とびきりの善意というものは、えてしてとびきりの悪意よりも堪えるものだと、月彦は思わざるを得なかった。ましてや、“とびきりの悪意”の固まりである双子(の片割れ)の襲来直後の事であった為に尚更だった。
「わぁぁっ、スゴい! 父さま! お船の上にお刺身が乗ってるよ!?」
 十二畳敷きの和室の1/3近くを占めるテーブルの上にでんと置かれた舟盛りを見るなり、真央はなんとも年相応の快哉を上げる。
「あ、あぁ……スゴいな」
 が、しかし月彦にしてみれば、それは己の心に穴を穿たれ、その穴に分銅付きの釣り針でも引っかけられたような気分だった。
 料理は舟盛りだけに止まらない、不思議と目元のよく見えない獣耳の仲居達の手によって次から次に運ばれてくる料理は海の幸山の幸をふんだんに使った珍品奇品のオンパレードだった。それらに嬉々として声を上げ目を輝かせる真央とは裏腹に、月彦の顔色はやはりすぐれない。
「ねぇねぇ、父さま! このお鍋は何に使うお鍋なの?」
「ん……それはだな……」
 尻尾をぶんぶん振りっぱなしの真央の勢いに引きずられる形で月彦は膝立ちになり、何やら奇妙な形をしている鍋の前へと移動した。これまた見たこともないような形の焜炉――鍋を火であぶっている事から恐らくはコンロだと思われるのだが、どうも燃料はガスではないらしい――の上に乗っかっている金属製の鍋には、本来蓋であるべき場所にさらに小さい蓋つきの穴が開けられていた。
 はてな、と中を覗いてみても具らしきものは一切入っていない。これは何だろうと真央と二人首を傾げていると、新たにやってきた仲居がしずしずと“調理”の準備をし始めた。仲居はこれまた透明な鍋状の入れ物の中にいかにも活きが良さそうな車海老を数匹入れるや、そこに紹興酒を注いですぐさま蓋を閉めた。
「わっ」
 と、思わず声を上げてしまったのは、酒を注がれた瞬間エビがものすごい勢いで跳ね始めたからだった。しかし最初は暴れていたエビも酔いが回ったのか、次第に大人しくなり始め、仲居は頃合いを見てそれらのエビを金属製の鍋の丸い蓋付きの穴から投入していく。
「へぇぇ……凝ってるなぁ。真央、妖狐ってのはエビをこんな風に食うものなのか?」
「ううん、私も初めて見たよ、父さま」
「やあ、月彦さんに真央さん。楽しんで頂けてますか?」
 突然混じった第三者の声に、月彦も真央もハッと部屋の入り口の方へと目を向けた。
「すみません、驚かせてしまいましたか」
 美形の妖狐は困ったような笑みを浮かべ、仲居と入れ替わるようにして調理を引き継ぎ、茹でたエビを小皿に取り分けて月彦と真央の前へと置いた。
「付け汁につけてどうぞお召し上がり下さい」
「あ、あぁ……ありがとう、白耀」
「兄さま、ありがとう!」
 それぞれ礼を言い、月彦は皮を剥いてから付け汁に、真央は剥かずにそのまま付け汁につけてばりばりと食べた。
「んまい! 思ってたほど酒臭くないな」
「ほんと! 甘くて美味しいね、父さま!」
「まだまだ、他にも沢山ありますからいっぱい召し上がって下さい」
 親友の眩しいばかりの笑顔に、月彦はますます“分銅”が追加されていくのを感じた。

 

 

 

『キツネツキ』

第三十六話

 

 

 

 



 雪に埋もれた――深い深い森の中の道を、分不相応な高級車に揺られながら、月彦は胃にチクチクとした痛みを感じていた。
(……何でこんな事に……)
 という疑問をつきつめていけば、最終的にたどり着くのは“自業自得”という四字熟語である事を知っていて尚、月彦は思わざるを得なかった。
 そもそもの発端は――これまた究極的にまで遡れば、月彦自身の所業という事になるのだが――白耀の屋敷に預けられた際、真央が漏らした言葉らしかった。曰く「父さまと二人だけで旅行に行きたい」というその言葉を、人の良い“兄”はことのほか真剣に捉えてしまったらしい。
 月彦さんには返しきれないくらいの恩があります、どうか――と、誠実でやや押しの弱い白耀にしては珍しく頑固に譲らず、月彦は結果的に押し切られる形で週末、白耀の手引きで真央と旅行に行く羽目になってしまった。
 しかも、白耀の好意はただ旅館の手配をするだけに止まらなかった。何でも料亭の得意客に“お役所”の方に随分と顔が利く者が居るらしく、一体どのような根回しをしたのか、唐突に翌週の金曜日が“特別休校日”とやらで休みになってしまったのだった。
 そう、礼など要らない。自分はそんな事をしてもらうような人間ではないと突っぱねる月彦の逃げ道を塞ぐかのようなその手管は、まさしく奸智に長けた妖狐の手並みであると言わざるを得なかった。もう全ての手配は済ませてしまいました、今更キャンセルは効きませんとまで言われては、月彦としても最早断り切ることは出来なかったのだった。
 何よりも、完全に二泊三日の旅行に興奮しきっている真央にダメ出しをするだけの強力な材料を月彦は持ち合わせていなかった。
(………………それに、“約束”もしてたしなぁ)
 いつか、二人だけで旅行に行こうと。なんだかんだで延ばし延ばしになっていた約束を今こそ果たすべきではないかとも思うのだった。そういった経緯もあって、月彦は白耀の手引きによって休校日となった金曜日の朝、わざわざ家の前まで出迎えにやってきた黒塗りの高級車に真央と共に乗り込み、こうして山道を揺られているというわけなのだった。
(…………はて、約束といえば……)
 何か大事なことを忘れているような――と、月彦が記憶を巡らせようとしたときだった。隣で窓に張り付くようにして森の景色を見ていた真央があっ、と思い出したように声を上げた。
「ねえ、父さま。……姉さまの病室にはもう行ったの?」
「ん? あぁ……優巳姉を追い払ってから、真っ先に行ったぞ?」
「姉さま、何か言ってなかった?」
 期待に目を爛々と輝かせながら尋ねてくる真央が何を言わんとしているのか、月彦はその瞬間に察した。
(……そういや、姉ちゃんから真央への伝言頼まれてたんだっけか)
 “それは無理”――そう伝えるように霧亜には言われた。しかし、その言葉をそのまま真央へと伝える事は、月彦には出来なかった。
「んー……特に何も言ってなかったかなぁ…………あぁ、でも……心なしかいつもより姉ちゃんが優しかったよーな気がしなくも……」
「ホント!? 姉さま、優しくしてくれたの?」
「あぁ……俺の気のせいかもしれないけどな。………………ちなみに真央、手紙にはなんて書いたんだ?」
 予想はついたが、月彦はあえて尋ねた。父さまには秘密、と。真央はもったいぶりながら嬉しそうに微笑んだ。
 程なく車が止まり、月彦は帽子に隠れて顔がよく見えない運転手にドアを開けられ、車から降りた。
「ようこそ、おいで下さいました」
 目の前にそびえる、ちょっとした百貨店ほどの大きさはあろうかという和装の旅館。その正面玄関の前にずらりと二列に整列をした仲居達と、その間に立つ白耀に一斉に頭を下げられ、月彦は俄にたじろいだ。
「は、白耀!? なんでここに居るんだ!?」
「普段は人に任せてますが、一応僕がこの旅館のオーナーですから。……ああ、ちなみに今日から三日間は月彦さん達の貸し切りですから、旅館の設備は好きに使って下さって結構ですので」
「か……貸し切り……? この旅館全部をか!?」
 月彦はさらに一歩、二歩と後ずさり、旅館全体を見上げた。高さにしてマンションの五,六階には相当し、左右の幅も、そして奥行きも考えると貸し切りにされた所でたった二人ではどうにも使いようが無く思えたからだ。
(……まてよ、白耀直々のもてなしって事は……まさか……)
 と、月彦は周囲を見回し、“あるべき人影”を探した。
「……月彦さん? どうかしましたか?」
 仲居達が三々五々月彦と真央の手荷物などを運んでいく中、白耀だけが不思議そうに首を傾げた。
「いや……ひょっとして菖蒲さんも居るのかなーと……」
「あぁ、菖蒲ですか。安心して下さい、今回ばかりは月彦さん達の邪魔をしない様、きちんと留守番させてきましたから」
「そ、そうか……良かった……菖蒲さんは来てないのか」
 月彦はホッと胸をなで下ろした。菖蒲自身が嫌いというわけではない。菖蒲と真央が絡むと、寿命が縮むような思いをさせられる故の安堵だった。
「父さまぁ……早くお部屋行こ?」
「あ、あぁ……そうだな。すまない、白耀。案内してくれるか?」
 くいくいと袖を引く真央に急かされて、月彦は白耀に道案内をされながら旅館の中へと入っていった。


