「はぁっ…ぁむっ……」
熱っぽい、雅な吐息。
下半身に当たる確かな息づかいとゾワリとした感覚。
薄い目隠しでもされているかのように視界がハッキリしない、ぼんやりとぼやけていた。
「っ…!」
敏感な部位へのその刺激に思わず背を反らせた。
体の熱という熱がそこに集中してしまったみたいに他の場所の感覚が無い。
その代わりにそこが、そそり立つ肉柱だけが全身の感覚器官を集めたかのように敏感に、弄ばれる。
…体の自由は殆ど利かなかった。
ただ、”女”が体を触ってくるたびに痙攣する芋虫の様に身を捩ることが許されるだけだった。
そして、その度に女は目を細め、とても愉快そうに嗤うのだ。
「んっ…んふっ…ぐじゅっ、っぷぁっ…はぁっむっ…ぁんっ…んぷっ…じゅるっんぅ…ちゅっ、はぁ、むっあむっ…んぅ…」
淫らな音を立てて、女が剛直を啜る。
白いしなやかな指が絡んできて、先端部分を擦った。
「ッ…!!」
射精―――何度目だろうか。
気の遠くなるほど繰り返した筈のその行為だというのに、先端から溢れる白濁は一向に量が衰える気がしない。
しかしそれが溢れるたびに、体の熱は明らかに失われていく気がした。
「んぁっ…ぷっ…んっ…ごくっ…ごきゅっ…♪…んぁっ……ふふっ、セイエキ…美味しっ…ぁんッ…」
女が溢れる白濁をまるでアイスキャンディーでも舐めるかのように舐めとっていく。
ピンク色のザラついた小さな舌がずっ…と剛直に絡みついてくる。
「うっ、ぁ……も、う…やめっっ…んっっ!!」
息も絶え絶えの悲鳴を女が唇で塞ぐ。
そのままずるりと舌が入り込んできて、ぐじゅぐじゅと口腔内をも陵辱される。
「ん、ぁ………ふふっ、逃がさないわよっ…貴方は私のモノなんだから……あはっ…♪」
ふんふんと発情した獣のように鼻を鳴らして女が覆い被さってくる。
頬や髪の毛にぞわぞわと女の白い指が這ってきた。
まるで獲物の味を確かめるようにその額を、鼻を、唇を、頬を、喉に食らいつき、甘く噛んで舌を這わせていく。
「は…ぁっ…ンッ…ねっ、頂戴っ…また、熱いの…ドクドクって…いいでしょォ…?」
鼻にかかった声で女が耳元で囁いてくる。
拒むまもなく、女が体の上に跨ってきてずるりと下半身が飲み込まれる。
「ッぁ…!」
「はぁ…ァァン…んぁっ…堅くて…おっきぃぃ……ぁんっ……奥に…当たって…ふぁぁっ…ぁんっ」
胸板に手をついて、ぐいぐいと腰をくねらせ始める。
ぐっちゃにちゃと擂り粉木で固まったゼリーをかき混ぜるような音を立てて肉柱と肉壁が摩擦する。
「うっ…ぁっ…!」
何度味わっても慣れない感覚だった。
肉壁の感触はぬるぬるでもあり、ザラついているようでもあり、蛸の吸盤のように吸い付いてくるようでもあった。
それらが交互に、否、乱雑に入り乱って絡みつき、吸い付き、締め上げてくる。
「ッ…ぁくっ…!」
ジンジンと下半身にまた熱が集中し始める。
苦しげに呻くと、また女が愉快そうに嗤った。
「ん、ぁ…ふふっ…可愛い声出しちゃって…そんなに気持ちいいンだ…?」
腰を深く埋め、ぐいぐいと膣奥を先端に擦りつけるように動かしてくる。
まるで剛直だけでなく、こちらの体そのものを飲み込もうとしているかのように。
「あふぅんっ、、…ねぇ…おっぱい…握って…ぁんっ…こね回してェ…」
女が手首を掴んできて、無理矢理に自分の胸を触らせる。
途端、全く力の入らなかった手が女に操られるかのようにその胸をこね回し始める。
豊満な、むっちりとした白い乳房を握り、掴み、捏ねる。
しっとりと汗ばんだその肌の質感が手のひらに吸い付いてくるようだった。
「んはぁぁっ…ぁあっふッ…ぅん、、、そぉぉ…もっと強くゥン…搾るみたいにしてェッ…ぁ…ァンッ…んっぁっ…」
鼻にかかった声を上げながら、女の動きが徐々に激しくなる。
ぐじゅっぬちゅっにちゃっ!
前後に、左右に、円を描くように。
ダンスでも踊るように腰をくねらせながら上下に揺さぶってくる。
「は、ぁんっ、ぁっ…ぃぃっぁぁぁああっ!…ふぅぅううぅんっぅ、いいわぁ…堅いの、奥にゴリゴリってしてェェ!…あぁあぁンンッ!…イきそぉっ…あんっ!」
女の目は虚空を見るように虚ろに。
白い肌を、頬を朱に染めて涎まみれの嬌声を盛らしながら文字通りケダモノのように腰を振る。
どろりとした恥蜜と肉壁がぐっぽりと剛直を咥えこんだまま吸い付き、締め上げ、嬲りあげてくる。
「ッッ…あくッッ!!!」
ビクンッ!体が跳ねた。
びゅぐっ!びゅぐんっ、と凄まじい勢いで熱い濁流が先端から迸る。
「はぁぁ…ぁあんんっ!ぁぁっ…熱いのっ…ドクドクってェ…あんっ…ぁああぁああぁっ!!」
熱い白濁の奔流を膣奥に受けて女は声を上げながら身を捩り、覆い被さってくる。
上気した肌には玉のような汗がぷつぷつと浮かんで、滴ってきた。
「ぁぁああぁあっ……ねえッ!もっとぉ…もっと頂戴っっ、熱いセイエキ…孕んじゃうくらいいっぱい頂戴ぃっッ!!」
ギュウギュウと双乳を胸板に押しつけながら、女が耳元でサカった声をあげる。
咥えこまれた肉柱にはどういうわけか一向に衰えがこない。
溢れる白濁の量も一向に減らない。
ただ、確実なのは射精の度に体の熱が、命が奪われているということ。
―――殺されるッ!
直感だった。
逃げなければ殺される。
だが、体の自由は利かない。
恐怖だった。
どうしようもない、蜘蛛の巣に捕まった蝶のような絶望感。
「…っ…た、す、け、て……!!」
搾るような声。
掠れたようなその声に女がまた嗤う。
心底愉快そうに、目を細めて、雅に。
即座に理解した。
女には自分を逃がすつもりなどはない。
死ぬまで貪られるという現実。
「う、ぁ、あ、、、」
必死に逃げようと、藻掻いた。
しかしそれは敵わないコト。
逃げられないということはとうの昔に分かり切っていた筈だった。
なぜならこれは―――ただの―――
ゴンッ!
いきなり頭に鈍い衝撃が走った。
「…朝っぱらから変な夢見て悶えるな、変態。気色悪い…」
聞き慣れた声の罵声が耳に飛び込んでくる。
月彦はとっさにベッドから体を起こして声の方を向いた。
明らかに寝不足の目をした姉の霧亜があきれ果てた顔でベッドの横に立っていた。
「ッてぇぇ……あれ?姉ちゃん……って、あれ…?」
「あれ、じゃない。朝飯、早く起きな。」
霧亜は用件だけ早口で伝えるとまるで汚い物でも見るような目つきで月彦を見下ろし、そそくさと部屋から出て行った。
月彦は困惑しつつも、今自分の部屋に居て自分のベッドの上に寝ているということを認識する。
「……畜生っ、またあの夢見ちまった」
枕元の目覚まし時計と、トランクスの中の嫌な感触に月彦は舌打ちした。
青空があった。
心地よい陽気の春の空。
白い雲は風のままにゆっくりとその形を変え、流されていく。
公立比丘仙高校の屋上、ぐるりと囲われた鉄柵に凭れるようにして紺崎月彦はぼんやりと空を眺めていた。
「なあ、月彦」
昼食のタマゴサンドウィッチを頬張りながら隣にいた静間和樹が声をかけてくる。
「なんだよ」
月彦は些か鬱陶しそうに返事を返した。
「食わねえんなら、オレ食うぞ。今日朝飯食ってねーんだ」
「……食う」
月彦は思い出したようにビニール袋に手を突っ込み、ラップでぐるぐる巻きにされたホットドッグを取り出した。
「なんだ、今日はヤケにテンション低いな。アノ日か?」
和樹が下卑た笑みを浮かべる。
たった今自分の朝食を食べたばかりだというのに月彦に頬張られるホットドッグを物欲しそうに目で追ってくる。
和樹は体格の良い、どちらかというと筋肉質な男だ。
燃費が悪いのだろうか―――と、月彦は思う。
「例の夢だ」
月彦はホットドッグを半分ほど食べてため息混じりに言った。
「夢ってあれか?変な女にレイプされるってやつ?」
ウヒヒ、とさらに下卑た笑みを浮かべる。
「お前も好きだなあ、溜まってんじゃねえのか?」
「あのなあ、カズ。あの夢はお前が想像するような生やさしいモンじゃねえぞ」
月彦はホットドッグの残り半分を一気に頬張る。
「むぐ、なんつーかだなぁ。骨の髄までしゃぶられるっつーか、死して尚いたぶられるっつーか、とにかく尋常じゃねえんだ」
「でもお前、ヤッてることはセックスなんだろ?」
「まあ、そうなんだけどな」
「夢精したのか?」
「……ヤなコト聞くなあ、お前も」
この男らしいと言えばらしい…と月彦は妙に納得した。
「したんだろ?んで姉ちゃんにでも見つかったか?お前の姉ちゃんマジ怖ぇーからな」
「ただのパソコンオタクだ。どーってことねぇよ」
月彦は強がって、パックの牛乳にストローを刺し、ずずっと吸い上げる。
「…まあ、でもあれだ。もしかしたらその夢ってのは夢じゃないのかもなぁ」
すすすっ、と和樹がビニール袋に残るアンパンにこっそり手を伸ばそうとするのを、ビニール袋を咄嗟に避難させて防ぐ。
「…どういう意味だ?」
「いやほら、お前がその夢見始めたのってアレだろ?中1の時の林間学校の―――」
「………………………」
ッ、と月彦はパック牛乳から唇を離した。
確かに和樹の言う通りなのだ。
中学1年の夏、月彦と和樹は学年をあげての林間学校として近くの山に合宿に行ったのだ。
合宿は3泊4日。
スケジュールにはキャンプファイヤーにレクリエーション、登山などが盛り込まれており、新入生の親睦を深めるのが目的で毎年行われている伝統行事だった。
勿論全ては滞りなく進み、何の問題もなく林間学校は終了する筈だった。
そう、一人の生徒が登山中に姿を消すまでは。
「お前、あの時のコト何も覚えてないんだろ?」
「………ああ」
月彦は気のない返事をした。
確かに和樹が言った通り何も覚えてないのだ。
何故登山中に自分が行方不明になったのか。
行列の真ん中に居た筈が月彦はもとより周囲に居た筈の友人達でさえいつ居なくなったのか気が付かなかったという。
神隠し―――生徒が一人突然消えた現象に誰かがそう囁き始めた。
『キツネに攫われたに違いない』
捜索に協力した地元の青年団はそう口々に噂した。
月彦が消えた場所は狐美姫峠と呼ばれ、古くからキツネに関する神隠しの伝承が多く残っている土地だったというのもあったのだろう。
TVやマスコミもこぞって『消えた少年』のことを報道し、連日連夜の山狩りが行われた。
それでも月彦が消えてから一週間が経過しても、何も手がかりはつかめなかった。
そしてその生還が絶望視され始めた頃、ひょんな所から月彦は発見されたのだった。
「裸で家の玄関先に倒れてたんだっけか。確か」
「………よく覚えてるな、お前。自分のコトでもないのに」
「そりゃあお前は失踪してたから知らねえだろうけど、あン時はすっげぇ騒ぎになってたんだぜ?」
「そうらしいな。おかげで俺は有名人だ」
はぁ………と月彦は大げさにため息をついた。
「なあ、お前のその夢に出てくる女って、どんなんなんだ?美人か?それとも不細工なのか?」
「…いきなり話題を変えるな、混乱するだろが!」
月彦は窘めたが、和樹はウヒヒ、とまた品のない笑いをする。
ああ、こいつが女にモテないのはこの笑い方のせいかな―――とふいに月彦は思った。
「まあそう言うなって。俺は俺なりにお前のトラウマの原因探ってやろうと必死なんだぜ?なあ、夢の中の女ってどんなんなんだ?特徴は?」
「特徴ねえ………そういや、耳がついてたなぁ」
月彦がぼんやりと呟くと、和樹が露骨に情けない顔をする。
「…それのどこが特徴なんだよ」
「いや、こういう耳じゃなくてよ、なんつーの…ケモノ耳ってのか?そいつがな、こう頭の上ににょきにょきと…」
「…なんだそりゃ、変な女だなぁ」
「ああ、あと尻尾もあったなぁ…犬みたいな尻尾が……」
「……お前、バケモンに童貞捧げたんだな。同情するぜ」
心底同情するような顔をして和樹はぽむと肩に手を置いてきた。
「……見た目はそんなに悪いモンじゃなかったんだけどなぁ」
ぼそりと聞こえないくらいの小声で月彦は呟いた。
夢の中に出てくる女は確かに美人だったのだ。
少しつり上がった、キツそうな目に整った顔立ち、狐色の長い髪。
色白の肌、華奢であるようで肉付きの良い体、豊満な乳房。
(性格がアレじゃなきゃあ…惚れてたかもなぁ…)
月彦は目を閉じて今朝の夢の光景を思い浮かべ、静かに頷いた。
―――ミツケタ。
「ッ!?」
「どーした?」
うわずった声で和樹が声をかける。
「いや……今、お前何か言ったか?」
「んや、何も…むぐっ」
和樹はハムスターの様に頬を膨らませたまましらばっくれた。
「……カズ、俺のアンパンはどうした?」
「んぐっ、知らんな。げふっ。宇宙人にでも持ってかれたんじゃないか?」
「…80円の貸しな。明日払えよ」
「ケチくさい奴だな。パンの一つや二つで」
「お前に言われたくねぇ!……っと、そりゃいいとしてさっき何か聞こえなかったか?”見つけた”…とかなんとか」
「なんだ、変な夢で夢精した後は電波か?お前、もしかして俺に嫌われたいのか?」
「嫌いたいなら嫌ってくれても別に俺はかまわんが…そうか、幻聴か…」
「なあ、月彦よ。俺は新しい問題を発見したぞ」
「なんだよ」
「時計見てみろ」
言われるままに月彦は左手首の時計を見てみる。
1時10分。
ちなみに昼休みは12時50分までである。
「…いつの間にか授業が始まってるじゃないか。チャイム鳴ったか?」
「うむ、どうやらいつのまにか鳴っていたようだ。しかし問題はそのことだけじゃないんだ」
「というと?」
「次の授業は体育で、どうやら俺たち2人ともロックオンされてるってコト」
クイクイと和樹が顎で遙か下のグラウンドを指す。
そして既に着替えを終え、グラウンドを走るクラスメイト達とその傍らで腕を組んで仁王立ちのままジッと屋上の月彦達をにらみつける熊のような体格の男が居た。
「うげ…坂井っ……」
「…お前が言った”見つけた”ってーのはアイツの声だったんじゃないのか?」
「まさか。あんな所からここまでそんなこと叫ぶワケねえだろ。それにさっきのは…なんつーか、囁き声って感じだったし」
自分で言いつつも、月彦は改めて体育教師との距離を測る。
方や四階建て鉄筋コンクリート校舎の屋上、方やその校舎の根本から200メートルは離れている場所に居る教師。
相当な大声でなければ聞こえる筈はない。
「……なあ、カズ。質問だが」
「なんだ、月彦」
「このままフケるのと急ぐの、どっちがいいと思う?」
「急いだ方がいいかなぁ、アイツ視力2.0って話だし絶対俺たちの顔見えてる」
「だろうな…。スッゲェ顔して睨んでるぜ―――っておいっ!置いていくなよッ!!」
「ッソォォ…坂井の奴…冬でもねーのにマラソンなんかさせやがって……」
夕暮れ時の河川敷の土手の上を月彦は文字通り体を引きずるようにして歩いていた。
太股、ふくらはぎの筋肉が引きつるように痛み、足を動かすのも億劫になってくる。
「あー………だめだ、足痛てっ」
月彦はドカッ、と土手の上に腰を下ろし、寝転がった。
足首ほどの背丈の草がチクチクと指すように痛むが、それよりなにより体の疲労の方が強かった。
「…………まただ」
ずるりと体にまとわりつくような視線を感じて月彦は体を起こした。。
なんともいえない違和感。
昼間屋上で感じた時からまるで思い出したようなタイミングで”何か”に見られているような気がするのだ。
それとなく土手の下などを見回してみるが、それらしき視線を送っている者などは居なかった。
「……気のせい、だよな。」
「何が気のせいなの?」
ふいに声がして、月彦は振り返った。
真っ先に目にはいるのは長毛種の大型犬。
その手綱を持ったポニーテールの女―――幼なじみの白石妙子だ。
「…やあ、妙子じゃないか」
「アンタこんなところで何やってんの?」
「いや、別に何も………………なんでジーンズなんだよ畜生」
見えないじゃないか、と月彦は心の中で呟いた。
「ジーンズがどうかした?」
「独り言だ、気にすんなって。お前こそ何やってんだ?」
「散歩。………っていつもここ通ってるの知ってんでしょ?」
「でもその割にはあんまり会わないよな」
俺もここは下校の時に毎日通るんだが、と月彦は付け加えた。
「うん、散歩の時間アンタの下校時間とかぶらないようにしてるから」
「…お前なぁ、わざわざ遠回りな道を選んでお前と会う機会増やしてる俺の努力を踏みにじるようなコトを…」
月彦は言葉を途中で切って、代わりにふぅとため息をついた。
「……女子校、楽しいか?」
「それなりに」
すっ、と衣擦れの音を立てて妙子が月彦の隣に座った。
ふわりと風が凪いで、妙子の髪が揺らいだ。
「もう3年かぁ」
「何が?」
「ん、お前と別れてから」
「もともとつき合ってもなかったでしょ」
妙子は淡々とした口調で返す。
「やっぱり冷たくなったよなぁ、お前」
「そう?」
