオープンす しずもるろてんに 「やさいいらんかねー」

つかの間の夢を抱きて並びいる暮れの市場の抽選会場
(つかのまの ゆめをいだきて ならびいる くれのいちばの ちゅうせんかいじょう)

 夜9時過ぎ、始発から乗ったバスはガラ空きだったのに、繁華街からはどんどん込んできた。そのほとんどが忘年会帰りらしい。楽しげに宴会の続き話をするグループ、たあいもない言葉遊びをする若いグループ、ほほえましいカップルの会話・・・。そんな雰囲気の中にぼんやり座っていた。
 「オレ、これからサンタクロースにならねばならねんさ」
突然すっとんきょうな声に車内は爆笑。それでもかまうことなく、その声は続く。
 「ほれ、そんげに押さないで!子どもと母ちゃんにやっとこうて来たプレゼントが押しつぶされそうだがねー!」
 明後日はクリスマス。私たち一家にもそんなときがあったっけ。欲しがっている玩具をそれとなく聞き出し、こっそり買い込んで当日まで秘密の場所に隠しておいたときのあのスリル。眼を覚まさないようにそれを枕元に置いたときの緊張感。「サンタが来た」と子どもたちが喜んでいる様に、親として味わった満足感。
 ふいにその思いでは断ち切られてしまった。それは足もとに伏せていたターシャが立ち上がり、私にぴったり寄ってきたのだ。「もう少し前に詰めてくださーい」と運転手の高い声。滅多にない満員バスの中でターシャのしっぽが踏まれないように、私もあのおじさんみたいに「盲導犬も乗っていますので押しつぶさないでくださーい!」と叫びたくなった。

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