鳴海たちは、伝説の武器職人がいるといわれている建物の前に来ていた。 「すみませ〜ん。武器職人さんいますか〜」 「おう。開いてっから入れ」 中からの言葉に、鳴海たち一行は建物の中に入っていった。 「久しぶりのお客さんだなぁ」 「あなたが……伝説の武器職人……」 彼女たちの目の前には、40歳くらいの男がいた。 「時は来たか……勇者の剣が必要なんでしょう……勇者鳴海さん」 「なんで……私のことを?」 その問いに答えたのは、彼ではなく、セバスチャンだった。 「私が連絡しておいたんです。勇者の剣が必要だから準備を頼むって。 彼とは――ファイとは5年来の親友でして……」 セバスチャンに続き、武器職人――ファイが言った。 「セバスチャンは先々代の勇者さんのときも、勇者さんたちと行動をしていたんだ」 なるほど。セバスチャンが戦い慣れしてるのは、前にも勇者と行動したことがあるからか。 「こいつの武勇伝はいい。早くその勇者の剣ってのを見せてくれ」 智也の言葉にファイは頷いた。 「剣はあっちの部屋にあります」 ファイに言われて、鳴海たちは奥にある部屋に向かった。 「な……何これ」 「……結界……!?」 鳴海が言い、美幸が呟いた。 ほぼ正方形といっていい部屋の真ん中に、一振りの剣が突き立てられている。そして、剣を中心に魔方陣が広がり、結界で護られていた。 「これが、勇者が勇者の剣を手にために必要な儀式」 「剣を手にするために、勇者はひとりで、この結界を破らなければならないんです」 「私ひとりで……この結界を……」 鳴海は悩んでいた。自分にこの結界が破れるのかと。 「これは、勇者としての資質を問うものなんです」 「結界は剣によって生み出されている。結界を破らなければ、そいつはただの鈍ら刀と同じだ」 だが、やるしかない。 「わかったわ。とにかく、私、やってみる」 「がんばって、鳴海」 美幸の言葉に、鳴海は無言で頷いた。 鳴海は、剣の結界へと足を進めた。 「みんな、集中したいから、しばらくひとりにして……」 「がんばれよ、鳴海」 智也の言葉を最後に、一同は部屋を後にした。 この部屋に残っているのは、鳴海ただひとりになった。 「さて、どうやったら解けるのかな?」 悩みながらも、呪文の詠唱をはじめる。 「フレア・ブラスト!!」 解き放たれた炎が、結界を包み込んだ。 しかし、炎が消えた後には、結界が何も無かったかのように存在している。 「だめか……」 そして、鳴海の闘いは始まった。 「鳴海ちゃん大丈夫かなぁ」 別室で待っている美幸は、ふとそんなことを口にした。 「たぶんな……」 根拠なんてどこにも無い。でも、智也は鳴海ならできると確信していた。 「今、私たちにできるのは、鳴海さんを信じて待つことです」 セバスチャンの言葉に、一同は深く頷いた。 ……はあ……はあ…… あれから、どのくらい時がたったのだろうか? 閉ざされた部屋の中にいる鳴海には、そんなことはまったくわからなかった。 さまざまな手段を試みたが、なにひとつ成功していない。 彼女は確信した。外からこの結界を破ることは無理。ならば―― 「結論はひとつしかないわ」 そう、外から破れないのならば、内から破ればいいのだ。 何らかの方法によって、結界の中に入り、そして結界を破る。 結果内に入るには、結界とまったく同種の魔力で全身を包み込めばいい。 だが、彼女の身につけているマジックアイテムの魔力が、変に干渉してうまくいかない。 鳴海は迷わず、身に着けている服を脱ぎ捨てた。 こうすれば、マジックアイテムによる魔力干渉を受けないからだ。 一糸纏わぬ姿となった鳴海は、魔力を身に纏い、結界に触れる。 「剣よ……私を受け入れて……」 結界とまったく同種の魔力を纏った鳴海は、いともあっさり結界を通り抜けた。 何のためらいも無く、剣の柄を握る。 剣はあっけないほど簡単に抜けた。 片刃の長剣。エクスカリバー。 鳴海はついに、勇者の剣を手にした。 だが、これではまだ足りない。 この剣を持って、結界の外に出るのは簡単である。 しかし、この結界を破らないかぎり、この剣はただの剣でしかないのだ。 それでは何の意味も無い。 こうして、結界を破る方法を模索することしばらく。 結界を破る方法を見つけた。 勇者の剣による結界ならば、勇者の剣で破れるはず。 『目には目を、歯には歯を』というやつである。 言葉は、自然と出てきた。 「剣より生み出されし結界よ。 我、勇者の名の下に、剣の力をもちこれを破る。 剣よ、我が意に従い、その力を示せ」 鳴海は剣を振るう。 そして、剣が眩い光に包まれ、結界に突き刺さった。 激しい閃光を撒き散らしながら、結界が消えていく。 そして、光が消えたその後には、一振りの剣を手にした鳴海の姿があった。 「……やった」 彼女が持つ剣こそ、勇者の剣『エクスカリバー』 「やったーっ!」 部屋の外で待っている智也たちにも、鳴海の声は聞こえていた。 「やったみたいだな……あいつ」 「これでこそ、勇者です」 口々に言っていると、部屋から鳴海が出てきた。 マントをなびかせ、一振りの剣を手にした勇者。 「私……やったよ」 「それでこそ、勇者だ」 ファイは言った。 「まさか、本当に抜くなんて思わなかったぞ。 さあ、勇者が振るうその刺身包丁で魔王の野郎をぶっ倒すんだ」 「はい……ん?」 なにかが引っかかる。 「あの……本当にこれって勇者の剣なんですか?」 鳴海は恐る恐る聞いてみる。 「ああ。勇者のみが使える刺身包丁だ」 …………刺身包丁…………? 「長かった。俺が10年もの歳月をかけて作り上げた、伝説の勇者の刺身包丁が、今まさに、勇者の手の中に……」 「あ……あのー」 「思えば、寿司を握っていたあのとき、俺は限界を迎えていたんだ。 素材の味を悪くしないためにはどうすれば良いか。 その結果生まれたのが、この刺身包丁だ」 『なんだそりゃーっ!!!』 その場にいた全員のツッコミが、見事に重なった。 「本当にこんなもんで、魔王を倒せるのかしらねぇ」 武器職人――もとい、寿司職人ファイのもとを旅立った4人は、次なる地へ向かっていた。 「魔王の居城まであと少しですよ、鳴海さん」 そうね、気を落としてる暇なんて無いわ…… そして、4人は決意を新たに歩き出した。 |