「胸の方はデカくなったよな。昔、散々揉んでやったもんな」
月彦はジッと視線を妙子の胸元に降ろした。
厚手の服の下にある確かな膨らみは隠しても隠しきれないといった具合だ。
「どれ、ちょっと味見を………」
するするとその胸に手を伸ばす―――を、妙子が手刀でたたき落とした。
「…痛いじゃないか」
手首を押さえて月彦が泣きそうな声を出す。
はぁ、と妙子は大きくため息をついて
「変わってないね、アンタ」
呆れたように呟いて立ち上がると、パンパンと草土を払った。
「なんだ、もう帰るのか?」
「帰るわよ。別にアンタなんかと話すことなんて無いし」
「でも、始めに声かけてきたのはお前だぜ」
「………気まぐれよ。バイアラン、帰るわよ」
妙子の声に反応するように、老いた雄犬はむくりと体を起こすとふんふんとその足下にすりよってくる。
「なあ、妙子」
歩み去る妙子の背に月彦は思わず声をかけた。
「俺、今でも好きだぞ。お前のこと」
「………………」
妙子は無言のまま、再び歩き出した。
月彦は再びごろりと草の絨毯に寝ころんだ。
既に日は落ち、辺りには闇が覆い被さろうとしていた。
月彦が自宅へ帰り着いたときには既に辺りは暗く、街灯の光もなんのそのといった具合だった。
不思議と辺りが闇に包まれると体を包み込む例のずるりとした視線は感じられなくなっていた。
「…やっぱり気のせいだったんだ、うん」
自分に言い聞かせるように月彦は呟いて、玄関のドアを開けた。
「ただいまー…ってそういや母さんは法事行ってんだっけか」
月彦はハッと声の音量を落とした。
途端にこそこそとドロボウのような手つき、足つきで靴を脱ぐと音を立てないようにそっと階段を上がる。
「あれ、アンタ―――」
ふいに声をかけられて、月彦は心臓が口から飛び出しそうなくらい驚いた。
「な、なんだよっ…姉ちゃん、起きてたのか」
階段の途中で丁度降りようとしている姉の霧亜と遭遇したのだ。
この時間に起きてるのは珍しいな―――と月彦が言おうとした時だった。
「アンタ、さっき帰ってきたんじゃないの?」
「はぁ……?」
霧亜はぽりぽりと寝癖で跳ねた髪を掻きながら首を捻り、
「………気のせいか。」
くわえタバコを落とさないように呟くと、ギィギィと階段を軋ませながら階下へと降りていった。
「…………なんだ?」
月彦も霧亜同様に首を傾げつつも自室に戻った。
灯りのついていない室内は暗かったが、わざわざ電灯をつけなくても何が何処にあるのかは手に取るように分かる。
月彦はカバンをその辺に放ると制服を手早く脱ぎ、部屋着に着替えた。
着替え終わると階段を下り、台所へ向かう。
丁度ラップにかけられたおかずを一品一品霧亜が電子レンジで温め直している所だった。
「腹減ったぁぁ………飯は炊いてんの?」
「あたしの分だけ。」
姉は冷たく言い放つ。
「………俺の分は?」
「自分で炊けば?」
「…今からですか?」
月彦は思わず敬語を使ってしまった。
「別に、アンタの好きな時に炊けばいいんじゃない?」
「…はい、そうします」
今更ながら、この姉の性格はどうにかならないものか、と月彦は思う。
意地悪だとか仲が悪いとかそういう次元ですらない、自分勝手というのも何か違う気がする。
人のことを羽虫か何かとでも思っているような、そんな態度なのだ。
(畜生…なんでこんなのが姉ちゃんなんだ…)
月彦は一刻も早く高校を卒業し、一人暮らしを始めたいと切に願った。
「月彦、」
「は、はいぃっ!?」
急に声を掛けられて、月彦は素っ頓狂な声を上げた。
まさか―――心を読まれた!?そんなありえない危惧さえ沸いてくる。
いや、さすがにそれはないだろう―――でもこの姉ならあり得るかも知れない。
「…おかずが足りない」
「へ…?」
しかし姉の言葉はそんな月彦の危惧とは全く無縁のことだった。
「いなり寿司…昼はあったのに…」
ジロリ、と避難するような目を霧亜が向けてくる。
「アンタ、食った?」
「食ったもなにも俺は今帰ってきたばっかだって!」
「…じゃあ、キツネか」
「は………?」
よく分からないような声を月彦が出すと、霧亜は咥えていたタバコをぺっ、と流しの生ゴミコーナーに吐きだした。
「キツネ、いなり寿司好きでしょ。だからキツネが全部食べちゃったのよ」
独り言の様に霧亜は呟き、徐にごそごそと食器棚の引き出しなどを探し始める。
月彦がその様子を不思議そうに見ていると霧亜は戸棚の奥から油性ペンを取り出し、キュポッとそのキャップを外した。
「キツネ、キツネ」
うわごとの様に呟きながら月彦の顔へと油性ペンを向けてくる。
「ちょっ…姉ちゃっ」
逃げるまもなく、キュッキュッキュッ、と左右3本ずつ黒い線を引かれてしまう。
丁度漫画か何かに出てくるキツネの髭のような感じだ。
「…キツネ発見」
霧亜のその呟きと満足そうな微笑み、そして鉄拳はほぼ同時だった。
「ふぐッ」
ノーモーションの左ストレート。
ゴッ、という鈍い衝撃が走った後月彦は苦もなく転倒して漸くに自分が殴られたのだと気が付いた。
「母さんが法事で居ない今、家にはあたしとアンタしか居ないんだから。あたしが食ってないならアンタが食ったんでしょうが」
頬を押さえて問答する月彦に霧亜は鬱陶しそうに髪を掻き上げ、その脇腹にさらに蹴りをいれる。
「はうっ!」
情けない声を上げて、月彦は悶絶する。
さらに霧亜は容赦なくその背中を蹴り飛ばした。
「がッ…!違っ…俺じゃ無っっ」
「まだ言うか」
必死に無実を訴えるも、無慈悲な姉は眉一つ動かさずに側頭部を踏みつけた。
グリグリと台所の冷たい床の感触が頬に押しつけられる。
「…何か、言うことは?」
愛用のジッポで新しいタバコに火をつけながら、霧亜が吐き捨てるように言った。
「ご、ごめんなさい」
月彦はほぼ条件反射的に謝った。
「何が?」
霧亜は身を屈めるとフゥーとタバコの煙を月彦の顔面に吹きつけた。
「か、勝手にいなり寿司全部食べたコトと、それを隠したコトです!」
月彦は必死だった。
まるで戦時中の兵士が上官に戦況報告をするときのように大声で言った。
「ん、やっぱりアンタが犯人だったか」
霧亜は満足げに呟くと、ゆっくりと月彦の足を踏みつけていた足をどける。
あぁ…助かったと月彦がよろよろと体を起こそうとすると、その鳩尾にこれでもかとばかりにつま先蹴りをけり込んでくる。
「ッ!」
あまりの蹴りの威力に月彦はうめき声すら上げられずに再び床に悶倒した。
そのまま悶絶し、床の上で体を痙攣させる。
「食ったんなら、最初からそう言え。愚図」
姉の最期の言葉は台所の床にも負けないくらい冷たく感じられた。
そして月彦はそのまま気を失った。
月彦が目を覚ましたとき、家中の灯りは消え、当然のことながら台所も真っ暗闇に包まれていた。
そしてこれも当然のことながら月彦は気を失う前と同様に床の上に転がっていた。
無慈悲な姉が気を失った弟をわざわざベッドの上へ運んだり等するはずもない。
おまけに痛む体を引きずって冷蔵庫を開けてみると法事に行く母が作り置きおかずは全て平らげられていた。
「鬼だ、畜生………」
そもそも本当は無実なんだ、と月彦は心の中で呟いたが既に後の祭りだった。
「………ロクなコトがねぇ…」
本当に散々な一日だったと月彦は呻いた。
もとはといえばあんな夢を見たせいだ。
だいたい何で今頃―――。
「クソッ」
恨み言を上げたらキリがなかった。
空きっ腹も体の痛みもあったが、何より柔らかいベッドの上で眠り直したいという欲求があった。
月彦は立ち上がると壁に凭れるようにして階段を上がる。
2階、自室のとなりの霧亜の部屋からは灯りは漏れていない―――寝てるのか?
「……レイプでもされちまえっ」
月彦は少なからず本心と言えなくもない愚痴を零すと自室のドアを開いた。
当然の事ながら部屋の中も灯りはついていなかったが、かわりにガラス戸から入る月明かりがほんのりと室内を照らしていた。
そのおかげで月彦はさしたる苦もなくベッドの横まで進むと、文字通りベッドに倒れ込んだ。
「きゃんっ!」
変な感触がした、ついでに変な悲鳴も。
本来なら柔らかいベッドが体を迎える筈なのに、何か固いようで、それでいて部分的には柔らかいような感触がしたのだ。
「ぅぅぅ〜…痛いよぉ。。」
何やら泣きそうな声も聞こえる。
月彦は咄嗟に部屋の中央の電灯からぶらりとぶら下がっているヒモを引いた。
チカチカと何度か点灯した後、部屋の中が明るく照らされた。
「なっっ…!」
そしてベッドの上を見た。
見知らぬ女が上半身を起こし、眠そうに目を擦っている。
「誰だお前っ……ッ………!!」
思わず月彦は大声を上げそうになり、咄嗟に口を噤んだ。
隣の部屋の悪魔を起こしでもしたらさらなる地獄が待っていたからだ。
「…誰だお前、なんで俺の部屋に……」
そして、改めて小声で問い直した。
「むむぅぅぅ……眠いぃぃ…。」
しかしベッドの上の女はそのように呟くと再びぱたんとベッドに横になり、タオルケットを体に巻き付けるようにして寝入ろうとする。
月彦はずかずかとベッドに歩み寄るとタオルケットを引っぺがす。
「ひゃんっ!」
女は悲鳴を上げて、少し恨みがましい目で月彦を見上げる。
そしてすぐに、驚くような顔をして、目をぱちくりさせた。
「な、なんだよっ…」
女―――いや、少女と呼ぶのがまだ相応しいその相手にジッと魅入られ、月彦は少し後ずさりをした。
その直後だった。
「父さまぁぁあああっ!!!!」
猛烈なタックル―――いや、飛びつかれただけか?―――を受けて月彦は尻餅をついた。
「なっっ!?」
「父さまッ!父さまッ!父さまぁっっ!」
驚く月彦を尻目に、少女はしがみつき、泣きじゃくる。
「こ、こらっ…静かにしろっ!姉ちゃんが起きるだろうが!」
少女の大声に月彦は心臓をバクバク言わせながら必死に宥めた。
「うぇっ…ひっくっ…ひっく………」
少女は泣き顔のまま顔を上げ、ジッと月彦の顔を見る。
「泣くなって、とにかく落ち着いて…そう、深呼吸して……」
話は全てそれからだ―――と月彦は思った。
「で、」
月彦はベッドの端に腰掛け、絨毯の上で正座をしている少女を見下ろした。
「君は誰で、なんで俺のベッドで寝てたのか説明してもらおうか?」
月彦はまた泣かれないように、優しい口調で訪ね返した。
「ええと………」
少女は少し困ったような、そして言いにくそうに言葉を漏らした。
「は、初めまして…。私、名前は真央といいます。」
少女は丁寧口調でそのように答えるとぺこりとお辞儀をした。
「ふむ…」
まったく聞き覚えの無い名前だなと月彦は思いつつ、目の前の少女の容姿を改めて見直した。
顔は少々幼さが残る感じでおそらく年は15.6才くらいといったところだろうか。
行儀良く正座をしているところをみると親の躾はそれなりにいいらしい。
服装はちょっと変わった白い着物を着ている、見たこともないデザインだった。
だが、そんなことなど気にもならなくなるくらいの特徴が少女にはあった。
どこかで見たような、透き通るような白い肌に狐色の長い髪。
その髪の中からにょきにょきとせり出したネコのような耳。
そして、先ほどから忙しくパタパタと犬のように振られている尻尾。
「……………………………」
月彦は嫌な想像をして、そしてすぐにそれを打ち消した。
「あのっ…」
再び、少女―――真央が切り出した。
「5年前のこと…覚えてますか?」
「5年前?」
5年前というと俺が中1の時だな―――と考えて、月彦は顔を引きつらせた。
「狐に…襲われましたよね?」
「………………………」
「…それ、私の母さまです」
「………………………へ…?」
月彦は間抜けな声を出した。
いや、間抜けな声しか出せなかったと言うべきか。
「それで、そのぉ……」
さらに、真央は言いにくそうに続ける。
「私が…その時の―――」
「ちょ、ちょっと待て」
月彦は慌ててストップをかけた。
真央は驚いたような顔をして言葉を止める。
「確かに俺は5年前行方不明になった”らしい”けど、でも狐って……」
「母さまは妖狐です」
月彦の疑問を察したように、真央はキッパリと答えた。
「妖狐―――って…あの、人に化けたり術とか使ったりするっていうー……」
月彦がしどろもどろに問い返すと、真央はコクコクと頷いた。
そんなマンガみたいな話があるかぁ!―――と月彦は突っ込もうとして言葉を飲んだ。
確かにあの夢の感覚は現実離れした―――そう、狐に化かされているというような表現がしっくり来るような妖しさがあった。
そしてなにより、目の前の少女が夢に出てきた女によく似ているというのが話により信憑性をもたせるのだ。
「バカな…」
月彦は呻くように漏らして、片手で目元を覆った。
「じゃあアレは…あの夢は…その”妖狐”に攫われた時の記憶だっていうのか?」
月彦は目の前の妖狐の娘に問いかけるも、すぐに首を振った。
夢の話などしても、彼女には分かる筈もないのだ。
「…つまり、アレなのか…。その、妖狐ってのは…人間の男を攫ったりして…玩具にするのか?」
「…普通の妖狐はそんなことしません。でも、母さまは特別です」
真央はまた少しだけ辛そうな顔をする。
「特別…?」
「…母さまは…その、…すごく………………………淫乱だったんです…」
「はぁ…?」
月彦が声を上げると、真央は顔を真っ赤にして続けた。
「その…里にも…あっ、これは妖狐の里っていう意味なんですけど…そこにも雄の妖狐は居るんですけど……みんな母さまを満足させられなかったらしくって………」
真央はもごもごと、言いにくそうにしながらも話を続ける。
「……それで、とうとう母さま…禁を破って…人間に手を出しちゃったんです。それが……」
チラリ、と真央は視線を上げて月彦の顔を見る。
「…なるほど。でも、なんで俺だったんだ?あの時一学年約300人…あ、男子は半分か、それでも150人居て…他にも先生とかも居たのになんで俺が?」
「母さまが言うには、父さまが一番良い匂いがして…そして大きかったから……らしいです……」
「大きい………」
当然身長とか体格という意味ではあるまい―――月彦は即座に理解した。
多少なりとも自覚があったからだ。
「…妖狐ってのはそんなことまで分かるのか」
「千里眼っていう術があります。母さまの場合は…それに透視の術も併用させてたみたいですけど…」
「千里眼……」
月彦はハッとした。
昼間から続いていた”見られているような感覚”がそれだったのではないか。
「もしかして、君―――」
「真央って…呼んでください」
月彦を見上げながら、真央は願うような顔で言った。
「わかった、真央。真央は今日…その、千里眼ってやつで俺を見てた?」
訪ねると、真央は目をぱちくりさせて信じられないといった顔をする。
「気づいてたんですか?」
「気づいてたワケじゃないけど、なんか見られてるな〜…って気はしてたんだ。そっかぁ…アレが…」
うんうんと納得するように頷いていると、真央はキラキラと尊敬の眼差しを向けてくる。
「千里眼を悟るなんて…凄いです…さすが父さま…」
「…ちょっと待て、さっきから気になってたんだけど、”トウサマ”って?」
「…?…そのままの意味ですけど……お父さんっていう意味で……」
「……俺が、君の…お父さん?」
「はい」
真央は満面の笑顔で頷いた。
反面、月彦は悲痛に顔を歪める。
「……そんなバカな」
「信じてくれないんですか?」
真央も一転、不安そうな顔で聞き返してくる。
「信じるも何も……じゃあ、真央がここにきた理由っていうのは―――」
「父さまと一緒に暮らすためです」
「………一緒に、暮…らす………?」
真央の満面の笑みに、月彦は顔を引きつらせて、そして固まった。
月彦は混乱していた。
てっきり夢だと思っていた―――正確には思いこもうとしていた―――のが実は妖狐にレイプされた時の記憶だった。
そして5年たった今、その時の狐の娘だという妖狐がやってきて自分のことを父さまと呼ぶ。
挙げ句の果てに一緒に暮らすだとかそのようなことまで言っている。
真央曰く、真央の母親―――つまり月彦を攫って犯しまくった狐だが―――は悪戯が過ぎて封印刑というものをくらったらしい。
特別な呪法を施したツボなり箱なりに封印して反省を促すという人間の世界でいう刑務所の懲役のような仕組みらしい。
それで身よりの無くなった真央は特別に妖狐の里から出ることを許されて―――本来、よほどの用事がない限りは里から出ることは禁じられているらしい―――月彦の元へとやってきたのだという。
「………受け入れろ、というのか…。この現実を…」
月彦は泣きそうな声を出して、大きくため息をついた。
真央はといえば、先ほど身の上話を終えてからはべたべたと甘えるように月彦に背中から抱きつき、すりすりと体をすりつけてくる。
