「星の王子さま」関連書籍のラインナップです。現在発売されている翻訳本を中心に紹介します。
サン=テグジュペリ 著 Le Petit Prince の邦訳『星の王子さま』は、1953年に故 内藤 濯(あろう)さんの訳として、岩波書店より刊行されました。
Le Petit Princeを直訳すると、小さな王子という意味になります。『星の王子さま』という日本語タイトルは、内藤さんの考案によるものです。その後改版等を重ね、岩波書店からは現在3種類の『星の王子さま』と『はじめての星の王子さま』が発売されています。
古い読者の方は王子さまのガウンの色の違いに気づかれると思います。緑ではなく青いガウンの王子さまをご記憶かもしれません。実はアメリカで刊行された初版本に続いて、フランス・ガリマール社で刊行された際、挿絵などがオリジナルとは違ってしまいました。1999年のガリマール社の改訂にともなって、岩波の愛蔵版・オリジナル版ともに挿絵も新しいものに変更されています。
挿絵をめぐる論争には興味深いものがあります。当時の印刷技術や出版社の編集姿勢といったものが如実に伺えます。挿絵をめぐる論争は現在にも及んでいますが、このことは別に論じることにします。
2005年1月に日本での著作権が消滅するのにともない、新訳ラッシュが訪れるという噂がファンの中で持ちきりになりました。新聞報道と前後して、内藤訳のファンや原書・英訳のファン・研究者の中から、賛否両論侃々諤々の議論が巻き起こったのです。(はからずも著作権や商標権問題がクローズアップされました。)確かに内藤訳の誤訳や意訳等の問題点などはかねてより指摘されてきたことです。また原書を読みこなせない僕自身、韻を重視した流れるように美しいフランス語とは、どんなものなのだろうと気になっていました。
もちろん、この物語が日本でこれだけ親しまれてきた功績は内藤訳にあります。日本人の多くがこの翻訳を通して親しんできました。そのイメージがくずれてしまいそう……というファンの気持ちもよく分かります。そして我々は、王子さまが商業主義の犠牲にだけはならないことを願いました。
我々の心配をよそに、新訳本は2005年6月に3冊が刊行されました。今後も刊行予定があるようです。書評・感想を含め、クラブのグループWebにて読者アンケートも実施する予定です。
順に、論創社(三野博司 訳 ¥1000)・宝島社(倉橋由美子 訳 ¥1500)・中央公論新社(小島俊明 訳 ¥1500)
(本文中の価格は断りのない限り、すべて税抜き価格)
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まだすべて読み終えていないので、内容に関するコメントはあらためて行いたいと思います。それぞれに特徴ある訳を打ち出そうとしているようですが、内藤訳を意識しているのは間違いありません。同じ訳にならないように配慮や苦労をしているようですが、逆に日本語らしさを欠いてしまった部分もあるように見受けられます。
装丁は宝島社のものが一番厚みがありしっかりしたものですが、表紙の挿絵の位置がどうも気になります。
帯(コシマキ)の部分に挿絵が隠れるのを嫌って、全体が本の上方にかたよっています。帯を取らなければ気にはなりませんが……。これとは逆が論創社のもので、「王子さま」が半分帯に隠れてしまいました。
装丁のセンスでは中央公論新社のものが良いように思います。水色の表紙にロゴと挿絵の金押しがほどこされたものです。
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2005年8月末、新たな新訳本等が出版されましたのでご紹介します。まずはサンテグジュペリの翻訳を数多く手がけられている山崎庸一郎さんの『小さな王子さま』。タイトルに『星の王子さま』を踏襲しなかった点はポリシーがあります。訳者の注は17ページにおよぶ詳細なものです。しかし税込価格¥2100は、翻訳書の中で最も高いものになってしまいました。
紺色の表紙に黄色の帯の2冊が池澤夏樹さん訳の単行本と文庫本です。単行本は布貼りの表紙に王子さまの挿絵の帯が巻かれています。帯を取ると右下にボア(ウワバミ)の内側の挿絵が金押しされています。文庫版は税込み¥400という価格が魅力です。(本文挿絵はカラーではありません。)
新訳トップバッター三野博司さんの解説書が出版されました。各種書籍の内容その他については、グループウェブで話題にしたいと思います。
順に、みすず書房『小さな王子さま』(山崎庸一郎 訳 ¥2000)・集英社 単行本(池澤夏樹 訳 ¥1200)・集英社 文庫(池澤夏樹 訳 ¥381)・論創社『星の王子さま』の謎(三野博司 著 ¥1500)
