真実は決して明かされないのか。

 沈む、
感覚は痛みと引き替えに無を与えた。
 一点の曇りもない顔で、犯罪者は去る。
 罪ではないから。
 だからこそ何でもない顔をするのだ。
 私の周りには黒くなった死体だらけで、私もその一部となるのだろう。
 それでも真実を伝えなければ。
 誰かに。
...彼に?
 胸に刺されたままの果物ナイフの柄を掴んだ。そのまま引き抜く。
 止めどなく血は溢れ出したが、感覚は生のものとなった。
 代わりに重くなっていく頭を引きずりながら、私はドアノブに手をかけた。

「いいの?」

 すぐ横で犯罪者は囁いた。

「な、にがだ」

 私はあるだけの気力でもって睨み付けた。
 犯罪者は気にした風でもなく、赤く笑うと自らドアを開けた。瞬間、数時間振りの排気ガスを含んだ
空気が流れてきた。小雨でも降っていたのか湿り気も帯びていた。

「扉は開いたわ。選択するのはあなた」
「何故」
「私は護る者だから」

 そう言って先に外に出ると、中の死体を一瞥もせずに歩き始めた。

「待て」

「誰を護っている」

 彼女は振り返った。
 私は、その顔を知っている。

「誰も。私はただ裁きを下しただけ」

 彼女は
「彼を護るために?」
「...違うわ」
「けれど此処で死んでいるのは彼に危害を加えた奴らだ」
「偶然」
「違う」
「もう夜だわ」

「ねえ
あなたはもうすぐ死にそうね」
「お前が」
 やったんだろう
と言いたかった。のに言葉が出てこない。
 目の中を血が流れているように、染まってゆく。世界が。
「私は彼に接触していない」

「何故私を狙った」
「何故、何故?」
 落ち着いていた彼女の形相が変わった。
「何故ですって?
私は見ていたわ、あの時、あなたが彼を助けなかったことを!
終わった後に謝ったとしても、彼の傷は癒されないのに!
あなたは彼を傷つけた人間だわ、あなたは犯罪者よ!」

 だから赦せない。

「なのに」

「彼はあなたを赦してしまった。あなたを認めてしまった」
「彼が」
「だから最期に選ばせてあげるわ」

「私から逃げるか、
彼を護るか」

 選択肢はなかった。だから私は笑った。
 彼女も笑った。
 彼にこんな世界は似合わないから。答えは決まっている。
 流れている血液は止まらないだろうから。

「君の名前が思い出せないんだ」
「必要ないわ」
「それは」
 彼女にとってか、私にとってか。
 私はゆっくりとした動作で踏み出した。
 空には灰色の月。隠された。
 確か、彼女の名前は




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