ケモノのマーキングのような行為なのだろうか、真央は至極嬉しそうな声で父さま、父さまと声をかけてくる。
さすがに事情を聞き、さらにこうも懐かれては追い返すわけにもいかないと月彦は思った。
「…母さん達になんて言やいいんだ……」
ため息をつく。
問題は山積みだった。
何から手をつけて良いのかすら分からない。
「……父さま、もしかして…迷惑してます…?」
ふいに、背中からそんな声がした。
振り返ると、先ほどまで嬉しそうに甘えていた真央が泣きそうな顔でジッと見つめてくる。
「い、いや…確かにショック…だったけど、……」
慌てて月彦は言葉を取り繕った。
その間にも真央の顔は徐々に泣き顔に、目尻には雫が浮かんでくる。
マズイ―――と思った。
「ま、真央ッ」
「きゃうっ」
咄嗟に月彦は真央を抱きしめた。
そして幼子にするように、その背中と、後頭部を優しく撫でる。
「えーと、その…なんだ……確かにいきなりでちょっと驚いたけどな、俺は別にお前を追い返そうとか、そういうことは考えてないから安心しろ、な?」
抱きしめてみると、真央の小ささがよく分かった。
それでも5才…にしては成長しすぎている気がするが、それは妖狐と人間の成長速度の違いによるものだろうということにして納得することにした。
「ふぇ……?」
腕の中の真央は今にも零れそうな涙を貯めて月彦を見上げる。
…こんな顔をされたら優しくするしか無いじゃないか!―――月彦はにっこりと微笑んだ。
「…まぁ、アレだ。これからよろしくな、真央。俺もお前に嫌われないように頑張るからな」
後頭部、狐色の手触りの良い髪の毛を優しく撫でた。
途端、ポロポロと真央の瞳から涙が溢れる。
「父さまぁぁああッ!!」
ギュウと真央が抱きついてきて、月彦の胸に顔を埋める。
悲し泣きではなく、嬉し泣きなのであろうが、それでも月彦は真央の大声にギクリとした。
「ま、真央っ…しーっ、しーっ…な?ほら…今は夜だろ?大声出したら…分かるだろ?」
慌てて諭すと、真央はグスン、グスンと泣くのを堪え始める。
「そうそう、いい子だな、真央は。母さんとは大違いだ」
この場合の”母さん”は月彦の母という意味ではなく、真央の、という意味である…念のための補足。
「父さま…母さまのこと覚えてるんですか?」
少し意外そうな顔で真央が尋ねる。
「それとなく、な。………そうだ、真央?」
「はい…?」
「これから一緒に暮らすことになるんだから、その…そんなに丁寧なしゃべり方じゃなくてだな、もっとくだけた感じで話さないか?その方がほら…親子って感じがするだろ?」
月彦の申し出が意外だったのか、真央が驚いたような顔をした。
そしてすぐに、
「うんっ」
笑顔で大きく頷いた。
「そうそう、そんな感じな。ですます口調で話す親子なんて堅苦しいもんな」
月彦は苦笑しながら真央の頭を撫でた。
柔らかい髪がとても心地よい手触りだった。
「そうだ、真央。真央もほら…アレ使えるのか?変化の術とかそういうの」
ふいに月彦は切り出した。
娘のことを少しでも詳しく知りたいという純粋な好奇心だった。
「うん、使えるよ」
真央は少し得意げな顔をして、大きく頷いた。
「真央の変化の術、父さまに見せてくれないか?」
猫撫で声で真央のキツネ耳にボソボソと囁くと、真央はくすぐったそうにウンと返事をした。
そして月彦から離れて絨毯の上に立つと、すぅ…と深呼吸をした。
「変化っ!」
真央が少し押さえ気味の声でそう叫ぶと、ぽんっという音を立てて真央の体が白煙に包まれた。
「おおっ…!?」
自分で催促したことながら、月彦は驚くような声を上げた。
白煙はすぐに跡形もなく消え失せ、そこに現れたのは―――
「たえ…こ?」
幼なじみの妙子。
夕方会った時のそのままの服装だった。
ただ、あの時と違うのは犬を連れてないということだった。
そうか、千里眼で妙子と会ってたのも見てたんだな―――月彦は納得した。
「…どう?父さまっ」
くるりと真央は一回転をして月彦ににっこり微笑んだ。
「…凄いな…これが変化の術か…」
月彦が目を丸くして驚いていると、真央はトンと跳ねるようにして月彦の隣に腰掛けた。
中身は真央でも見た目は完全に幼なじみの妙子。
月彦は思わずドキリと胸を弾ませた。
「ホント、凄いな…」
見ればみるほどそっくりだった。
髪の色も、その髪型も、少し勝ち気な顔も、豊かな胸も、腰のラインも。
ただ、中身が真央だということを覗けばそれは確かに妙子そのものだった。
「父さま、この人のこと好きなんだよね…?」
「えっ…?」
一瞬ドキリとした。
妙子の姿で、妙子の声で真央が囁いてきたのだ。
「千里眼は声は聞こえないけど…唇を読むことはできるから……」
「…凄いな、真央は…」
苦笑しながら月彦は褒めた。
と、その左手首がふいに捕まれる。
「……父さま、触っても…いいよ?」
真央が囁きながら、月彦の手を自らの胸元へと押しつける。
「こ、こらっ…何をっ……」
その動作にドキリとしながらも、月彦はさして抵抗もせず真央の胸元へと手を宛う。
ニセモノではない、本物のしっかりとした柔らかい感触が左手から直に伝わってくる。
(これが…妙子の胸か…)
ゆっくりと左手を動かして、真央の胸を捏ねる。
「ぁっ…」
妙子の姿で、妙子の声で真央が喘ぐ。
月彦は妙な興奮を覚えて愛撫を一層激しくする。
左手だけではなく、両手で”妙子の胸”を愛撫した。
「はぁんっ」
さっき月彦が言った事を気にしているのか、真央が押さえた声で咽ぶ。
”妙子の声”で咽ばれて、月彦はますますヒートアップした。
「…真央、脱がすぞ」
一言断って月彦は真央をベッドに押し倒した。
そしてハイネックの厚手のシャツを脱がせると、白い下着につつまれた豊かな胸が姿を現した。
(凄いな…こんな所まで似せられるのか…)
月彦は軽い感動を覚えながら、やや乱暴な手つきで下着をはぎ取った。
「ぁん…」
真央は切なそうに声を出しながら、その口をそっと片手で覆っていた。
手の甲越しに上気した頬が見えた。
「……………………」
たわわに実ったその柔らかい果実に手を這わせる。
下から掬うようにして手を宛うとにゅむと確かな重量を手のひらに伝えてきた。
そのまま手に力を込め、握った。
「ぁっ、ン…ぁ、…」
ピクンと体を震わせて、”妙子”が声を上げる。
月彦は鼻息を荒くして両手でその胸を触り、揉んだ。
ぎゅっむぎゅっ、と粘土を捏ねるように、握りしめるように。
尖った先端を指先で摘み、擦るように扱き上げる。
「ぁっ、んぁっ、あっ、ぁっ、ぁっ、とーさまっ、ぁぁぁっ…!」
「ッ………!」
”父さま”その声を聞いた途端、月彦はハッと我に返った。
そう、眼前にいるのは妙子ではない、娘の真央なのだ。
「わ、悪いっ…真央。ちょっと…興奮した…」
バツが悪く、月彦は慌てて脱がしたシャツを真央にかぶせる様にしてそっぽを向いた。
「もう、真央に戻ってもいいぞ。そのままだと本気で襲っちゃいそうだ」
はははっ、と冗談ぽく月彦が言うと、その背中に真央は妙子の声でぼそりと漏らす。
「……戻れないの」
「…なぬっ?」
月彦は真央の方を向き直った。
「…このままじゃ…変化の術解けないの…。」
真央は肌を上気させて、うわごとのように続ける。
「一回変化しちゃったら…イクまで戻れないの…だから、とーさま…」
ハァハァと息を荒げながら真央は体を起こすと月彦に抱きつくように絡みついてくる。
「ちょ、ちょっと待てっ!なんでっ…そんな………」
月彦は狼狽えながら問い返した。
「……母さまが…ちゃんとした戻り方、教えてくれなかったの…。だから…一回意識を飛ばして、無理矢理に術を解かないと……」
真央は恥ずかしそうに月彦の問いに答えた。
そして月彦は直感した。
きっと態と戻り方だけ教えなかったんだな―――と。
別に親しい相手でもないのに、そういったことを考えてそうだと手に取るように分かった。
「一回意識を飛ばすって…寝るとか、そういうのじゃだめなのか?」
真央は首を横に振る。
「じゃ、じゃあ―――ッ…んくっ!?」
何か他に手があるはずだ!と考えるまもなく、その唇に真央の唇が重ねられる。
くちゅるっ、と舌が割り入ってきて口腔内を嘗め回していく。
(…っ…!こ、れは…!)
夢の中でされたキスと同じ舌使いだった。
キスの仕方まで母親に教えられたのだろうか―――いや、あの母親ならやりかねないと月彦は納得した。
真央の舌はのたうつ蛇の様に月彦の舌を蹂躙し、歯茎を嘗め回し、そして唾液を啜っていく。
「ん、はぁ…」
トロリと糸を引いて、漸くにその舌が引き抜かれる。
そして同じ、唾液に濡れた唇で真央は囁く。
「とーさまっ…お願いっ…途中で、やめないで…」
真央は月彦をベッドに押し倒し、豊かな胸をその顔面に押しつけてくる。
「っ…ぷっ!」
肉厚ならぬ乳圧で呼吸すら困難になる。
月彦は慌てて真央の肩を掴んで押し上げた。
「ぷはっ…わかった、真央。…お前がイクまでつき合ってやる」
さすが”あの狐”の娘だと月彦は妙な説得力を感じながら、馬乗りになっている真央の双乳をもみくちゃにする。
「はぁぁっぁんっ!」
途端、真央がぎょっとするくらい大声を上げる。
月彦は慌てて人差し指を立てるが、
「だい、じょぶ…さっき、”静域”の術使ったから…この部屋から音は漏れないよ…」
肩で息をしながら、真央は微笑む。
「…そんな便利な術もあるのか…。俺も妖狐に産まれればよかったかな」
苦笑しながら、むぎゅっと強めに真央の乳を揉み捏ねる。
いくら中身が真央だと分かっては居ても、目の前の女は見た目は確かに妙子なのである。
興奮するなというのが無理な話だった。
「はぁっ、はぁっ、…とーさまっ…ぁんっ、お腹…熱いのっ……」
真央はパチンとGパンのホックを外すと器用に手早く脱ぎ捨ててしまう。
そしてぐっしょりと湿ったショーツごと秘裂を月彦の太股に擦りつけてくる。
「っ…こ、こらっ、真央…はしたないぞっ…」
しゅっ、ちゅっ…と擦りつけられる感触に月彦は思わず父親のような口調で窘めてしまう。
「はぁっんっ…だって、、」
「だってじゃない、―――って俺も真央のことは言えないか」
苦笑しながら、月彦は真央の体を抱え上げるようにして真央を自分の横に寝かせ直して、自らが上になる。
それだけで妙子の姿をした真央はハァハァと息をきらし、期待に満ちた目で月彦を見上げる。
「…全く、真央は母親似だな、絶対…」
くすっ、と笑みながら、仰向けになっても尚形を崩さないその胸の頂に舌を這わせる。
「ひゃっ…ぁっ、そんなっ…父さま…酷い……」
「どうして?真央は”母さま”に似ているって言われるのが嫌なのか?」
ピクピクと髪を揺らしながら可愛らしく震えるキツネ耳に月彦は優しく囁きかける。
「ひっ、ん、、…だって、母さまに似たら………」
「真央は淫乱だよ、十分に…ね」
月彦は意地悪く笑みながらショーツの中に手を伸ばし、既に潤みきっているそこをぐじゅっ、とやや強めに擦り上げた。
「ひぁっ!ぁああぁぁあんんッ!」
途端、真央はビクンと背を弓のように逸らして大声を上げた。
「ありゃ…?」
それは明らかな現象だった。
豊かだった胸がみるみるうちにその質量を失い、体自体も一回り小さい物になっていく。
身につけていたショーツだけそのままに、そのほかの衣類は霧のように消え失せていく。
変化の術が解けたのだ。
「なんだ、真央はもうイッちゃったのか」
クスクスと微笑みながら、月彦は震える真央の体を優しく抱きしめた。
「ふっぁっ…だ、って…と…さま、、いきなり………」
妙子の声ではない、真央自身の声で辿々しく漏らす。
心なしか、変化が解けた後の真央自身の声が数倍いやらしい声に聞こえてくる。
「でもま、これで変化も解けたし、万々歳だな」
ちゅっ、と真央の頬にキスをして、月彦は体を起こそうと―――できなかった。
「父さま…待って…」
ぎゅっと真央が月彦のシャツを掴んだまま離さない。
「まだ…足りないの…」
シャツを握る手にジットリと汗を滲ませながら、真央は辛そうに言う。
「た、足りない…って?」
真央の言葉を聞くだけで、月彦は変な気分になるのを感じていた。
それでも頭を振り、正気を保つ。
「欲しいの…父さまの……真央の膣内に……」
ざわざわと白い手を這わせてハーフズボンの上から月彦の股間を撫でてくる。
「ほ、欲しいっ…って…そりゃ…近親相姦―――」
言ってるうちに真央は手早くジッパーを降ろしてその中に手を滑り込ませる。
そしてグンッ、と固く剛立する熱塊を取り出し、なで回してくる。
「ま、真央っ……」
不思議と抵抗ができなかった。
いつかの…そう、夢の中の時の様に体の自由が利かない。
すっ、と月彦の首に真央が手を回してきて、その耳元に唇を寄せてくる。
「父さま…真央を、犯して……」
発情した牝狐の声でそう囁く。
刹那、月彦の理性は遙か闇の底に吹き飛ばされた。
「真央ッ…!」
月彦はケモノのように荒々しく声を上げると、破るように真央のショーツをはぎ取った。
「きゃッ…!」
悲鳴を上げる真央にかまわず、月彦は真央の足を広げさせると、先ほど露わになった剛直をその潤みきった泉に宛う。
「…ッ…」
一瞬の躊躇の後、月彦は両手で真央の腰を押さえるように掴む。
「…真央、挿れるぞ」
宣誓。
真央が答えるまもなく、月彦は雄々しく怒立するそれを突き入れた。
「あぎッ…!」
一瞬、真央が悲鳴を上げる―――それでも月彦はかまわず、肉を裂くような感触を感じながら真央の膣奥をこつんと小突いた。
「はぁ……はぁ……真央、…もしかして、始めて…だったか?」
息も絶え絶えに月彦が訪ねると、真央は涙目でコクリと頷いた。
「そ、っか……悪い、真央……俺、止まらない……」
見た目の幼さの割りにはとても良く成長している胸を両手でこね回しながら、月彦は少しずつ腰を前後し始める。
「はっ…ぁんっ!ぁっ、ぁっ、ぁっ……」
真央の顔からはすぐに苦痛の色が消えていく。
代わりに雅な、悦楽の光を目に宿して堕悦の媚声を盛らし始める。
「はぁっ…はぁっ……真央、痛く…ないか…?」
月彦は理性さえも吹き飛ばす何かに突き動かされながらも、真央のことを気遣った。
真央は微かに目尻に涙を貯めつつも、コクコクと頷いた。
「ッ…くそっ…なん、で……」
まるで体の首から下がハッキングでも受けたかのように言うことを利かなかった。
真央を優しく愛してやりたいと願っても、両手は荒々しく両の乳房をこね回し、乳首を抓り上げた。
腰の動きは徐々に大きく、剛直が抜け落ちる寸前まで引いて、一気に膣奥を小突いた。
「はぁんッ!あっ、ぁんっ、あんっ、ぁっ!あっ…と、さまっ…おっきいぃぃ…ぁあっ!ぁぁあああッ!!!」
剛直の荒々しい律動に真央は弓の様に背を逸らせ、喘いだ。
両手で月彦の体を掻きむしり、ギュウギュウと膣壁を収縮させて剛直を締め上げてくる。
「っ……ま、おっ…ッ…締まるっ…!」
月彦の体を痺れるような快感が駆け抜けていく。
剛直の付け根にドロリとした熱塊が溜まり、今にもはき出しそうになる。
「あんっ!ぁっはんッ!ぁぁっ…とぉさまっ…出してェっ…!とぉさまのっ、とぉさまの熱いのっ…いっぱいっっ!」
真央は自ら月彦の腰に足を絡め、首に手を絡め、自ら腰を突き出すようにして月彦の動きに合わせてくる。
じゅぷじゅぷと淫湿な音が部屋中に響き渡り、真央のさらなる嬌声がそれをかき消していく。
「っ…ぁくッ…真央っ…出るっっ!」
月彦が呻いた刹那、真央の膣内で剛直が震えた。
途端、どぷどぷと白濁のマグマが大量に狭い膣内にぶちまけられる。
「ぁぁぁあああああッ!ぁぁあっ!あーーーーーッ!!!」
そのうねりを受けて、真央は背骨が折れそうなくらい反らせて絶叫する。
ビクビクと電気ショックでも受けた様に全身を震わせて、ぎちぎちと剛直を締め付けてくる。
「っっ……真央っっ………!」
月彦は呻いて、ありったけの精液を真央の膣内に注ぎ込んだ。
びゅぐっ、と体の奥を刺激するその感触に真央は身もだえして声を漏らす。
「あっ…ぁ……とぉさま…っ…熱いの、いっぱい………」
真央は心地よさそうに身をくねらせ、至福の顔で月彦を見上げる。
「……悪い、真央…膣内で出した…」
月彦は罪悪感を誤魔化すように真央の唇に触れるだけのキスをするとぐったりと覆い被さる。
「んっ…大丈夫、父さま…妖狐は発情期じゃないと妊娠なんてしないから……」
真央は宥めるような口調でそっと月彦に囁くとにっこりと笑んだ。
はたしてそういう問題だろうか―――と月彦は複雑な気持ちになった。
もしかして妖狐という種族には近親相姦はタブーという概念は無いのかもしれない。
そう思えるくらい真央の態度には悪びれたものも、バツが悪いというようなこともなかった。
(…そもそも本当に親子なんだろうか…?)
