C ワイン
少し歩くと、再びローレンツ教会の前に来た。もうパンク連中はいない。中へ入ると、やはり広い。その分、絵や像など、国宝クラスの数は多く、柱もちゃんと植物になっている。
ドイツの若者に、おまえもキリスト教かときくと、
「父・母は確かだが、自分は…意識したことないな〜」と言う。
ま、そんなとこだろうがしかし、子供の頃からこんな教会が存在していれば、無意識に体の中に入っている。その上にシュタイナー教育が成立している。
シュタイナー教育は無論、すばらしい教育ではあるが、私は初めから“そのまま”をやろうとしなかったし、やってもうまく行かなかっただろう。
「日本人にとっては、少し違う……。」
しかし、何が違うのか、その根本はよくわからなかった。今はわかる。ドイツ人と同じように、私の無意識の中には仏教の寺があるからだ。
精神界の異なるものの上に同じものを造ろうとしても、それは無理だ。日本流の、新しいシュタイナー教育を創らなくてはならなかったのだ。
この旅で、それははっきりと私の意識にのぼった。そして、私の方向性が間違っていなかったと確信できた。
教会を出ると、後は町をぶらつくだけだ。さすがにデパートが多い。私は夜中に飲む水を買った。
ちょっとした噴水の「泉」のまわりは彫刻だらけで楽しい。歩き疲れたら、休むベンチなどいくらでもある。
さあ、いい時間になった。ワインを飲みに行こう。北へ行くほどぶどうが育たず、いいワインが少なく、その北限がニュルンベルクらしい。
川辺の酒蔵の中はレストランになっており、ずい分込んでいた。
その白ワインときたら、宝石を液体にして飲めばかくも…と言ううまさ。ゆっくりと3杯も飲んでしまった。
困ったのは、食べる物にうんざりしていたことだ。昼食も「トンかつ“みたい”な物」と言うので注文したら、ブタ肉にパン粉をつけて、フライパンでパサパサになるまで焼いたものを、塩だけで食べさせられた。
「焼魚定食…」「そんな物、ありませんな」
冷たく言われ、しかたなく名物の6個単位の小ウインナーを食べたら、これはなかなかいけた。
ドイツといえども、大金持ちが行く高級店なら魚でも何でもある。しかし辻君は、決してそんな店や日本人観光客しかこない店には、私をつれて行こうとはしなかった。
一食10マルク(1000円)が目安の普通のドイツ人が「ちょっとぜいたく」程度の店へ行き、ドイツ人の生活を知ってもらおうとしていたのだろう。
ほろ酔い気分でホテルまで歩いたら、フロだ!先に入って、ウイスキーをちびちびやりながら辻君が出て来るのを待ったが、案の定なかなか出てこない。その前に眠ってしまった。