 旅館の中は床一面に赤い絨毯のようなものが敷き詰められ、フワフワとしたその感触がまるで雲の上でも歩いているかのようだった。
「……そういや、白耀? 一つ気になったんだが……」
「はい?」
「さっき見た限りじゃ、ここの従業員って殆ど女の人みたいだったが……大丈夫なのか?」
「仰りたい事はよく解ります。……確かに、以前の僕は“そういった事情”もあって、あまりこちらの方には顔を出してはいなかったのですが……ちょっと、君」
 白耀は月彦達を先導するように歩きながら、丁度側を通りがかった仲居の一人を呼び止める。
「お客様の部屋の用意に抜かりはないな?」
 はい、と。やはり目元が良く見えない仲居は小さく、しかししっかりとした発音で返事をし、白耀と、そして月彦、真央に向けて頭を下げてそそくさとその場を後にする。
「……このように、“普通の会話”をする程度であれば、何の問題もありません」
 これもすべて月彦さんのおかげです、と言いたげな屈託のない笑顔を白耀は浮かべる。
「そ、そうか……なんにせよ、役に立てたようで良かった…………しかし、アレだな。さっきの人といい……そういや運転手の人もか。なんかみんな顔が良く見えないんだが……俺の気のせいなのかな」
「はは、きっと長旅で疲れてらっしゃるんですよ。…………ああ、もし気に入った者が居りましたら、そっと教えて頂ければ……」
 真央さんには内緒で“手配”の方を、と。少しばかり歩速を落とし、月彦の横に並ぶやとんでもない事を囁いてくる親友に、月彦は慌てて首を振った。
「いいっ、いいから! そういう気遣いは無用だから!」
「…………父さま?」
「はは。……とにかく、旅館の者には月彦さん達の命には絶対に逆らうなと厳命をしてますから、何なりとお申し付け下さい。…………っと、つきました、ここです」
 旅館の最上階のさらに廊下の奥の奥、突き当たりにまでくるや、白耀がもったいぶった手つきでドアを開ける。
「うおっ!?」
 それまで歩いてきた館内が薄暗かったこともあり、ドアを開けた途端視界に飛び込んできた光の束に月彦は思わず声を上げた。広々とした和室の奥に供えられた、テラスへと通じるガラス戸いっぱいから降り注ぐ光はまさに目映いばかりだった。既に運び込まれている荷物の脇を抜けてテラスへと出ると、見渡す限りの――雪の白に染め上げられた――大樹海が広がっていた。
(………………ここは一体日本の何処なんだ)
 およそ半日、車に揺られ続けてやってきた場所ではあるが、一体ここが何処であるのか月彦には全く見当もつかなかった。
「では、調理の準備がありますので、僕は下がらせて頂きます。何かありましたら、仲居の誰かに言ってもらえればすぐに駆けつけますから」
「あ、あぁ……ありがとう、白耀。とりあえず、長旅で疲れたから少しゆっくりするよ」
 白耀を見送り、やれやれとばかりに月彦は軽く体を解すように体操をして、和室のテーブルの側に置かれていた座椅子へと腰を下ろした。いくらゆったりスペースの高級車とはいえ、五時間近くも座りっぱなしでは疲れも溜まるというものだった。
(…………白耀の気持ちは嬉しいんだが……ここまでされると逆に、なぁ)
 ましてや、そもそも恩返しどころか罵声と共に殴りつけられても仕方がないような事をしてしまっているだけに、月彦の心は冬の空のようにどんよりとしていた。
(……実際、どんよりとしてるな)
 先ほどは薄暗い館内から明るい部屋に入ったせいで随分と明るく感じただけだったらしい。改めて窓ガラスの向こうを見ると、今にも雪が降り出しそうな程に空はどんよりと曇っていた。
「父さま! 父さま! 見て見て! ベランダにお風呂がある!」
 片や、真央はといえば長旅の疲れも何のそのとばかりに部屋の中をはしゃぎ回っていた。そんな真央の声に誘われて、月彦も腰を上げ再度テラスへと足を運んだ。
「へぇ……露天風呂……か、これは」
 そういえば――と。月彦は先ほど、正面玄関から部屋へと案内されるまでに白耀にされた旅館の説明を思い出した。
(岩風呂とかもあるとか言ってたっけか)
 テラスに設けられたそれは石を組んで作られた――いわゆる温泉施設にある――“家族風呂”サイズのもので、仮に真央と二人で入ったとしても、二人とも足を伸ばしてゆったり入れる程のスペースがあった。
 湯の方も常に滝を模した蛇口から注がれており、冬場の寒気の中もうもうと湯気を立てていた。
「ねぇ……父さまぁ……一緒に入ろ?」
 くいくいと服の袖を引きながらのおねだりにぐぬぬと靡きかけながらも、月彦は辛うじて正気を保った。
「入るのはいいが……真央、もう夕方だろ? 白耀もメシの支度するっつってたし、今は入らない方がいいんじゃないのか?」
 あっ、と。それだけで真央も全てを察したらしかった。そう、一緒に風呂に入るという事は即ち、“入浴だけでは済まない”という事に。
「う、うん…………そう、だね…………ご飯の後……父さまと一緒に、入る……」
 真央はぽぅ、と顔を赤らめながら、いそいそと部屋の中へと戻っていく。やれやれと苦笑しながら、月彦もまたその後を追った。


 



 夕食は、豪勢の一言に尽きた。刺身の一切れ一切れに至るまで白耀が自ら包丁を振るい、盛りつけたというだけあってそのできばえはかなりのものであり、月彦の記憶の限りではこれほどの馳走を目の当たりにしたのは去年の夏、春菜の屋敷で歓待を受けて以来だった。
 初めこそ白耀に対する負い目もあり、素直に料理を楽しめなかった月彦ではあったが、次第にその美味過ぎる料理の虜となってしまい、気がついたときには満腹のあまり体を起こす事もできないという有様だった。
「……うー…………悪い、白耀……さすがにもう食えん……」
 ぐたぁ、と畳の上に仰向けになりながら、月彦は呻くように言った。行儀が悪い――というのは百も承知であったが、そのような見栄を張ることすら出来ないほどの満腹感だった。
「私もぉ……兄さま、ごめんなさい……」
 同じく、こてんと仰向けになる妹の姿に、美形の兄はむしろ満足そうに微笑みながら口を開いた。
「いえいえ、これだけ沢山食べて頂けたなら、それだけで僕も大満足です。むしろ僕の方こそ、つい張り切りすぎてしまって……申し訳ありません」
 むしろ非は自分にある、とでも言いたげに白耀はぺこりと頭を下げ、そして仲居達に命じて残った料理と皿を即座に下げさせた。さらに仲居達はてきぱきと動き、月彦達が食事をとった部屋と襖一枚隔てた和室に一人で寝るには大きすぎる布団を敷き、そこにマクラを二つ並べるやそそくさと去っていった。
「……では、僕はこれで下がらせて頂きます」
「あっ、待って、兄さま!」
 邪魔者はさっさと退散しますねと言わんばかりに部屋を去ろうとする白耀を、真央の声が止めた。真央は腹部を重そうに抱えながら辛うじて身を起こすや、側へとよってきた白耀へとなにやら耳打ちをした。
「……わかりました。では、明日はそのように」
 にっこりと微笑み、改めて白耀は辞儀をし、部屋を後にする。
「……真央、一体何を言ったんだ?」
「えへへ……秘密」
 真央は意味深に笑い、再びごろりと横になる。月彦も真央もその後たっぷり一時間は動くことが出来なかった。
 遠く、微かに木々のざわめきの音に混じってどさどさと雪が落ちる音が聞こえた。満腹感もあり、それらの微かなざわめきが耳にも心地よく、月彦はほどよい眠気すら感じた。が、そのまま眠る事など、元より許される筈がなかった。
「……ねぇ、父さまぁ」
 一体いつのまに近づいてきたのか、母譲りの巨乳と上体を月彦の体の上に乗せるようにして、真央がじぃ、と濡れた目を向けてくる。
「お風呂、入ろ?」
 白い指が月彦の胸元を這い、円を描くような動きをする。月彦は苦笑混じりに真央の背へと手を回し、その体をぐいと抱き寄せ――
「あ……ンッ……」
 唇を奪った。そのままちゅく、ちゅくと軽く舌を絡め、真央が物足りないと感じるほどにあっさりと唇を離した。
「……よし、じゃあ入るか」
「う、うん……」
 早くも体をモジモジさせながら、真央は照れるように頷いた。

