「つ……疲れた〜」 町を出発して、4日が過ぎた。ハミの村にはまだ着かない。 「おい、鳴海。あのチンピラの言ってたことは本当なのか?」 智也が不意にそんなことを言った。 確かにウソの可能性も無くはない。はじめからあのチンピラが、鳴海目当てだとしたら、その可能性のほうが高いのではないか? 「ねえ、セバスチャン。王様からなんか貰ってないの?」 ――すると、 「忘れてました。そーいえば王様から、非常連絡用にと、携帯電話を渡されてたんです」 そ……それを早く出せよ…… セバスチャン以外の3人は、少なくともそう思った。 「これでお城に連絡すれば、すぐに助けが来ます」 おおーっ!! 一同から歓声がわきあがった。 セバスチャンは早速お城に電話をする。 だが…… 「あのー、鳴海さん。繋がらないんですけど……」 「そんなことないでしょ。私にやらせて」 そう言い、セバスチャンからケータイを奪い取り、メモリーの中からお城の番号を呼び出す。 『只今、奇妙な怪電波の影響で、電波がうまく飛ばせません。電波状態が良くなってから、もう一度おかけ直しください』 ………… ケータイの液晶ディスプレイを見てみると、そこには『怪電波発生中につき使用不可』の文字。 「ねえ鳴海ちゃん。私たちここで死んじゃうの?」 美幸がそんなことを言い出した。 「こんなところで死にたくないけど、覚悟しておいたほうがいいわね」 絶望感が大きくなっていく。 歩くペースも、だんだん遅くなっている。 「あれ? 鳴海さん、たしかあそこに山、ありましたよね?」 突如セバスチャンが、前方を指して言った。 確かに、私たちが歩いていくその遥か彼方には、巨大な山があったはずである。 それが、見えなくなっている。 周りを見まわすと、景色が先程と変わっている。 「空間が歪んでるな」 言ったのは智也だった。 「おそらくは、結界か何か……」 『そのとおり』 智也の声を遮って、虚空から声が響いた。 「誰、出てきなさい」 『言われなくてもすぐ現れてやるさ』 すると目の前の空間が、一瞬揺らぎ、そこに人の姿をしたものを生み出した。 「我が名はデグス。魔王様に仕える魔族の一人だ」 「魔族ですって!?」 美幸が驚愕の声をあげる。 「ここしばらく、魔王様の計画を潰そうとしている連中が多くてな」 デグスと名乗ったその魔族は、こちらに歩み寄りながら言った。 「あんたたちみてぇな『勇者御一行』とやらを始末しているわけさ」 なるほど、魔族に目をつけられていたわけか。 「で、私たちを狙ってたわけね」 「そーいうことだ」 「それで、この空間は何だ」 言ったのは智也。 「これか。あたりの空間に干渉してあんたらを閉じ込めただけさ。 ま、このオレを倒せば、この結界は消えるがな」 なるほど、ならば…… 『ファイアー・ボール』 私と美幸が同時に放った一撃が合図となり、戦いが始まった。 「無駄だ、そんなちんけな魔術が通用するかっ!!」 そう叫び、右手の一振りで、ファイアー・ボールを叩き落とす。 「秘技!! タライ召喚!!!」 横手からセバスチャンが、不意をつく形で術を放った。 ぐわーん。 「くっ……こんな術ごとき……」 頭上から降ってきたタライに直撃され、がっくり膝をつく。 もしかして、この術ってメチャ強いんじゃ…… そんなことを思っていると、智也がロングソード片手に突っ込んでいく。 「くっ……」 デグスはよたよたと立ち上がると、なんとかその一撃をかわす。 「ハリセン召喚!!」 セバスチャンが叫び、彼の右手に一振りのハリセンが現れた。 ハリセン片手に、智也と切り結んでいるデグスに突っ込む。 「ひっさぁぁぁぁつ!!! ハリセンブレイクっっ!!!!」 セバスチャンの大振りの一撃を、右手で受け止めた。 ――と、 「ぐわぁぁーっ!!」 デグスの絶叫があたりに響く。 見てみると、デグスの右肩から先が無くなっている。 「ただのハリセンだと思って、甘く見ているとこうなるのだ。 このハリセンは、触れたものを全て無に還すという、王家に代々伝わるものなのだ」 お……恐ろしい……っていうか、ンな物を代々伝える王家っていったい……? 「とりゃぁあーっ!!」 セバスチャンの横薙ぎの一発が、デグスの体をまともに捕らえた。 「滅び去るのだ。闇に生きるものよ」 「ぐっ……ぐわぁああああああっ!!」 断末魔の叫びをあげ、デグスの体が灰になり崩れ去る。 ほどなくして、あたりの結界も消えた。 そして、目の前には探していたハミの村が。 私たちは、村の中に駆け込んで行った。 |