次子の羊水検査を受けなかった気持ちについて

次子の羊水検査(出生前診断)について、私達夫婦は受けないという結論を出しました。
この問題は大変難しく、それぞれの夫婦間でよく考えて決める事であって、
他人がとやかく言うものではないと思っています。あくまでも、一つの参考に・・・
という気持ちで、私が思い悩んだ事などを綴ってみました。

【ご参考】 私が大学病院で言われたこと
(入院中、いろいろと聞いてみました)

主治医(助教授) 「次子の羊水検査は受ける必要はありません」
(私たちの「染色体異常児の出産経験があると、次子の確立
が若干アップすると聞きましたが・・・」の質問に対しては↓)
「確かに、統計上若干確立がアップしますが、それでもかなり
難しい確立です。まあ、心配だからと受ける人は多いです」
医師 「受けておいた方が安心」「こういう妊娠は(私の場合は羊水過多
もあったのでだと思う)母体に負担をかけてしまうだけ・・・」
看護士 「ダウン症も、一度産んだ人は確立がアップするから、受けておい
た方が良いのでは・・・」
看護士 「絶対にとはいえないけれど、繰り返す事はまず無いと思う」

死産直後の気持ち

死産直後の私は、次子の妊娠について恐怖感で一杯でした。
もし妊娠したら羊水検査を早い段階で受けておこうと思っていました。
たつきについては、可愛い顔を見れたし受けておかなくて良かったと心から思って
いるのに、もし次の妊娠で、また中期に入ってから「羊水が多い」と指摘されたら、
今度こそは気が狂ってしまうんじゃないか・・・そういう思いで頭がいっぱい
になっていました。いくら主治医に「必要ありません」と言われても、
どうしてもまた繰り返してしまうような気がしてしまったのです。
18トリソミーだったら中絶しよう・・・もう一度生まれ変わってきてね・・・
生まれ変われるようにどんな努力でもするから、許してね・・・・・。
一度こんなに辛い思いをしたのだから、神様だって許してくれるはず・・・・・
そんなふうに思っていました。
高齢になると染色体異常児を生む確立がアップする事は、広く知られています。
たつきを産んだ時、既に33歳だった私にとって、それも不安でした。

やっぱり「中絶」はできない・・・
【注意】赤ちゃんの異常を理由とした中絶は現行法上認められていません。
この問題について、私なりに考えてみました。詳しくはこちら⇒
 

でも、よくよく考えると、早い段階で18トリソミーと診断されたとして・・・
「妊娠の継続が辛いから」と言って中絶した場合、
結局、「『ごめんね』・・・と謝りながら子供を天国に送る・・・」という前と同じ
悪夢のような経験を繰り返すだけ・・・なのです。
たつきの場合は、出生前に確定診断を受け、あえて帝王切開をせず、
結局陣痛に耐えられず亡くなってしまったのですから・・。

たつきの時、誘発しないで自然に任せておいた方が、少しでも長生きできたのでは
ないか・・・と長く苦しんだ私にとって、それはとても大きな矛盾でした。
そう考えると、やっぱり中絶はできない・・・と思いました。
今度こそは、たとえ短くても出来る限り長生きさせてあげないと、
私は、余計に悩み苦しみつづける事になる・・・・・。

そうは思っても不安の方が先に立ってしまい、死産後一年くらいの間は、
とにかく「受けた」方が安心ではないかと考えていました。

気持ちの変化のきっかけ

一つのきっかけは、「親の会」やお友達のHPで仲良くなった18トリソミーのお子さんの
お母さん達が、18トリソミーを繰り返さずに次のお子さんを出産された事を、実際に
沢山知るようになったことでした。でも、他の人が繰り返さなかったからと言って
「自分も大丈夫」とは決して言えないのです。
それでも、気が弱く、悪い方向に考えがちな私は、勇気付けられました。

18トリソミーの場合、次子で再発する可能性は1%以下と考えられています。
日本で71例の18トリソミーの家族の次子の出生前診断を行い、同じ染色体
異常を伴った症例は0(0%)という報告があります。
(鈴森 薫著 「出生前診断」診断と治療社より)