 真央と二人、いそいそと脱衣を済ませて月彦はテラスへと出る。本来ならば体を洗ってから風呂に入るのがセオリーなのだが、この場合はとてもそんな事は言ってられなかった。
(おっ……また降り出したのか)
 一体いつ降り出したのか、車での移動中には一切降っていなかった雪が、はらはらと辺りを舞っていた。これはこれで風情があるな、と。月彦は苦笑混じりに湯船の方へと視線を戻す。
 岩を組み合わせて作られたらしいそれは直径二メートル程の円形ををしていて、湯に浸かっている部分が椅子のように二段構えになっていた。月彦は湯船に入るなり早速そこに腰掛け、体にバスタオルを巻いたまま立ちつくしてる真央に手招きをする。
「ほら、真央?」
 真央はコクリと頷き、そろりそろりと足先から湯に入っていく。湯の温度は四十度近くはあるだろうか。ここが室内であれば月彦とて同じようにそろりと入った所だが、雪が舞い寒風吹きすさぶ中では殆ど逃げるように入らざるを得なかった。
「真央、違うだろ?」
 月彦の隣へと座ろうとする真央の腕を引くようにして、月彦は自分の体の上へと誘導する。
「と、父さま……?」
 困惑する真央の足を開かせ、己の腰を跨がせるようにして腰を落とさせる。当然の事ながら分身にして本体でもあるそれはガチガチなのだが、月彦はあえて入れずにその竿の上に跨る形で真央に腰を落とさせた。
「やっ……と、父さま、ぁ……」
「まだだぞ、真央。勝手に腰を動かしたら後でお仕置きだからな?」
 本来ならば、体にタオルを巻いたまま湯船に入るのもルール違反――だが、どうせ自分たちしか入らないのだからと、月彦はあえてそのまま湯に浸からせる。その上で、眼前の――バスタオルに窮屈そうに巻かれた双乳の光景に酔いしれた。
(うむ、いい眺めじゃないか)
 月彦は真央の尻の辺りを撫で、やんわりと揉みながら徐々に手を背中へと登らせていき、ぐいと抱き寄せるように引き寄せる。
「あンっ」
 月彦の鼻がバスタオル越しに谷間に埋まった瞬間、真央は甘い声を漏らす。既に湯を吸い、濡れてしまったバスタオルを鼻先でずらすようにしながら、月彦はぐりぐりと谷間に顔を擦りつける。
「と、父さまぁ……」
 早くバスタオルを取って欲しい、そして両手で力一杯こね回して欲しい――さもそう言いたげな、真央の切なげな声。無論月彦は、愛娘のそういった願いを容易く叶えてやってはむしろ落胆されるという事を知っているから、あえて聞き流す。
(ううむ……しかし……ホント、育ったよなぁ……)
 こうして間近で見るたびに、幾度となく思う。初めて家に来た頃から巨乳気味ではあったが、この一年弱の間に明らかにボリュームを増している。殆ど毎日好きなだけ弄りまくっている場所なだけに、その変化には気がつきにくいが、こうして見慣れない場所に来て顔を埋めてみると明らかにフィット感が違うのだ。
「……まーお? ちょっと腰が動いてるぞ?」
「ぁっ……ご、ごめんなさい……父さま…………だって……」
 割れ目を丁度剛直の裏筋へとピッタリ当てる形で腰を沈めている真央が俄に前後運動を始めるなり、月彦は即座に釘を刺す。
(……こうして密着させてるだけで、ヒクヒクってなってるのが解るぞ、真央?)
 まるで、体そのものが欲しい、欲しいとねだってくるようなその動きに月彦は苦笑を漏らしそうになりながらも、あえて気がつかないフリを続ける。鼻先でずらしたバスタオルは大分解け、もう殆ど胸の頂が見えるほどにまでなっていた。
(……美味そうだ)
 そうしてちらりと除いているピンク色の突起へと、月彦は舌を這わせ、はむっ、と唇でくわえ込む。
「あっ……ぅっ……」
 真央の手が月彦の後頭部へと這い、カリッ……と微かに爪を立てる。またしても、クイクイと腰が動き始め、月彦は即座に乳首から唇を離した。
「ほら、真央……また腰が動いてるぞ」
「あっ……ぅぅんっ…………」
 真央が不満そうに唸りながら腰の動きを止める。その顔は桜色に上気し、いまにも涙が滴りそうな程に瞳は濡れそぼっている。ぱちゃぱちゃと水を打つような音がするのは、尻尾がもどかしげに動いているからだ。
「真央、次に勝手に腰を動かしたら……今夜はこれで終わりにするからな?」
 “後でお仕置き”ではちと弱かったかなと、月彦はさらに“縛り”を明確にした。忽ち、びくりと真央が怯えるように体を竦ませたのを確認してから、月彦はちろちろとピンク色の突起を舐め始める。
「ぁっ……ぁっ……ぁっ…………とう、さまぁ…………やぁぁ…………」
 真央の言いたいことなど、月彦は無論百も承知だった。この程度では物足りない、早く滅茶苦茶に犯して欲しい――全身全霊でそう訴える愛娘に対し、我慢をせねばならない月彦自身もまた同じくらい辛かった。
(…………簡単に願いを叶えてやったらやったで、不満そうにするくせに、な?)
 意地悪じゃない父さまは父さまじゃない、とでも言いたげな愛娘の顔を思い出しながら、月彦もまた今すぐにでも挿入してしまいたいのを歯を食いしばって耐える。
(…………もっとだ、もっともっと真央を追いつめてから……)
 ちろちろと、真央が弱すぎると思うほどに淡泊に乳首をなめ回し、少しだけ吸いながら、月彦は背に回していた指を再び尻の方へと下げていく。狙いは、尾の付け根だ。
「ひゃあっ!?」
 唐突に、キュッと。尾の付け根を握りしめると真央は驚いたような声を上げる。月彦はさらにこしゅ、こしゅと湯を塗り込むような手つきで、ピンと立つ尻尾の付け根を擦り上げていく。
「あっ、ぁっ、ぁっ……と、父さまぁっ…………だめっ……尻尾、そんなにされたらっっ……」
「真央、言わなくても解ってると思うが……勝手にイくのも禁止な? その場合もやっぱり今夜はこれでおしまいだからな」
「んっ、あっ……あァッ……そん、なっ…………ぁぅっ……ぅぅ!」
 びくっ、びくと。まるでブレーキをかけたまま無理に車を発進させた時のような、不自然な痙攣を繰り返す真央を適度に追いつめながら、いよいよという所ではしっかり尻尾から手を離し、やんわりと尻肉を揉むなどして適度に手を抜いていく。その辺りの機微はもう、月彦にとってはお手の物だった。
「はぁっ……はぁっ……とう、さまぁ…………ンンッ……ぅぅっ……ぁあっ……ぁふっ、ぅ……」
 そうして何度も何度も、イく寸前の所まで真央を追いつめては手を離し、背中を撫でたり軽くキスをしたりと焦らしていく。余裕ぶってはいるものの、既に痛みを感じる程に剛直は猛り、真央が上に乗っているにもかかわらずその体を持ち上げそうな程に漲っている。
「んっ……ぅぅ……とう、さまぁ……おね、がい……もう…………」
 そしてまるで、そんな父親の限界を察したかのようなタイミングで、真央が“泣き”を入れてくる。
「ねぇ……父さまぁ……お願い……欲しいの……」
 肩で息をしながら上体を倒してきて、殆ど外れ掛かってるバスタオル越しに両乳をこすりつけるようにして“おねだり”。月彦が愛娘の事を知り尽くしているのと同様に、真央もまた父親がそうやっておねだりをされるとガマンが出来なくなるという事を知っているのだった。
「……全く、しょうがないな。…………ほら、真央。……自分で入れてみろ」
 真央はこくりと頷くと、月彦の肩に両手を乗せ、僅かに腰を浮かせる。忽ちグンッ、と天を仰ぐ剛直の先端へと秘裂を合わせ、ゆっくりと腰を――。
「んっ、ぁぁっ、ぁぁああっ……ァァァ……!」
「ッ……くっ……」
 ぬぬぬと先端からゆっくり飲み込まれていく感触に、月彦もまた歯を食いしばらねばならなかった。
(相変わらず、っつーか……なんつーか……)
 ネットリとした肉がヒクヒクと痙攣するように絡んできて、挿入しただけで腰砕けにされてしまう。そのあまりの心地よさにうっかり嘆息してしまいそうになるも、父親としての威厳の為にも、月彦はあくまで憮然とした顔をし続けなければならなかった。
「ほら、真央……まだ腰を落とせるだろ?」
「んっ、ぁ……やぁっ……とう、さまの……堅いぃぃ……んぅ…………ぁっ、やぁぁっ……!」
 月彦は真央の尻へと両手を宛い、ぐぐぐと無理矢理に腰を落とさせていく。
「あっ、あぁぁっ! あぁぁっ……とう、さまぁ……奥っ……奥に、ぐぃぃって…………ぁっ、ぁっ……」
「“ソコ”がいいんだろ?」
 剛直の先端を一番深い所へと宛ったまま、月彦は真央の尻肉を掴み、ぐりぐりと真央の腰を無理矢理回転させるようにして刺激してやる。
「ああァ……ッ……ぅぅんっ……あはァ……とう、さまの……奥に、擦れて……んんぅ……!」
 月彦は自らは動かずに、ぐーりぐいーりと真央の腰だけを回転させてこすりつけながら、尻肉を掴んでいた手をゾゾゾと北上させていく。その狙いはもちろん――
「……真央、勝手に腰を浮かすなよ?」
 一言先に断ってから、月彦はむぎぅ、と唐突に真央の両乳を握りしめた。
「あんっ! と、父さまぁ……」
 真央が腰の位置はそのままに、上体だけをやや起こして身を強ばらせる。月彦はさらにむぎゅむぎゅと、通常で在れば痛みすら感じるであろう程に強く、愛娘のふしだらな巨乳を揉み捏ねていく。
「あっ……ぁっ……ぁっ……ぁっ……」
 揉む程に、真央はますます瞳をとろけさせ、息を荒くしていく。時折ヒクッ、ヒクッ、と肉襞が剛直に絡みついてくるのはイきそうになるのを我慢しているからなのだという事を、月彦は経験から知っていた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ…………とう、さまぁっ…………そんな……おっぱい、ばっかりぃぃ…………」
 ヒクヒクッ……!
 ヒクッ……ヒクッ……!
 もっとこっちを動かして欲しいとばかりに、肉襞が絡みついてくるが、月彦は当然のように無視する。
「あぁんっ……あぁっ……ンぁっ……どう、して………………はぁっ……はぁっ……ぅぅぅんっ……」
 胸を捏ねられながら、真央が焦れったげに上体をくねらせる。出来ることなら腰も動かしてしまいたい――しかし、それは許されていないから出来ない、そんな動きだ。
(……“躾”が行き届いてるのは良いことだ……しかし、ここまで“良い子”をされると、些か物足りないな)
 少しくらい逆らわれた方が燃える部分も無くはないのだが、と。月彦自身それは贅沢な悩みだと思いつつ、“良い子”な真央にそろそろ褒美をやるべく胸を揉んでいた手を、今度はさらにその上、顎の辺りへと宛った。
「あっ……」
 と、それだけで真央は全てを察したらしかった。月彦が誘導する必要も無く、再び上体をかぶせてきて――まるで糸で引き合ったかのように唇を重ねた。
「んくっ……んぅ……」
 まだ、舌は使わない。唇だけで、あむあむと食むようにキスをしながら、月彦は両手を真央の尻へと戻し、掴むやゆっくりと上下させる。
「んんっ! んんっ……んぁっ……ぁあっ……」
 唇を重ねたまま、真央がびくりと身を震わせる。喉奥から震えるような声を漏らしながら、キュッと両手を月彦の首へと回してきて、自らも腰をくねらせ始める。“もう動いてもいいんだよね、父さま?”――そう言わんばかりの動きで。
「ンぁぁっ……ぁぁっ……父さまっ……父さまぁっ……ンッ……あんっ……」
 キスの合間、合間に喘ぎながら、真央はくねくねと腰を動かしてくる。自らが分泌した愛液と、先端からにじみ出た先走り汁をゆっくりシェイクするような動きに、月彦もまた徐々に追いつめられていく。
(ッ……さすが、真央だ…………弱いところを、的確に攻めてっ……きやがるっ……ッ……)
 嬉しさ半分、腹立たしさ半分といった所だろうか。弱いところを全て知っている反面、こちらの弱点も知られているという事が悔しくも嬉しい――そんな絶妙な感情に支配されながら、月彦もまた真央の尻を掴んだ手に力を込め、真央の腰の動きが激しくなるように促していく。
「あぁっ、ぁっ……ぁあっ……んぁっ……ぁあっ……ああァッ!」
 最早キスをする暇も無い程に真央が声を上げ、体を震わせる。その声の切なさから、愛娘が必死にイくのを我慢しているのが伝わってきて、月彦はせめてもの慰めにと頬に、首筋に、そして胸元へと優しくキスを繰り返した。
「あぁぁんっ! あぁんっ……とう、さまぁっ……もうっ……もうっ…………あぁンッ……!」
「解ってる……俺もっ……ヤバい…………」
 月彦は歯を食いしばりながら、目だけで合図をしてやった。即ち“次にイきそうになったら、我慢せずにイッてもいいぞ”――と。その瞬間、真央がぁっ、と安堵の声を漏らした。そう、その油断を突くかのように――。
「ひゃっ!? やっ……とう、さまっ……っ、あぁぁぁぁァァッッ!!!」
 キュッと。尾の付け根を掴むなり強く擦り上げ、忽ち真央は素っ頓狂な声を上げて達した。
「くっ……うぉっ……」
 イった途端、ぎゅぬっ、ぎゅぬぬと――まるで雑巾絞りでもかけられるかのような――強烈な締め付けに襲われ、月彦もまた不意打ちのようにイかされ、愛娘の膣奥へと熱い精の滾りを撃ち放つ。
「ああァッ!! あぁっ! あぁぁぁッ…………あはぁぁあっ…………とう、さまの…………熱いぃぃ…………」
 ビクッ、ビクッ……ビクゥッ……!
 射精に合わせるように真央は二度、三度と大きく仰け反り、その度にまるで精を搾り取るように強烈に締め上げ、月彦に奥歯を噛ませた。
(くっ……はっ…………す、吸われるっ……)
 そう錯覚してしまう程に強烈な締め付けだった。或いは、本当に余分に吸われたかもしれないと、月彦は脱力しながら思った。
「はぁんっ……ぁあっ……父さまぁ……いつもみたいに、ぐちゅぐちゅってシて?」
 そのまま、脱力しきってしまえればどんなに楽だったか。ぎゅうーっと密着するように抱きついている真央に、上目遣いにそんなおねだりをされ、月彦はあまりの快感に痺れすら感じる手で再び真央の尻を掴み、ぐりぐりと剛直の先端に押しつけるようにして“マーキング”を行う。
「あぁぁぁぁッ!! あぁぁッ! あぁぁあっ……父さまぁぁっ………………父さまの、ニオイつけられてるぅ……」
 びくっ、びくっ……!
 真央はそうやって剛直で精液を塗りつけられるたびにうっとりとした声を漏らし、体を小刻みに震わせる。そのままぐったりと、真央もまた脱力するように月彦にもたれかかる――その耳元へと、月彦は囁いた。
「……ほら、真央。体を起こして、こっちに尻を向けろ。……今度は真央の大好きな“後ろから”だ」
 折角の旅行先だというのに、“いつも通りの流れ”になってしまうことに月彦は内心、苦笑を禁じ得なかった。


