第5回

 鳴海たちは、伝説の武器職人がいるといわれている建物の前に来ていた。
「すみませ〜ん。武器職人さんいますか〜」
「おう。開いてっから入れ」
 中からの言葉に、鳴海たち一行は建物の中に入っていった。
「久しぶりのお客さんだなぁ」
「あなたが……伝説の武器職人……」
 彼女たちの目の前には、40歳くらいの男がいた。
「時は来たか……勇者の剣が必要なんでしょう……勇者鳴海さん」
「なんで……私のことを?」
 その問いに答えたのは、彼ではなく、セバスチャンだった。
「私が連絡しておいたんです。勇者の剣が必要だから準備を頼むって。
 彼とは――ファイとは5年来の親友でして……」
 セバスチャンに続き、武器職人――ファイが言った。
「セバスチャンは先々代の勇者さんのときも、勇者さんたちと行動をしていたんだ」
 なるほど。セバスチャンが戦い慣れしてるのは、前にも勇者と行動したことがあるからか。
「こいつの武勇伝はいい。早くその勇者の剣ってのを見せてくれ」
 智也の言葉にファイは頷いた。
「剣はあっちの部屋にあります」
 ファイに言われて、鳴海たちは奥にある部屋に向かった。
「な……何これ」
「……結界……!?」
 鳴海が言い、美幸が呟いた。
 ほぼ正方形といっていい部屋の真ん中に、一振りの剣が突き立てられている。そして、剣を中心に魔方陣が広がり、結界で護られていた。
「これが、勇者が勇者の剣を手にために必要な儀式」
「剣を手にするために、勇者はひとりで、この結界を破らなければならないんです」
「私ひとりで……この結界を……」
 鳴海は悩んでいた。自分にこの結界が破れるのかと。
「これは、勇者としての資質を問うものなんです」
「結界は剣によって生み出されている。結界を破らなければ、そいつはただの鈍ら刀と同じだ」
 だが、やるしかない。
「わかったわ。とにかく、私、やってみる」
「がんばって、鳴海」
 美幸の言葉に、鳴海は無言で頷いた。
 鳴海は、剣の結界へと足を進めた。
「みんな、集中したいから、しばらくひとりにして……」
「がんばれよ、鳴海」
 智也の言葉を最後に、一同は部屋を後にした。
 この部屋に残っているのは、鳴海ただひとりになった。
「さて、どうやったら解けるのかな?」
 悩みながらも、呪文の詠唱をはじめる。
「フレア・ブラスト!!」
 解き放たれた炎が、結界を包み込んだ。
 しかし、炎が消えた後には、結界が何も無かったかのように存在している。
「だめか……」
 そして、鳴海の闘いは始まった。

「鳴海ちゃん大丈夫かなぁ」
 別室で待っている美幸は、ふとそんなことを口にした。
「たぶんな……」
 根拠なんてどこにも無い。でも、智也は鳴海ならできると確信していた。
「今、私たちにできるのは、鳴海さんを信じて待つことです」
 セバスチャンの言葉に、一同は深く頷いた。

 ……はあ……はあ……
 あれから、どのくらい時がたったのだろうか?
 閉ざされた部屋の中にいる鳴海には、そんなことはまったくわからなかった。
 さまざまな手段を試みたが、なにひとつ成功していない。
 彼女は確信した。外からこの結界を破ることは無理。ならば――
「結論はひとつしかないわ」
 そう、外から破れないのならば、内から破ればいいのだ。
 何らかの方法によって、結界の中に入り、そして結界を破る。
 結果内に入るには、結界とまったく同種の魔力で全身を包み込めばいい。
 だが、彼女の身につけているマジックアイテムの魔力が、変に干渉してうまくいかない。
 鳴海は迷わず、身に着けている服を脱ぎ捨てた。
 こうすれば、マジックアイテムによる魔力干渉を受けないからだ。
 一糸纏わぬ姿となった鳴海は、魔力を身に纏い、結界に触れる。
「剣よ……私を受け入れて……」
 結界とまったく同種の魔力を纏った鳴海は、いともあっさり結界を通り抜けた。
 何のためらいも無く、剣の柄を握る。
 剣はあっけないほど簡単に抜けた。
 片刃の長剣。エクスカリバー。
 鳴海はついに、勇者の剣を手にした。
 だが、これではまだ足りない。
 この剣を持って、結界の外に出るのは簡単である。
 しかし、この結界を破らないかぎり、この剣はただの剣でしかないのだ。
 それでは何の意味も無い。
 こうして、結界を破る方法を模索することしばらく。
 結界を破る方法を見つけた。
 勇者の剣による結界ならば、勇者の剣で破れるはず。
『目には目を、歯には歯を』というやつである。
 言葉は、自然と出てきた。
「剣より生み出されし結界よ。
 我、勇者の名の下に、剣の力をもちこれを破る。
 剣よ、我が意に従い、その力を示せ」
 鳴海は剣を振るう。
 そして、剣が眩い光に包まれ、結界に突き刺さった。
 激しい閃光を撒き散らしながら、結界が消えていく。
 そして、光が消えたその後には、一振りの剣を手にした鳴海の姿があった。
「……やった」
 彼女が持つ剣こそ、勇者の剣『エクスカリバー』
「やったーっ!」
 
 部屋の外で待っている智也たちにも、鳴海の声は聞こえていた。
「やったみたいだな……あいつ」
「これでこそ、勇者です」
 口々に言っていると、部屋から鳴海が出てきた。
 マントをなびかせ、一振りの剣を手にした勇者。
「私……やったよ」
「それでこそ、勇者だ」
 ファイは言った。
「まさか、本当に抜くなんて思わなかったぞ。
 さあ、勇者が振るうその刺身包丁で魔王の野郎をぶっ倒すんだ」
「はい……ん?」
 なにかが引っかかる。
「あの……本当にこれって勇者の剣なんですか?」
 鳴海は恐る恐る聞いてみる。
「ああ。勇者のみが使える刺身包丁だ」
 …………刺身包丁…………?
「長かった。俺が10年もの歳月をかけて作り上げた、伝説の勇者の刺身包丁が、今まさに、勇者の手の中に……」
「あ……あのー」
「思えば、寿司を握っていたあのとき、俺は限界を迎えていたんだ。
 素材の味を悪くしないためにはどうすれば良いか。
 その結果生まれたのが、この刺身包丁だ」
『なんだそりゃーっ!!!』
 その場にいた全員のツッコミが、見事に重なった。

「本当にこんなもんで、魔王を倒せるのかしらねぇ」
 武器職人――もとい、寿司職人ファイのもとを旅立った4人は、次なる地へ向かっていた。
「魔王の居城まであと少しですよ、鳴海さん」
 そうね、気を落としてる暇なんて無いわ……
 そして、4人は決意を新たに歩き出した。

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