雪降る宇宙船 四章





   レイマールと別れて向かった洞窟エリアのボスの部屋。
 「武器を選べるなら、広範囲を攻撃出来るタイプを勧めるよ」
 そうレイマールに教えられ、サクラは武器をパルチザン系に持ち替えていた。
 どんな敵なのか想像もつかないが、パルチザン系で多段ヒットするのならかなりの大きさか もしくは何体も居るということになる。
 万一を考え、パイオニア2への連絡通路となるテレパイプを設置して、恐らく辛く厳しい戦いが 待っているであろうボスの居る場所へと続くゲートに入って行くのだった。

 独特な浮遊感が漂うワープを終えて地に足がついている状態にもかかわらず、そこは不思議な 浮遊感のようなものを感じる場所だった。
 自分の立つ場所の遥か後方から、大きな水音を立ててすさまじい勢いで何かが近付いて来る。
 敵を示すレーダーには黄色いマークが多数点っているのを確認した。・・・あれがボス?
 少なく不確かな情報ながら、素早く今の自分の状況を判断する。
 ここは水の上、流れに沿って動いているようだ。
 足場は安定しているものの、大きなイカダのようだ。逃げ場は少ない。
 敵は水中にいて水面に出ている時にしか攻撃は当たらないようだ。全長は長い。表皮は硬い。
 その巨大とも言えるボス、デ・ロル・レは水音を立てながらイカダに並ぶと、全身で反動をつけ 紫色の光を放った。
 放たれた紫色の毒々しい光はかなりのスピードで放射線状に広がっていく。
 サクラはその軌道を計って隙間に入り込んでこの攻撃をかわすと、素早く走り寄り バルディッシュを振るう。
 しかし、なめらかに動くデ・ロル・レにはなかなか当たらない。
 無駄に体力を消耗するよりは様子を見てチャンスを待とうと決め防御の体勢になる。
 しばらくするとデ・ロル・レはイカダを追い抜き、こちらに背を向けた格好になった。が、イカダ からは離れ過ぎているためこちらの攻撃は当たらない。
 仕方なく無防備にも近い背中を注視していると、何かを投げつけてきた。
 「それ」はサクラの横を通過すると、イカダの上に規則正しく5つ並んで取り付いた。
 サクラの本能が危険信号を発する。
 一番近くに着地した物をバルディッシュで破壊し次へ、と思い動き出した途端残りのものが黄色い 閃光を発し始めた。
 近くに居ては危険だ。取れるだけの距離を取ってバルディッシュを構える。と、しばらくして残り の4つが同時に爆発した。
 どうやら時限爆弾のようなものらしい。あの爆発に巻き込まれたら危険な状態になっていただろう。
 爆弾のようなものに気を取られてしまった。慌てて本体であるデ・ロル・レを目で追うと、既に イカダの横に並んでおり、紫色の光を放っていた。
 避けられない!
 防御の体勢を取ったが、あまりの衝撃に身体が飛ばされる。
 「痛っ!」
 したたかに背中を打ってしまい、一瞬息に詰まる。
 そのダメージにのんびりしてはいられない。次の攻撃がすぐに来るかも知れないのだ!
 素早く回復を終えて次の攻撃に備えたサクラだったが、その予想に反してデ・ロル・レはイカダから 少し遅れた位置にいた。
 (・・・こっちを見てる)
 こちらを窺っているのか、攻撃してくる様子が感じられない。その隙にシフタとデバンドをして身体 の補強を図る。
 次の瞬間デ・ロル・レは水面に潜ったように見せて大きくジャンプをし、広いとは言えないイカダに 乗り上げてきた。そのままの体勢で短く息をしている。
 どうやら待っていたチャンスが訪れたようだ。
 攻撃を与えると、頭部と胴体とでダメージ量が違う事に気付く。胴体に集中した方がよりダメージを 与えやすいことに気付く。
 デ・ロル・レに反応がないのを良いことに攻撃を繰り返していると、頭上で風を切る音が聞こえた。
 攻撃を中止して慌ててその場を離れると、今まで立っていた場所に鋭い何かが突き刺さっている。 どうやらデ・ロル・レの頭部から生えていた触角のようなものらしい。
 しばらくすると突き刺さっていた触覚は元の位置に戻っていった。それでも油断無く触覚に注意を 向けていると、先ほどとは違う触覚が他の3本とは違う動きを見せた。
 「来るっ!」
 攻撃を止め、その場を離れる。やはり今回も立っていた場所に突き刺さった。どうやらホーミングは しないようだ。
 (触覚は全部で4本だからあと2回は攻撃が来るかも知れない)
 サクラのこの予想は当たっていたようで、一度この攻撃が始まると4回繰り返してきた。
 その後のデ・ロル・レからの攻撃も凄まじい破壊力を誇った。
 天井の岩を落として攻撃してきたり、光源を壊してビームのようなものを吐き出してきたり、時限爆弾 のようなものを対象者の周りに3つ設置し逃げ場を減らしたり。
 そんな戦いを繰り返して、回復アイテムにも限界が近付いてきた。
 「次に乗り上げてきた時に倒せなかったら私の負けね・・・」
 サクラはアイテムの残数を確認してデ・ロル・レが乗り上げてくるのを待つ。
 狭いイカダを動き回り、デ・ロル・レの攻撃をすり抜けひたすら待つ。