 サウナ内で筋トレやその他の運動をするのは危険だと聞いたことがある。ならば同じ理屈で“温泉に浸かりながら”のエッチも危険なのではないかと、月彦は頭の片隅でちらりと思った。
「とう、さまぁ…………これで、いいの?」
 先ほどまで月彦が腰掛けていた湯船の中の段差に膝をつき、さらに両手は湯船の囲いの岩の上につく形で、真央が四つんばいになり、振り返りながら不安げに尋ねてくる。その濡れた尾が、てらてらと光沢を放つ秘部を隠そうと下がりかけて、途中でびくりと震えるようにしておずおずと持ち上がったのは、尾で隠すなと過去に叱った事を思い出したからなのだろう。
(…………ここでヤり続けるのは、危険かもしれない)
 愛娘の誘惑のポーズに頭がグラつくほどに興奮を覚えながらも、月彦はそんな事を思った。というのも、温度の差なのか、家の湯船でするのとは違い、家族風呂でのセックスに尋常ではない体力の消耗を感じたからだった。
(……春菜さんちでシた時は……そこまで疲れなかった気がするんだが……)
 とはいえ、アレはアレでどっちかといえば正気ではなく半分操られていたようなものだから、そう感じただけなのかもしれないと、月彦は無理矢理納得をする事にした。
「……父さま?」
「あぁ、悪い、真央。……いいぞ、すごく良い。……そのまま動くなよ?」
 ゆらゆらと焦れったげに――それでいて誘うように揺れる尻尾に文字通り誘われる形で、月彦は真央へと被さっていく。
「ぁっ……」
 被さりながら、ギンギンにそそり立った剛直を秘部へと宛う。そして、ゆっくりと――
「あぁぁぁぁぁあっ!」
「こーら、真央。体を前に逃がすな」
 月彦は真央の腰のくびれをしっかりとつかみ、むしろ引き寄せるようにしてずんっ、と際奥を小突いた。
「あはァッ……! …………はーっ……はーっ……んぁっ、あぁあっ、あぁんっ!」
 そのまま、ぱんっ、ぱんと白い尻肉が震えるほどに強く、断続的に突き上げる。
「あぁっあぁぁっ……良いっ……良いのぉ……父さまにっ……後ろから、されるのっ……好きぃぃ…………あァんっ!……あんっ!」
「あぁ……俺も、“後ろから”は大好きだぞ?」
 こういうこともやりやすいしな――月彦は被さるようにして真央のキツネ耳に囁き、剛直を根本まで挿入し、ぐりぐりと抉るように動かしながらむっぎゅむぎゅと真央の両乳をこね回す。
「あッ、あっ、あァーーーーーーーーーーーーッ!!! あぁぁぁっ……と、とう……さまぁ……それ、だめぇっ……おっぱい、むぎゅむぎゅってしながらするの、だめぇっ!」
「こうしてやるとすぐイくクセに、何が“ダメ”だ」
 苦笑したのは半分強がりだった。ぎゅぬ、ぎゅぬと強烈に締め付けられて、危うく暴発してしまいそうになりながらも歯を食いしばり、月彦はそのまま抱きしめるようにして愛娘の巨乳を堪能する。
(俺の……おっぱいだ……!)
 他の誰にも揉ませるものかと、独占欲丸出しの手つきでむっぎゅむぎゅとこね回す。その月彦の肉欲に呼応するように剛直がさらに肥大していく。
「ああぁぁ……父さまのっ……ムクムクって……真央のナカでおっきくなってるぅ……」
 自分の肉体で父親が興奮してくれている事が、何よりも嬉しくてたまらない――そんな声だった。 
「……真央の乳がヤラしすぎるからだ。そろそろ大きくするのを止めないと、いい加減制服が着れなくなるぞ?」
「お、大きくなっちゃうのは……んぅっ……父さまが、いっぱい触る、から……あぁん!」
 口答えは許さない、と言わんばかりに月彦は剛直で真央のナカを抉り、さらに両乳をコネながらその先端をキュッと強くつまみ上げる。
「ああぁああッ! あぁっ、ぁっ……ご、ごめんなさい……父さまぁぁっ……おっぱい、小さくなるように……頑張る、からぁっ……だから、許してぇ……」
「……別にそれは頑張らなくていい」
 ぽつりと本音を漏らしながら、月彦はいまのはやりすぎたと言わんばかりに優しく乳を揉み、あむあむと真央の耳を唇だけで優しく食む。
「ああァッ……ああぁんっ! ……はぁはぁ……とう、さまぁっ……やぁ、耳……弱いのぉ…………い、イく……また、イッちゃう……!」
「いいぞ、俺もそろそろヤバい……真央の好きな時にイッていいからな?」
 月彦は再び体を起こし、真央の腰を掴むやパンッ、パンと強く突き上げる。湯が波打ち、さらに湯気が立つ中、それを払うように尻尾が右に左にと大きく揺れる。
「ああァァッ!! ああァッ! とうっ、さまっ……とうさまぁっ…………イクッ……イッちゃうッ……イクッ、イクッ……イッ……………………〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!!」
 真央は大きく背を反らせ、波飛沫の轟音すらかき消すほどに甲高い声を上げてイく。同時に、月彦も――。
「ッ……くっ…………!」
 ギリギリまで真央の腰を引き寄せ、自らは突き出し、ごびゅり、ごびゅと骨振動すら伝わるほどの衝撃を伴って、特濃の白濁液を注ぎ込んでいく。
「くはっ……こ、こらっ……真央っ………………っっっ…………」
 やはり、吸われるというのが正しいかもしれない――そんな事を思いながら、月彦は絶頂にヒクつく愛娘の膣の感触に思わず腰砕けになり、膝までついてしまった。
「…………〜〜〜っっ…………」
 そのまま、真央の体を背後から抱きしめるようにして、月彦は呼吸を整える。真央もまた、絶頂のあまりろくに喋ることもできないのか、ぜえぜえとただただ荒い息を吐いていた。
「…………真央、続きは部屋に戻ってからにしよう」
 やはり、温泉に浸かりながらでは体力を消耗しすぎる。が、しかしそれほどに消耗して尚、行為自体は止められない程に、月彦もまた愛娘の体の虜にされてしまっているのだった。

 


「あぁんっ! やぁっ、父さまぁっ……!」
 “通常の入浴”も済ませ、きちんと体を拭いて浴衣を身につけるなり――真央はケダモノのような息づかいの父親に布団の上へと押し倒された。
「ふーっ……ふーっ……真央っ……真央っ……」
 浴衣の上から、これでもかと胸元をまさぐられ捏ねまくられ、さらに尻には勃起したままの剛直をこすりつけられ、それだけで真央はもうメロメロになってしまう。
「んっ……なんだ、真央。……わざわざ下着まで履いたのか」
 月彦の手が真央の太股の辺りを這い回り、そのまま足の付け根の方まで登ってくるや、そんな囁きが聞こえた。
 馬鹿な真似だと、真央自身思わざるを得ない。部屋に戻るなり、こうして犯される事が確定しているのだから、むしろ浴衣の下は何も身につけない方が良いことくらい、百も承知だった。
 それなのに、わざわざ下着を身につけたのには、勿論意味がある。
(だって、その方が――)
 ハァハァと息を荒げる月彦に乱暴に下着を脱がされるのが好きで好きで堪らない。ぐいと、ショーツのゴムが伸びきってしまうのではないかという程に無理矢理に脱がされると、それだけで真央はゾクリと身震いし、イきそうになってしまうのだった。
「……まぁ、いいか。…………俺もこうやって真央の下着脱がすのは好きだからな」
 そんな娘の機微すら見透かしたような呟きを漏らして、月彦はわざともったいぶった手つきで真央の下着を下ろしていき、片足にだけ絡めた状態で脱がしてしまった。
 そして――。
「ンぁぁぁあァ!!」
 また、たっぷりと焦らされるのかなと、真央の予想をこれまた見透かしたように、唐突に剛直が根本までねじ込まれ、真央は不意打ちのようにイかされた。
「あヒっ……ぁっ……と、父さま……そんな、いき、なりぃ……」
「……何言ってんだ。体を洗って、拭いて、着替える間ずっと我慢してたんだぞ。……これ以上ガマンなんて、出来るか」
 ずん、ずんと堅く、熱い固まりが真央の奥を小突いてくる。その度に真央は声を荒げ、そして膝をたてるようにして尻を月彦の方に差し出すように持ち上げる。
(あぁっ、ぁっ……父さま、父さまぁっ…………!)
 腰砕けになってしまう、とはまさにこのことだった。極太の剛直が肉襞を擦り上げるたびに指の先まで痺れるような快楽が迸り、全身から力が抜けていく。それでいて膝と尻だけは真央の意志とは関係なく動き、剛直がより“良い”場所に当たるように調整を続ける。
 くすりと、月彦が笑った。
「……真央がシて欲しいのは、これだろ?」
 ぐい、と。月彦が剛直の角度を調節し、“その場所”を強く擦り上げた瞬間――。
「あァァァァアッ!!!!」
 真央は布団を握りしめながら、あっさりとイかされた。
「あはァァ……いいっ……いい、のぉ……父さまぁっ……そこぉ、そこ弱いのぉ…………!」
 尻を振るようにして真央はよがり、早くも布団に涎の染みを作る。さらに月彦によって両腕を掴まれ、まるで馬の手綱のように引かれながら突き上げられ、真央は二度、三度と立て続けにイかされた。
「っ……真央、締めすぎ、だ……」
 月彦は苦しげに言って両手を離した。そして真央の片足を持ち上げ、肩に乗せるようにして突き上げてくる。
「ああァうッ! あぁッ……あぁんっ!」
 強制的に足を開かされ、さらに極太の剛直で突き上げられ、真央は太股をビクビク振るわせながら、再度イく。その右手は焦れったげに己の下腹部を撫で、“その下”で剛直に愛撫されている子宮口を愛しむように這い回る。
「あぁっ……ぁっ……父さまっ……父さまぁァ……!」
 真央は喘ぎながら、濡れた目で月彦に“おねだり”をした。口にせずとも、それだけで伝わると確信した。
 月彦は肩にかけていた足を持ち上げた時とは逆側に下ろし、正常位の形にするや被さるように密着してきた。
 そして、そのまま――。
「ンンッ……ンゥ…………んんっ!!」
 剛直を深く、深く挿入しながらのキスに、真央は堪りかねたように腰を跳ねさせ、両手で月彦にしがみつきながらイく。
「ンンンッ……ンンッーッ!!!」
 さらにイかされながら胸をもみくちゃにされ、れろれろと舌を絡められ、痙攣するようにヒクつく膣内をぐりぐりと剛直で抉られて真央は視界に火花が散った。
「ンぁあぁぁァッ!! あぁぁァァッ……とう、さまぁっ……らめぇっ……それ、らめぇえええッ!!!」
 ビクッ、ビクゥ!
 腰が、跳ねる。何度も、何度も。イッている最中にさらに弱い場所を抉られ、キスをされ、胸を弄られて、真央は忘我状態になりながらも叫んでいた。
「くすっ……真央のイき方は本当に可愛いな。……そら、ご褒美、だッ……」
 グンッ、と。下腹部を突き上げてきた剛直が一瞬膨らんだ瞬間、真央の興奮は頂点に達した。
「ああッッ、ぁぁァァッ! ああァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
 びゅくっ、びゅるっ……!
 びゅっ、びゅっ、びゅっ……。
 子宮口に浴びせられる熱い特濃の奔流に、真央は爪まで立てながら声を荒げ、イく。
「ふぁっ、ぁぁぁっ……やぁぁぁっ……スゴ、いぃぃ……気持ちいいの、止まらないのぉ……!」
 びゅるっ、びゅっ……!
 精液を注入されるたびに腰が跳ね、イかされる。連続的に襲ってくる絶頂に真央はただただ腰をヒクつかせて喘ぐしかなかった。
「ッッ……それはっ、こっちの台詞、だ…………ったく、そんなにっ、締められたら…………」
 月彦が苦しげに言いながら、ぐりんぐりんと腰を動かしてきて、真央はさらにイかされる。
「ああッ……ぁぁっ……とう、さまぁぁっ……んっ……ちゅっ……んっっ……」
 そして、マーキングされながらのキス。真央自身、月彦の動きに合わせるように腰をゆっくりくねらせながら、れろり、れろりと舌を絡め合う。
「んぁっ……ぁっ……やぁっ……とう、さまぁ……そんなにいっぱいキスされたら……また、シたくなっちゃう…………」
 ウズウズと体の奥底から突き上げてくる衝動に耐えかねて、真央は焦れったげに月彦の体に指を這わせる。
「……何を言ってるんだ。いつもの事だろう?」
 月彦は苦笑し、さらにちゅっ、と優しくキスをしてくる。
「安心しろ。真央がシたくなるって事は、俺もシたくなってるって事なんだぞ? ……解るだろ?」
 ぐぐんっ、と。ナカに収まったままの剛直がまるで真央の腹を内部から持ち上げるように力強く反り返る。
「ああぁッ……!」
「それに、だ。……真央、喜べ。……今回はもう一つ“ご褒美”をやる」
「ご、ほうび……?」
「ああ。……最近ずっと“良い子”にしてるからな。……ご褒美に明日は――」
 ヒソヒソとキツネ耳の中に囁かれた言葉に、真央は忽ち顔を赤くした。
「ほ、本当? 父さまぁっ……本当に――……あぁんっ!」
「勿論、本当だ。……だが、その前に。……まずは今夜、たっぷりと可愛がってやるからな?」
 自分を見下ろす月彦の目が、再びケダモノのそれに切り替わる。相手を性欲のはけ口としか見ていないような――それでいて、真央の大好きな――目だ。
(あぁん……父さま……大好き……!)
 そして、真央もまた、理性を捨て去った。