また、染色体異常が決して稀な事ではないという事実にも考えさせられました。
現在、卵子の染色体異常率約25%、精子の染色体異常率約15%、
受精卵の染色体異常率は約30〜40%と考えられています。
つまり、ほとんど全ての夫婦が染色体異常を経験しているけれど、
染色体に異常がある受精卵は着床しない、または着床しても
初期に流産する可能性が大きいので、(自然流産児の染色体異常率は約50%)
出生に至る段階では、0.6%に減っているわけです。
そんな事実を知ると、「不幸な出来事」というより、たつきはよく生まれてきたなあ・・
と客観的に思えるようにもなりました。

他に、「なんでこんなことになったんだろう?」と思い悩んだ時に勇気付けられた本
の影響も大きかったです。「生きがいの創造」や「人生は廻る輪のように」等
本の紹介ページをご参照ください)を読んで、
どんなに辛い事も困難な出来事も、全て偶然ではなく、自分の人生に与えられた
課題なのだ・・・何らかの意味があることなのだ・・・と思えるようになりました。
すぐにはそのように思えない深い悲しみも、「意味がある」と思って生きていこう!
と、思えるようになったこと・・・・・これは、たつきからの贈り物でもあるのです。

羊水検査を受けておけば「安心」か?

それに、羊水検査で「問題が無かった」からと言って、だから「安心」とは言えない
のではないか・・・と考えるようになりました。
「障害児」と一口に言っても、染色体異常がある場合は一部です。
生まれてみないと分からない障害も沢山ありますし、3歳くらいにならないと
はっきりしない自閉症とか、学校に入ってから分かるADHD等・・・
また後天的に障害を負ってしまう場合もあります。
それぞれのお母さんたちは、それぞれ悩み苦しみながらも頑張って育児を
されている・・・そのような本や新聞の投稿記事を随分読みました。
それらから、逆に自分が励まされることが、多くありました。
私の母と兄は、障害児教育に携わった時期がありましたが、
染色体異常のお子さん方ではありませんでした。
また「障害」とは違うけれど、難病と闘っている子供達も全国に沢山いますし、
子供が大きくなれば、いじめや、家庭内暴力、引きこもり、犯罪・・・・・
どんな困難が立ちふさがるかもわかりません。

今のところ「健常児」と思われる長男の育児だって悩みは絶えず、
泣いてしまったり落ち込んでしまったこともありました。でも、多くのママ友達と
愚痴ったり相談したりしながら楽しく育ててきたじゃないか・・・。
インターネットが発達した今、5000人に一人と言われる18トリソミーでも
ママ友達が沢山作れるんだから、何かあったらまた友達を作って
励ましあいながら頑張れるんじゃないか・・・と思えるようになってきました。

夫の意見

夫は、18トリソミーと確定診断された時、私と同じように「次の子は、もっと早く
羊水検査を受けておこう」と言っていたのに、主治医の「受ける必要はない」
の一言で、「『受ける必要ない』って言われたから、必要ないよ!」と、
心が決まってしまい、その後、全く動じませんでした。
死産後、私はなんとなく心配で、自分たちの染色体も調べておこう
と、何度も話したのですが、それも「必要ないって言われたんだから」
と言って、全く聞き入れてもらえませんでした。夫はもともと
超前向き思考で、私のことを「クヨクヨしすぎ、悩みすぎ」と指摘するタイプ。

夫は「染色体異常を繰り返す事は無い」と何故か確信をもっていました・・・。
「万が一の場合」を考えてくれていないような感じだったので、何度も私のほうから
話を持ち掛けました。「絶対に繰り返さない」とは決して言えないわけですから。

「検査を受けずに、後から異常が分かった場合、後悔しないか?」と確認しました。
出生までは特に問題が無かった18トリソミーのお子さんも沢山いらっしゃいますが、
私のように羊水過多があったりして何度も入院や細かい検査が
必要になることもあります。もちろん、経済的な負担も。
(これについては、赤ちゃんに異常がなくても、妊娠に伴う母体のトラブルは
いろいろありますので、考え過ぎたかもしれません。)

