第1回

 彼女――瀬名鳴海(せななるみ)は、いつものように学校で授業を受け、いつものようにゲーセンでハイスコアを叩き出し、いつものようにベッドの上でごろごろ転がっていた。
 ポテチかなんかをつまみたくなったが、体重のことが気になるのでやめておく。
 はあぁ〜……なんか面白いことないかなぁ……
 そんなことを考えていたときだった。
「なる〜。お城から王様の使いの人が来てるわよ」
 母がそう言うと、足音が鳴海の部屋へ続く階段を上がってくる。
 しばらくした後、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「国王の使いで参りました」
「どうぞ入って」
 鳴海の言葉のを確かめて、部屋に1人の男が入ってきた。
「このたびは、御忙しいところ誠に申し訳ありませんが……」
「めちゃくちゃ暇なんだけど」
「…………」
 みのふたもない鳴海の言葉に、男は黙り込んでしまった。
「めんどーな挨拶はいいから、用件だけにして。
 こう見えても、女子高生って忙しいんだから」
「……暇だったんじゃないんですか……?」
 鳴海がテキトーに言った言葉に、ツッコミが入る。
「そんな細かいこと気にしちゃ駄目よ。
 それより、今日は何の用なの?」
「あっ……そーでした。危うく自分に任務を忘れるところでした」
「…………」
 それで国王の使いが務まるのか……?
「えーと、このたびは御忙しいところ誠に……」
「だからそれはもういーから」
「えっ……あと……えーと……」
 男は額に汗をびっしょりかいて、一生懸命何かを思い出そうとしている。
「どしたの?」
「あ……あのー……最初からやらないと無理なんです。
 私、物覚えが悪くて、500回練習してやっと原稿を見ずにできたんです。
 でも、丸暗記なんで途中からというのは……ちょっと」
「あんたは小学生かーっ!!」
 鳴海は手にした電話帳で、男の頭を殴りつけた。
「しょーがないわねー。いいわよ、最初からやって」
「す……すみません。では……」
 言うと、咳払い一つして男は話し始めた。

 ――20分後。
「……というわけで、あなた様に是非とも、勇者になっていただきたいのです」
「それより、よくこんな長いの丸暗記できたわね」
「いえ、それほどでも」
 鳴海が驚くのも当然である。
 彼が話したこと全てが丸暗記なのだから。
「それよりもどうでしょう。勇者になりませんか?」
「う〜ん……」
 鳴海は迷っていた。
 勇者になるのは面白そうだし、何よりも良い収入源になる。
 モンスター1匹倒すだけで、お金が手に入るなんて、とってもお得である。
 おまけに、魔王を倒したともなれば、ご近所からの評判もよくなるだろう。
「まあ、とりあえずはやってみますかっ!」
「どーもありがとうございます。
 では、これからお城で勇者就任式がありますので」
「い……今から」
「なにか問題でも?」
「別にそーじゃなくて。ずいぶん急ぐんだなーって」
「緊急事態ですから」
 緊急事態なら就任式なんてメンドーなことやるなよ。
 そう言いたくなったが、言ったところでどうなるわけでもないので、やめておく。
「それではまいりましょー」

 就任式は長かった。
 王様の話やら何やらで3時間ぐらいはかかっただろう。
「では、鳴海殿に国王から贈り物があります」
 お城の職員の言葉に続き、でっけえ空箱が運ばれてきた。
「これは、私からのせめてもの贈り物じゃ」
 王はそう言い、宝箱を開けた。
 中には、ライトメイルと剣、魔道書や世界地図が入っていた。
「勇者世旅立つのだ。そして、世界の暗雲を晴らすのだ」
 国王のその言葉を聞くと、鳴海は果てしない長い旅への扉を開けた。
 さあ、待ってなさいよ魔王。私が倒しに行ってあげるから。

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