今更ながらに月彦はそんなことを考えてしまう。
もしかしたら真央の話は途中までは本当で、そこから先は全くの嘘で自分はまた食い物にされようとしているんじゃないのか―――そんな考えさえ浮かんでくる。
「…父さま、どうしたの?」
気むずかしい顔をしていたのか、真央が不安そうな顔で聞いてくる。
その顔を見た途端、月彦の危惧は一気に吹っ飛んだ。
人を騙そうとする者がこんな顔ができるわけがない、そういう確信めいたものが沸々と沸いてくる。
「ん、なんでもない。真央は…その、大丈夫なのか?初めて…だったんだろ?」
「うん、大丈夫。すぐに痛みは無くなったから。………その後は、凄く気持ちよかったよ、父さまっ」
真央は少し顔を赤くしてにっこりと微笑んだ。
月彦はやや複雑な気持ちになりつつ、
「いや、そういう意味でもあったんだけど…。真央は俺が”初めて”の相手で良かったのか?その…里とかに好きな男とか居るんじゃないのか?」
少し言いにくそうに言った。
「大丈夫だよ、私、父さまのこと大好きだから」
真央はそう言って、少し淋しそうな顔をすると、
「…それに私、里じゃいじめられっ子だったから」
そう付け加えた。
「…………………そ、か。真央も、大変だったんだな」
何となく、真央が虐められた理由というのは察せた。
月彦はそれ以上は何も追求せず、真央の背中と後頭部に手を回すと優しくぽんぽんと叩いた。
「大丈夫だ、真央。これからは何があっても俺が守ってやるからな。お前を虐める奴がいたら俺がぶっ殺してやる」
出任せでも、嘘でもなく、本心からそう思った。
真央が驚いたような顔で月彦を見上げる。
「父さま…」
「そんな顔するなって。親子なんだから当たり前だろ?」
月彦は優しい笑みを浮かべてそっと真央の頬にキスをした。
「ぁっ…父さまぁ…」
真央が震えた声をあげて、ギュウと痛いくらい抱きついてくる。
「これからよろしくな、真央」
月彦も真央の体を抱きしめ、囁くように言った。
「…父さま、」
真央がふいに声を出した。
「うん?なんだ真央」
「あの、ね…そのっ………」
真央は照れるように頬を染めて唇をもごつかせる。
「うん?」
「その…父さまと……もう一回………シたいな…」
真央は消え入りそうな声で呟いて、かあぁと顔を真っ赤にした。
月彦はやや呆気にとられながら苦笑を漏らした。
「シたい…って…何を?」
そして意地悪く真央に問い返した。
「えっ……その……え、…えっち…を…」
真央の顔が一層赤くなる。
月彦はその髪をくしゃくしゃに撫でて、
「全く…ほんっと、真央は”淫乱”だな。母さんそっくりだ」
キツネ耳に意地悪っぽく囁いて、突き入れっぱなしの剛直の先でぐりぐりと真央の膣奥を刺激する。
「ぁんンッ!…やっ…とぉさま…言わないで……っ…」
真央は煙が出そうなくらい顔を真っ赤にして両手で覆ってしまう。
そんな仕草を月彦は可愛いなと思いつつも、頭の上で伏せっぱなしになっているキツネ耳の片方を指で摘んで開かせて、
「真央、後ろからシてやるから、四つん這いになってお尻上げて…」
ぼそぼそと優しく囁きかける。
「は、はいっ…父さまぁ…」
真央はおずおずと体を起こすと言われた通りに四つん這いになり、小振りなまだ肉付きが十分でない尻を突き出すようにした。
「凄いな、真央のココは…。殆ど零さないな」
月彦は僅かに白濁をトロリと漏らす真央の秘裂をしげしげと見つめるようにして態と真央の羞恥を煽る。
「やっ…とぉさま…そんな、見ないでぇ…」
「どうして?真央のココ…こんなに綺麗なのに」
態と息を吹きかけるように喋ると、真央が身を捩って手で隠そうとしてきた。
「真央、隠すと続きをしてやらないぞ?」
諭すような口調で月彦が言うと、真央はビクッと体を震わせて、おずおずと手をどけた。
その代わりに秘裂には今にも糸を引いて滴を垂らしそうな程、恥蜜を潤ませてくる。
「まだ触ってもない、見てるだけなのに…ヤラしいな。真央は…」
「っ…父さまぁぁ」
真央が不安げな声を上げる。
くすっ、と月彦は笑みを零すと、真央の尻の上の辺りでくねくねと物欲しそうにうねる狐の尻尾を物珍しそうに掴んだ。
「ひゃんっ!?」
途端、真央が驚いたような声を上げる。
「尻尾も可愛いな、真央は。毛並みもいい」
月彦は優しく、撫でるように尻尾の付け根から先の方まで擦った。
「ひっぁっ、ぁっ…と、さま…やっ…尻尾…………」
「うん?」
見ると、真央はくたぁっ、と体を脱力させて尻だけを持ち上げるような恰好になっていた。
「もしかして、真央…尻尾、弱い?」
こしゅこしゅっ、と扱くように尻尾を刺激して、月彦は訪ねた。
「んっ…ぁっ、尻尾、触られるとっ、…力…抜けちゃうっ…ひゃぅんッ!…ぁっ、だめっ…とぉさまっ…」
「…力が抜けるだけじゃあないようだが」
月彦は強く扱いてみたり、緩急をつけたりただ毛先に触れるだけだったり、ギュッと握りしめてみたりと真央の反応を伺いながらいろんな愛撫を試してみる。
尻尾の感度は付け根に行けば行くほど敏感になるらしかった。
月彦はこしゅこしゅっ、と尻尾の付け根の辺りを強く擦り上げた。
「ひゃあぁッ!?きゃっ、きゃぅぅうううんんッ!!!!」
ビビビッ!と尻尾の毛を逆立てながら真央が悲鳴の様な声を上げ、ぴゅくっと秘裂から恥蜜を噴きだした。
「尻尾だけでイッちゃったな、真央?」
「ひ、ん……とぉさまの、いぢわるぅ…」
真央が怒ったような声を出して月彦の方を振り返る。
「ん、真央は尻尾触られるの嫌いなのか?」
月彦は尻尾の先を握り、ふにふにと親指で愛撫する。
「ぁっ、ぁっ……嫌い、じゃ…ないけど……」
「けど…?」
「感じ…すぎちゃう…から…ッっ!」
「それは、めちゃくちゃ気持ちいい…っていう意味なのかな?」
月彦はひとしきり尻尾を付け根から先まで撫でた後、もうおしまいとばかりに尻尾から手を離した。
「ぁ、ン…っ」
真央が名残惜しそうな声を上げて、尻尾をくねらせる。
その尻に、月彦は両手を添えてぐにぐにと揉みほぐした。
「真央が気持ちいい尻尾…もっと弄ってやりたいけど、俺もそろそろ真央のナカが欲しいんだ。…真央、いいか?」
ぐいぐいと怒張の先端で入り口を刺激すると、真央が微かにコクリと頷く。
月彦は真央の尻を掴み、哮る剛直をズンッ、とそのナカへと突き入れる。
「はぁぁあんッ!」
真央が前にも増して大きな声で喘ぐ。
月彦は一気に剛直を真央の最奥まで突き入れ、そのまま真央の上から覆い被さった。
「ッ…こうしてると、…まるでケモノの交尾みたいだな…なぁ、真央…?」
ピクピク震えるキツネ耳にそう囁くとぐちゅっ!ぐじゅっ!と淫湿な音が部屋中に満ちるほどに荒々しく真央の膣内をかき回していく。
「ひんっ!あんっ!ぁあっ、とぉさまっ…ぁぁっ、っ…ぁあんッ!ぁあっ…ッ!」
真央はベッドのシーツを掴み、尻だけを持ち上げるような恰好で嬌声を上げる。
剛直が膣奥を小突く度にその尻尾が勃起し、毛を逆立てた。
「はぁっ、ふっ…真央、尻尾が…擦って欲しそうにっ…勃ってるぞ…?」
「ひぁっ…あっ!?…やっ、とぉさまッッ―――」
言葉の意味を理解したのか、真央の顔が一瞬怯えに変わる。
月彦は片手で真央の背中を押さえるようにして剛直を突き入れ、同時に尻尾の付け根を強く擦り上げた。
「ひゃああッ!ぁあああぁんんんッ!!」
真央が絶叫して、ギチギチと剛直を締め上げてくる。
「ッ…凄い、締まりっ……」
月彦は尻尾を離して両手で真央の腰を掴むとパンッ!パンッ!と強く、尻肉が波打つ程に荒々しく突き込む。
先ほどタップリ出したばかりだというのに、もう剛直の根本にはドロドロの白濁が満タンに溜まっているようなそんな錯覚があった。
(ヤ…ベッ…気持ち良すぎっ……!)
とても長持ちさせる余裕など無かった。
ただひたすら仁獣の如く腰を振り、剛直を突き込んだ。
「ああぁああッ!とぉさまッ!とぉさまぁッ!イクッ!イッちゃうッ!!」
真央がサカッた声で悶え、尻を振ってくる。
「ッ…真、央ッ…!」
月彦は限界を感じて、ぐぷっ、と一際深く剛直を突き入れた。
「ひぃんッ!!!」
刹那、真央が悲鳴を上げた。
ごりっ、と剛直の先端を膣奥に擦りつけて、そのままびゅくん!びゅくん!と白濁液をぶちまけていく。
「はぁぁぁぁ……出てるぅ…とぉさまの…熱いの…びゅくんっ、びゅくんって……ぁぁぁぁぁ……」
ベッドのシーツに涎を零しながら、真央は満足そうに漏らした。
月彦もひとしきり出し終えると、ぬ゛るんッ、と剛直を引き抜き、真央に後ろから覆い被さる。
「はーっ…はーっ……つ、疲れたぁぁ……」
そのままごろりと真央の横に寝そべり、天井を仰いだ。
部屋の入り口付近の壁掛け時計が見えた―――どうやら4時を回っているようだった。
(…合計何時間ヤッてたんだ?)
長くもあるようで短かったようでもある、真央との睦み合いを振り返った。
しかし振り返ってみると一体どういうことなのだろう。
その日会ったばかりの親子がその日のうちに体を重ねるなんていう常識外れの出来事が今起きている。
しかも自分がその当事者として。
月彦は自分で自分が信じられないというとても変な気分に襲われた。
(ま、でも…悪い気はしない……のかな?)
苦笑。
「真央、これで満足したか?」
隣で俯せに息を整える愛娘―――真央に優しく声を掛ける。
真央は肘を突いてゆっくりと上体を起こすと、まだ熱の取れない顔で月彦に微笑みかけた。
「父さま…スゴい…」
息も絶え絶えに一言言うと、真央はぱたんと再びベッドに突っ伏してしまう。
「あらら…まあ、初めてで…いきなり2連戦もすればそうなるか」
そう言う月彦自身も全身に言いしれぬ気怠さを感じていた。
ああ、そういえば今日はマラソンもしてたなぁと今更ながらに思い出した。
全身の疲れに誘われて、不意に欠伸なども襲ってくるが、無理に逆らおうという気は起きなかった。
「父さま…」
「ん…?」
真央が甘えるような声を出してすりすりとすり寄ってくる。
「父さま、あのね…私、父さまに言わなきゃいけないことがあるの…」
「ん?まさかもう一回シたいとか…じゃないよな?」
冗談っぽく言うと、真央は赤くなって怒ったような顔をする。
「冗談だって。で、何だ?」
「うん、今日ね、父さまの『巣』で父さまが帰ってくるの待ってたんだけど…」
巣―――ああ、この部屋のコトかなと月彦は納得した。
「その…すごくお腹空いちゃって……勝手にご飯食べちゃったの……」
「ご飯…」
月彦はふと記憶を探ってみて、件のいなり寿司の一件だなと思った。
真央は怒られると思っているのか、キツネ耳を伏せたまま上目遣いに月彦の顔を伺っている。
すぐに月彦は優しい笑みを浮かべた。
「大丈夫、そんなの全然気にしてないって。お腹が空いてたんじゃしょうがないよな」
おかげで酷い目に遭ったが…というのは胸にしまっておく。
「…ごめんなさい、父さま」
「いいって、家族なんだから。そんなことで怒るわけないだろ?」
月彦は安心させるように、真央を抱き寄せてその背中をぽんぽんと撫でた。
「よし真央、今夜は一緒に寝ようか」
声をかけると、真央はウンと頷いて一層月彦に肌を密着させてくる。
月彦は手を伸ばして電灯のヒモを引き、部屋の灯りを消すとベッドの端にすっかり寄せられてしまっていたタオルケットを自分と真央とにかけた。
すぐ側に真央の体温と息づかいを感じて、心地よい眠気に月彦は包まれていくのを感じた。
「おやすみ、真央。また明日な」
愛娘の頬にそっとキスをする。
真央はくすぐったそうに声を上げて、
「おやすみ、父さま…」
ちゅっ、とキスを仕返してきて、瞼を瞑った。
月彦も同様に目を瞑る。
緩やかに沈んでいく豪華客船のようにゆっくりと眠りの底に引っ張られていくのを感じた。
全身の気怠さがベッドに解けていくような心地よさにつつまれて最期に月彦は思った。
(…真央のこと、姉ちゃんと母さんになんて言えばいいんだ?)
