D 大道芸とお説教

 マリエンへ帰ったのは午後5時。10時にしか暗くならないから、まだまっ昼間だ。
 広場で人だかりができていたのでのぞくと、自転車の曲乗りをしていた。男が大声で何やら話しながら、器用に乗り、観客ひとりにやらせてまったく乗れない姿に笑いを取る。
 うまいものだ。あきさせない。これなら祝儀はたっぷり集まるだろう。
 昨日は気づかなかったが、あちこちで楽器を弾いている。歌っているやつもいる。
 こっちのバイオリンは黒山の人だかりだ。
 「いや〜、うまい!彼はかなりお金を取れるでしょう」
 このセロはただのひとりも聞いていない。
 「ハハハ…、彼は4年前から知っていますが、へたくそなまんまです。アレじゃ1ペニヒにもならない。ドイツ人をナメちゃいけない。」まるでドイツ人のように言う。

 あそこで道に座って、入れ物を前に置いてじっと下を向いている人は…。
 「ただの乞食です。今のドイツには多い…。」しかし、あのスタイルはもう日本でも見ない。お金なんてもらえるのかな?
 「そこがキリスト教の国ドイツ。ほら今もおばさんがお金を入れた。けっこうもらうんですよ。しかも、日本との違いは、彼は自分の家を持っていること。ドイツの福祉で保障されているんです。」

 へ〜、ホームレスはいないのか。などと感心していると、聖母教会についた。これも私は知らなかったのだが、イエスの教会とマリアの協会があり、聖母とはそのままマリアの教会だ。
 何やら壁のあちこちが墓石のようだぞ。
 「それ、墓ですよ。有名な人は壁に塗り込めるんですよ。」
 少し…、気味が悪い……。

 中へ入ってみると、説教の最中だった。驚いた…。祭壇まで30メートルほどもあるのに、声が体の中まで響いて来る。
 重く、やわらかな声だ。つい「ざんげ」したくなる…。
 人は少なかったが、ふと婦人が入って来て、片ひざをつき、十字を切ってから席についた。5分ほど聞いてきて席を立ち、やはりひざをつき、十字を切って出て行った。
 なぜか、「信心は時間じゃないな…。」と、その姿に見とれながら思った。

 今日はよく歩いたな。食事をして、ビールでも飲んで寝よう。
 辻君は今日も、何度もシュタイナー学校に電話したが、やはりうまくいかない。もう、ダメかも知れない。
 しかたない。明日はミュンヘンとは少しちがうと言う、ニュルンベルクへ行こう……。

 そこで大きな発見があることなど、無論私は知らなかった……。



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