3. ニュルンベルクにて
@ 車中 (旅とお風呂)
ニュルンベルクはミュンヘンの北150kmほどにあり、ドイツの主要道路が集まるうえ、どの外国へもすぐ行けるので、昔から軍事的に重要な都市であったらしい。
マリエンから地下鉄で2つの中央駅から地上へ出て、ミュンヘン発の長距離列車に乗ったのがA.M.11:30。1時間半で着く。
車中では、ドイツ経済の話がもっぱらだった。昨日の乞食のように消極的に金を得るのも一つの方法だが、論理好きなドイツ人は、相手を説得する方法もあるという。
ある日、男が地下鉄に乗るや否や、大声で話し始めた。
「私は失業者だ。しかし諸君は、私を笑うことは出来ないはずだ。なぜなら、今の私は明日の諸君の姿だからだ。私が思うに…(説得している)…、と言う訳であるから、皆さん、私にお金をください!」
男は成功し、たんまりもらったらしい。
「ドイツも色々と雇用対策はやってるんですがね。この長距離列車の車掌なんかも、旧東ドイツの女性が多いんですよ。」
まさにその時ドアが開き、金髪の車掌がキップの確認を始めた。30前後の女性だ。
私のキップを手に取り、戸惑っている。辻君の分がないのだ。
ドイツの学生は、色々な面でものすごく優遇されており、地方内なら乗物はタダである。今回のような旅行になれば多少のお金は払うが、キップは省略されたらしく、なんと、私のキップの余白に
「この学生も乗せてよい」
と書いてあったのだ。
辻君の説明に、目を細めて読んでいた車掌は、やっと理解し、目をパッチリと開け、ニッコリと笑って「ヤッ!(はい)」。
どちらかと言えば素朴な顔なのに、突然と〜ても美人になった笑顔もそうだが、私がびっくりしたのは、ドイツ語が美しく響いたからだ。
ヨーロッパ人なら誰でも知っている、言葉の使い方がある。
愛を語るときはフランス語。仲間と酒を飲むなら、陽気にイタリア語。
……では、ドイツ語はどんなときに使う?
「犬を追っ払うときだ。シッシッ、あっちへ行け!とな。」
なんともひどい言われ方だが、美しい笑顔で話されれば、そんなことはない。
「ところで先生、今日のホテルですが…その…風呂おけのある部屋にしてもいいですか。…少し割高になるのですが……。」 料金はすべて私がもつので、遠慮しながら言う。
ふむ。いいじゃないか、問題ない。
「そうですか!いや〜、ありがたい。実はシャワーこそ毎日ですが、風呂は半年ぶりなんですよ。それも、風呂に入る為だけに、スイスまで友人と旅行したんですよ。」
風呂に入らないのは、ヨーロッパでは普通のことだ。空気がサラサラなのでどんなに暑くてもベタつかず、不快感がなく、手と顔を洗うくらいで十分なのだ。
しかし、日本人にとっては気候など関係がない。どっぷりつかることに意味があり、それが風呂なのだ。
「2〜3回は入りますからね。先生は先に入ってください。明日の朝も入りますからね。」
いっそ、風呂の中で寝てもいいぜ!
やがて列車は、ニュルンベルクについた。
さて、どんなとこだろう……。