しかしそんな最大の問題すら、眠りゆく月彦の障害とは成り得なかった。
今はただ、疲れを癒すために深い眠りを月彦は求めた。
たとえ目覚めた先に修羅場が待っていようと。
熱っぽい、雅な吐息。
下半身に当たる確かな息づかいとゾワリとした感覚。
薄い目隠しでもされているかのように視界がハッキリしない、ぼんやりとぼやけていた。
「っ…!」
敏感な部位へのその刺激に思わず背を反らせた。
体の熱という熱がそこに集中してしまったみたいに他の場所の感覚が無い。
その代わりにそこが、そそり立つ肉柱だけが全身の感覚器官を集めたかのように敏感に、弄ばれる。
…体の自由は殆ど利かなかった。
ただ、”女”が体を触ってくるたびに痙攣する芋虫の様に身を捩ることが許されるだけだった。
そして、その度に女は目を細め、とても愉快そうに嗤うのだ。
「んっ…んふっ…ぐじゅっ、っぷぁっ…はぁっむっ…ぁんっ…んぷっ…じゅるっんぅ…ちゅっ、はぁ、むっあむっ…んぅ…」
淫らな音を立てて、女が剛直を啜る。
白いしなやかな指が絡んできて、先端部分を擦った。
「ッ…!!」
射精―――何度目だろうか。
気の遠くなるほど繰り返した筈のその行為だというのに、先端から溢れる白濁は一向に量が衰える気がしない。
しかしそれが溢れるたびに、体の熱は明らかに失われていく気がした。
「んぁっ…ぷっ…んっ…ごくっ…ごきゅっ…♪…んぁっ……ふふっ、セイエキ…美味しっ…ぁんッ…」
女が溢れる白濁をまるでアイスキャンディーでも舐めるかのように舐めとっていく。
ピンク色のザラついた小さな舌がずっ…と剛直に絡みついてくる。
「うっ、ぁ……も、う…やめっっ…んっっ!!」
息も絶え絶えの悲鳴を女が唇で塞ぐ。
そのままずるりと舌が入り込んできて、ぐじゅぐじゅと口腔内をも陵辱される。
「ん、ぁ………ふふっ、逃がさないわよっ…貴方は私のモノなんだから……あはっ…♪」
ふんふんと発情した獣のように鼻を鳴らして女が覆い被さってくる。
頬や髪の毛にぞわぞわと女の白い指が這ってきた。
まるで獲物の味を確かめるようにその額を、鼻を、唇を、頬を、喉に食らいつき、甘く噛んで舌を這わせていく。
「は…ぁっ…ンッ…ねっ、頂戴っ…また、熱いの…ドクドクって…いいでしょォ…?」
鼻にかかった声で女が耳元で囁いてくる。
拒むまもなく、女が体の上に跨ってきてずるりと下半身が飲み込まれる。
「ッぁ…!」
「はぁ…ァァン…んぁっ…堅くて…おっきぃぃ……ぁんっ……奥に…当たって…ふぁぁっ…ぁんっ」
胸板に手をついて、ぐいぐいと腰をくねらせ始める。
ぐっちゃにちゃと擂り粉木で固まったゼリーをかき混ぜるような音を立てて肉柱と肉壁が摩擦する。
「うっ…ぁっ…!」
何度味わっても慣れない感覚だった。
肉壁の感触はぬるぬるでもあり、ザラついているようでもあり、蛸の吸盤のように吸い付いてくるようでもあった。
それらが交互に、否、乱雑に入り乱って絡みつき、吸い付き、締め上げてくる。
「ッ…ぁくっ…!」
ジンジンと下半身にまた熱が集中し始める。
苦しげに呻くと、また女が愉快そうに嗤った。
「ん、ぁ…ふふっ…可愛い声出しちゃって…そんなに気持ちいいンだ…?」
腰を深く埋め、ぐいぐいと膣奥を先端に擦りつけるように動かしてくる。
まるで剛直だけでなく、こちらの体そのものを飲み込もうとしているかのように。
「あふぅんっ、、…ねぇ…おっぱい…握って…ぁんっ…こね回してェ…」
女が手首を掴んできて、無理矢理に自分の胸を触らせる。
途端、全く力の入らなかった手が女に操られるかのようにその胸をこね回し始める。
豊満な、むっちりとした白い乳房を握り、掴み、捏ねる。
しっとりと汗ばんだその肌の質感が手のひらに吸い付いてくるようだった。
「んはぁぁっ…ぁあっふッ…ぅん、、、そぉぉ…もっと強くゥン…搾るみたいにしてェッ…ぁ…ァンッ…んっぁっ…」
鼻にかかった声を上げながら、女の動きが徐々に激しくなる。
ぐじゅっぬちゅっにちゃっ!
前後に、左右に、円を描くように。
ダンスでも踊るように腰をくねらせながら上下に揺さぶってくる。
「は、ぁんっ、ぁっ…ぃぃっぁぁぁああっ!…ふぅぅううぅんっぅ、いいわぁ…堅いの、奥にゴリゴリってしてェェ!…あぁあぁンンッ!…イきそぉっ…あんっ!」
女の目は虚空を見るように虚ろに。
白い肌を、頬を朱に染めて涎まみれの嬌声を盛らしながら文字通りケダモノのように腰を振る。
どろりとした恥蜜と肉壁がぐっぽりと剛直を咥えこんだまま吸い付き、締め上げ、嬲りあげてくる。
「ッッ…あくッッ!!!」
ビクンッ!体が跳ねた。
びゅぐっ!びゅぐんっ、と凄まじい勢いで熱い濁流が先端から迸る。
「はぁぁ…ぁあんんっ!ぁぁっ…熱いのっ…ドクドクってェ…あんっ…ぁああぁああぁっ!!」
熱い白濁の奔流を膣奥に受けて女は声を上げながら身を捩り、覆い被さってくる。
上気した肌には玉のような汗がぷつぷつと浮かんで、滴ってきた。
「ぁぁああぁあっ……ねえッ!もっとぉ…もっと頂戴っっ、熱いセイエキ…孕んじゃうくらいいっぱい頂戴ぃっッ!!」
ギュウギュウと双乳を胸板に押しつけながら、女が耳元でサカった声をあげる。
咥えこまれた肉柱にはどういうわけか一向に衰えがこない。
溢れる白濁の量も一向に減らない。
ただ、確実なのは射精の度に体の熱が、命が奪われているということ。
―――殺されるッ!
直感だった。
逃げなければ殺される。
だが、体の自由は利かない。
恐怖だった。
どうしようもない、蜘蛛の巣に捕まった蝶のような絶望感。
「…っ…た、す、け、て……!!」
搾るような声。
掠れたようなその声に女がまた嗤う。
心底愉快そうに、目を細めて、雅に。
即座に理解した。
女には自分を逃がすつもりなどはない。
死ぬまで貪られるという現実。
「う、ぁ、あ、、、」
必死に逃げようと、藻掻いた。
しかしそれは敵わないコト。
逃げられないということはとうの昔に分かり切っていた筈だった。
なぜならこれは―――ただの―――
ゴンッ!
いきなり頭に鈍い衝撃が走った。
「…朝っぱらから変な夢見て悶えるな、変態。気色悪い…」
聞き慣れた声の罵声が耳に飛び込んでくる。
月彦はとっさにベッドから体を起こして声の方を向いた。
明らかに寝不足の目をした姉の霧亜があきれ果てた顔でベッドの横に立っていた。
「ッてぇぇ……あれ?姉ちゃん……って、あれ…?」
「あれ、じゃない。朝飯、早く起きな。」
霧亜は用件だけ早口で伝えるとまるで汚い物でも見るような目つきで月彦を見下ろし、そそくさと部屋から出て行った。
月彦は困惑しつつも、今自分の部屋に居て自分のベッドの上に寝ているということを認識する。
「……畜生っ、またあの夢見ちまった」
枕元の目覚まし時計と、トランクスの中の嫌な感触に月彦は舌打ちした。
『キツネツキ』
第一話
心地よい陽気の春の空。
白い雲は風のままにゆっくりとその形を変え、流されていく。
公立比丘仙高校の屋上、ぐるりと囲われた鉄柵に凭れるようにして紺崎月彦はぼんやりと空を眺めていた。
「なあ、月彦」
昼食のタマゴサンドウィッチを頬張りながら隣にいた静間和樹が声をかけてくる。
「なんだよ」
月彦は些か鬱陶しそうに返事を返した。
「食わねえんなら、オレ食うぞ。今日朝飯食ってねーんだ」
「……食う」
月彦は思い出したようにビニール袋に手を突っ込み、ラップでぐるぐる巻きにされたホットドッグを取り出した。
「なんだ、今日はヤケにテンション低いな。アノ日か?」
和樹が下卑た笑みを浮かべる。
たった今自分の朝食を食べたばかりだというのに月彦に頬張られるホットドッグを物欲しそうに目で追ってくる。
和樹は体格の良い、どちらかというと筋肉質な男だ。
燃費が悪いのだろうか―――と、月彦は思う。
「例の夢だ」
月彦はホットドッグを半分ほど食べてため息混じりに言った。
「夢ってあれか?変な女にレイプされるってやつ?」
ウヒヒ、とさらに下卑た笑みを浮かべる。
「お前も好きだなあ、溜まってんじゃねえのか?」
「あのなあ、カズ。あの夢はお前が想像するような生やさしいモンじゃねえぞ」
月彦はホットドッグの残り半分を一気に頬張る。
「むぐ、なんつーかだなぁ。骨の髄までしゃぶられるっつーか、死して尚いたぶられるっつーか、とにかく尋常じゃねえんだ」
「でもお前、ヤッてることはセックスなんだろ?」
「まあ、そうなんだけどな」
「夢精したのか?」
「……ヤなコト聞くなあ、お前も」
この男らしいと言えばらしい…と月彦は妙に納得した。
「したんだろ?んで姉ちゃんにでも見つかったか?お前の姉ちゃんマジ怖ぇーからな」
「ただのパソコンオタクだ。どーってことねぇよ」
月彦は強がって、パックの牛乳にストローを刺し、ずずっと吸い上げる。
「…まあ、でもあれだ。もしかしたらその夢ってのは夢じゃないのかもなぁ」
すすすっ、と和樹がビニール袋に残るアンパンにこっそり手を伸ばそうとするのを、ビニール袋を咄嗟に避難させて防ぐ。
「…どういう意味だ?」
「いやほら、お前がその夢見始めたのってアレだろ?中1の時の林間学校の―――」
「………………………」
ッ、と月彦はパック牛乳から唇を離した。
確かに和樹の言う通りなのだ。
中学1年の夏、月彦と和樹は学年をあげての林間学校として近くの山に合宿に行ったのだ。
合宿は3泊4日。
スケジュールにはキャンプファイヤーにレクリエーション、登山などが盛り込まれており、新入生の親睦を深めるのが目的で毎年行われている伝統行事だった。
勿論全ては滞りなく進み、何の問題もなく林間学校は終了する筈だった。
そう、一人の生徒が登山中に姿を消すまでは。
「お前、あの時のコト何も覚えてないんだろ?」
「………ああ」
月彦は気のない返事をした。
確かに和樹が言った通り何も覚えてないのだ。
何故登山中に自分が行方不明になったのか。
行列の真ん中に居た筈が月彦はもとより周囲に居た筈の友人達でさえいつ居なくなったのか気が付かなかったという。
神隠し―――生徒が一人突然消えた現象に誰かがそう囁き始めた。
『キツネに攫われたに違いない』
捜索に協力した地元の青年団はそう口々に噂した。
月彦が消えた場所は狐美姫峠と呼ばれ、古くからキツネに関する神隠しの伝承が多く残っている土地だったというのもあったのだろう。
TVやマスコミもこぞって『消えた少年』のことを報道し、連日連夜の山狩りが行われた。
それでも月彦が消えてから一週間が経過しても、何も手がかりはつかめなかった。
そしてその生還が絶望視され始めた頃、ひょんな所から月彦は発見されたのだった。
「裸で家の玄関先に倒れてたんだっけか。確か」
「………よく覚えてるな、お前。自分のコトでもないのに」
「そりゃあお前は失踪してたから知らねえだろうけど、あン時はすっげぇ騒ぎになってたんだぜ?」
「そうらしいな。おかげで俺は有名人だ」
はぁ………と月彦は大げさにため息をついた。
「なあ、お前のその夢に出てくる女って、どんなんなんだ?美人か?それとも不細工なのか?」
「…いきなり話題を変えるな、混乱するだろが!」
月彦は窘めたが、和樹はウヒヒ、とまた品のない笑いをする。
ああ、こいつが女にモテないのはこの笑い方のせいかな―――とふいに月彦は思った。
「まあそう言うなって。俺は俺なりにお前のトラウマの原因探ってやろうと必死なんだぜ?なあ、夢の中の女ってどんなんなんだ?特徴は?」
「特徴ねえ………そういや、耳がついてたなぁ」
月彦がぼんやりと呟くと、和樹が露骨に情けない顔をする。
「…それのどこが特徴なんだよ」
「いや、こういう耳じゃなくてよ、なんつーの…ケモノ耳ってのか?そいつがな、こう頭の上ににょきにょきと…」
「…なんだそりゃ、変な女だなぁ」
「ああ、あと尻尾もあったなぁ…犬みたいな尻尾が……」
「……お前、バケモンに童貞捧げたんだな。同情するぜ」
心底同情するような顔をして和樹はぽむと肩に手を置いてきた。
「……見た目はそんなに悪いモンじゃなかったんだけどなぁ」
ぼそりと聞こえないくらいの小声で月彦は呟いた。
夢の中に出てくる女は確かに美人だったのだ。
少しつり上がった、キツそうな目に整った顔立ち、狐色の長い髪。
色白の肌、華奢であるようで肉付きの良い体、豊満な乳房。
(性格がアレじゃなきゃあ…惚れてたかもなぁ…)
月彦は目を閉じて今朝の夢の光景を思い浮かべ、静かに頷いた。
―――ミツケタ。
「ッ!?」
「どーした?」
うわずった声で和樹が声をかける。
「いや……今、お前何か言ったか?」
「んや、何も…むぐっ」
和樹はハムスターの様に頬を膨らませたまましらばっくれた。
「……カズ、俺のアンパンはどうした?」
「んぐっ、知らんな。げふっ。宇宙人にでも持ってかれたんじゃないか?」
「…80円の貸しな。明日払えよ」
「ケチくさい奴だな。パンの一つや二つで」
「お前に言われたくねぇ!……っと、そりゃいいとしてさっき何か聞こえなかったか?”見つけた”…とかなんとか」
「なんだ、変な夢で夢精した後は電波か?お前、もしかして俺に嫌われたいのか?」
「嫌いたいなら嫌ってくれても別に俺はかまわんが…そうか、幻聴か…」
「なあ、月彦よ。俺は新しい問題を発見したぞ」
「なんだよ」
「時計見てみろ」
言われるままに月彦は左手首の時計を見てみる。
1時10分。
ちなみに昼休みは12時50分までである。
「…いつの間にか授業が始まってるじゃないか。チャイム鳴ったか?」
「うむ、どうやらいつのまにか鳴っていたようだ。しかし問題はそのことだけじゃないんだ」
「というと?」
「次の授業は体育で、どうやら俺たち2人ともロックオンされてるってコト」
クイクイと和樹が顎で遙か下のグラウンドを指す。
そして既に着替えを終え、グラウンドを走るクラスメイト達とその傍らで腕を組んで仁王立ちのままジッと屋上の月彦達をにらみつける熊のような体格の男が居た。
「うげ…坂井っ……」
「…お前が言った”見つけた”ってーのはアイツの声だったんじゃないのか?」
「まさか。あんな所からここまでそんなこと叫ぶワケねえだろ。それにさっきのは…なんつーか、囁き声って感じだったし」
自分で言いつつも、月彦は改めて体育教師との距離を測る。
方や四階建て鉄筋コンクリート校舎の屋上、方やその校舎の根本から200メートルは離れている場所に居る教師。
相当な大声でなければ聞こえる筈はない。
「……なあ、カズ。質問だが」
「なんだ、月彦」
「このままフケるのと急ぐの、どっちがいいと思う?」
「急いだ方がいいかなぁ、アイツ視力2.0って話だし絶対俺たちの顔見えてる」
「だろうな…。スッゲェ顔して睨んでるぜ―――っておいっ!置いていくなよッ!!」
「ッソォォ…坂井の奴…冬でもねーのにマラソンなんかさせやがって……」
夕暮れ時の河川敷の土手の上を月彦は文字通り体を引きずるようにして歩いていた。
太股、ふくらはぎの筋肉が引きつるように痛み、足を動かすのも億劫になってくる。
「あー………だめだ、足痛てっ」
月彦はドカッ、と土手の上に腰を下ろし、寝転がった。
足首ほどの背丈の草がチクチクと指すように痛むが、それよりなにより体の疲労の方が強かった。
「…………まただ」
ずるりと体にまとわりつくような視線を感じて月彦は体を起こした。。
なんともいえない違和感。
昼間屋上で感じた時からまるで思い出したようなタイミングで”何か”に見られているような気がするのだ。
それとなく土手の下などを見回してみるが、それらしき視線を送っている者などは居なかった。
「……気のせい、だよな。」
「何が気のせいなの?」
ふいに声がして、月彦は振り返った。
真っ先に目にはいるのは長毛種の大型犬。
その手綱を持ったポニーテールの女―――幼なじみの白石妙子だ。
「…やあ、妙子じゃないか」
「アンタこんなところで何やってんの?」
「いや、別に何も………………なんでジーンズなんだよ畜生」
見えないじゃないか、と月彦は心の中で呟いた。
「ジーンズがどうかした?」
「独り言だ、気にすんなって。お前こそ何やってんだ?」
「散歩。………っていつもここ通ってるの知ってんでしょ?」
「でもその割にはあんまり会わないよな」
俺もここは下校の時に毎日通るんだが、と月彦は付け加えた。
「うん、散歩の時間アンタの下校時間とかぶらないようにしてるから」
「…お前なぁ、わざわざ遠回りな道を選んでお前と会う機会増やしてる俺の努力を踏みにじるようなコトを…」
月彦は言葉を途中で切って、代わりにふぅとため息をついた。
「……女子校、楽しいか?」
「それなりに」
すっ、と衣擦れの音を立てて妙子が月彦の隣に座った。
ふわりと風が凪いで、妙子の髪が揺らいだ。
「もう3年かぁ」
「何が?」
「ん、お前と別れてから」
「もともとつき合ってもなかったでしょ」