世界児童文学集『星の王子さま』は新訳ではありません。1993年発行の古書になります。状態はかなりきれいなものです。今更なぜ旧版を手に入れたのかというと、挿絵に旧ガリマール版を採用しているからです。新版との挿絵の比較を行いましたが、すべての挿絵の相違が良く分かりました。今回各社・各種版を見比べた結果、印刷によってもかなりの差が生じることも分かりました。
同じ原版を利用しても、印刷の段階で色合いがうすくなったり濃くなったり、画質・雰囲気がかなり違うものになります。後述しますが、サンテグジュペリの原画のイメージがどのようなものだったかという疑問は、さらに深まることになりました。
岩波書店『岩波 世界児童文学集 1 星の王子さま』(内藤 濯 訳 ¥1359)
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2005年10月に刊行された新訳です。
グラフ社『プチ・プランス―新訳 星の王子さま』(川上 勉 廿樂美登利 訳 ¥1500)
タイトルは原題のLe Petit Princeをカタカナ表記したものです。本文中の王子さまの名称も「プチ・プランス」で統一されています。新訳ではタイトルや主人公の呼び名に対してそれぞれ工夫がありますが、本書ではあえて訳さないという選択をしたようです。本書の特徴はフランス語全文が付いていることです。挿絵は少し淡い色合いの印刷となっています。
つづいて、八坂書房『小さな王子―新訳 星の王子さま』(藤田 尊潮 訳 ¥1400)。そして同じ著者の解説本です。八坂書房『星の王子さま』を読む(藤田 尊潮 著 ¥1600)。この2冊の表紙のカバーを外すと、レトロな雰囲気で挿絵とLe Petit Princeのロゴが入っています。なかなかいいじゃないかと思ってよく見たら、Princeの i の点が抜けていました。うーん……残念。解説本の表紙の挿絵のガウンの色は、若干青みがかった緑に印刷されています。
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コアマガジン『「新」訳 星の王子さま』(辛酸 なめ子 訳 ¥1200 2005.11.26発売)
タイトルは超訳から、「新」訳に変更されましたが、内容はご覧の通りです。冒頭のページをクリックしてみてください。古典のつもりで読み始めると、な何だこれは……ということになります。挿絵も訳者によるオリジナルです。パロディ本として購入した人には、笑える一冊ですが、中には「星の王子さま」への冒涜だと怒り出す人もいるかもしれません。
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2005年12月に発売された新訳と解説本です。
筑摩書房『 星の王子さま』(石井洋二郎 訳 ¥580)
慶應義塾大学出版会『 星の王子さま☆学』(片木智年 著 ¥1800)
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2006年1月の新訳本が出ました。平凡社『 星の王子さま』(稲垣 直樹 訳 ¥950)
これで、新訳の出版ラッシュも一段落のようですが、今後も解説本やファンブックの類がまだまだ出版されるようです。
というわけで、
集英社文庫『 星の王子さまの恋愛論』(三田 誠広 著 ¥476)
ミネルヴァ書房『「 星の王子さま」を哲学する』(甲田 純生 著 ¥2000)
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2006年2月と3月の新刊です。新潮文庫『 星の王子さま』(河野万里子 訳 ¥476)。中央公論新社の文庫版『 星の王子さま』(小島 俊明 訳 ¥590)・中公文庫『 星の王子さまのプレゼント』(小島 俊明 著 ¥590)。丸善『 星の王子とわたし』(内藤 濯 著 ¥1500)。これは1968年に文藝春秋から出版された本の復刊です。こちらの電子書籍サイトで立ち読みが出来ます。そして、内藤 濯さんの長男、初穂さんによる父の生涯の記録、筑摩書房『 星の王子の影とかたちと』(内藤 初穂 著 ¥2800)です。
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2006年4月の新刊です。ソフトバンク クリエイティブ『 星の王子さま☆ファン・ブック』(デルフィーヌ・グラヴィエ 編 東野曜子 訳 ¥2200)。
世界同時発売と銘打って発売されたファンブックです。
