鳴海と王の使いは、お城から西の方角にある、アリニクジニの町に来ていた。 「まずは情報収集が基本ですからね」 「……っていうか、なんであんたがいるのよ!」 鳴海は隣でのほほんとしている王の使いを指さして言った。 「この世の中、かよわい女性の一人旅というのは、なにかと危険ですから」 じゃあ、かよわい女性に、『まおうたいぢ』なんてやらせる、あの王様っていったい? ふとそんなことを考えてしまった。 「まあ、いいわ。 じゃあ、情報収集をはじめましょ。パシリくん」 「ぱ……パシリ!?」 「うん。王様のパシリじゃん」 「失敬な。私にはちゃんと『セバスチャン』という名前が……」 あ……ありがちな名前…… 思わず口にしそうになったが、これ以上、事をややこしくしたくない。 「じゃあ、セバスチャン。まずは酒場から聞き込みよ」 「りょーかいです」 2人は町の一角にある酒場に向かった。 まだ日も高いというのに、酒場は多くの客でにぎわっていた。 鳴海はカクテルを注文しようと思ったのだが、セバスチャンが『未成年はアルコール類は駄目です』と、オレンジジュースを頼んだ。 「――で、どうするのよ」 「酒場に来ようって言ったのは、鳴海さんじゃないですか!!」 「ほら、RPGとかだと酒場で話を聞くと、関所が通れるようになったり、開かなかった扉が開いていたり、とかあるじゃん」 「……ま……まぁ……」 あまりにてきとーな考えに、セバスチャンは言葉を失ってしまった。 「と……とりあえず、あそこにいるおっちゃんに訊いてみましょ」 鳴海は言って、近くのテーブルで焼酎をのんでいる、傭兵風の男に声をかけた。 「なんでー。お嬢ちゃん」 「あのー、魔王について知っていることがあったら、教えてもらいたいんだけど」 男はしばし考えてから、口を開いた。 「まずは、装備を整えて、仲間を集めることだな。 いくらなんでも、その格好でお嬢ちゃん一人じゃ魔王は倒せないだろう」 ――もう一人いるんだけど。 セバスチャンのことを言おうと思ったが、言ってどうなることでもないのでやめておく。 ちなみにその格好とは、鳴海のセーラー服のことである。 王からもらったライトメイルは、装備する時間がなくて、未だにセバスチャンが引っ張ってきた荷車の中である。 「ここから北に行ったところに、ハミの村ってとこがある。 そこには腕の良い武器職人がいるって話だ。急ぎじゃないんなら、そこに行ってからの方が良いだろう」 「うーん。そっか。どーもありがとう」 お礼を言って立ち去るつもりだったが、突如、男の手が鳴海の腕を掴んだ。 「ちょっと待てよ、お嬢ちゃん。お礼がそれだけっていうのはどうなのかなぁ?」 そう言うと鳴海の体を、足先から頭の上まで舐めるように見まわした。 や……やばひ…… 「見た感じ、お嬢ちゃん、なかなか良いじゃねえか。今夜あたりどうだ?」 本格的にやばひ。 鳴海はもはや恐怖で足がすくんで動けなくなっていた。 だ……誰か…… 心の中で叫んだそのとき―― 「待てっ!!」 ひとつの人影が、男の目を睨み付けて叫んだ。 テーブルの向こう側で、男を睨み付けている人影の正体は―― 「セバスチャン!?」 そう、それはまさしくあのセバスチャンである。 セバスチャンは無造作に男に歩み寄り言った。 「貴様、その御方がどういう身分の方かわかって言っているのか?」 「ああっ!!? 何だテメェは!!」 男は鳴海から手を離し、セバスチャンの方を向き直った。 「知らないのならば教えてやろう。 ここに在らせられる御方は、国王直々に任命された勇者様であられるぞ。 下衆よ、そこに直れ! そして今までの行為を懺悔するのです。さもなく……」 「ゴチャゴチャうるせえ!!」 どーん。 男のストレートをくらい、セバスチャンの言葉は途切れた。 倒れながらも、なんとか身を起こしセバスチャンは言った。 「鳴海さん。生きて……くだ……さい……」 ――セバスチャンは力尽きた―― よ……弱ーっ!! 「さて……」 男は再び、鳴海に視線を戻す。 しかし、そこに鳴海の姿はなかった。 男があたりを見まわすと、鳴海が出口の近くで、うずくまって姿を隠そうとしているのが見えた。 「おい、お嬢ちゃん」 ヤバ……気づかれた…… 「逃げようたって無駄だぜ!」 男は指をぽきぽき鳴らしながら鳴海に近寄る。 つかまってたまるものかと、鳴海は立ち上がって逃げようとする。が―― クンっ。 「!?」 立ち上がろうとした時、何かに引っ張られるような感じがした。 よく見ると、スカートのすそが、テーブルの足の下敷きになっていた。 う……ウソでしょ…… 「覚悟しな、お嬢ちゃん」 男の手が鳴海に伸びる。 た……助けて…… だが誰も助けてはくれない。 絶体絶命のピンチ! その時―― 「待ちなっ!!」 出入り口のドアから声がした。 ドアが開き、そこにいたものは? |