公共交通と市民生活を考えるシンポジウム【概要】
 
 「公共交通と市民生活を考えるシンポジウム」が6月29日県教育文化会館で開催しました。会員の皆さん、公共交通に関心のある方、交通や自治体関係者、建築家、学生など各層から約70人を超える方が参加されました。
 以下、各パネラーの報告順にその概要を紹介します。
 シンポジウム司会は、奥村義雄富山大学教授(写真・右)が行いました。
 開会挨拶は、奥田淳爾前洗足学園魚津短期大学教授がおこないました。
 
 公共交通に対する県民の意識  
       岡本勝規・国立富山商船高等学校教官
 
 公共交通に対する県民の意識を探るために「富山の公共交通に関するアンケート調査」を5月下旬から6月上旬にかけて行いました。アンケートの一つは、富山市内の高校一年生と二年生各一クラスを対象に79人が回答しました。もう一つは県内の一般の不特定多数を対象に約800人にアンケートを渡し309人が回答しました。一般の方の約7割が中高年層でした。岡本氏はこの後、一般と高校生のアンケート結果のグラフを比較しながら報告しました。(下記にアンケート結果の一部を紹介)。         
 
 
Q、自動車に依存する日常生活について、あなたはどう思いますか。         (一 般)              (高校生)
 
 
 
Q、富山県の一世帯当たりの自家用車の保有台数は全国一位です。これについてどう思いますか。(一般・複数回答)
自動車を利用することで日常生活が便利になった 10.6%
JR、バス、電車など公共交通機関が不便になったから仕方がない 13.7%
公共交通をもっと充実する努力をすべきである 18.4%
高齢者や免許を持たない人にとってますます暮らしにくくなる 20.2%
自動車が増えることは大気汚染、騒音などの環境問題から好ましいことではない 16.9%
自動車が増え、交通事故が心配である 12.6%
その他 2.0%
無回答 5.6%
 
 
 
 電動車イスでJRと地鉄バスを利用して
       広田秀俊・富山共同作業所ラッコハウス通所者
 
  私は、魚津市から富山市まで週二回水曜、金曜日はJRを利用しています。初めて利用したのは96年の5月、それまでは母の送り迎えで通っていましたが、母が病気なって、それがきっかけで一人で行く決断をしました。当時魚津の駅長さんから1人では危険と言われ、最初の1年ぐらい柳原さんが付き添ってくれました。その後、1人で行くようになり、最初は、魚津の停車時間が短く何回もスロープから落ちそうになったことがあります。
 富山駅からラッコハウスまでは、バスの運転手さんやお客さんに助けてもらい利用しています。昨年、駅前からバスに乗車しようとしたら無視されたことがあります。抗議をしたら、「何か合図を」という返事がきましたが、バス停に合図用のボタンなど付けてあれば助かると思います。僕たちが社会参加し、自立するために、電車・バスなどの公共交通機関の充実が必要です。廃止や削減されることは、僕たちにとって地域社会に住むことができなくなることです。
 
                   柳原亮子 ラッコハウス・ソーシャルワーカー
 ラッコハウスに通いたいという広田君の行動が結果的に社会に何らかの貢献をしていると思っています。広田君は、いまでは電動車イスで充電が続く限り動き回っていますが、障害があるというだけで、生活環境に制限がありました。一般道を通るトレーニングを積み重ね、痛い思いも一杯して今のように動き回れるようになりました。実社会で生活したいという広田君の強い思いの結果、こうゆう形で公共交通機関を利用するようになったことを理解していただければ幸いです。
 
 
 幸齢者としての公共交通への感謝とお願い
                    宮島文子・富山市長寿会連合会理事
 私が思う高齢者とは、歳を重ねて自由な時間を得られ、少しだけは介護のお世話になったり、心を明るく持って公共交通のお世話になりながら、幸せに生きる「幸齢者(こうれいしゃ)」として生きたいということです。
 公共交通があることで、歳をとってからも友人と語らったり、催し物に出かけたり、積極的に外へ出られるようになりました。公共交通機関にお願いしたいことがあります。廃線や一日2本3本というのに困っています。新幹線で数時間早くなることよりも、これからの子ども達や、増加する高齢者のために身近な電車、バスの運行に新幹線以上の力を入れて欲しいと思います。また、会合するのにハイヤーや仲間に便乗させてもらうのも気か引けます。このような地区に行政の施策を望みます。バスなどには料金表を大きくしたり、転落防止策が施されることも大切です。県内各地にすばらしい文化施設があり、自家用車で行くばかりでなく、公共交通をもっと利用できたら都合がよいと思います。
 