 “翌日”の事を考えて少しセーブしようと、内心そう思ってはいた。が、しかし“二つ目のご褒美”にますます興奮してしまったらしい真央の勢いや凄まじく、結局月彦は余力などカケラも残らない程に愛娘の体を求め続けてしまった。
 もう止めて、父さま許して、壊れちゃう!――そんな言葉を喘ぎの合間合間に漏らしながらも、全身から“もっとシてぇ!”“止めないでぇ!”と訴えかけてくる真央相手に、そもそも余力など残そうと考える事自体無理だったのかもしれない。
 二人とも精根尽き果て殆ど気絶するように眠ったのが既に明け方であり、月彦が目を覚ました時にはもう壁掛け時計は九時過ぎをさしていた。何とも体が気怠く、隣でスヤスヤと眠っている真央の乳をもみゅもみゅしたり吸ったりとだらだら三十分ほど過ごした所で、真央もまた目を覚ました。
 目を覚ました――とはいっても、まだ半分以上眠っているような状態の真央と共にシャワーを浴び、そういえば食事の方はどうなっているのだろうと、月彦はそっと部屋のドアの外を覗いてみた。
「あっ……」
 と、どうやらドアに挟まっていたらしいメモ用紙がはらりと絨毯の上に落ち、月彦は慌てて拾い、読んでみた。
「何々……食事の用意は出来てますので、いつでもベルを鳴らして呼んで下さい――……これか」
 見れば、ドアから少し離れた場所に呼び鈴のようなものが置かれていた。月彦は早速手に取り、ちりちりと鳴らしてみた。
 忽ち、どこからともなく――やはり目元がよく見えない――仲居が現れた。
「お食事ですね、畏まりました。ただちにお持ち致します」
 ぺこりと丁寧な辞儀を残して、そそくさと去っていった。
 部屋に戻ると、浴衣姿の真央が座椅子に腰掛けたままぽーっと惚けたように宙を見ていた。あぁ、これはいつものアレだと、月彦はすぐに理解した。
(……ちょっとやりすぎちまったからなぁ)
 前日イかせ過ぎると、たまに起きる症状の一つだった。絶頂の余韻が寝て起きて尚続いている状態というべきか。瞳がとろんととろけたまま、どこか幸せそうに惚けている愛娘の姿が示すそれは、“昨夜は大満足”という事の何よりの証だった。
 それは月彦としても同様であり、真央と同じようにテーブル側の座椅子にあぐらをかき、ぼうっと惚けるようにしながら体を休めていると、コンコンとノックの音が聞こえた。 白耀だった。
「おはようございます、月彦さん、真央さん。お食事とお持ちしました」
「ああ、おはよう、白耀。悪いな、こんな変な時間になっちまって」
「いえ、気になさらないで下さい。今回は少々量を控えめにしてみましたけど、もし足りない様でしたら遠慮無く仰って下さい、すぐに代わりを用意しますから」
 白耀の合図で、仲居達が次々に料理を運び込んでくる。ふっくらと炊きあがった白米に納豆、ネギと鰹節がたっぷり乗った冷や奴に焼きジャケ。みそ汁にとろろ汁、焼き海苔に卵白だけを茹でて刻み、その上に卵黄を乗せたもの。ほうれん草のおひたしに山菜の天ぷら、さらにウナギの蒲焼き、鳥の軟骨入りつくねハンバーグとさらに料理は続き――
「ちょ、ちょ、ちょ……白耀!? す、すとーーーっぷ!」
 これでもかと並べられていく料理に月彦はたまらず声を上げた。
「全然量が減ってないぞ! こんなに食えるわけないだろ!」
「す、すみません……その、時間が時間ですから……やはり朝食のメニューだけでは物足りないのではないかと思って…………食べきれなかった分は残して下さって結構ですから…………あぁ、それと真央さん」
 白耀ははたと、思い出したように真央の方を向く――が、当の真央はといえば相変わらず天国状態の為声をかけられた事に気がつきもしていないらしかった。
「昨夜はすみませんでした、今回はちゃんと食後にデザートも持って来させますから」
 あぁ、そういえば昨日の食事中、何やら白耀に耳打ちしていたなと月彦は思い出した。
(……アレはデザートが無いと言っていたのか)
 真央らしいと言えば真央らしい要望だと、月彦は頷きながら納得した。
「悪い、白耀。真央はまだちょっと寝ぼけてるみたいだから、俺が代わりに礼を言っとく。ありがとな」
「いいえ、礼なんてとんでもない。むしろ僕の方が謝らねばならない事です。本当にすみませんでした」
 ぺこり、と白耀は深々と頭を下げ、そしてそのまま部屋を後にする。
「さて、と。……それじゃあ食うか」
 実のところ、腹がギュルギュルに鳴りっぱなしだった月彦は、最後の仲居が部屋から出て行くなり颯爽と料理にかぶりついた。

 最初は多すぎると思った料理だったが、どうやら体力の消耗の方がそれに勝ったらしい。或いは、白耀の料理の腕前の勝利と言うべきか。見事に料理の九割方を食べ尽くした辺りで、“デザート”を手にした白耀が再度部屋を訪れた。
「お待たせしました。真央さんご要望の“ちょこれーとぱふぇ”です」
 これまた、平常時であれば見ただけでお腹いっぱいなサイズのチョコレートパフェがでんと目の前に置かれ、月彦はそれだけで一気に満腹感が増すのを感じた。
 が、真央にとってはそうではなかったらしい。
「わぁっ! 兄さまありがとう!」
 それまで、食事はしつつも呆然と半分眠ったままのようだった真央の目が途端に輝きだし、喜色たっぷりの声を上げながら――まるで、たった今食事を始めたような勢いで――パフェを食べ始めた。
「月彦さんも、何かご要望のデザートがあれば準備致しますが」
「いや、いい。俺は普通の料理でもういっぱいいっぱいだから……」
 そうですか、と白耀はやや肩を落としながら、再度部屋から去っていった。
「ねぇ、父さまぁ……一緒にパフェ食べよ?」
 そして気がつくと、パフェを片手に真央がすぐそばまですり寄ってきていて――しかも、ご丁寧にパフェには月彦の分のスプーンも用意されていて――否が応にも月彦は応じざるを得なかった。
(……昨日の夜の“約束”もあるしな)
 そう、昨夜――半分勢い任せで言ったあの言葉。『明日は、何でも真央の我が儘を聞いてやる』――己の言葉に従い、月彦は笑顔を浮かべたまま満腹気味の腹にチョコレートやらクリームやらバニラアイスやらバナナやらを詰め込んでいくのだった。



「父さまぁ……大好きっ」
 食事が終わり、仲居達が後かたづけを済ませて再び二人きりになるや、真央はべったりと座椅子に座る月彦にもたれるように密着してきた。
「ねぇ、父さま……ナデナデして?」
 真央に言われるままに、月彦は真央の頭を撫でてやった。真央はえへへと照れくさそうに笑いながら、月彦の手に自ら頭を擦りつけるようにぐりぐりと動かした。
(…………意外に、普通だ)
 と、月彦は真央の要求を聞いてやりながらそんな事を思っていた。真央の事であるから、何でも我が儘を聞いてやると言ったが最後、かなりエロい要求をされるのではないかと内心覚悟していただけに、月彦は本当に意外だった。
「ねぇ、父さま……遊ぼ?」
「遊ぶ……って何をするんだ?」
 真央の突然の要求に、月彦は思わず部屋の中を見回した。部屋はそれなりに広い――が、裏を返せばそれだけ何も無かったりする。何せテレビすら無いのだ。当然、ゲーム機の類などあるはずもない。
「コレがあるよ、父さま!」
 じゃんっ、と真央がどこからともなく取りだしたのは、何やら大福のような形をした木の固まりと同じく木製のトンカチだった。
「……なんだこりゃ?」
「“達磨落とし”だよ? あのね、お部屋の入り口の所に飾ってあったの!」
「あぁ……」
 そういえば、と月彦は記憶を巡らせた。部屋に入ってすぐ、靴脱ぎの脇にある靴箱の上に、こけしやら起きあがりこぼしやらが飾ってあったなと。この達磨落としもそこに飾ってあったものなのだろう。
「昔ね、まだお里の家に居た頃、これでよく遊んでたの! だから、すっごく得意なんだよ?」
 真央は鼻息荒く語りながら、畳の上に達磨落としを積み重ねていく。
「……なんでまた、達磨落としなんだ?」
 ハッと。月彦の質問に、真央は少しだけ暗い顔をした。
「私……他の子達とあんまり仲良く出来なかったから……ずっと家の中に居たの。……だけど、母さまいつもどこかに出かけてて……」
 あぁ、そういえばまだ紺崎家に来たばかりの頃、そんな事を言ってたなと、月彦はばつの悪い思いをしながらも思い出していた。
「それで、母さまに一人でも遊べるオモチャが欲しいっておねだりしたら……母さまが盗ってきてくれたのが達磨落としだったの」
「……真狐のやつ…………」
 何故、よりにもよって達磨落としなのかという疑問は、この際伏せよう。それよりなにより、粗末な家の中で――真央の“実家”がどんな場所なのか想像がつかないため、勝手に蜘蛛の巣の張ったあばら屋のような場所に設定された―― 一人達磨落としをして遊んでいる幼い真央の姿を想像して、月彦は思わず目頭が熱くなってしまった。
「……よし、解った! かくいう俺も達磨落としではその人ありと言われた男だ。いくらでも相手になってやる!」