予想した内容とは異なり、子供向けのお楽しみ本でした。(ゲーム・シール・ポストカード・しおり・ぬり絵・工作といった内容ですが、王子さまやキツネのお面などの出来はどうなんでしょう……。)コーティングした用紙を使用するなど、しっかりしたつくりにはなっています。
フランス語版タイトルは Le grand livre d'activites du Petit Prince です。 英語版のタイトルは The Little Prince Book of Fun And Adventure で、こちらの発売は9月になるようです。英語版・ドイツ語版などは日本のアマゾンでも購入できます。
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Reynal&Hitchcock社の初版本を入手しました。
順に、The Little Prince 第1刷 The Little Prince 第1刷 The Little Prince 第3刷 (Katherine Woods 訳)
The Little Prince 第6刷
Le Petit Prince 第7刷
The Little Prince 第1刷は1943年発行の英語版(サーモンカラーの表紙)です。初版の初刷は1943年4月に出版されました。2冊目の緑色の表紙の見返しに1943年のクリスマスの贈り物である旨の書き込みがあります。(この手の書き込みは他にも目にします。初版の出版は1942年のクリスマスには間に合いませんでしたが、翌年のクリスマス用にキャンペーンが行われたのかもしれません。)
加えて緑色の表紙であること(第2刷の表紙が緑)、刷番号がないこと、奥付の記載があることから、おそらく第1刷後半の刷と思われます。
The Little Prince 第3刷は1944年2月という書き込みがあります。表紙の色はブルーグレーです。
同じくダストジャケット(表紙カバー)付きの第6刷です。ダストジャケットにはヤケと若干の破れなどがありますが、本体はきわめて良い(ミント)状態です。ダストジャケットの表記から、オリジナル価格は$2.50であったことが分かります。
Le Petit Prince 第7刷はフランス語版です。この本もダストジャケット付きで状態も良いものです。本体は英語版の第6刷と同じ色の表紙になりますが、ミント状態で書き込み等もありません。唯一の欠点は、正装の王子さまの印刷です。シアン(青色)のインクが足りずにガウンが黄緑色になってしまいました。ダストジャケットの表記から、オリジナル価格は$3.00であったことが分かります。
Flight to Arrasは1942年発行の『戦う操縦士』の英語版。Bernard Lamotteの挿絵入りです。この本はおそらく図書館の貸し出し用であったようです。ダストジャケットには若干の傷みがありますが、年代を考えれば良い状態でしょう。この本のオリジナル価格は$2.75です。
小学館『学習まんが人物館 サン=テグジュペリ―大空をかけぬけた「星の王子さま」の作家』(鈴木一郎 監修 平松おさむ まんが 黒沢哲哉 シナリオ ¥850)
『Poet and Pilot Antoine de Saint-Exupery Photographs by John Phillips』(John Phillips Charles-Henri Favrod 著 $25.2)本の後半がジョン・フィリップスによるサンテグジュペリ写真集です。(1944年イタリアのサルディニア島アルゲーロ空軍基地での様子。)表紙の写真が有名ですが、これは裏焼き(表裏反転)であることが分かっています。(本書の写真中、数点の裏焼きが認められます。)写真ページ53ページの半分ほどが、1ページ6枚ほどのベタ焼き写真(9×8.5p)で構成されています。
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『戦う操縦士』(サン=テグジュペリ 著 山崎庸一郎 訳 ¥2400 みすず書房)
『バラの回想』(コンスエロ・ド・サン=テグジュペリ 著 香川由利子 訳 ¥1905 文藝春秋)
ところで、岩波のハードカバー旧版2冊(現 愛蔵版)を手に入れました。これらも旧ガリマール版の挿絵をもとにしているのですが、版の違いで挿絵の刷りも大分違います。挿絵自体に修正が行われていたことも判明しました(例えば草原に咲く花の茎の部分を描き加えるといったこと)。
もちろん、これらの挿絵はサンテグジュペリによるオリジナルの挿絵ではないのですが(後述)、印刷段階での微妙な修正や発色の違いも認められます。つまり、現在のオリジナルといわれる挿絵の印刷にも、印刷段階の修正等がかなり加わっていたと推測できるのです。
