第2回

 鳴海と王の使いは、お城から西の方角にある、アリニクジニの町に来ていた。
「まずは情報収集が基本ですからね」
「……っていうか、なんであんたがいるのよ!」
 鳴海は隣でのほほんとしている王の使いを指さして言った。
「この世の中、かよわい女性の一人旅というのは、なにかと危険ですから」
 じゃあ、かよわい女性に、『まおうたいぢ』なんてやらせる、あの王様っていったい?
 ふとそんなことを考えてしまった。
「まあ、いいわ。
 じゃあ、情報収集をはじめましょ。パシリくん」
「ぱ……パシリ!?」
「うん。王様のパシリじゃん」
「失敬な。私にはちゃんと『セバスチャン』という名前が……」
 あ……ありがちな名前……
 思わず口にしそうになったが、これ以上、事をややこしくしたくない。
「じゃあ、セバスチャン。まずは酒場から聞き込みよ」
「りょーかいです」
 2人は町の一角にある酒場に向かった。

 まだ日も高いというのに、酒場は多くの客でにぎわっていた。
 鳴海はカクテルを注文しようと思ったのだが、セバスチャンが『未成年はアルコール類は駄目です』と、オレンジジュースを頼んだ。
「――で、どうするのよ」
「酒場に来ようって言ったのは、鳴海さんじゃないですか!!」
「ほら、RPGとかだと酒場で話を聞くと、関所が通れるようになったり、開かなかった扉が開いていたり、とかあるじゃん」
「……ま……まぁ……」
 あまりにてきとーな考えに、セバスチャンは言葉を失ってしまった。
「と……とりあえず、あそこにいるおっちゃんに訊いてみましょ」
 鳴海は言って、近くのテーブルで焼酎をのんでいる、傭兵風の男に声をかけた。
「なんでー。お嬢ちゃん」
「あのー、魔王について知っていることがあったら、教えてもらいたいんだけど」
 男はしばし考えてから、口を開いた。
「まずは、装備を整えて、仲間を集めることだな。
 いくらなんでも、その格好でお嬢ちゃん一人じゃ魔王は倒せないだろう」
 ――もう一人いるんだけど。
 セバスチャンのことを言おうと思ったが、言ってどうなることでもないのでやめておく。
 ちなみにその格好とは、鳴海のセーラー服のことである。
 王からもらったライトメイルは、装備する時間がなくて、未だにセバスチャンが引っ張ってきた荷車の中である。
「ここから北に行ったところに、ハミの村ってとこがある。
 そこには腕の良い武器職人がいるって話だ。急ぎじゃないんなら、そこに行ってからの方が良いだろう」
「うーん。そっか。どーもありがとう」
 お礼を言って立ち去るつもりだったが、突如、男の手が鳴海の腕を掴んだ。
「ちょっと待てよ、お嬢ちゃん。お礼がそれだけっていうのはどうなのかなぁ?」
 そう言うと鳴海の体を、足先から頭の上まで舐めるように見まわした。
 や……やばひ……
「見た感じ、お嬢ちゃん、なかなか良いじゃねえか。今夜あたりどうだ?」
 本格的にやばひ。
 鳴海はもはや恐怖で足がすくんで動けなくなっていた。
 だ……誰か……
 心の中で叫んだそのとき――
「待てっ!!」
 ひとつの人影が、男の目を睨み付けて叫んだ。
 テーブルの向こう側で、男を睨み付けている人影の正体は――
「セバスチャン!?」
 そう、それはまさしくあのセバスチャンである。
 セバスチャンは無造作に男に歩み寄り言った。
「貴様、その御方がどういう身分の方かわかって言っているのか?」
「ああっ!!? 何だテメェは!!」
 男は鳴海から手を離し、セバスチャンの方を向き直った。
「知らないのならば教えてやろう。
 ここに在らせられる御方は、国王直々に任命された勇者様であられるぞ。
 下衆よ、そこに直れ! そして今までの行為を懺悔するのです。さもなく……」
「ゴチャゴチャうるせえ!!」 
 どーん。
 男のストレートをくらい、セバスチャンの言葉は途切れた。
 倒れながらも、なんとか身を起こしセバスチャンは言った。
「鳴海さん。生きて……くだ……さい……」
 ――セバスチャンは力尽きた――
 よ……弱ーっ!!
「さて……」
 男は再び、鳴海に視線を戻す。
 しかし、そこに鳴海の姿はなかった。
 男があたりを見まわすと、鳴海が出口の近くで、うずくまって姿を隠そうとしているのが見えた。
「おい、お嬢ちゃん」
 ヤバ……気づかれた……
「逃げようたって無駄だぜ!」
 男は指をぽきぽき鳴らしながら鳴海に近寄る。
 つかまってたまるものかと、鳴海は立ち上がって逃げようとする。が――
 クンっ。
「!?」
 立ち上がろうとした時、何かに引っ張られるような感じがした。
 よく見ると、スカートのすそが、テーブルの足の下敷きになっていた。
 う……ウソでしょ……
「覚悟しな、お嬢ちゃん」
 男の手が鳴海に伸びる。
 た……助けて……
 だが誰も助けてはくれない。
 絶体絶命のピンチ!
 その時――
「待ちなっ!!」
 出入り口のドアから声がした。
 ドアが開き、そこにいたものは?

←第1回】【展示室に戻る】【第3回→
TOPに戻る