妙子は淡々とした口調で返す。
「やっぱり冷たくなったよなぁ、お前」
「そう?」
「胸の方はデカくなったよな。昔、散々揉んでやったもんな」
月彦はジッと視線を妙子の胸元に降ろした。
厚手の服の下にある確かな膨らみは隠しても隠しきれないといった具合だ。
「どれ、ちょっと味見を………」
するするとその胸に手を伸ばす―――を、妙子が手刀でたたき落とした。
「…痛いじゃないか」
手首を押さえて月彦が泣きそうな声を出す。
はぁ、と妙子は大きくため息をついて
「変わってないね、アンタ」
呆れたように呟いて立ち上がると、パンパンと草土を払った。
「なんだ、もう帰るのか?」
「帰るわよ。別にアンタなんかと話すことなんて無いし」
「でも、始めに声かけてきたのはお前だぜ」
「………気まぐれよ。バイアラン、帰るわよ」
妙子の声に反応するように、老いた雄犬はむくりと体を起こすとふんふんとその足下にすりよってくる。
「なあ、妙子」
歩み去る妙子の背に月彦は思わず声をかけた。
「俺、今でも好きだぞ。お前のこと」
「………………」
妙子は無言のまま、再び歩き出した。
月彦は再びごろりと草の絨毯に寝ころんだ。
既に日は落ち、辺りには闇が覆い被さろうとしていた。
月彦が自宅へ帰り着いたときには既に辺りは暗く、街灯の光もなんのそのといった具合だった。
不思議と辺りが闇に包まれると体を包み込む例のずるりとした視線は感じられなくなっていた。
「…やっぱり気のせいだったんだ、うん」
自分に言い聞かせるように月彦は呟いて、玄関のドアを開けた。
「ただいまー…ってそういや母さんは法事行ってんだっけか」
月彦はハッと声の音量を落とした。
途端にこそこそとドロボウのような手つき、足つきで靴を脱ぐと音を立てないようにそっと階段を上がる。
「あれ、アンタ―――」
ふいに声をかけられて、月彦は心臓が口から飛び出しそうなくらい驚いた。
「な、なんだよっ…姉ちゃん、起きてたのか」
階段の途中で丁度降りようとしている姉の霧亜と遭遇したのだ。
この時間に起きてるのは珍しいな―――と月彦が言おうとした時だった。
「アンタ、さっき帰ってきたんじゃないの?」
「はぁ……?」
霧亜はぽりぽりと寝癖で跳ねた髪を掻きながら首を捻り、
「………気のせいか。」
くわえタバコを落とさないように呟くと、ギィギィと階段を軋ませながら階下へと降りていった。
「…………なんだ?」
月彦も霧亜同様に首を傾げつつも自室に戻った。
灯りのついていない室内は暗かったが、わざわざ電灯をつけなくても何が何処にあるのかは手に取るように分かる。
月彦はカバンをその辺に放ると制服を手早く脱ぎ、部屋着に着替えた。
着替え終わると階段を下り、台所へ向かう。
丁度ラップにかけられたおかずを一品一品霧亜が電子レンジで温め直している所だった。
「腹減ったぁぁ………飯は炊いてんの?」
「あたしの分だけ。」
姉は冷たく言い放つ。
「………俺の分は?」
「自分で炊けば?」
「…今からですか?」
月彦は思わず敬語を使ってしまった。
「別に、アンタの好きな時に炊けばいいんじゃない?」
「…はい、そうします」
今更ながら、この姉の性格はどうにかならないものか、と月彦は思う。
意地悪だとか仲が悪いとかそういう次元ですらない、自分勝手というのも何か違う気がする。
人のことを羽虫か何かとでも思っているような、そんな態度なのだ。
(畜生…なんでこんなのが姉ちゃんなんだ…)
月彦は一刻も早く高校を卒業し、一人暮らしを始めたいと切に願った。
「月彦、」
「は、はいぃっ!?」
急に声を掛けられて、月彦は素っ頓狂な声を上げた。
まさか―――心を読まれた!?そんなありえない危惧さえ沸いてくる。
いや、さすがにそれはないだろう―――でもこの姉ならあり得るかも知れない。
「…おかずが足りない」
「へ…?」
しかし姉の言葉はそんな月彦の危惧とは全く無縁のことだった。
「いなり寿司…昼はあったのに…」
ジロリ、と避難するような目を霧亜が向けてくる。
「アンタ、食った?」
「食ったもなにも俺は今帰ってきたばっかだって!」
「…じゃあ、キツネか」
「は………?」
よく分からないような声を月彦が出すと、霧亜は咥えていたタバコをぺっ、と流しの生ゴミコーナーに吐きだした。
「キツネ、いなり寿司好きでしょ。だからキツネが全部食べちゃったのよ」
独り言の様に霧亜は呟き、徐にごそごそと食器棚の引き出しなどを探し始める。
月彦がその様子を不思議そうに見ていると霧亜は戸棚の奥から油性ペンを取り出し、キュポッとそのキャップを外した。
「キツネ、キツネ」
うわごとの様に呟きながら月彦の顔へと油性ペンを向けてくる。
「ちょっ…姉ちゃっ」
逃げるまもなく、キュッキュッキュッ、と左右3本ずつ黒い線を引かれてしまう。
丁度漫画か何かに出てくるキツネの髭のような感じだ。
「…キツネ発見」
霧亜のその呟きと満足そうな微笑み、そして鉄拳はほぼ同時だった。
「ふぐッ」
ノーモーションの左ストレート。
ゴッ、という鈍い衝撃が走った後月彦は苦もなく転倒して漸くに自分が殴られたのだと気が付いた。
「母さんが法事で居ない今、家にはあたしとアンタしか居ないんだから。あたしが食ってないならアンタが食ったんでしょうが」
頬を押さえて問答する月彦に霧亜は鬱陶しそうに髪を掻き上げ、その脇腹にさらに蹴りをいれる。
「はうっ!」
情けない声を上げて、月彦は悶絶する。
さらに霧亜は容赦なくその背中を蹴り飛ばした。
「がッ…!違っ…俺じゃ無っっ」
「まだ言うか」
必死に無実を訴えるも、無慈悲な姉は眉一つ動かさずに側頭部を踏みつけた。
グリグリと台所の冷たい床の感触が頬に押しつけられる。
「…何か、言うことは?」
愛用のジッポで新しいタバコに火をつけながら、霧亜が吐き捨てるように言った。
「ご、ごめんなさい」
月彦はほぼ条件反射的に謝った。
「何が?」
霧亜は身を屈めるとフゥーとタバコの煙を月彦の顔面に吹きつけた。
「か、勝手にいなり寿司全部食べたコトと、それを隠したコトです!」
月彦は必死だった。
まるで戦時中の兵士が上官に戦況報告をするときのように大声で言った。
「ん、やっぱりアンタが犯人だったか」
霧亜は満足げに呟くと、ゆっくりと月彦の足を踏みつけていた足をどける。
あぁ…助かったと月彦がよろよろと体を起こそうとすると、その鳩尾にこれでもかとばかりにつま先蹴りをけり込んでくる。
「ッ!」
あまりの蹴りの威力に月彦はうめき声すら上げられずに再び床に悶倒した。
そのまま悶絶し、床の上で体を痙攣させる。
「食ったんなら、最初からそう言え。愚図」
姉の最期の言葉は台所の床にも負けないくらい冷たく感じられた。
そして月彦はそのまま気を失った。
月彦が目を覚ましたとき、家中の灯りは消え、当然のことながら台所も真っ暗闇に包まれていた。
そしてこれも当然のことながら月彦は気を失う前と同様に床の上に転がっていた。
無慈悲な姉が気を失った弟をわざわざベッドの上へ運んだり等するはずもない。
おまけに痛む体を引きずって冷蔵庫を開けてみると法事に行く母が作り置きおかずは全て平らげられていた。
「鬼だ、畜生………」
そもそも本当は無実なんだ、と月彦は心の中で呟いたが既に後の祭りだった。
「………ロクなコトがねぇ…」
本当に散々な一日だったと月彦は呻いた。
もとはといえばあんな夢を見たせいだ。
だいたい何で今頃―――。
「クソッ」
恨み言を上げたらキリがなかった。
空きっ腹も体の痛みもあったが、何より柔らかいベッドの上で眠り直したいという欲求があった。
月彦は立ち上がると壁に凭れるようにして階段を上がる。
2階、自室のとなりの霧亜の部屋からは灯りは漏れていない―――寝てるのか?
「……レイプでもされちまえっ」
月彦は少なからず本心と言えなくもない愚痴を零すと自室のドアを開いた。
当然の事ながら部屋の中も灯りはついていなかったが、かわりにガラス戸から入る月明かりがほんのりと室内を照らしていた。
そのおかげで月彦はさしたる苦もなくベッドの横まで進むと、文字通りベッドに倒れ込んだ。
「きゃんっ!」
変な感触がした、ついでに変な悲鳴も。
本来なら柔らかいベッドが体を迎える筈なのに、何か固いようで、それでいて部分的には柔らかいような感触がしたのだ。
「ぅぅぅ〜…痛いよぉ。。」
何やら泣きそうな声も聞こえる。
月彦は咄嗟に部屋の中央の電灯からぶらりとぶら下がっているヒモを引いた。
チカチカと何度か点灯した後、部屋の中が明るく照らされた。
「なっっ…!」
そしてベッドの上を見た。
見知らぬ女が上半身を起こし、眠そうに目を擦っている。
「誰だお前っ……ッ………!!」
思わず月彦は大声を上げそうになり、咄嗟に口を噤んだ。
隣の部屋の悪魔を起こしでもしたらさらなる地獄が待っていたからだ。
「…誰だお前、なんで俺の部屋に……」
そして、改めて小声で問い直した。
「むむぅぅぅ……眠いぃぃ…。」
しかしベッドの上の女はそのように呟くと再びぱたんとベッドに横になり、タオルケットを体に巻き付けるようにして寝入ろうとする。
月彦はずかずかとベッドに歩み寄るとタオルケットを引っぺがす。
「ひゃんっ!」
女は悲鳴を上げて、少し恨みがましい目で月彦を見上げる。
そしてすぐに、驚くような顔をして、目をぱちくりさせた。
「な、なんだよっ…」
女―――いや、少女と呼ぶのがまだ相応しいその相手にジッと魅入られ、月彦は少し後ずさりをした。
その直後だった。
「父さまぁぁあああっ!!!!」
猛烈なタックル―――いや、飛びつかれただけか?―――を受けて月彦は尻餅をついた。
「なっっ!?」
「父さまッ!父さまッ!父さまぁっっ!」
驚く月彦を尻目に、少女はしがみつき、泣きじゃくる。
「こ、こらっ…静かにしろっ!姉ちゃんが起きるだろうが!」
少女の大声に月彦は心臓をバクバク言わせながら必死に宥めた。
「うぇっ…ひっくっ…ひっく………」
少女は泣き顔のまま顔を上げ、ジッと月彦の顔を見る。
「泣くなって、とにかく落ち着いて…そう、深呼吸して……」
話は全てそれからだ―――と月彦は思った。
「で、」
月彦はベッドの端に腰掛け、絨毯の上で正座をしている少女を見下ろした。
「君は誰で、なんで俺のベッドで寝てたのか説明してもらおうか?」
月彦はまた泣かれないように、優しい口調で訪ね返した。
「ええと………」
少女は少し困ったような、そして言いにくそうに言葉を漏らした。
「は、初めまして…。私、名前は真央といいます。」
少女は丁寧口調でそのように答えるとぺこりとお辞儀をした。
「ふむ…」
まったく聞き覚えの無い名前だなと月彦は思いつつ、目の前の少女の容姿を改めて見直した。
顔は少々幼さが残る感じでおそらく年は15.6才くらいといったところだろうか。
行儀良く正座をしているところをみると親の躾はそれなりにいいらしい。
服装はちょっと変わった白い着物を着ている、見たこともないデザインだった。
だが、そんなことなど気にもならなくなるくらいの特徴が少女にはあった。
どこかで見たような、透き通るような白い肌に狐色の長い髪。
その髪の中からにょきにょきとせり出したネコのような耳。
そして、先ほどから忙しくパタパタと犬のように振られている尻尾。
「……………………………」
月彦は嫌な想像をして、そしてすぐにそれを打ち消した。
「あのっ…」
再び、少女―――真央が切り出した。
「5年前のこと…覚えてますか?」
「5年前?」
5年前というと俺が中1の時だな―――と考えて、月彦は顔を引きつらせた。
「狐に…襲われましたよね?」
「………………………」
「…それ、私の母さまです」
「………………………へ…?」
月彦は間抜けな声を出した。
いや、間抜けな声しか出せなかったと言うべきか。
「それで、そのぉ……」
さらに、真央は言いにくそうに続ける。
「私が…その時の―――」
「ちょ、ちょっと待て」
月彦は慌ててストップをかけた。
真央は驚いたような顔をして言葉を止める。
「確かに俺は5年前行方不明になった”らしい”けど、でも狐って……」
「母さまは妖狐です」
月彦の疑問を察したように、真央はキッパリと答えた。
「妖狐―――って…あの、人に化けたり術とか使ったりするっていうー……」
月彦がしどろもどろに問い返すと、真央はコクコクと頷いた。
そんなマンガみたいな話があるかぁ!―――と月彦は突っ込もうとして言葉を飲んだ。
確かにあの夢の感覚は現実離れした―――そう、狐に化かされているというような表現がしっくり来るような妖しさがあった。
そしてなにより、目の前の少女が夢に出てきた女によく似ているというのが話により信憑性をもたせるのだ。
「バカな…」
月彦は呻くように漏らして、片手で目元を覆った。
「じゃあアレは…あの夢は…その”妖狐”に攫われた時の記憶だっていうのか?」
月彦は目の前の妖狐の娘に問いかけるも、すぐに首を振った。
夢の話などしても、彼女には分かる筈もないのだ。
「…つまり、アレなのか…。その、妖狐ってのは…人間の男を攫ったりして…玩具にするのか?」
「…普通の妖狐はそんなことしません。でも、母さまは特別です」
真央はまた少しだけ辛そうな顔をする。
「特別…?」
「…母さまは…その、…すごく………………………淫乱だったんです…」
「はぁ…?」
月彦が声を上げると、真央は顔を真っ赤にして続けた。
「その…里にも…あっ、これは妖狐の里っていう意味なんですけど…そこにも雄の妖狐は居るんですけど……みんな母さまを満足させられなかったらしくって………」
真央はもごもごと、言いにくそうにしながらも話を続ける。
「……それで、とうとう母さま…禁を破って…人間に手を出しちゃったんです。それが……」
チラリ、と真央は視線を上げて月彦の顔を見る。
「…なるほど。でも、なんで俺だったんだ?あの時一学年約300人…あ、男子は半分か、それでも150人居て…他にも先生とかも居たのになんで俺が?」
「母さまが言うには、父さまが一番良い匂いがして…そして大きかったから……らしいです……」
「大きい………」
当然身長とか体格という意味ではあるまい―――月彦は即座に理解した。
多少なりとも自覚があったからだ。
「…妖狐ってのはそんなことまで分かるのか」
「千里眼っていう術があります。母さまの場合は…それに透視の術も併用させてたみたいですけど…」
「千里眼……」
月彦はハッとした。
昼間から続いていた”見られているような感覚”がそれだったのではないか。
「もしかして、君―――」
「真央って…呼んでください」
月彦を見上げながら、真央は願うような顔で言った。
「わかった、真央。真央は今日…その、千里眼ってやつで俺を見てた?」
訪ねると、真央は目をぱちくりさせて信じられないといった顔をする。
「気づいてたんですか?」
「気づいてたワケじゃないけど、なんか見られてるな〜…って気はしてたんだ。そっかぁ…アレが…」
うんうんと納得するように頷いていると、真央はキラキラと尊敬の眼差しを向けてくる。
「千里眼を悟るなんて…凄いです…さすが父さま…」
「…ちょっと待て、さっきから気になってたんだけど、”トウサマ”って?」
「…?…そのままの意味ですけど……お父さんっていう意味で……」
「……俺が、君の…お父さん?」
「はい」
真央は満面の笑顔で頷いた。
反面、月彦は悲痛に顔を歪める。
「……そんなバカな」
「信じてくれないんですか?」
真央も一転、不安そうな顔で聞き返してくる。
「信じるも何も……じゃあ、真央がここにきた理由っていうのは―――」
「父さまと一緒に暮らすためです」
「………一緒に、暮…らす………?」
真央の満面の笑みに、月彦は顔を引きつらせて、そして固まった。
月彦は混乱していた。
てっきり夢だと思っていた―――正確には思いこもうとしていた―――のが実は妖狐にレイプされた時の記憶だった。
そして5年たった今、その時の狐の娘だという妖狐がやってきて自分のことを父さまと呼ぶ。
挙げ句の果てに一緒に暮らすだとかそのようなことまで言っている。
真央曰く、真央の母親―――つまり月彦を攫って犯しまくった狐だが―――は悪戯が過ぎて封印刑というものをくらったらしい。
特別な呪法を施したツボなり箱なりに封印して反省を促すという人間の世界でいう刑務所の懲役のような仕組みらしい。
それで身よりの無くなった真央は特別に妖狐の里から出ることを許されて―――本来、よほどの用事がない限りは里から出ることは禁じられているらしい―――月彦の元へとやってきたのだという。
「………受け入れろ、というのか…。この現実を…」
月彦は泣きそうな声を出して、大きくため息をついた。
真央はといえば、先ほど身の上話を終えてからはべたべたと甘えるように月彦に背中から抱きつき、すりすりと体をすりつけてくる。
