第7回

「ユウシャ……コロス!!」
 セバスチャンが突っ込んでくる。
 ――次の瞬間――両者が交錯した――
 ガギギギギギギ……
 鳴海は剣で、セバスチャのナイフを辛うじて防いでいた。
「くっ……」
 反射的に動き抑えているだけなので、だんだんと圧される。
 そもそも純粋な力勝負では鳴海に勝ち目は無い。
 ――やられる!!
 思った瞬間――
『エア・ストライク!!』
 ヴヴァァァ……!!!
 強烈な空気の塊が弾け、2人を吹き飛ばした。
 何とか身を起こし、剣を構える。
「鳴海ちゃん。大丈夫?」
「まったく。世話のかかる……」
「美幸!智也!」
 2人は急いで鳴海の元に駆け寄ってきた。
「どうやらうまくいったみたいだな……」
 ――そういうことか。
 美幸と智也の2人は、同時に強風の魔術を、鳴海とセバスチャンに向けて放ったのだ。
 そして、吹き荒れた強風に、2人は弾き飛ばされた。
 自分もいっしょくたに吹き飛ばされたのが気に入らないが、あの場合、ああするしかなかっただろう。
「荒っぽい助け方ねぇ。乙女にすることじゃないわよ」
 そんなことを言いながらも、警戒は怠らない。
 なにしろ周りは魔物だらけなのである。
「こいつらの相手してたらキリが無いぞ」
「魔族の話が本当なら、この町はただの廃墟よ!!
 構わず町ごとふっとばしちゃえ!!」
 その言葉に美幸が頷き、呪文の詠唱をはじめる。
「――黒き闇よ 混沌よ
 汝の持てるその力 盟約のもと 我に与えよ
 我 汝に誓う 
 与えられし力
 我らが前のすべての存在を
 滅びを望みしすべて存在を
 等しく滅びを与え 無に還さんことを」
 呪文が完成し、黒い闇から生まれた混沌が、美幸の掌に収束していく。
「カオス・ブラスト!!」
 解き放たれた混沌が、通りを飲み込み、無に還していく。
 そして――
「これで大体片付いたかな?」
 恐らく、通りにいた魔物は、今の魔術で消し飛んだだろう。
「さっすが美幸」
「へへっ……」
 その瞬間――
「美幸! 後ろだ!!」
 その声に反射的に振り向くと、魔族が――メリアが目の前に迫っていた。
 どすっ
「……うっ……かはっ……」
 美幸の腹に、左の拳の一撃がきまった。
 痛みに耐え切れずに、その場にひざを突く。
「貴様ぁぁっ!」
 智也は銃を抜き、メリアに向けて乱射した。
 銃を撃ちながら、呪文の詠唱をして――
「フレア・ブラストぉぉ!!!」
 解き放たれた力が、魔族を吹き飛ばす。
「美幸!! 大丈夫か?」
 彼女はコクっと1回頷いた。
 とはいえ、至近距離の一撃をもろに受けたため、ダメージは深刻だ。
「智也……回復呪文かけてあげて。
 あいつを滅ぼしてくるわ」
「……無茶だけはするなよ」
 鳴海は頷き、吹き飛ばされた魔族に向かって駆け出す。
「人間ごときに、滅ぼされるかぁぁぁっ!!」
 咆哮と共に無数の魔力球を生み出し、向かってくる鳴海に向けて投げつけた。
 鳴海は剣を振りかぶり、叫んだ。
「剣に秘められし力よ! その力を解き放てっ!!」
 その言葉に呼応して、刀身が強く輝きだす。
 剣を魔族に向けて振り下ろす。
 光り輝く刀身から、無数の光弾が生まれ、メリアの放った魔力球を打ち砕く。
 エネルギーの衝突は、膨大な光を生み出し、一瞬視界を遮る。
「くだらんことをっ!!」
 メリアは再び魔力球を生み出そうとする。
 しかし――
「くらえぇぇぇっ!!!」
 ズビュッ!!
「ぐあぁぁぁぁ……っ!!」
 一瞬、魔族は何が起きたかを理解できなかった。
 そして、自分の胸に深々と突き刺さる剣を見て、ようやく悟った。
 剣の間合いの外から、鳴海が剣を投げたのだと。
「まだ終わらない!! ゆけ!! セバスチャンっっ!!!」
 その言葉に、鳴海の横手からセバスチャンが突っ込んでくる。
「――あんたは」
 彼の方へ向き直り、手にしたものを思いっきり振り下ろす。
「引っ込んでなさあぁぁぁいっっ!!!!」
 バシィィィィィィンッッ!!!!!!!!!
 やたらド派手な音を立てて、セバスチャンは、巨大ハリセンの一撃でその場に昏倒した。
 その間に、魔族が目の前に迫っていた。
「シネェェェっ!!」
「剣の力よ! 弾けろっ!!」
 メリアの胸に突き刺さったままだった剣が、再び白光した。
 そして、魔族は生まれ出た光の奔流に、飲み込まれた。断末魔さえ残さずに。
 カチャンっ……
 乾いた音を立て、剣は大地に落ちた。
「美幸!!」
 それを拾い上げ、鞘に収めると、美幸に駆け寄った。
「大丈夫。治療は終わった」
 未だ、智也の腕の中で眠ったままだが、もう大丈夫だろう。
 無数にいた魔物たちの姿も1つも無い。
 美幸の一撃で消え去った以外にも、町中に無数にいたのだろうが、どうやら、魔物たちを召還した魔族が滅去ったことで、共に消えたようだった。
「……さてと」
 鳴海は倒れているセバスチャンの元へ向かった。
 恐らく、魔族を滅ぼしたことで、こちらのコントロールも解けているだろう。
 鳴海はおもむろに巨大なハリセンを振りかぶり――
「目を覚ませぇぇぇぇっ!!」
 スパアアァァァァァンッ!!!
 ピクピクっ。
 ……お。
「あれ? 私はいったい……」
 セバスチャンはハリセンで叩かれた頭をさすりながら、むっくりと起き上がった。
 目の前にいる鳴海に気がつくと、何故か顔を真っ赤に染めて、
「だ……駄目です。鳴海さん。先ほども申し上げた通り……わ……私には、つ……妻と娘が……」
「何の話をしとるんだ! あんたは!!」
「わ……私にあんな事をしておきながら……覚えてないんですか?」
「だから何の話だぁぁっ!!!」
 鳴海のアッパーカットがセバスチャンの顎にキレイに決まった。
「どうやら、鳴海に化けた魔族が、セバスチャンに何かしたようだな……」
「それは立派な肖像権の侵害よ!!」
 顎をさすりながらセバスチャンは一言。
「じゃぁ、あれは鳴海さんじゃぁ無かったんですね。
 おのれ魔族めっ! よくもこの私にあのような辱めを……」
「ちょっと待てーっ!
 あの魔族! 私の姿勝手に使って、いったい何をやったのよ!!?」
 鳴海は首だけグギギギと回して、セバスチャンに問う。
「……そ……それは……その……何と言うか……
 霰も無い姿で私を強く抱きしめたり……その……甘い声で……その……とても口に出せないようなことをやったり言ったり……挙句の果てには……わ……私の体を……」
「も……もうそれ以上は言わなくていいわ!!
 くっそーっ!! 魔族のやつめ!! 人の姿で好き勝手やって……許さないんだから!!」
 無意味に剣を抜き放ち、天に掲げ。
「魔王の居城へ突入よ!!! 世界を混乱に陥れた魔王を、私たちが滅ぼすのよ!!」
 怒りに任せ、そう叫んでいた。
 目指せ! 魔王の居城!!

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