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 ブルク城とは正反対のところにある、ゲルマン国立博物館まで歩いて来た。
 博物館へも入るのだが、最大の目的は、その横にあると言う(パンフに書いてあった)スシレストランを見つけ、昼食を食べることだった。
 「ドイツの日本食は高いですから……。」
 辻君は遠慮するが、とんでもない。もう私の胃が日本食しか受けつけない。店がなかなか見つからなかったが、ふとガラスの向こうにスシオケを見つけ、入って行った。
 ドイツでは健康食品として話題になっていると言うが、他の客はいなかった。席へ案内するのはドイツ人の若い女性。にぎっているのは日本人だった。値段そのものは、日本の回転ずしの2〜3倍ほどで、ひどく高くはない。ただ、ニュルンベルクは内陸であり、ネタに元気はなく、マグロなど黒っぽかったのだが……。

 私のあたたかいソバが先に来た。ちらりと辻君を見たのは、先に食べるからではない。
 「ここではいいでしょう!どうぞ思い切り“すすって“ください」

 ヨーロッパでは食事のとき「リップノイズ(くちびるの音)」をたてると、極端に嫌がられる。まったく失礼な行為なのだ。
 私は、スープやメン類など「ズー」とやったほうがうまいと信じているのだが、ここはドイツだ。しかたなく気をつかっていたが、辻君の許しも出た…。
 「ゾゾゾ、ズー。」
 ハァ〜、うまい!カップメンのようなソバがうまい!いっきに食べてしまったが、辻君はその上を行く。
 「少し残ったそのダシ汁…いいですか?」
 私から受け取ると、目を閉じて飲んでいる。
 ハァ〜〜〜、と私より長いため息をつく。
 辻君のみそ汁が来た。やはり目を閉じ、「スゥー」と飲んだ。
 「ハァー、う、うまい……。この前飲んだのはいつだったろう…その時僕は泣きましたよ。それまでの自分は、こんなにうまいものを味わいもせず、トウフなどかみもせず、めんどくさ気にただ飲み込んでいただけなんて……なさけない。」

 この時私は、初日のマリエンで「ドイツ料理を」とやった自分の敗北を悟った。ドイツに住む日本人と会った最初の言は、こうでなくてはならない。
 「俺は日本人だから、日本食しか食わねえからな。ま、たまにはドイツ料理でもしかたないけど。」

 たとえそれが黒いマグロであっても、我々は恍惚として食べ、元気を回復し、あまり時間はなかったが、ゲルマン博物館で絵と彫刻を堪能し、夕方のミュンヘン行きの列車に乗っていた。
 いよいよ明日はシュタイナー学校だ……。



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