 

 ――約五時間後。


「次は父さまの番だよ! 早く早くぅ!」
 尻尾をパタパタさせながらエキサイティングしっぱなしの真央に、月彦はトンカチを握ったまま苦い笑みを浮かべていた。
(……まだ、続けるのか…………一体全体何がそんなに面白いんだ)
 達磨落としの遊び方はごく単純なものだ。丸い積み木のような達磨の胴体部分を積み上げ、一番上に達磨の頭を置く。その頭の部分を落とさないようにしながら、胴体部分をトンカチで横から叩き、はじき飛ばしていくというものだ。最後まで頭を落とさずに叩き続ける事が第一目標なわけだが、それを延々自分と真央で交互に繰り返し続けて六時間。さすがに手慣れた様子の真央に向けての美辞麗句も底をつき、まるで賽の河原を彷彿とさせる単純作業の繰り返しに月彦の神経は悲鳴を上げていた。
(我が儘を聞いてやると言った手前……俺の方からもう止めよう、なんて言えるわけがない……しかし)
 これは少々辛すぎる、と月彦は思わざるを得ない。いっそ白耀辺りが茶でも持って入ってきてくれれば、一時休憩という形で中断できるのだが――。
「そ、そーだ、真央。こういう遊びを知ってるか?」
 月彦は考えに考え、はたと。昔、千夏に聞いた数遊びの事を思いだした。そう、終わりの全く見えないこの状況を抜け出すには、真央の興味そのものを別のモノに反らす必要があると思ったわけなのだが……。
「どういう遊び?」
 興味をそそられたのか、真央が首を傾げながら尋ね返してくる。うむ、と月彦は頷き、そっとトンカチを畳の上に置いた。
「俺と真央、順番に数字を数えていってだな、最後に21と言った方が負けっていう遊びだ」
 但し、と月彦は一つ“条件”を追加する。
「一度に言っていい数字は三つまで。たとえば俺が1,2と言ったら、真央は3,4,5までしか言っちゃいけない。そして最低でも一つは数えなきゃいけないんだ。どうだ、やってみないか?」
「うん、いいよ、父さま」
「よし。じゃあ最初は真央からでいいぞ。好きな数を言ってみろ」
「ううん、私は父さまの後がいい」
「ん、そうか? じゃあ俺から……1,2」
「3,4」
「5,6,7」
「8」
「9」
「10.11.12」
「13.14」
「15,16」
「…………17」
「18.19、20」
「21……俺の負けだ。……ひょっとして、真央……知ってたか?」
 ううん、と真央はふるふると首を振る。
「でも、21を言っちゃいけない遊びなんでしょ? だったら20を取れば勝ちだから、20を取るためには16を取らなきゃいけなくて、その為には12,8,4って4の倍数を取っていけば勝てるって思ったの」
「………………なるほど」
 普段の子供っぽい様子からうっかり忘れがちだったが、一応真央には奸智に長けた妖狐の血が半分流れているのだという事を、月彦はこの瞬間改めて思い知った。
 そして。
「……ごめんね、父さま。……達磨落とし、つまらなかった?」
 何故急にそんな数遊びをきりだしたのかという動機までも察されてしまって、月彦は思わず冷や汗をかいた。
「い、いや……別にそういうわけじゃないんだぞ? ただ、ふっと思い出しただけっていうか――」
 慌てて弁解をする月彦の耳に、コンコンとノックの音が聞こえた。
「失礼します、お茶をお持ちしました」
「あ、あぁ……ありがとう、白耀」
 どうせならもう少し早く来て欲しかった、と。月彦は密かに心の中で思った。



「そうだ、真央。岩風呂ってのに入りにいってみないか?」
 小一時間ほど白耀を交えて三人で談笑などをしつつ茶を飲んだ後、月彦はそっと切りだした。先ほどの“達磨落とし事件”の後、俄に元気がなくなってしまった真央に気分転換をさせてやりたいと思っての提案だった。
 うん、と真央は頷き月彦に倣っていそいそと準備を始めた。月彦もまた着替えを手に真央と共に部屋を出て、館内地図に従って下へ下へと降りていった。
 やがて脱衣所があり――左右に分かれていて男用、女用とそれぞれ暖簾分けされていたが、中央に“ご自由にお使い下さい”とやや下手な文字で張り紙がされていた――月彦は少し悩んだ挙げ句、真央と一緒に男用の脱衣所の方へと入った。というのも、脱衣所だけ別で中が混浴仕様であれば何の問題もないのだが、そうとは限らないからだった。
 相変わらず垂涎モノの体をしている愛娘の裸体にグググと下半身を刺激されながらも、一応はタオルで前は隠し――真央も体にバスタオルを巻き――脱衣所を出た。
「……これはまた……岩風呂っていうより、まんま洞窟じゃないか」
 がらがらと脱衣所の出口である引き戸を開けた先は、まさしく洞窟だった。裸足の裏から伝わってくるざらざらとした感触は明らかに岩肌のそれであり、まるで奥へ奥へと誘うように――電気仕掛けではないようだが、まるで月彦らの入浴を何者かが察知したかのようなタイミングで――小さな燭台に明かりが灯っていく。
 足場も壁もザラザラとした岩だったが、利用者が怪我などをしないように最低限の表面処理はされているらしかった。少なくとも、尖った突起などがあって肌が傷つくという事はなく、奥へと進んでいくと燭台の薄明かりに照らされた湯船が見えてきた。
 これまた、見ようによっては洞窟の水たまりという様に見えなくもない。が、そうではない証拠にもうもうと湯気が立ち上り、湯自体もきちんと透き通っていた。
(…………これ、窒息とかは大丈夫なのか?)
 こぽこぽと湯船の底から泡が出ており、もしや沸騰しているのではと月彦はそっと指先で確かめて、やや熱いものの我慢すれば入れなくはない温度である事を確かめると同時に、そんな疑問がわいたのだった。沸騰しているのでなければ、何らかの気体がにじみ出しているわけで、事によってはそれが洞窟内に充満し死に至るのではないかと。
(あっ、でも……奥から風が吹いてるな)
 きちんと空気穴のようなものが穿たれ、きちんと循環しているのだろう。これならばとりあえず窒息の心配は無いかなと、月彦は漸くにして湯に浸かる決心がついた。
「どうした、真央。入らないのか?」
 足先からゆっくりと湯に浸かり、肩近くまで体を沈めながら月彦は促した。うん、と控えめに頷いて、真央もまた月彦の横に座る形で湯に浸かる。
(……うーん、やっぱりさっきの事を気にしてるのか)
 どちらかといえば自分の失態だと思っているだけに、月彦はやりきれなかった。うーん、と頭を掻き、そして徐にぐいと真央の腰に手を回して抱き寄せた。
「きゃっ……と、父さま……?」
「悪い、真央。……さっきは本当に悪かった。好きに我が儘を言っていいなんつって、あのザマだ。本当の本当に悪かった、許してくれ」
「……ううん、私の方こそ……ごめんね、父さま。父さまがつまらないって思ってるのにずっと気がつかなくって……」
「そんなこと無いぞ? 実際楽しかったんだから。…………ただまぁ、どんなに面白い遊びでも、さすがに五時間ぶっ続けだと、な?」
 真央は悪くない、悪くないと言い聞かせるように、月彦は抱き寄せたまま頭をナデナデする。
「だから、風呂から上がったら、改めて……何でも我が儘を聞いてやるからな? ……あぁ、別に今でもいいぞ?」
「う、うん……でも……」
「でも、じゃない。我が儘を言え、もっと甘えろ。……これは命令だ、いいな?」
 めいれい、と。真央は唇だけで復唱した。
「じゃ、じゃあ……」
「うん?」
「あの、ね……父さまと……キス、したい……」
「わかった」
 月彦は微笑み、ぐっとさらに真央の体を抱き寄せ、唇を重ねた。
「……もっとか?」
 真央の表情だけでそれを読みとり、口にすると真央はあっさり頷いた。月彦はさらに唇を重ね、ちろちろと舌先だけで舐め合うようにしてキスをした。
「んぁっ……み、耳……」
「耳?」
 うん、と真央は顔を赤らめながら頷く。
「耳を、ね。……あむあむ、って……して欲しいの」
 わかった、と月彦は苦笑混じりに言って、真央に頭を下げさせ、ピンと立ったキツネ耳を文字通り“あむあむ”した。
「あァ……んっ……父さまぁ……もっと……」
「ん」
 月彦は唇だけで噛むようにして愛撫し、さらに内耳から生えている白い毛をてろてろと舌先で弄ぶようにした。ぁ、ぁ、と真央がか細い声で鳴くのが何とも耳に心地よく、次第に月彦の方も耳への愛撫に夢中になっていった。
「ぁっ、ぁっ……だ、だめっ、ぇっ……ぁあっ……やぁっ……耳、だけで……イッちゃう……!」
 右耳も左耳もたっぷり涎でふやける程に愛撫されて、堪りかねたように真央が甲高い声を上げる。
「ま、待って……父さまぁ……もう、耳はダメぇ……!」
「ん?」
 はぁはぁと、涙目の真央に言われて、月彦は即座に耳舐めを中止した。真央はもう完全に“出来上がって”いるらしく、湯による体温上昇以上に全身を火照らせ、もじもじと焦れったげに体をくねらせていた。
「あの、ね……次はね、父さま……ここに座って?」
「ん? ここに座ればいいのか?」
 真央が促してきたのは、湯船の縁を囲うように置かれた岩だった。言われるままに月彦はそこに腰掛け、膝から下だけが湯に浸かるような形になった。
「はぁ……はぁ……んっ……ふぅ……ふぅ…………父さまの……もう、こんなになってる……」
 そうして、湯から上がる事でモロに現れた勃ちっぱなしの剛直を見ながら、真央がうっとりとした声を上げる。
(…………まぁ、実は脱衣所から既にこうなっていたわけだが)
 真央は気づいていなかったのか、はたまた気がついていたけど気がつかなかったことにしたいのか。とにもかくにも、真央のしたいようにさせてやろうと月彦はあえて何もつっこまず、何も言わなかった。
「え、と……父さま?」
「うん」
「こ、これは……“お仕置き”だよ?」
「んん?」
 急に何を言い出すのだろうと、月彦は真央の意図を計りかねて首を傾げてしまった。
「だ、だから……か、勝手にイッたりしたら……ダメ、だからね?」
「あぁ、わかった」
 なるほど、そういう事かと。
(……つまり、“いつもの逆”をやりたいわけだな?)
 了解した、とばかりに月彦は頷いた。
「ンッ……じゃ、じゃあ――」
 ごくり、と。端から見ていても解るほどに大きく生唾を飲んで、真央がおずおずと手を伸ばしてくる。剛直を握り、やさしく上下にさするようにしながら、その先端へと口を近づけてくる。
「んっ……れろっ……れろっ……」
 いきなり口に含んだりはしない。まずは剛直の味そのものを確かめるかのように、先端をひとしきり舐めた後は付け根からゾゾゾと舐め上げ、何度かそれを繰り返して漸く、真央は先端をくわえ込んだ。
「……ッ……!」
 岩の上に腰掛け、両手を後ろにつく形で腰を突き出す格好になっている月彦は、岩の上についている指に僅かに力を込めた。
(“これ”だ。……真央のは、“これ”が油断ならないんだ)
 これとは、真央が口でする際、深く深くくわえ込む事だった。およそ他の女性であればおえっ、と思わず噎んでしまうであろう程に深くまで咥えこまれ、その“深さ”にゾクリと背筋が震えてしまうのだ。
(矢紗美さんや由梨ちゃんも、フェラ自体は巧いけど……)
 ここまで深くくわえ込んでくれるのは真央だけだと、月彦は軽く感動すら覚えるのだった。恐らくは相応に苦しい筈なのだが、それすらも厭わない愛娘の健気さに胸を打たれる思いだった。
「んくっ……んんっ……んはっ……あふっ……んんんっ…………!」
 勿論、ただ深く咥えるだけではない。そのまま強烈に吸い上げながら頭を前後させ、れろれろと裏筋を舐められて月彦は思わず嘆息を漏らしてしまいそうになった。
「はぁっ……はぁっ……はぷっ、んっ……んっ……れろっ、ちゅっ……れろっ……れろっ……」
 そうしてひとしきり頭を前後に動かし、月彦がその刺激に慣れ始めた頃を見計らったように、一端唇を反し、今度は裏筋部分をまるでハーモニカでも吹くようにして吸い付き、ちろちろとなめ回してくる。唾液をたっぷりとからめ、時には頬ずりすら混ぜてくる愛娘のフェラに、月彦は徐々に圧倒され始めた。
「んぁっ、んむっ……んぅっ……ふぅっ……ふぅっ……父さまぁ……気持ちいい?」
「……あぁ……すげー……良い…………」
 余り多くを喋ると、そのまま緊張の糸が切れてしまいそうで、月彦は辛うじてそれだけの単語を絞り出した。内心、ウズウズと焦れが溜まり、出来ることなら今すぐ真央の頭を掴み、強引に突き立て、腰を思い切りふってやりたかった。
 しかし、同じ失敗を繰り返してたまるかという思いから月彦は耐えた。
「あむっ……んっ……父さまぁ……んっ……父さまのこれ……堅くて……好きぃ…………はぁむっ……んっ……んんっ……」
 先端部だけを咥えこみ、れろれろとすぼめた舌で鈴口を抉るように刺激されて、月彦は堪らずに剛直を震えさせてしまった。絶頂そのものは歯を食いしばって耐えたが、辛くもイきそうになってしまった事は真央には確実にバレてしまった。
「んぁっ……父さま……? 勝手にイッちゃダメだよ?」
「わ、解ってる……!」
 こしゅこしゅと竿部分を擦りながら悪戯っぽく微笑む真央に強がりにも似た声で返した。その実、月彦はもう完全に真央の一挙手一投足に見入ってしまっていた。
「父さま、続きはおっぱいでシてあげるね?」
 真央はバスタオルを外し、そのたわわな果実でむにぃ、と剛直を挟み込み、両側から腕で圧迫するようにして包み込む。そのまま両掌を乳の上にのせる形で――恐らくは経験から、月彦がこの巨乳寄せポーズに弱いコトを知っていて――真央はにゅり、にゅりと上下にパイズリを始める。
「く、おっ……」
 乳肉による刺激よりも、視覚的興奮によって月彦は危うく達しそうになってしまい、奥歯が割れんばかりに食いしばる事で辛うじて暴発だけは堪えた。
「あんっ……父さまの……スゴい……びくっ、びくって……おっぱいの間で震えてる……んっ……美味しい……」
 テロテロと漏れ出す先走り汁を舐めたり、或いはそれを潤滑油代わりにして自らの乳肉に塗り込むようにして、真央はさらにパイズリを続ける。ある意味では地獄のようなその責め苦に、月彦は次第に崖っぷちへと追いつめられていく。
「ま、真央……悪い……そろそろ、ヤバい……」
 はぁはぁと肩で息をしながら、月彦はやむなく泣きを入れた。
 が。
「んむっ……ぁんっ……ダメ、だよ? 父さま。…………まだまだ、イッちゃダメ」
「い、いや……ダメだと言われても……ホントにヤバっ……くぁぁぁっ」
 にゅり、にゅりと乳擂りの動きが一層早くなり、月彦はいよいよ“崖っぷちにつま先立ち”の状態になる。
(いやっ……てか、マジで無理っ…………くっ、ぉ…………)
 月彦は堪りかねるように真央の頭を掴み、ぐいと剛直に向けて押さえつけるようにした――その瞬間。
「きゃんっ……!」
 びゅるっ、と白濁が迸り、真央の顔を、髪を、そして乳を白く汚した。
「ぁっ、やぁっ……スゴい……びくっ、びくって……おっぱいから伝わってくるぅ……!」
 ぎゅうううっ、と自らの乳を両側から押さえつけ、射精の“振動”すらも余さず味わおうとする真央は白濁に汚れて美しくすら見えた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 月彦もまた、肩で息をしながら、射精の後という事もあり、“ある事案”を少しばかり真剣に考えていた。
(………………俺はいつもこんな無茶な事を真央に命じてたのか)
 イきそうになっているのに、イく事を禁止される辛さを、身をもって知った為だった。
(…………でもまぁ、いっか。真央はアレはアレで喜んでるみたいだし)
 しかし、性欲の回復と共に、あっさりと事案を忘れ去る事に決めた。
「ふふっ……父さま、勝手に出しちゃったから……次はもっとスゴいオシオキだね?」
 そして同時に、かけられた白濁汁を指先で舐め取りながら淫魔のような笑みを浮かべる愛娘に、ひょっとしたら自分は早まった事をしてしまったのではないかと、月彦は早くも後悔をするのだった。
 