 程なくして、そのチャンスはやって来た。
 乗り上げてきた瞬間から攻撃を与えると、頭部の辺りで何かが破裂した。
 「?!」
 デ・ロル・レの巨体は、硬い殻に覆われている。
 しかしその下には柔らかい体があったのだ。攻撃を当てると苦しそうに体液を溢した。
 もう少しでこの戦いにも終止符が打たれる。攻撃を繰り返しながらも安堵の吐息を漏らす。
 シュッ!
 一瞬でも気を抜いてしまったのだろう。
 風を切る音を耳にした時には、既に避けられない体勢になってしまっていた。
 それでもサクラは懸命に身体を捻り、避けようとしたが間に合わない。
 左肩の辺りに激痛が走る。
 その瞬間、自分の身体から熱いものが流れ出るのを感じたが、ここで怯む訳にはいかない。 様子からして敵も相当に苦しい筈なのだ。
 次の攻撃が来る前に体勢を整え、攻撃の合間を狙って反撃を繰り出す。
 「負けられない!」
 その思いだけで夢中で戦い、どれほどの時間が経ったのか。
 ・・・デ・ロル・レは大きな咆哮をあげると、水中へ静かに沈んで行った。
 それを安堵という程でもなく、呆然としている訳でもなく、ただ立ち尽くしているサクラの周り に突然やってくる静寂。
 水が流れるに任せていたイカダの動きが止まり、パイオニア2へのゲートが開かれる。
 また、この戦いの報告をしなければならないようだった。

 呼ばれるままに総督府に赴いたサクラから、戦いのすべての報告を受けた総督は言うべき 言葉をなくしただただ唸るしかなかった。
 楽園だと信じて何年もの間宇宙を旅して、ようやく辿り着いた地が実は巨大なドラゴンや 水中を自在に泳ぐ巨大なワームといった怪物の宝庫だとは信じ難い上に、到着の瞬間から パイオニア1からの情報には載っていなかった恐ろしい現実ばかりが襲って来る。
 総督の脳裏を様々な事象が浮かんでは消える。
 一般移民が少しでも地上に降り立ったら、その場で凶暴な原生生物に襲われ命を落とす だろう。それでは移民を開始する事は出来ない。
 しかし、パイオニア2に乗っている人々は楽園へ降り立つ日を今か今かと待っている。 いつ暴動が起きてもおかしくない状況が続いているのだ。
 それを抑える為に情報を操作しているもののそれでは根本的な解決にはならず、しかも 軍部も密かに動き出している報告も上がっているのみならず、ラボからもハンターズに 依頼が出ているとの報告もある。
 問題はまだある。
 未だに発見出来ないパイオニア1の人員だ。
 パイオニア2がラグオルに到着した時点では確かに「存在していた」筈なのである。
 あの爆発から突如途絶えてしまったパイオニア1からの連絡、繋がらない回線。
 彼らはどこかへ行ったのか。無事でいるのか。
 唯一残された痕跡と言えば「リコ・タイレル」のメッセージのみ。
 それさえも断片的であり、パイオニア1の人員については何一つ触れられてはいない。
 彼女自身もどこかへと向かっているようだが、それがどこなのかも分からない。
 彼女のメッセージで初めて知る事実も少なくない。
 この状況を打破出来るのは誰なのか。誰になら出来るのか。
 「頼む。ラグオルの調査を続行してくれ」
 娘を、パイオニア1の人々を、我々の楽園を取り戻してくれ。
 ハンターズにすべてを任せる事は出来ないが、一刻も早くリコだけでも見付け出して くれ。
 軍隊に出来ない小事であっても、ハンターズなら可能な筈だ。
 軍隊が鎮圧出来る程度まで未確認な敵の戦力を下げてくれるだけでも良い。
 言外に匂わせる意味をサクラは多少不快に感じるものの、自分も大切な人を探している のだからと思い起こし、強く頷づいて調査続行する旨を伝えてメディカルルームへと向かう のだった。






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