B ケーキとサギ師
聖母教会を出て、右は丘になっており、坂を上がればブルク城跡。しかし5時までしか開いておらず、あまり時間がないので明日行くことにした。
すぐ前が中央市場になっており、マリエンのヴィクトリエンマーケットと同じで、あらゆる野菜と果物がある。春の陽気のせいか、働く人々の顔まで明るく見え、あちこちにあるテーブルコーナーでは何人もビールを飲んでいる。
私達は歩くうち、しゃれたケーキ屋を見つけ、ちょっとお茶をすることにした。
中へ行くといかにもケーキが好きそうな体格の客が数人と、さらに1.5倍ほどの体をゆすって働く3人のタンテがいる。
ユーモラスな体形に、どうせわからないからと、
「彼女達は、その日残ったケーキは全部食べてしまうに違いない」と日本語でワイワイ話す。これはストレス解消にとてもよい。
「しかし、くせになってしまって、日本に帰った時大変ですよ。東京の茶店なのに“おい、変なのが入って来たぞ”と、やってしまったことがある」
「おい!変なのが来たぞ!」
さっきから気になっていたのだが、辻君の向こう側に坐っている髪もヒゲもボサボサの男が、やけに私をじろじろ見ており、ついに立ち上がり、そばまで来てドイツ語で話しかけてきたのだ。
「何て言ってんだヒデタカ?」
「タバコを切らしたのだが、100マルク札しかなくてそこの自販機では買えない。1本くれないか、と言っています。」
私ではなく、私のタバコを見ていたのか。ど〜もうさん臭かったが、1本やるとおとなしく席へ帰って行った。
私達が出ようとする時、その男とひとりのタンテが何やら早口に話している。男は色々と食べた後だ。バタバタと他の2人のタンテも走って来て、ワイワイやっている。
やはり!100マルクなど、持ってなかったのだろう。