 まぁたまにはこういうのもいいかな――という甘い考えは、最初の二時間ほどで吹っ飛んだ。真央に終始上を取られたまま、抜かずの三発、四発、五発……と続けられるうちに、嫌な記憶が蘇ってきたからだった。
(ぐぅぅ……違う、これは真央だ……真央だ……だから大丈夫だ……)
 うずうずと首をもたげそうになる“何か”を必死に押さえ込みながらも、月彦はそれでもされるがままを通した。長い髪を振り乱し楽しげに腰を振る愛娘がどれだけ“母親”のそれにダブろうとも、今日は何でも我が儘を聞いてやると言った手前、月彦は耐えに耐え続けた。
 そしてどうやら、それは真央も同じらしかった。
「んっんぅぅ…………あぁあんっ……ぁんっ…………」
 しばらく前から、真央の様子に変化が現れ始めたのだ。腰をくねらせながらも、どこか不満そうに――焦れったげにくねくねと悶える様は、明らかに“物足りない”様に月彦には見えた。
(そりゃあ、そうだろう)
 と、月彦は思うも、しかし前言の通りあえて手出しはしない。――“今”はまだ。
「ぁんっ……とう、さまぁ…………んんぅっ……」
 ぐちゅ、にちゃ、くちゅっ……。
 何度も、何度も中出しをして――しかも一度たりとも抜かないまま――白く濁った液が恥毛に絡みつきながら、真央が腰を動かすたびに汚らしい音を立てる。てらてらとした光沢は太股の辺りにまで広がり、真央は時折もどかしげに体をくねらせては指先でそれらをすくい取り、口元へと運ぶ。
 欲しい――と。
 こんなんじゃ足りない――言外に、そう訴えかける。ふっさりとした尻尾も不満げに左右に揺れ、目を凝らせばピンク色の粒子のようなものすら舞い散らしていた。――それは、“男を狂わせるモノ”だという事を、月彦は経験から知っていた。
(……でも、まだ、ダメだ)
 先ほどから、真央がちらちらと部屋の壁掛け時計のほうへと目をやっている事に、無論月彦は気がついていた。その長針が、じき“12”へと到達するであろう事にも。
「あぁん……んぅ……ぁふっ……んんぅ……」
 ぐちゅ、ちゅぐっ……。
 腰を焦れったそうに回しながら、またしても真央がちらりと視線を横に逃がす。まるで、“気づいて”と言わんばかりのその動きに、月彦は思わず失笑を漏らしそうになるのを堪えねばならなかった。
 長針が、12と重なる。――が、月彦は動かない。
「んっ……んぅ…………と、とう……さまぁ…………」
 さらに五分、沈黙を保ったままの月彦の耳に、泣きそうな程に切ない真央の声が飛び込んでくる。そしてまた、ちらりと横に視線をそらす――が、月彦は憮然と。頑ななまでに真央から視線を外さない。
「ううぅぅ〜〜〜っ………………」
 とうとう真央は腰の動きすら止め、キュンッ、キュンと意図的に下腹部に力を入れるような、そんな締め方をしてくる。
「ね、ねぇ……父さま?」
「うん? なんだ?」
「わ、ワガママ……言っていいのは…………“今日だけ”……なんだよね?」
「うむ」
 月彦はしれっと頷いてみせた。だったら――と、今にも口にしてしまいそうな真央の切なそうな顔がなんとも可愛いと感じてしまう。
「あぁ、そういえばさっき……白耀がこの部屋の時計は一時間遅れてるとか、そんな事言ってたな」
「ぇ…………う、嘘…………そん、なぁぁ…………」
「うむ、嘘だ」
 月彦はあっさり認め、今まで畳みに貼り付けられたかのように殆ど動かさなかった両手を、真央の太股の辺りへと這わせた。
「っきゃっ…………と、とうさま…………?」
 さわ、さわと。太股から腰のくびれの辺りまでを往復するように撫でつける。忽ち、真央は指を噛むようにしてハァハァと息を乱し始めた。
「“ワガママ”を聞いてやる時間はおしまいだ。…………これからは、俺が好きにやる」
「あぁ……!」
 真央は先ほどまでとは明らかに違った類の涙を両目いっぱいに浮かべ、コクリと小さく頷いた。
「まずは――」
 と、月彦は太股を撫でていた手を這わせ、胸元へと添えるなりむぎぅ、と力任せに掴んだ。
「あァうッ…………!」
 聞きようによっては悲鳴とも、歓喜の喘ぎとも取れる声を上げて、真央はびくりと背を反らせた。
「あっ、ぁっ……ぁっ……やぁっ……おっぱい、だめぇぇ…………!」
「ダメじゃないだろ。…………ほら、胸を揉まれてイけ、真央」
 むぎゅ、むぎゅと力任せに捏ね回すうちに真央は目に見えて呼吸を荒くし――。
「やっ……んっ…………ぁっ、ぁぁぁぁァァ!」
 ビクッ、ビクッ――尻肉を震わせるようにしながら、あっさりとイッてしまう。が、それでも月彦の手は止まらない。
「まだだ、真央。……胸でイけ」
「えっ……ぁっ、やぁあっ…………おっぱい……そんなに、むぎゅ、むぎゅってされたらぁ…………やっ、だめっ……だめっ……ぁぁっぁあッ!!!」
 ヒクヒクヒクッ!――剛直を締め付けながら、前回の絶頂から三十秒と立たずに真央がイく。
「もっとだ」
 指が埋まるほどに強く掴み、上に下に左に右に、時には円を描くように、時には引っ張るように乱暴にこね回してやると、真央は声を震わせながら立て続けにイった。
「はぁっ……はぁっ……やぁっ……とぅ、さまぁ……おね、がい……もう、ゆるしてぇ……おっぱいでイかせないでぇ…………」
「ダメだ」
 冷徹な声での却下――それ自体興奮材料であるかのように、真央はぶるりと体を震わせながら、さらにイく。ぎゅうううっ、と強烈に剛直を締められ、徐々に月彦の方にも余力が無くなってくる。
「……俺がどれだけ触りたかったのか、思い知らせてやる」
「やっ……あぁぁぁあンッ!!」
 月彦は徐に乳から手を離したかと思えば、桜色の突起だけを摘み、キュッと抓るように捻った。忽ち真央は天を仰ぐようにして背を反らせ、尻尾の毛を逆立てながら、イく。
「はーっ……はーっ…………とう、さまぁ……おね、がい……おっぱいじゃ、嫌なのぉ…………父さまので……いっぱい……いっぱい……奥、突いて欲しいのぉ……!」
「……ふむ、解った。…………じゃあ、真央のその望み、叶えてやる」
 月彦はぐいと体を起こしてあぐらを掻き――“いつもの姿勢”へと移行する。
「……但し、俺がイくまでに真央が勝手にイッたら、今夜はずっと胸だけだからな?」
「……ぁ…………う、うん…………我慢、するぅ…………ぁあんっ!」
 何とも自信なさそうに頷きながら、真央もまた月彦の背へと手を回し、足を腰へと絡めてくる。――その“準備”が整うよりも早く、月彦は真央の尻を掴んで持ち上げ、“落とす”。
「あぁんっ! あっ、あっ、あっ……!」
 そのまま断続的に、真央の体を持ち上げては落とし、落としては持ち上げる。
「ひぅっ……やっ、ぁっ……と、さまぁ……耳、やぁんっ……ぁっ、ああァァァァッ!!!」
 そうして意識を下へと集中させておいて、不意打ちのように耳を舐め上げると真央は甲高い声を上げて鳴き、キュキュキュッ、と強烈に締め上げてきた。
「ん? ……今、イッたか?」
 耳を舐めながら意地悪く囁くと、真央は慌てて首を振った。
「ん……まぁ、確かにグレーな感じだったな。……真央、ちゃんと我慢しろよ?」
「う、うん……で、でも……もう、ヤバいよぉ……父さまぁ…………ぁっ、やぁぁっ!」
 はぁ、はぁと呼吸をしているのか喘いでいるのか解らないような息づかいをする真央をさらに追いつめるべく、月彦は尾の付け根をキュッとつかみ、優しく扱き上げる。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ……ぁっ、ぁっ、あっ……と、父さまぁぁぁ……もう、ダメ……イッちゃう……イくぅぅ…………!」
「まだだ、ほら……ちゃんと我慢しろ、真央。……イくのは、ナカに出されてからだろ?」
 尾を擦りながら、耳を舐めながら、月彦は意地悪く囁く。ヒクヒクッ、ヒクヒクッ、と小刻みに痙攣する肉襞の感触から、真央が一生懸命イくのを我慢しているのが伝わってくる。――もっと感じさせてやりたい、と思う。
「……ほら、真央。自分でも腰を動かしてみろ」
「ふぇっ……? ぁぁんっ!」
「一番“良い”ところに自分で擦りつけるようにしろ」
「やっ……そ、そんな事、したら……す、すぐっ……イッちゃう…………ぁぁぁっ……やっ……やめっ……こ、腰……勝手に動いちゃう、のぉ…………!」
 そう、真央自身の命令よりも、父親の言葉を優先する――そんな愛娘の腰の使い方に、月彦は興奮と同時に愛しさを感じた。
「ぁっ、ぁっ……ぁっ……だめっ、だめっ……父さまぁぁっ…………も、我慢っ……出来なっっ……イくっ……イくっ……イッちゃう…………イくぅぅ…………!!」
 ヒクヒクッ!
 ヒクヒクヒクッ!
 せっぱ詰まっている真央の内面を表現するかのように小刻みに痙攣する肉襞に呼応するように、月彦の興奮も極限まで高まっていく。
「わかった。……ほら、真央?」
 月彦もまた己の限界を察するや、そっと真央の顎を上げさせ、唇を重ねる。
「んんんっ、んんんんぅぅ!」
 きゅうううっ、と真央が全身でしがみつくようにして締め付けてきた瞬間、月彦もまたその子宮口目がけて熱い奔流を放っていた。
「ンンッ!!! ンッ……はっ……ぁぁァァああああああァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」
 キスをされながら中出し――そしてイかされるのは真央の大好物のコンボの筈だった。その最中において尚、叫ばずにはいられなかったのか、真央は背骨が軋むほどに背を反らせ、声を荒げる。
「あはっ…………あひっ…………ひぁっ…………あっ、あぁっ、……あうっ……はぁっ……ぅぁっ……!」
 びゅくっ。
 びゅっ、びゅるっ。
 射精のリズムに合わせるように真央は声を上げ身を震わせ、不自然に腰を跳ねさせる。
「まーお? 勝手にキスを止めたらダメだろ?」
「と、とうさ――んんぅっ……ちゅっ……んんぅっ……ンンンッ!!!」
 再び真央の唇を奪い、舌を絡ませながら真央の尻肉を掴み、ぐりん、ぐりんと自分の腰に押しつけるようにしながら円運動をさせると、真央は何度も腰を跳ねさせながら喉の奥で声を上げる。
「んぁっ……んぅっ……んちゅっ……はっ……れろっ……ちゅっ……ンンッ……」
 そして、とろりと瞳を蕩けさせながら、最後には自ら腰をくねらせ、絶頂の余韻を楽しむようにキスをせがんでくる。
 あぁ、それでこそ真央だ――と、月彦は妙な納得すら覚えながらたっぷり十分以上もの間キスをし、共に余韻を楽しんだ。
「…………まだだ、真央。……これくらいじゃ全然足りないだろ?」
 そしてキスが終わるなり、月彦はぼそりと真央に囁いた。
「ほら、真央。……次はどうして欲しい?」
「ぁっ……んぅ……」
 “父親”の言葉に、母親似の淫乱なキツネ娘は恥じらいながらもコクリと頷き、“望み”を口にするのだった。


