彼女――瀬名鳴海(せななるみ)は、いつものように学校で授業を受け、いつものようにゲーセンでハイスコアを叩き出し、いつものようにベッドの上でごろごろ転がっていた。 ポテチかなんかをつまみたくなったが、体重のことが気になるのでやめておく。 はあぁ〜……なんか面白いことないかなぁ…… そんなことを考えていたときだった。 「なる〜。お城から王様の使いの人が来てるわよ」 母がそう言うと、足音が鳴海の部屋へ続く階段を上がってくる。 しばらくした後、ドアをノックする音が聞こえてきた。 「国王の使いで参りました」 「どうぞ入って」 鳴海の言葉のを確かめて、部屋に1人の男が入ってきた。 「このたびは、御忙しいところ誠に申し訳ありませんが……」 「めちゃくちゃ暇なんだけど」 「…………」 みのふたもない鳴海の言葉に、男は黙り込んでしまった。 「めんどーな挨拶はいいから、用件だけにして。 こう見えても、女子高生って忙しいんだから」 「……暇だったんじゃないんですか……?」 鳴海がテキトーに言った言葉に、ツッコミが入る。 「そんな細かいこと気にしちゃ駄目よ。 それより、今日は何の用なの?」 「あっ……そーでした。危うく自分に任務を忘れるところでした」 「…………」 それで国王の使いが務まるのか……? 「えーと、このたびは御忙しいところ誠に……」 「だからそれはもういーから」 「えっ……あと……えーと……」 男は額に汗をびっしょりかいて、一生懸命何かを思い出そうとしている。 「どしたの?」 「あ……あのー……最初からやらないと無理なんです。 私、物覚えが悪くて、500回練習してやっと原稿を見ずにできたんです。 でも、丸暗記なんで途中からというのは……ちょっと」 「あんたは小学生かーっ!!」 鳴海は手にした電話帳で、男の頭を殴りつけた。 「しょーがないわねー。いいわよ、最初からやって」 「す……すみません。では……」 言うと、咳払い一つして男は話し始めた。 ――20分後。 「……というわけで、あなた様に是非とも、勇者になっていただきたいのです」 「それより、よくこんな長いの丸暗記できたわね」 「いえ、それほどでも」 鳴海が驚くのも当然である。 彼が話したこと全てが丸暗記なのだから。 「それよりもどうでしょう。勇者になりませんか?」 「う〜ん……」 鳴海は迷っていた。 勇者になるのは面白そうだし、何よりも良い収入源になる。 モンスター1匹倒すだけで、お金が手に入るなんて、とってもお得である。 おまけに、魔王を倒したともなれば、ご近所からの評判もよくなるだろう。 「まあ、とりあえずはやってみますかっ!」 「どーもありがとうございます。 では、これからお城で勇者就任式がありますので」 「い……今から」 「なにか問題でも?」 「別にそーじゃなくて。ずいぶん急ぐんだなーって」 「緊急事態ですから」 緊急事態なら就任式なんてメンドーなことやるなよ。 そう言いたくなったが、言ったところでどうなるわけでもないので、やめておく。 「それではまいりましょー」 就任式は長かった。 王様の話やら何やらで3時間ぐらいはかかっただろう。 「では、鳴海殿に国王から贈り物があります」 お城の職員の言葉に続き、でっけえ空箱が運ばれてきた。 「これは、私からのせめてもの贈り物じゃ」 王はそう言い、宝箱を開けた。 中には、ライトメイルと剣、魔道書や世界地図が入っていた。 「勇者世旅立つのだ。そして、世界の暗雲を晴らすのだ」 国王のその言葉を聞くと、鳴海は果てしない長い旅への扉を開けた。 さあ、待ってなさいよ魔王。私が倒しに行ってあげるから。 |