 
 新湊市のコミュニティバスの概要
                   山崎武司・新湊市企画情報課係長
 新湊市のコミュニティバスは、昨年10月に試験運行し、今年4月から本格的運行を開始しました。利用者数は計画を上回っています。コミュニティバス導入の背景は、高齢者の活動支援など市民福祉の向上、地球に暮らす一人の市民として地球環境の保全、商店街の活性化や市民活動の支援としてのまちづくりを支える都市の装置としてです。
 事前には市民アンケートをおこない、市民活動を支えるネットワークの核として位置づけました。市民がつくりあげていくバスということを前面に出しています。
 コミュニティバスの特徴は、市内全域を網羅する6ルート(バス停118、路線延長72キロ)で、万葉線、フェリー、路線バスと連携し、公共施設を網羅するようにしました。料金は1回100円、1日券200円などがあります。
 市民からは、「私みたいに運転できないもの、また高齢者にとっても便利です」「以前はタクシーで家と病院との往復。今は途中下車して買い物もできる」などの声があがっています。今後は、低床バスの導入やもっと便利なルート・ダイヤの変更も考えています。
 
 
 地域交通の新体系 市民生活と公共交通
                    武山 良三・国立高岡短期大学助教授
 「市民生活」があって「公共交通」があると考えたい。誰もが自由に出かけられる「交通権」も、人権として守るべき権利です。ところが、富山においては特に車を持っていないとその権利が守られない、これが現実に起きています。例えば、バスがまた減ったと我慢。廃線になったら私が我慢すればいいという感じで、どんどん我慢して声が小さくなっていく。しかし、雪が降ったとか、ケガをしたとか、体調が悪いとか、旅行とかいろんな場面場面で公共交通は必要です。
 公共交通衰退の要因として「モータリゼーション」がまずあげられます。背景にあるのは郊外開発型都市計画です。まちというものが駅中心型のまちから変わってきているに、公共交通の実態は、明治時代から変わらない流れできています。新しい都市に対応した公共交通の体系に変えなければならないし、都市計画そのものがどんどん郊外に行っていたのも見直すという視点がポイントになってくると思います。
 公共交通がよく利用されるためには、「気軽で、便利で、お得である」ということが、まず第1条件の3つなんです。
 ドイツでは公共交通が活性化しています。要因は、連携のよい地域交通の確立があり、都市間交通と都市内交通を明確に区分しています。これがポイントになっています。ドイツの都市と路面電車をみると、例えばアウグスブルグは人口26万で25キロ、フライブルグは路面電車のバリアフリーで非常に有名になりましたが19万都市で、高岡と同じぐらいで23キロ。バンハイムは32万人で富山と同じぐらいですが47キロ走ってます。
 富山の公共交通では、北陸新幹線が出来るのはいいけれど、それによって地域の公共交通が体系づけられるには今から準備しなければなりません。万葉線でやっていることですが、縦軸に万葉線は勿論のこと、JR氷見線、城端線も位置づけ、横軸にJRの本線があります。それを軸にしながら、まちの中心部ではできるだけ歩いて暮らせるように、コミュニティバスであったり、車を利用したい場合には、郊外にパークアンドライドの施設をつくる。そういったものを、都市のボーダー地域に設けるような構造を出しております。
 キーワードは「連続性」です。「連続性」の要素には、時間、情報、手続き、サービスなどが考えられます。もう一方は環境問題です。車社会の問題点として、交通事故、環境汚染、交通権の侵害などがあげられますが、車に依存しない社会を考えることが大切ではないでしょうか。
 21世紀の基本テーマは、「共存」であり「持続」です。自分たちがちょっと譲るということをしていかない限り、全てが止まってしまうんではないか。ちょっと歩いていこう、たまにはバスや電車に乗ろう、その気持ちから始めないと全く始まらないと思います。
 
                   <各報告の概要は事務局で作成。文責は事務局>
 
  =シンポジウム参加者の感想から
大変によい集会でした。特に武山さんの話は、映像もすばらしくよく学習しました。宮島さんのお話は、私も高齢者なので、内容は同意見です。(富山市・男性)
 
アンケート丁寧に分析して下さった実務作業、心から敬意を表します。要求と行動はまず調査からです。(富山市・男性)
 
公共交通の問題が暮らしのダイエットに発展して行く話がとても分かりやすく良かったと思う。(上市町・女性)
 
多くの関係者−特に行政、労働、教育、交通、企業、女性、文化、高齢者、農業、商業関係者を共同のテーブルについて共に考える機会を(入善町・男性)
 
◆ シンポジウムの「記録集」を準備中です。
 
 
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