夫は、「それはそれでしょうがない、検査を受けなかった事も後悔しない」とのこと。
染色体異常のある子を育てる事になった場合、やはりそれなりの努力と
覚悟も必要なので、「頑張れるか?」と聞くと、「あたりまえだろう!」とのこと。
そして、「自分は受けなくて良いと思っているけれど、ママが受けたければ
受けて良いから」と、私が決めるように・・・・・言いました。

受けない事に決める・・・

いろいろ考えても、なかなかしっかりと自信が持てずに、
次子の出産経験のある先輩ママ達に、意見を聞いて廻りました。
ご協力いただいた皆様、本当にありがとうございます。
受けた方も、受けなかったかもいらっしゃいました。
それぞれが、大変貴重なご意見でした。

最終的に、羊水検査を受けておいて何も無ければ、一番安心して出産できて
良いようにも思いましたが、「異常があった場合のこと」やら
「検査そのもの不安」等を考えると、受けたくない気持ちになってきました。

そもそも、羊水検査は通常結果が出るまで2〜3週間かかりますが、
この結果待ちの期間がとても長くて辛いのです。たつきの時は
「まさか・・・そんなはずはない」と思って過ごしていても、不安で一杯だったし、
様々な現実を知ってしまった今、もっと不安でたまらないだろうと思いました。

それに、また大学病院で同じようにお腹に針を刺す時を想像すると、
それだけで気が滅入ってしまうのです。どうしたって、あの時のことを
思い出さずにいられないだろうし・・・・。また、たつきの羊水検査の時は
既に34週で、羊水過多で羊水を抜かなければならない状況だったので、
それほど危険性は感じなかったけれど、通常の16週前後で行ったら
羊水量もまだ少ないし、赤ちゃんも小さいし、流産の危険性も若干
(0.5%以下と考えられています)あります。
相変わらず気の弱い私にとっては、「受ける」こともやっぱり不安だらけ。
そして結局、「受けない」ことに決めました。

何が起きてもしょうがない・・・私の人生に与えられた課題なんだから。
たつきを授かって、とても悲しい思いをしたけれど、別に私の人生が不幸に
なったわけじゃない。むしろ、成長させてもらって感謝しているのだから。
そう、私にとってたつきは神さまからの特別のプレゼント。

受けないで妊娠生活を送っている気持ち

実際に妊娠してみると、通常羊水検査をおこなう16週くらいまでが、
まずとても長く、そこまで経過するのも十分不安で辛いものがありました。
流産の心配やら、つわりを乗り越える辛さ・・。
まあ・・・大丈夫だろう・・・赤ちゃん来てくれてありがとう!
と、気を紛らわしていましたが。

妊娠中期に入ると、いよいよ、羊水過多や赤ちゃんの体の異常が気になって、
検診の度に、その2〜3日前からビクビクと緊張の連続でした。
病院では、たつきのことを思い出してはトイレで涙を拭いていました。
帰り道では必ず「羊水検査を受けておいて、『異常なし』と分かっていたら
(異常ありかもしれないわけですが・・・)いちいちこんなに緊張しないだろう
なあ・・」と思いました。そして、「でも絶対に中絶できないと思って
決めたんだから、頑張らなくちゃ!」と自分に言い聞かせました。

妊娠が分かった直後から、不安でビクビクする私の話を、夫は「うんうん・・・」と
根気強く聞いてくれたのですが、あんまり同じような話を繰り返すうちに、
とうとう「『どんな子でも育てたいって』って、言ってたじゃないか。
ちょっと何か異常が見つかったって、頑張らなくちゃダメだぞ!」
と言われてしまいました。ああそうだった・・・と反省。

臨月に入って、いよいよ出産が近くなると「とにかく生きて生まれて欲しい・・・」
万が一、何か起きてしまったらどうしよう・・・・・・と、とても怖いです。
それに今回の妊娠では、今まで無かった、静脈瘤とか高血圧にもなってしまい、
これはこれで、かなりの不安に陥るものです・・・・・自分の体も心配ですし。
でも、たつきが応援してくれていると思って、頑張りたいと思います。

( 平成15年12月4日 現在39週 )

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