 明け方近くまで睦み合っていたせいで、帰りの高級車の中では月彦も真央も殆ど寝て過ごした。その“明け方までの事”のせいで出立もギリギリまで遅れてしまい、さらに渋滞に巻き込まれるなどして、結局慣れ親しんだ我が家へと帰り着いたのは夜の十時を回ってからだった。
「ふぁぁ……疲れた……な」
「ふみゅう……」
 両手の紙袋いっぱいの“お土産”と共に、月彦は真央によりかかられながら自宅の玄関を潜った。車の中では殆ど寝っぱなしだったというのに、寝た気などまるでしなかった。
「母さん、ただいま」
 靴を脱ぎながら――極度の疲労と眠気の為にどこか剣呑な声で――母に帰りを告げると、聞き慣れた足音がパタパタと近づいてきた。
「あら、おかえりなさい。随分遅かったのね」
「うん、ちょっと道が混んでてさ」
「……義母さま、ただいま」
 真央だけがワンテンポ遅れてしまったのは、今なお“余韻”が残っていて夢うつつな状態な為だった。
「そうそう、あのね、月彦――」
「ごめん、母さん。先にちょっと荷物置いてくるから……あ、これ白耀――真央の兄貴から母さんに、って」
「あっ、ちょっと……月彦!?」
 月彦は強引に二つの紙袋を葛葉に渡し、キャリーバッグを持ち上げて二階の自室へと上がる。真央もそれに倣ったが、自室に入るや否やふらふらと吸い込まれるようにベッドに突っ伏してしまった。
(……真央がこんなになってるのも珍しいな)
 と、月彦は横目で見ながら少々意外に思った。愛娘の“タフさ”については、月彦はこの世の誰よりも知っているからだった。
(…………二日続けて結構“濃い夜”だったから、そのせいかな)
 互いに慣れ親しんだ部屋ではなく、出先での事でその分消耗が激しかったのかも知れない。そういえば――と、月彦自身随分体に疲れを自覚していた。
(……温泉に入りに行って逆に疲れてたら本末転倒だな)
 そんな事を思いながらも、月彦もまた真央同様、ベッドに向けて正体不明の引力を感じ、そのまま吸い込まれるように倒れ込んでしまった。
(あれ、そういやさっき……母さんはなんて………………)
 まぁいいや、明日起きてから聞こう――月彦は着替えるのも面倒くさくて、もぞもぞと真央と共に掛け布団を被るや五分と経たずに寝息を立て始めた。


 ――翌朝。
 全身に見えない重石をつけられたかのように気怠い中、月彦は辛くもベッドから起き出した。
「真央、そろそろ起きないと遅刻するぞ」
「うぅー……」
 ベッドの膨らみからはそんなうなり声が聞こえ、実にゆっくりとした速度で掛け布団から真央の手が見えてくる。あの様子では体全部が抜け出すまでにたっぷり十五分はかかるだろうと月彦は見た。
「先に下に降りてるからな?」
 風呂に入らずに寝てしまった為、熱いシャワーでも浴びてさっぱりしようと月彦は着替えを手に階下へと降りていった。台所では既に葛葉が朝食の準備を始めており、“いつものみそ汁”の匂いに月彦は強烈に腹が空いていくのを感じた。
(あぁ……ごちそうもいいけど、やっぱり家庭の味だよなぁ)
 そんな事を考えながら鼻をひくひくさせていると、唐突に葛葉がくるりと振り返った。
「あ、おはよう、母さん。真央もすぐ起きてくると思う」
「おはよう、月彦。……あのね、昨日言いそびれたんだけど――」
「うん?」
 そういえば、昨日何かを言おうとしていたなと、月彦は思い出した。
「貴方、何か大事な約束を忘れてない?」
「へ……?」
「金曜日、貴方と真央ちゃんが出かけてすぐだったかしら。雛森先生から電話があったのよ」
「ひな……もり?」
 はて、何やら聞き覚えのある名字だなと思ったその刹那――。
「あっ……」
 まるで、こめかみを銃弾で撃ち抜かれたかのような衝撃と共に、月彦の全身は硬直した。


 


 

 
 

 

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