ケモノのマーキングのような行為なのだろうか、真央は至極嬉しそうな声で父さま、父さまと声をかけてくる。
さすがに事情を聞き、さらにこうも懐かれては追い返すわけにもいかないと月彦は思った。
「…母さん達になんて言やいいんだ……」
ため息をつく。
問題は山積みだった。
何から手をつけて良いのかすら分からない。
「……父さま、もしかして…迷惑してます…?」
ふいに、背中からそんな声がした。
振り返ると、先ほどまで嬉しそうに甘えていた真央が泣きそうな顔でジッと見つめてくる。
「い、いや…確かにショック…だったけど、……」
慌てて月彦は言葉を取り繕った。
その間にも真央の顔は徐々に泣き顔に、目尻には雫が浮かんでくる。
マズイ―――と思った。
「ま、真央ッ」
「きゃうっ」
咄嗟に月彦は真央を抱きしめた。
そして幼子にするように、その背中と、後頭部を優しく撫でる。
「えーと、その…なんだ……確かにいきなりでちょっと驚いたけどな、俺は別にお前を追い返そうとか、そういうことは考えてないから安心しろ、な?」
抱きしめてみると、真央の小ささがよく分かった。
それでも5才…にしては成長しすぎている気がするが、それは妖狐と人間の成長速度の違いによるものだろうということにして納得することにした。
「ふぇ……?」
腕の中の真央は今にも零れそうな涙を貯めて月彦を見上げる。
…こんな顔をされたら優しくするしか無いじゃないか!―――月彦はにっこりと微笑んだ。
「…まぁ、アレだ。これからよろしくな、真央。俺もお前に嫌われないように頑張るからな」
後頭部、狐色の手触りの良い髪の毛を優しく撫でた。
途端、ポロポロと真央の瞳から涙が溢れる。
「父さまぁぁああッ!!」
ギュウと真央が抱きついてきて、月彦の胸に顔を埋める。
悲し泣きではなく、嬉し泣きなのであろうが、それでも月彦は真央の大声にギクリとした。
「ま、真央っ…しーっ、しーっ…な?ほら…今は夜だろ?大声出したら…分かるだろ?」
慌てて諭すと、真央はグスン、グスンと泣くのを堪え始める。
「そうそう、いい子だな、真央は。母さんとは大違いだ」
この場合の”母さん”は月彦の母という意味ではなく、真央の、という意味である…念のための補足。
「父さま…母さまのこと覚えてるんですか?」
少し意外そうな顔で真央が尋ねる。
「それとなく、な。………そうだ、真央?」
「はい…?」
「これから一緒に暮らすことになるんだから、その…そんなに丁寧なしゃべり方じゃなくてだな、もっとくだけた感じで話さないか?その方がほら…親子って感じがするだろ?」
月彦の申し出が意外だったのか、真央が驚いたような顔をした。
そしてすぐに、
「うんっ」
笑顔で大きく頷いた。
「そうそう、そんな感じな。ですます口調で話す親子なんて堅苦しいもんな」
月彦は苦笑しながら真央の頭を撫でた。
柔らかい髪がとても心地よい手触りだった。
「そうだ、真央。真央もほら…アレ使えるのか?変化の術とかそういうの」
ふいに月彦は切り出した。
娘のことを少しでも詳しく知りたいという純粋な好奇心だった。
「うん、使えるよ」
真央は少し得意げな顔をして、大きく頷いた。
「真央の変化の術、父さまに見せてくれないか?」
猫撫で声で真央のキツネ耳にボソボソと囁くと、真央はくすぐったそうにウンと返事をした。
そして月彦から離れて絨毯の上に立つと、すぅ…と深呼吸をした。
「変化っ!」
真央が少し押さえ気味の声でそう叫ぶと、ぽんっという音を立てて真央の体が白煙に包まれた。
「おおっ…!?」
自分で催促したことながら、月彦は驚くような声を上げた。
白煙はすぐに跡形もなく消え失せ、そこに現れたのは―――
「たえ…こ?」
幼なじみの妙子。
夕方会った時のそのままの服装だった。
ただ、あの時と違うのは犬を連れてないということだった。
そうか、千里眼で妙子と会ってたのも見てたんだな―――月彦は納得した。
「…どう?父さまっ」
くるりと真央は一回転をして月彦ににっこり微笑んだ。
「…凄いな…これが変化の術か…」
月彦が目を丸くして驚いていると、真央はトンと跳ねるようにして月彦の隣に腰掛けた。
中身は真央でも見た目は完全に幼なじみの妙子。
月彦は思わずドキリと胸を弾ませた。
「ホント、凄いな…」
見ればみるほどそっくりだった。
髪の色も、その髪型も、少し勝ち気な顔も、豊かな胸も、腰のラインも。
ただ、中身が真央だということを覗けばそれは確かに妙子そのものだった。
「父さま、この人のこと好きなんだよね…?」
「えっ…?」
一瞬ドキリとした。
妙子の姿で、妙子の声で真央が囁いてきたのだ。
「千里眼は声は聞こえないけど…唇を読むことはできるから……」
「…凄いな、真央は…」
苦笑しながら月彦は褒めた。
と、その左手首がふいに捕まれる。
「……父さま、触っても…いいよ?」
真央が囁きながら、月彦の手を自らの胸元へと押しつける。
「こ、こらっ…何をっ……」
その動作にドキリとしながらも、月彦はさして抵抗もせず真央の胸元へと手を宛う。
ニセモノではない、本物のしっかりとした柔らかい感触が左手から直に伝わってくる。
(これが…妙子の胸か…)
ゆっくりと左手を動かして、真央の胸を捏ねる。
「ぁっ…」
妙子の姿で、妙子の声で真央が喘ぐ。
月彦は妙な興奮を覚えて愛撫を一層激しくする。
左手だけではなく、両手で”妙子の胸”を愛撫した。
「はぁんっ」
さっき月彦が言った事を気にしているのか、真央が押さえた声で咽ぶ。
”妙子の声”で咽ばれて、月彦はますますヒートアップした。
「…真央、脱がすぞ」
一言断って月彦は真央をベッドに押し倒した。
そしてハイネックの厚手のシャツを脱がせると、白い下着につつまれた豊かな胸が姿を現した。
(凄いな…こんな所まで似せられるのか…)
月彦は軽い感動を覚えながら、やや乱暴な手つきで下着をはぎ取った。
「ぁん…」
真央は切なそうに声を出しながら、その口をそっと片手で覆っていた。
手の甲越しに上気した頬が見えた。
「……………………」
たわわに実ったその柔らかい果実に手を這わせる。
下から掬うようにして手を宛うとにゅむと確かな重量を手のひらに伝えてきた。
そのまま手に力を込め、握った。
「ぁっ、ン…ぁ、…」
ピクンと体を震わせて、”妙子”が声を上げる。
月彦は鼻息を荒くして両手でその胸を触り、揉んだ。
ぎゅっむぎゅっ、と粘土を捏ねるように、握りしめるように。
尖った先端を指先で摘み、擦るように扱き上げる。
「ぁっ、んぁっ、あっ、ぁっ、ぁっ、とーさまっ、ぁぁぁっ…!」
「ッ………!」
”父さま”その声を聞いた途端、月彦はハッと我に返った。
そう、眼前にいるのは妙子ではない、娘の真央なのだ。
「わ、悪いっ…真央。ちょっと…興奮した…」
バツが悪く、月彦は慌てて脱がしたシャツを真央にかぶせる様にしてそっぽを向いた。
「もう、真央に戻ってもいいぞ。そのままだと本気で襲っちゃいそうだ」
はははっ、と冗談ぽく月彦が言うと、その背中に真央は妙子の声でぼそりと漏らす。
「……戻れないの」
「…なぬっ?」
月彦は真央の方を向き直った。
「…このままじゃ…変化の術解けないの…。」
真央は肌を上気させて、うわごとのように続ける。
「一回変化しちゃったら…イクまで戻れないの…だから、とーさま…」
ハァハァと息を荒げながら真央は体を起こすと月彦に抱きつくように絡みついてくる。
「ちょ、ちょっと待てっ!なんでっ…そんな………」
月彦は狼狽えながら問い返した。
「……母さまが…ちゃんとした戻り方、教えてくれなかったの…。だから…一回意識を飛ばして、無理矢理に術を解かないと……」
真央は恥ずかしそうに月彦の問いに答えた。
そして月彦は直感した。
きっと態と戻り方だけ教えなかったんだな―――と。
別に親しい相手でもないのに、そういったことを考えてそうだと手に取るように分かった。
「一回意識を飛ばすって…寝るとか、そういうのじゃだめなのか?」
真央は首を横に振る。
「じゃ、じゃあ―――ッ…んくっ!?」
何か他に手があるはずだ!と考えるまもなく、その唇に真央の唇が重ねられる。
くちゅるっ、と舌が割り入ってきて口腔内を嘗め回していく。
(…っ…!こ、れは…!)
夢の中でされたキスと同じ舌使いだった。
キスの仕方まで母親に教えられたのだろうか―――いや、あの母親ならやりかねないと月彦は納得した。
真央の舌はのたうつ蛇の様に月彦の舌を蹂躙し、歯茎を嘗め回し、そして唾液を啜っていく。
「ん、はぁ…」
トロリと糸を引いて、漸くにその舌が引き抜かれる。
そして同じ、唾液に濡れた唇で真央は囁く。
「とーさまっ…お願いっ…途中で、やめないで…」
真央は月彦をベッドに押し倒し、豊かな胸をその顔面に押しつけてくる。
「っ…ぷっ!」
肉厚ならぬ乳圧で呼吸すら困難になる。
月彦は慌てて真央の肩を掴んで押し上げた。
「ぷはっ…わかった、真央。…お前がイクまでつき合ってやる」
さすが”あの狐”の娘だと月彦は妙な説得力を感じながら、馬乗りになっている真央の双乳をもみくちゃにする。
「はぁぁっぁんっ!」
途端、真央がぎょっとするくらい大声を上げる。
月彦は慌てて人差し指を立てるが、
「だい、じょぶ…さっき、”静域”の術使ったから…この部屋から音は漏れないよ…」
肩で息をしながら、真央は微笑む。
「…そんな便利な術もあるのか…。俺も妖狐に産まれればよかったかな」
苦笑しながら、むぎゅっと強めに真央の乳を揉み捏ねる。
いくら中身が真央だと分かっては居ても、目の前の女は見た目は確かに妙子なのである。
興奮するなというのが無理な話だった。
「はぁっ、はぁっ、…とーさまっ…ぁんっ、お腹…熱いのっ……」
真央はパチンとGパンのホックを外すと器用に手早く脱ぎ捨ててしまう。
そしてぐっしょりと湿ったショーツごと秘裂を月彦の太股に擦りつけてくる。
「っ…こ、こらっ、真央…はしたないぞっ…」
しゅっ、ちゅっ…と擦りつけられる感触に月彦は思わず父親のような口調で窘めてしまう。
「はぁっんっ…だって、、」
「だってじゃない、―――って俺も真央のことは言えないか」
苦笑しながら、月彦は真央の体を抱え上げるようにして真央を自分の横に寝かせ直して、自らが上になる。
それだけで妙子の姿をした真央はハァハァと息をきらし、期待に満ちた目で月彦を見上げる。
「…全く、真央は母親似だな、絶対…」
くすっ、と笑みながら、仰向けになっても尚形を崩さないその胸の頂に舌を這わせる。
「ひゃっ…ぁっ、そんなっ…父さま…酷い……」
「どうして?真央は”母さま”に似ているって言われるのが嫌なのか?」
ピクピクと髪を揺らしながら可愛らしく震えるキツネ耳に月彦は優しく囁きかける。
「ひっ、ん、、…だって、母さまに似たら………」
「真央は淫乱だよ、十分に…ね」
月彦は意地悪く笑みながらショーツの中に手を伸ばし、既に潤みきっているそこをぐじゅっ、とやや強めに擦り上げた。
「ひぁっ!ぁああぁぁあんんッ!」
途端、真央はビクンと背を弓のように逸らして大声を上げた。
「ありゃ…?」
それは明らかな現象だった。
豊かだった胸がみるみるうちにその質量を失い、体自体も一回り小さい物になっていく。
身につけていたショーツだけそのままに、そのほかの衣類は霧のように消え失せていく。
変化の術が解けたのだ。
「なんだ、真央はもうイッちゃったのか」
クスクスと微笑みながら、月彦は震える真央の体を優しく抱きしめた。
「ふっぁっ…だ、って…と…さま、、いきなり………」
妙子の声ではない、真央自身の声で辿々しく漏らす。
心なしか、変化が解けた後の真央自身の声が数倍いやらしい声に聞こえてくる。
「でもま、これで変化も解けたし、万々歳だな」
ちゅっ、と真央の頬にキスをして、月彦は体を起こそうと―――できなかった。
「父さま…待って…」
ぎゅっと真央が月彦のシャツを掴んだまま離さない。
「まだ…足りないの…」
シャツを握る手にジットリと汗を滲ませながら、真央は辛そうに言う。
「た、足りない…って?」
真央の言葉を聞くだけで、月彦は変な気分になるのを感じていた。
それでも頭を振り、正気を保つ。
「欲しいの…父さまの……真央の膣内に……」
ざわざわと白い手を這わせてハーフズボンの上から月彦の股間を撫でてくる。
「ほ、欲しいっ…って…そりゃ…近親相姦―――」
言ってるうちに真央は手早くジッパーを降ろしてその中に手を滑り込ませる。
そしてグンッ、と固く剛立する熱塊を取り出し、なで回してくる。
「ま、真央っ……」
不思議と抵抗ができなかった。
いつかの…そう、夢の中の時の様に体の自由が利かない。
すっ、と月彦の首に真央が手を回してきて、その耳元に唇を寄せてくる。
「父さま…真央を、犯して……」
発情した牝狐の声でそう囁く。
刹那、月彦の理性は遙か闇の底に吹き飛ばされた。
「真央ッ…!」
月彦はケモノのように荒々しく声を上げると、破るように真央のショーツをはぎ取った。
「きゃッ…!」
悲鳴を上げる真央にかまわず、月彦は真央の足を広げさせると、先ほど露わになった剛直をその潤みきった泉に宛う。
「…ッ…」
一瞬の躊躇の後、月彦は両手で真央の腰を押さえるように掴む。
「…真央、挿れるぞ」
宣誓。
真央が答えるまもなく、月彦は雄々しく怒立するそれを突き入れた。
「あぎッ…!」
一瞬、真央が悲鳴を上げる―――それでも月彦はかまわず、肉を裂くような感触を感じながら真央の膣奥をこつんと小突いた。
「はぁ……はぁ……真央、…もしかして、始めて…だったか?」
息も絶え絶えに月彦が訪ねると、真央は涙目でコクリと頷いた。
「そ、っか……悪い、真央……俺、止まらない……」
見た目の幼さの割りにはとても良く成長している胸を両手でこね回しながら、月彦は少しずつ腰を前後し始める。
「はっ…ぁんっ!ぁっ、ぁっ、ぁっ……」
真央の顔からはすぐに苦痛の色が消えていく。
代わりに雅な、悦楽の光を目に宿して堕悦の媚声を盛らし始める。
「はぁっ…はぁっ……真央、痛く…ないか…?」
月彦は理性さえも吹き飛ばす何かに突き動かされながらも、真央のことを気遣った。
真央は微かに目尻に涙を貯めつつも、コクコクと頷いた。
「ッ…くそっ…なん、で……」
まるで体の首から下がハッキングでも受けたかのように言うことを利かなかった。
真央を優しく愛してやりたいと願っても、両手は荒々しく両の乳房をこね回し、乳首を抓り上げた。
腰の動きは徐々に大きく、剛直が抜け落ちる寸前まで引いて、一気に膣奥を小突いた。
「はぁんッ!あっ、ぁんっ、あんっ、ぁっ!あっ…と、さまっ…おっきいぃぃ…ぁあっ!ぁぁあああッ!!!」
剛直の荒々しい律動に真央は弓の様に背を逸らせ、喘いだ。
両手で月彦の体を掻きむしり、ギュウギュウと膣壁を収縮させて剛直を締め上げてくる。
「っ……ま、おっ…ッ…締まるっ…!」
月彦の体を痺れるような快感が駆け抜けていく。
剛直の付け根にドロリとした熱塊が溜まり、今にもはき出しそうになる。
「あんっ!ぁっはんッ!ぁぁっ…とぉさまっ…出してェっ…!とぉさまのっ、とぉさまの熱いのっ…いっぱいっっ!」
真央は自ら月彦の腰に足を絡め、首に手を絡め、自ら腰を突き出すようにして月彦の動きに合わせてくる。
じゅぷじゅぷと淫湿な音が部屋中に響き渡り、真央のさらなる嬌声がそれをかき消していく。
「っ…ぁくッ…真央っ…出るっっ!」
月彦が呻いた刹那、真央の膣内で剛直が震えた。
途端、どぷどぷと白濁のマグマが大量に狭い膣内にぶちまけられる。
「ぁぁぁあああああッ!ぁぁあっ!あーーーーーッ!!!」
そのうねりを受けて、真央は背骨が折れそうなくらい反らせて絶叫する。
ビクビクと電気ショックでも受けた様に全身を震わせて、ぎちぎちと剛直を締め付けてくる。
「っっ……真央っっ………!」
月彦は呻いて、ありったけの精液を真央の膣内に注ぎ込んだ。
びゅぐっ、と体の奥を刺激するその感触に真央は身もだえして声を漏らす。
「あっ…ぁ……とぉさま…っ…熱いの、いっぱい………」
真央は心地よさそうに身をくねらせ、至福の顔で月彦を見上げる。
「……悪い、真央…膣内で出した…」
月彦は罪悪感を誤魔化すように真央の唇に触れるだけのキスをするとぐったりと覆い被さる。
「んっ…大丈夫、父さま…妖狐は発情期じゃないと妊娠なんてしないから……」
真央は宥めるような口調でそっと月彦に囁くとにっこりと笑んだ。
はたしてそういう問題だろうか―――と月彦は複雑な気持ちになった。
もしかして妖狐という種族には近親相姦はタブーという概念は無いのかもしれない。
そう思えるくらい真央の態度には悪びれたものも、バツが悪いというようなこともなかった。
(…そもそも本当に親子なんだろうか…?)
