第8回

「着いたなぁ……」
「着きましたね……」
「意外なほどあっさりと……」
 智也、美幸、セバスチャンの3人は、口々にそう呟いていた。
「う……うーみゅ……」
 当たり前だが、こんなにあっさりと、たどり着けるとは思っていなかったのである。
 ――魔王の居城に。
 場所がわかったのは、先の魔族との戦いから、わずか2日後のことであった。
 近くの町まで移動した『勇者様御一行』は、美幸のこともあり、到着した日は大事を取り、宿屋で休むこととなった。2日目から、その町で魔王の居場所に関することをいろいろと、町の住人に尋ねていたのだが、あっさりと、その情報はもたらされた。
 きっかけは智也の『袴っ娘が見たい!!』という、趣味に走りまくったどうでもいい一言だった。  智也に半ば強制的に、町にある神社に連れて来られた一行。折角だからということで、聞き込みをしていたのだが、そこの宮司が魔王の城の場所を知っていたのだ。
 宮司曰く。「あんな所にあんな巨大なモノを建てられていろいろと困ってるんですよ」とのこと。なんでも、それまで日向だったところが日陰になって、田畑の農作物に影響が出ているとか。
 いろいろと愚痴を聞かされたが、城の場所が分かる地図をもらうことに成功した。
 そして一行は、「魔王の居場所がわかったんなら、急ぐ必要もないし、しばらくはこの町でゆっくりしていきましょう」という鳴海の提案で、その後5日間ほど町に滞在することになった。
 今回も『勇者様御一行証明証書』の効力で、宿代などはすべてタダである。
 そして彼女たちは、町を出発して魔王の城を目指したわけなのだが。
「まさか、道中に魔物一匹いないとは思いませんでしたが……」
 そうなのである。4人がここにたどり着くまでの道中、魔物らしい魔物は一匹も現れなかった。
「むぅ。ゲームで言うところのいわゆる『ラストダンジョン』な訳なんだから、経験地やお金を大量に所持した敵とかが出てこないと、いまいち盛り上がりに欠けるわ!!
 せめて中ボスとして『魔王配下の四天王』とか出てきてもいいじゃないのよ!!」
 妙な主張と共に、握った拳を突き上げる鳴海。
「盛り上がんなくてもいいし、四天王なんていなくていい。
 さっさと魔王のヤツぶちのめして、王様から礼金をたんまりふんだくるぞ!!」
「そう言われてみれば、そっちの方が重要ね。ナイス智也!!
 そうと決まれば突入よ!!」
 意気込んで、城の巨大な扉を開ける。
 ギイィィィ……
「鍵をしないなんて無用心ね」
「毎日戸締りを確認する魔王がなんかいても困るがな」
 そんなやり取りをしつつ、城の中へと入って行く4人。
 外観どおりかなり広そうな城である。
 目的の魔王を探すのが、けっこう大変そうである。
「鳴海ちゃん……魔王ってどこにいるのかなぁ?」
「確かに、一部屋ずつ探していたら、日が暮れてしまいますぞ」
 そう言う美幸とセバスチャンに、鳴海は無意味に胸を張り。
「決まってるでしょ。ラストダンジョンがこういう城系のところの場合は、大体、ラスボスは謁見の間の玉座にいると、相場が決まっているのよ!!」
「確かに、討伐対を恐れて、隠し部屋でコソコソ隠れている魔王なんて、相手をしたくないな」
「玉座にいなかったらどうするんです?」
「つまんないツッコミを入れるんじゃないわよ、セバスチャン!!
 そん時は、玉座の後ろを調べれば、隠し階があるから、更に奥に進めるようになっているはずよ!!」
『なるほど・・・・・・』
 鳴海の半ば強引な理論に一同は納得して、魔王がいると思われる、謁見の間を探すことにしたのだ。