王子さまの衣服などでも鮮やかな緑のものから、かなりくすんだ色合いのものまであるのも、印刷段階での影響と考える方が自然です。挿絵問題について理学者という専門的な立場での分析があります。星の王子さまと微積分(おそらく日本で最初に挿絵の相違を公式に指摘された方のエッセーです。)
いずれ近いうちに、新旧挿絵の相違と変遷について一項を設けたいと思います。
さらに、ハードカバー旧版1冊を入手しました。こちらは昭和37年発行の初版第1刷です。43年以上昔の本で、ケースはかなりヤケています。おそらく古書店の書架に相当の年月ほこりまみれで置かれていたのでしょう。汚れも相当なものでした。幸いなことにケースのおかげで本体はきれいです。元の所有者は、大事に扱っていたのだと思います。万年筆による署名と書き込みが時代を感じさせます。画像をクリックしてご覧ください。内藤 濯さんの訳者あとがきを読むと、挿絵についての記述があります。内藤さんは当時、旧ガリマール版の挿絵を、オリジナルの挿絵だと思っていたようです。
岩波版の3冊はすでにおなじみですが、価格的には文庫版が640円とお手頃です。(ただしカラーではありませんし、厳密には挿絵の向きなどが一部オリジナルと異なります。)現在オリジナル版(図の2番目¥1000)が主流ですが、横書きは新訳の中央公論新社版とこの2冊です。(※その後、みすず書房・集英社・グラフ社・ちくま文庫の新訳が横書きで出版されました。)横書きは挿絵などの向きに無理がないのと、原書と対応させたいときなどに便利だと思います。愛蔵版(¥1600)は素描6点が収録され、版形がもっとも大きいサイズになります。
『はじめての星の王子さま』は12.5p×12.5pのポケットブックで、基本的にガリマール社のものと同一です。4冊組(¥1840)・各10ページ、厚手のページ(ボードブック)に短い文の入った幼児向け絵本です。挿絵を拡大しているので、絵の画質が荒くなってしまい残念です。
Le Petit Prince と The Little Prince(Richard Howard 訳)の2冊はペーパーバック版、現在販売中の洋書の『星の王子さま』の中では廉価なものだと思います。どちらも1000円前後です。
価格というのは案外重要です。そういう僕も初めは岩波の文庫版を読みました。(取りあえず読もうと思って買ったわけですから、挿絵の重要性など意識してはいません。)同じ内容と質であれば、安いものが求められます。後発になる新訳本ではこの価格の設定も重要でしょう。私見ですが1000円を切るカラー版が発売されれば、売れると思います。
(※2006.3.現在、476円から950円の、文庫等のカラー版4冊が発売されました。)
「星の王子さま」やサン=テグジュペリ関連の書籍は数多く出版されています。そのうちの何点かをご紹介します。
解説本の類も数多くありますが『星の王子さまの世界 読み方くらべへの招待』(塚崎幹生 著 ¥660 中公新書 2006.4.中公文庫発売¥590)は必読の書といえます。鋭い切り口の2つの論文から構成されています。
その他のご紹介書籍についての著者・価格・出版社は以下の通りです。(価格はすべて税抜き価格。)
『サン=テグジュペリの生涯』(ステイシー・シフ 著 檜垣嗣子 訳 ¥3400 新潮社)・『人間の土地』(サン=テグジュペリ 著 堀口大學 訳 ¥552 新潮文庫)・『夜間飛行』(サン=テグジュペリ 著 堀口大學 訳 ¥552 新潮文庫)・『星の王子さまをフランス語で読む』(加藤恭子 著 ¥900 ちくま学芸文庫)・『星の王子さまの本』(星の王子さまクラブ 株式会社セラム 編 ¥1500 )・『Saint Exupery: Art, Writing and Musings』(Nathalie Des Vallieres 他著 $50)
この頁の最後に、挿絵の重要性についてふれておきたいと思います。『星の王子さま』に使用されている挿絵原画はサン=テグジュペリ自身の筆による水彩画です。残念ながらこの挿絵の原版は見つかっていません。現在までも挿絵論争が続けられている所以です。