今更ながらに月彦はそんなことを考えてしまう。
もしかしたら真央の話は途中までは本当で、そこから先は全くの嘘で自分はまた食い物にされようとしているんじゃないのか―――そんな考えさえ浮かんでくる。
「…父さま、どうしたの?」
気むずかしい顔をしていたのか、真央が不安そうな顔で聞いてくる。
その顔を見た途端、月彦の危惧は一気に吹っ飛んだ。
人を騙そうとする者がこんな顔ができるわけがない、そういう確信めいたものが沸々と沸いてくる。
「ん、なんでもない。真央は…その、大丈夫なのか?初めて…だったんだろ?」
「うん、大丈夫。すぐに痛みは無くなったから。………その後は、凄く気持ちよかったよ、父さまっ」
真央は少し顔を赤くしてにっこりと微笑んだ。
月彦はやや複雑な気持ちになりつつ、
「いや、そういう意味でもあったんだけど…。真央は俺が”初めて”の相手で良かったのか?その…里とかに好きな男とか居るんじゃないのか?」
少し言いにくそうに言った。
「大丈夫だよ、私、父さまのこと大好きだから」
真央はそう言って、少し淋しそうな顔をすると、
「…それに私、里じゃいじめられっ子だったから」
そう付け加えた。
「…………………そ、か。真央も、大変だったんだな」
何となく、真央が虐められた理由というのは察せた。
月彦はそれ以上は何も追求せず、真央の背中と後頭部に手を回すと優しくぽんぽんと叩いた。
「大丈夫だ、真央。これからは何があっても俺が守ってやるからな。お前を虐める奴がいたら俺がぶっ殺してやる」
出任せでも、嘘でもなく、本心からそう思った。
真央が驚いたような顔で月彦を見上げる。
「父さま…」
「そんな顔するなって。親子なんだから当たり前だろ?」
月彦は優しい笑みを浮かべてそっと真央の頬にキスをした。
「ぁっ…父さまぁ…」
真央が震えた声をあげて、ギュウと痛いくらい抱きついてくる。
「これからよろしくな、真央」
月彦も真央の体を抱きしめ、囁くように言った。
「…父さま、」
真央がふいに声を出した。
「うん?なんだ真央」
「あの、ね…そのっ………」
真央は照れるように頬を染めて唇をもごつかせる。
「うん?」
「その…父さまと……もう一回………シたいな…」
真央は消え入りそうな声で呟いて、かあぁと顔を真っ赤にした。
月彦はやや呆気にとられながら苦笑を漏らした。
「シたい…って…何を?」
そして意地悪く真央に問い返した。
「えっ……その……え、…えっち…を…」
真央の顔が一層赤くなる。
月彦はその髪をくしゃくしゃに撫でて、
「全く…ほんっと、真央は”淫乱”だな。母さんそっくりだ」
キツネ耳に意地悪っぽく囁いて、突き入れっぱなしの剛直の先でぐりぐりと真央の膣奥を刺激する。
「ぁんンッ!…やっ…とぉさま…言わないで……っ…」
真央は煙が出そうなくらい顔を真っ赤にして両手で覆ってしまう。
そんな仕草を月彦は可愛いなと思いつつも、頭の上で伏せっぱなしになっているキツネ耳の片方を指で摘んで開かせて、
「真央、後ろからシてやるから、四つん這いになってお尻上げて…」
ぼそぼそと優しく囁きかける。
「は、はいっ…父さまぁ…」
真央はおずおずと体を起こすと言われた通りに四つん這いになり、小振りなまだ肉付きが十分でない尻を突き出すようにした。
「凄いな、真央のココは…。殆ど零さないな」
月彦は僅かに白濁をトロリと漏らす真央の秘裂をしげしげと見つめるようにして態と真央の羞恥を煽る。
「やっ…とぉさま…そんな、見ないでぇ…」
「どうして?真央のココ…こんなに綺麗なのに」
態と息を吹きかけるように喋ると、真央が身を捩って手で隠そうとしてきた。
「真央、隠すと続きをしてやらないぞ?」
諭すような口調で月彦が言うと、真央はビクッと体を震わせて、おずおずと手をどけた。
その代わりに秘裂には今にも糸を引いて滴を垂らしそうな程、恥蜜を潤ませてくる。
「まだ触ってもない、見てるだけなのに…ヤラしいな。真央は…」
「っ…父さまぁぁ」
真央が不安げな声を上げる。
くすっ、と月彦は笑みを零すと、真央の尻の上の辺りでくねくねと物欲しそうにうねる狐の尻尾を物珍しそうに掴んだ。
「ひゃんっ!?」
途端、真央が驚いたような声を上げる。
「尻尾も可愛いな、真央は。毛並みもいい」
月彦は優しく、撫でるように尻尾の付け根から先の方まで擦った。
「ひっぁっ、ぁっ…と、さま…やっ…尻尾…………」
「うん?」
見ると、真央はくたぁっ、と体を脱力させて尻だけを持ち上げるような恰好になっていた。
「もしかして、真央…尻尾、弱い?」
こしゅこしゅっ、と扱くように尻尾を刺激して、月彦は訪ねた。
「んっ…ぁっ、尻尾、触られるとっ、…力…抜けちゃうっ…ひゃぅんッ!…ぁっ、だめっ…とぉさまっ…」
「…力が抜けるだけじゃあないようだが」
月彦は強く扱いてみたり、緩急をつけたりただ毛先に触れるだけだったり、ギュッと握りしめてみたりと真央の反応を伺いながらいろんな愛撫を試してみる。
尻尾の感度は付け根に行けば行くほど敏感になるらしかった。
月彦はこしゅこしゅっ、と尻尾の付け根の辺りを強く擦り上げた。
「ひゃあぁッ!?きゃっ、きゃぅぅうううんんッ!!!!」
ビビビッ!と尻尾の毛を逆立てながら真央が悲鳴の様な声を上げ、ぴゅくっと秘裂から恥蜜を噴きだした。
「尻尾だけでイッちゃったな、真央?」
「ひ、ん……とぉさまの、いぢわるぅ…」
真央が怒ったような声を出して月彦の方を振り返る。
「ん、真央は尻尾触られるの嫌いなのか?」
月彦は尻尾の先を握り、ふにふにと親指で愛撫する。
「ぁっ、ぁっ……嫌い、じゃ…ないけど……」
「けど…?」
「感じ…すぎちゃう…から…ッっ!」
「それは、めちゃくちゃ気持ちいい…っていう意味なのかな?」
月彦はひとしきり尻尾を付け根から先まで撫でた後、もうおしまいとばかりに尻尾から手を離した。
「ぁ、ン…っ」
真央が名残惜しそうな声を上げて、尻尾をくねらせる。
その尻に、月彦は両手を添えてぐにぐにと揉みほぐした。
「真央が気持ちいい尻尾…もっと弄ってやりたいけど、俺もそろそろ真央のナカが欲しいんだ。…真央、いいか?」
ぐいぐいと怒張の先端で入り口を刺激すると、真央が微かにコクリと頷く。
月彦は真央の尻を掴み、哮る剛直をズンッ、とそのナカへと突き入れる。
「はぁぁあんッ!」
真央が前にも増して大きな声で喘ぐ。
月彦は一気に剛直を真央の最奥まで突き入れ、そのまま真央の上から覆い被さった。
「ッ…こうしてると、…まるでケモノの交尾みたいだな…なぁ、真央…?」
ピクピク震えるキツネ耳にそう囁くとぐちゅっ!ぐじゅっ!と淫湿な音が部屋中に満ちるほどに荒々しく真央の膣内をかき回していく。
「ひんっ!あんっ!ぁあっ、とぉさまっ…ぁぁっ、っ…ぁあんッ!ぁあっ…ッ!」
真央はベッドのシーツを掴み、尻だけを持ち上げるような恰好で嬌声を上げる。
剛直が膣奥を小突く度にその尻尾が勃起し、毛を逆立てた。
「はぁっ、ふっ…真央、尻尾が…擦って欲しそうにっ…勃ってるぞ…?」
「ひぁっ…あっ!?…やっ、とぉさまッッ―――」
言葉の意味を理解したのか、真央の顔が一瞬怯えに変わる。
月彦は片手で真央の背中を押さえるようにして剛直を突き入れ、同時に尻尾の付け根を強く擦り上げた。
「ひゃああッ!ぁあああぁんんんッ!!」
真央が絶叫して、ギチギチと剛直を締め上げてくる。
「ッ…凄い、締まりっ……」
月彦は尻尾を離して両手で真央の腰を掴むとパンッ!パンッ!と強く、尻肉が波打つ程に荒々しく突き込む。
先ほどタップリ出したばかりだというのに、もう剛直の根本にはドロドロの白濁が満タンに溜まっているようなそんな錯覚があった。
(ヤ…ベッ…気持ち良すぎっ……!)
とても長持ちさせる余裕など無かった。
ただひたすら仁獣の如く腰を振り、剛直を突き込んだ。
「ああぁああッ!とぉさまッ!とぉさまぁッ!イクッ!イッちゃうッ!!」
真央がサカッた声で悶え、尻を振ってくる。
「ッ…真、央ッ…!」
月彦は限界を感じて、ぐぷっ、と一際深く剛直を突き入れた。
「ひぃんッ!!!」
刹那、真央が悲鳴を上げた。
ごりっ、と剛直の先端を膣奥に擦りつけて、そのままびゅくん!びゅくん!と白濁液をぶちまけていく。
「はぁぁぁぁ……出てるぅ…とぉさまの…熱いの…びゅくんっ、びゅくんって……ぁぁぁぁぁ……」
ベッドのシーツに涎を零しながら、真央は満足そうに漏らした。
月彦もひとしきり出し終えると、ぬ゛るんッ、と剛直を引き抜き、真央に後ろから覆い被さる。
「はーっ…はーっ……つ、疲れたぁぁ……」
そのままごろりと真央の横に寝そべり、天井を仰いだ。
部屋の入り口付近の壁掛け時計が見えた―――どうやら4時を回っているようだった。
(…合計何時間ヤッてたんだ?)
長くもあるようで短かったようでもある、真央との睦み合いを振り返った。
しかし振り返ってみると一体どういうことなのだろう。
その日会ったばかりの親子がその日のうちに体を重ねるなんていう常識外れの出来事が今起きている。
しかも自分がその当事者として。
月彦は自分で自分が信じられないというとても変な気分に襲われた。
(ま、でも…悪い気はしない……のかな?)
苦笑。
「真央、これで満足したか?」
隣で俯せに息を整える愛娘―――真央に優しく声を掛ける。
真央は肘を突いてゆっくりと上体を起こすと、まだ熱の取れない顔で月彦に微笑みかけた。
「父さま…スゴい…」
息も絶え絶えに一言言うと、真央はぱたんと再びベッドに突っ伏してしまう。
「あらら…まあ、初めてで…いきなり2連戦もすればそうなるか」
そう言う月彦自身も全身に言いしれぬ気怠さを感じていた。
ああ、そういえば今日はマラソンもしてたなぁと今更ながらに思い出した。
全身の疲れに誘われて、不意に欠伸なども襲ってくるが、無理に逆らおうという気は起きなかった。
「父さま…」
「ん…?」
真央が甘えるような声を出してすりすりとすり寄ってくる。
「父さま、あのね…私、父さまに言わなきゃいけないことがあるの…」
「ん?まさかもう一回シたいとか…じゃないよな?」
冗談っぽく言うと、真央は赤くなって怒ったような顔をする。
「冗談だって。で、何だ?」
「うん、今日ね、父さまの『巣』で父さまが帰ってくるの待ってたんだけど…」
巣―――ああ、この部屋のコトかなと月彦は納得した。
「その…すごくお腹空いちゃって……勝手にご飯食べちゃったの……」
「ご飯…」
月彦はふと記憶を探ってみて、件のいなり寿司の一件だなと思った。
真央は怒られると思っているのか、キツネ耳を伏せたまま上目遣いに月彦の顔を伺っている。
すぐに月彦は優しい笑みを浮かべた。
「大丈夫、そんなの全然気にしてないって。お腹が空いてたんじゃしょうがないよな」
おかげで酷い目に遭ったが…というのは胸にしまっておく。
「…ごめんなさい、父さま」
「いいって、家族なんだから。そんなことで怒るわけないだろ?」
月彦は安心させるように、真央を抱き寄せてその背中をぽんぽんと撫でた。
「よし真央、今夜は一緒に寝ようか」
声をかけると、真央はウンと頷いて一層月彦に肌を密着させてくる。
月彦は手を伸ばして電灯のヒモを引き、部屋の灯りを消すとベッドの端にすっかり寄せられてしまっていたタオルケットを自分と真央とにかけた。
すぐ側に真央の体温と息づかいを感じて、心地よい眠気に月彦は包まれていくのを感じた。
「おやすみ、真央。また明日な」
愛娘の頬にそっとキスをする。
真央はくすぐったそうに声を上げて、
「おやすみ、父さま…」
ちゅっ、とキスを仕返してきて、瞼を瞑った。
月彦も同様に目を瞑る。
緩やかに沈んでいく豪華客船のようにゆっくりと眠りの底に引っ張られていくのを感じた。
全身の気怠さがベッドに解けていくような心地よさにつつまれて最期に月彦は思った。
(…真央のこと、姉ちゃんと母さんになんて言えばいいんだ?)
しかしそんな最大の問題すら、眠りゆく月彦の障害とは成り得なかった。
今はただ、疲れを癒すために深い眠りを月彦は求めた。
たとえ目覚めた先に修羅場が待っていようと。
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