「あったね」
「案外簡単に見つかったな」
 口々にそんなことを言う、鳴海たちの眼前には、大きな扉が。
 確証はないが、これは恐らく謁見の間への扉なのだろう。
 扉の各所に施されている装飾が、他の扉とは、はっきりと違っている。
 中から感じられる気配も、他の扉とは異質のものであった。
「いい? これを開けたら、もう後戻りは出来ないわよ」
 扉に手をかけ、問う。
 答えは、聞くまでも無かった。
 3人は頷き、いつでも戦えるように、戦闘態勢をとった。
 鳴海はゆっくりと、扉を開けた。
 全員の視線が玉座に集まった。
 そこには、甲冑を身に纏い、大剣を携えた人物が、いた。
「待っていたぞ・・・・・・我を滅ぼしに来たものよ」
 男は玉座から立ち上がり、こちらに歩み寄る。
 鳴海たちは、一瞬戸惑いを覚えた。
 いかに目も前の男が魔王だろうと――強大な力を有しているからといって、その行動は無防備すぎた。
 やはりそれほどまでに、自らの強さに自信があるということか。
 男との間合いが徐々に狭まる。
 迷っていても――仕方が無い。
「ブラスト・アタック!!」
 先手必勝。仕掛けたのは美幸。
 放たれた光弾は男をめがけて突き進む。
 だが、男の方は、かわす素振りも、防御をする素振りも見せない。
 そして、光弾が命中した瞬間。
 パキュユユン。
 派手な音を立てて、光弾は、男が身に纏っている甲冑に弾かれた。
「いきなり攻撃とは、礼儀を知らぬ奴よの」
「うっさいわね! 町や村を散々破壊してきたあんたに、そんなこと言われる筋合いは無いわ!!」
 自らを鼓舞するかのごとく、鳴海は声を張り上げた。
「ふっ・・・・・・聞く耳持たんな」
 男が大剣を横薙ぎに振ると、突如として辺りの温度が下がり始めた。
 空気中の水分が凍りつき輝きを生む。
「このまま凍え死ぬがいい!」
「そう簡単にはいかないわっ!!」
 鳴海は駆け出し、斬撃を繰り出す。が、男の振るう大剣にそのことごとくを弾かれる。
 男と鳴海とでは、明らかに剣術のレベルが違っていた。
「我に向かってきた、その勇気は認めよう」
 このまま剣による接近戦を続けても、鳴海には勝ち目は無い。体力を消耗し、最後にはバッサリである。
 そんな分の悪い勝負をする気など、彼女には無かった。
 男に剣を弾かれた瞬間、彼女はマントを外し、それで男の視界を遮った。
「こしゃくな真似を!!」
 男は大剣を振るうが、それは虚空を薙ぐのみ。
 男の視界を遮った次の瞬間には、呪文を使い、大きく後ろに跳んでいたのだ。
 ここまで時間にして僅か数秒。
 そして、男がマントを振り解いたその時、男の眼には両手に銃を構えた智也の姿が映った。
「アディオス!!」
 そう言うと、両手の銃を連射する。
 この銃の弾丸の1発1発には、美幸によって魔力強化が施されている。まともに受ければただでは済まない。が――
「これで終わりか?」
 男はあれだけの銃弾を受けていながら、平然と言い放った。
 見れば甲冑に無数の弾痕が刻まれている。
 全ての弾丸は甲冑によって弾かれていた。
 さすがの事態に、智也は苦笑いを浮かべた。
「まだまだぁっ!!」
 後方から鳴海と美幸が踊り出る。
 2人は掌に生んだ魔力球を、男の目前で叩き潰した。瞬間、強烈な閃光が辺りを包む。
 威力は皆無。ただの眼くらましである。
 一瞬、男に隙が生まれた。
 その瞬間――
「タライ召喚っ!!!」
 今まで沈黙を守り続けていたセバスチャンが叫んだ。
 男の頭上に巨大なタライが出現した。
「笑わせるなっ!!」
 男の斬撃で虚空に浮かぶタライは両断された。が――
 バシャァァンッ!!
「!!???」
 その瞬間、何が起きたのか、男には理解できなかった。
「み・・・水だとぉ!?」
「ただのタライとは違うのだよ! ただのタライとは!! これは水入りなのだよ!!!」
 勝ち誇ったように言うセバスチャン。
 彼が呼び出した巨大なタライには、大量の水が入れられていた。
「無粋な。水で我を滅ぼせると思ったか!!」
 確かに、この程度の水には殺傷能力など無い。だが次の瞬間――
「な・・・なにぃ!!???」
 男自身が魔力によって、氷点下にまで下げた気温で、男が被った水が、一瞬にして凍りついた。
 これで身動きはとれない。
「うあぁぁぁぁっ・・・!!」
 鳴海が剣を構え、跳ぶ。
 剣が鳴海の「気」に呼応して光り輝く。
「滅びろっ!! 闇に生きる者おぉっ!!」
 その一撃は、男を深々と切りつけていた。
「・・・・・・見事だ」
 男はそう言いその場に崩れ落ちた。
「我は、汝らを少々、甘く見ていたようだ」
 鳴海は、立ち上がりは剣を収める。
「我はもう滅びるのみ。もう行くがいい」
「あんた・・・・・・」
「だが、あの王の悪事の数々を、証言できなかったのが、唯一の心残り」
 ・・・・・・ん? 王の悪行とは??
「鳴海とやら、なかなか楽しかったぞ・・・・・・」
「待てーっ!! まだ滅びるなぁぁっ!! 滅びるなら、全てを語ってから滅びろぉぉぉっ!!」
 と、その言葉を聞くと、男はむっくりと起き上がり。
「ならば汝に全てを教えようぞ」
「うあ、今までの全部演技かよ・・・・・・」
 智也の言葉は無視して男は語りだした。
「全ての元凶は――」

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