(2006年4月原画発見のニュースが報道されました。一部公開された画像を1943年レイナル・ヒッチコック初版原書の挿絵と比較・確認の結果、原画であることは間違いなさそうです。描線については原画にほぼ忠実に再現されていますが、彩色については挿絵原版作成時に修正・加筆が行われた模様です。つまり原画=原版ではなかったということです。挿絵の一部は売却されました。2006年11月30日までフランス・カン記念館において挿絵原画が公開されました。「渡り鳥にぶら下がって旅立つプリンス」と「ヘビと話する塀の上のプリンス」の2点だけが展示されていたそうです。2007年4月日本で原画が発見されました。実業屋businessmanの挿絵です。これまでに原画として公表されたもの6点を確認しています。)
この物語に挿絵がはたす役割の大きさは、ファンならば誰もが感じることではないでしょうか。物語の状況を明らかにするとともに、作者のイメージが直に伝わってくるものです。この本にはこの挿絵がなくてはなりません。
ところがその挿絵の扱いというものに案外無頓着なことが多いのです。(ガリマール社が長い間、原画とは異なる挿絵を使用してきたことからもお分かりいただけるでしょう。)
『星の王子さま』ではないのですがちょっと次の図版を見てください。これは皆さんもご存じのルイス・キャロル著『不思議の国のアリス』 Alice's Adventures In Wonderland に登場する挿絵です。この原画はジョン・テニエルの手により描かれました。一点は現在、集英社文庫『不思議の国のアリス』に使用されているもの。もう一点は MACMILLAN PEOPLE'S EDITION 1898年版の挿絵です。初版当時(1865年)の挿絵は一点ごとに職人が原版を彫って印刷されたものです。現在のものはおそらく印刷されたもののコピーだと思われます。中にはコピーにコピーを重ねた粗悪な挿絵の本も堂々と売られています。
画像をご覧いただければ一目瞭然ですが、現在のものは完全に線がつぶれてしまっています。テニエルは挿絵の印刷には大変こだわったようで、初版の刷りが気に入らず破棄させています。原版の出来と職人の腕にかかっていたわけです。画像の2点が、同じ線画をもとにしていることは線の陰影からも明らかでしょう。
(同じ解像度でスキャンしたもの。大きい方がMACMILLANのもので実物はもっと繊細できれいです。)
おそらくサン=テグジュぺリも、自分の挿絵の印刷にはこだわったことでしょう。現在の挿絵はサン=テグジュペリの生前に出版されたレイナルヒッチコック社の挿絵をもとにしているといわれます。カラー印刷ですからハーフトーン(網点)の技法を用いたのは通例です。(印刷物を虫眼鏡で拡大してみると小さい点の集まりであることが分かります。ですから拡大してしまうと画質が荒くなってしまいます。)原画が見つからない以上この印刷物を利用するしかないのですが、印刷物ですからインクや刷りの具合と保存状態などで微妙に違ってきます。
新たなガリマール社版(新訳に使用されたサン=テグジュペリ権利継承者より提供のものというのも同一?)の挿絵が、原画のイメージ通りとは言い切れません。現在我々が目にしているものが、彼の描いたイメージ通りかは少々疑問なのです。実際現在の同じ原版(印刷物を頼りにしているのですから原版といえるかは疑問ですが)を使用しているという各社の刷りも微妙に異なっています。
Saint Exupery: Art, Writing and Musings の表紙の挿絵(王子さまが腹ばいになっているもの)と皆さんのお持ちの本の挿絵の色合いもだいぶ違うのではないでしょうか。(このように旧ガリマール版などの挿絵が混在使用されている現状があります。)
一つ面白い例をあげましょう。『はじめての星の王子さま』を見ていて気づいたのですが、王子さまが入り日をながめるシーンの挿絵です。原版はモノクロのはずが、カラーになっています。何だカラーの原画があったんだと早合点してはいけません。これはディジタル技術で色を再生したものだと思われます。挿絵の輪郭に黒色が使われていないことからもご理解いただけるでしょう。モノクロの明度を頼りに、色を付けたものだと考えられます。色相の予想は他の挿絵をもとにしているのでしょう。ところでマフラーの色はこの色だったんでしょうか。他の挿絵を見ると黄色いものが主流ですが、緑のものもありますから……何ともいえません。みなさんはどちらだと思いますか。
2017.06.17追記 原画が発見されました。おそらくマフラーは黄色だったのでしょう。2017年6月原画オークションのニュース
『星の王子さま』オリジナル版・『はじめての星の王子さま』おうじさまのいちにち(岩波書店)より抜粋
●東京グラフィティ10月号にレビュー掲載 ★NEW★
★2015年9月23日発売●東京グラフィティ10月号★ にレビューが掲載されました。 まずは、この本を読め!! 愛読者に聞く、 訳別『星の王子さま』BEST3 詳細はクリックしてご覧下さい。 |