第6回

 伝説の剣――いや、刺身包丁を手に入れた鳴海たちは、旅の疲れを癒すため、温泉へと来ていた。
 セバスチャンが所持していた『勇者様御一行証明証書』のおかげで、なんと無料で入浴できることになったのである。
 時間帯がずれていることもあってか、温泉は鳴海たち4人以外誰もいなかった。
「おフロが広いのはいいんだけど……なんで混浴なのよっ!」
「あれ? 鳴海さん知らないんですか?
 ここの温泉は新婚さんがハネムーンでよく来ることで、かなり有名なんですよ。
 それに、この温泉は別名『コウノトリ温泉』とも呼ばれていて、この温泉に来て『できちゃった』って人も多いんですよ」
 ご丁寧にも、わざわざ解説をするセバスチャン。
「私は新婚さんじゃないっつーの!」
 すると隣で美幸が、
「でも、私は智也とだったら……」
「おい、美幸。やめろよぉ」
「はいそこ! 温泉の中でイチャイチャしないっ!
 ってゆーか、2人ともなんかキャラ変わってるわよ」
「ふっ。何のことかな?」
 鳴海の突っ込みにいたって余裕の智也。
「じゃあ、鳴海ちゃんはセバスチャンとだね」
 鳴海に注意されながらも、イチャイチャするのを止めない美幸が言った。
「えーっ! セバスチャンと!? もっと優しくてかっこいい人が……じゃないっ! いつからカップル決めになったのよ!」
「あっ、鳴海さん。ご心配には及びませんよ。
 私には愛しい妻とかわいい娘2人がいますから」
『――!!!!!』
 一同に衝撃が走った。
「あんた、けっ……結婚してたの!? それに娘って……」
「まあ、私にもいろいろあるわけですよ」
 セバスチャンは鳴海の言葉をさらりと流す。
「でも意外ねー。智也みたいなかっこいいのが結婚できなくて、なんであんなのが結婚してるの?」
「あ……あんなの!?」
「ちょっと待て、俺はまだ18だぞ!」
 そろってツッコミを入れる、セバスチャンと智也。
 ――温泉に来てまで私って何やってんだろ……。
 鳴海はふとそんなことを思い、悲しくなってくる。
「ふうっ……。 私そろそろ上がるね」
「美幸待って、私も」
 そう言って、美幸と鳴海の2人は温泉から上がっていった。
「じゃあ、俺も上がるかな」
「智也さんもですか?」
「当たり前だろ。男2人っきりで温泉に入ってられっか!」
 智也も上がり温泉の中にはセバスチャン1人となっていた。
「あぁ、私って一体……」
 セバスチャンが思ったのもつかの間、脱衣場から鳴海が戻ってきた。
「あれ鳴海さん? どうしたんですか?」
「あのね、セバスチャン。私やっぱりあなたのこと――」
 そう言い、鳴海はセバスチャンを強く抱きしめた。
「だ……ダメです、鳴海さん。わっ……私には愛しい妻と娘が……」
「――おやすみ」
 耳元でささやかれた瞬間、セバスチャンの意識は黒く染まっていった。

「遅いわねぇ。セバスチャン」
 旅館のロビーで鳴海たち3人は、セバスチャンが戻ってくるのをずっと待っていた。
「あっ! 戻ってきたよ」
 美幸が指した先にはセバスチャンの姿があった。
「――遅くなってすみません」
「まったくもう、さっさと魔王を倒さなくちゃいけないんだから……」
 ――言った瞬間。
「鳴海っ!!」
「死ねぃ! 勇者っ!」
 ヅガーン!!
「いったたた……」
 鳴海は何が起きたのか理解できなかった。
 突如として、彼女がいた空間が爆風に飲み込まれ、地面の岩が吹き飛んだのである。
 智也に突き飛ばされなければ、吹き飛んでいたのは鳴海だっただろう。
「鳴海、大丈夫か?」
 駆け寄ってきたのは智也と美幸。
「な……何が起きたの?」
「セバスチャンが……」
 言い終わる前に、智也が2人を抱えて跳んだ。
 ジュゴウゥゥン!!
 智也のおかげで、何とかかわせた。
「はあ、はあ、2人とも、もうちょっと痩せてくれ……」
「エア・ウォール!」
 ゴグゥゥン!
 三度目の攻撃も、美幸がとっさに発動させた防御呪文でしのげた。
「このままじゃ本格的にまずいは。
 みんな、いったん表に出るわよ」
 返事も待たずに、鳴海は旅館の入り口を出て、通りに飛び出した。
「――!!」
 そこはすでに、モンスターの巣窟になっていた。
「いったい何が……」
「鳴海ちゃん。これって……」
「相当やばいぜ。これは」
 追いついてきた2人が口々に言う。
「勇者鳴海……。貴様はここで死ぬのだ」
「上っ!」
 美幸の声に上を見上げると、そこには1人の女性がたたずんでいた。
「魔族だなっ!」
「わかっていたようね」
 智也の声に、女の姿をした魔族は答えた。
「私の名はメリア。魔王様の腹心の1人よ」
「なんで私たちが、ここにいることがわかったの!」
「ここの町は2日前に滅びたのよ。それを勇者が来るって噂を聞いたもんだから、わざわざ私の魔力で町を復元したのよ。まさに、飛んで火に入る夏の虫」
 待ち伏せされたわけか……。
「さあ、お話はこの程度にしましょう。私はあなたたちを殺せと言われて来ているの。悪いけど、さっさと殺されてね」
 智也が右手に剣を左手に銃を持つ。
 美幸は呪文を唱え始めている。
「ふふっ。準備は良いようね。
 ならばっ……。いけっ! 我がしもべ『セバスチャン』!」
 メリアのその言葉を待っていたかのように、1人の男が突っ込んできた。
「セバスチャン!!?」
 3人はそれが、セバスチャン本人であることにすぐに気づいた。
「あんた、セバスチャンに何を!?」
「ふふっ。私は妖術が得意なの。
 勇者鳴海、あんたの姿を借りて、あの男を操ったってわけ。
 あんたに仲間が斬れるかしら!?」
「……ユウシャ……コロス」
 セバスチャンが突っ込んでくる。
「鳴海!!」
 智也が叫んだ。
 どうする。どうすればいいの……?
 そして――

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