東京地方裁判所 その2

本件懲戒解雇の無効

懲戒解雇事由が存在しないこと

  1. 先に述べたとおり、本件懲戒解雇は、Tの正当な労働条件改善を求める争議行為に対し、コニカは、これを嫌悪し、Tを排除しようとして、懲戒解雇処分に仮託して行った事案である。
  2. コニカが懲戒事由とする事実は、@本来解雇事由の構成要件にさえ該当しない事由として、株主総会出席に関する事実及びタイム誌記事に関する事実、ATの正当な労働条件改善を求める行為に関係する事由として、労働基準監督署への資料提出行為及び上司との面談中の行為に関する事実、Bコニカが意識的にTに対する嫌がらせの一環として行わせた行為として、不良プリントに関する事実、等に分類される。
  3. 上記分類から明らかとおり、いずれの各懲戒事由も懲戒事由に当たらないものである。
  4. しかし、このうち、Tが株主総会に出席したことが、本件懲戒解雇処分の核心的動機であることは、経過に照らして明らかである。
  5. すなわち、Tが、株主総会に出席したところ、直ちに翌日、Tの上司は、Tに対し、これを咎め、今後株主総会出席し発言するような行動を止めるよう求める対応をとった。さらに、H人事課長は、X市まで赴き、Tの身内に会って、任意退職を促すような行動をとった。その後ほどなく、コニカは、Tに対し、弁明のための十分な猶予期間もおかず、懲罰委員会開催通知をし、本件懲戒解雇処分をした。
  6. これは、本件懲戒解雇の本当の事由は、Tが株主総会に出席して、発言したことにあるのであり、その余の懲戒事由は、むしろ付随的に後に付加的に挙げられたものにすぎないことを物語るものである。
  7. 本件懲戒解雇の本質は、本来如何なる法理からも懲戒事由に当たらない株主総会出席に関する事由をもって、Tを懲戒解雇処分したものというべきであるから、そもそも懲戒事由の存在しない無効なものであるというほかはない。
  8. なお、コニカが挙げる各懲戒事由について、懲戒事由に当たらないことは、後に詳述する。

懲戒手続の違法

  1. コニカは、本件懲戒解雇処分を行うにあたり、Tに対し、弁明と防御のための十分な時間を与えず、強行したものであるから、手続的に違法である。
  2. コニカは、事前にTに反論準備の機会を与えないまま一方的に、懲罰審査委員会開催通知(甲4)を交付した。同通知によれば、Tに対し、明後日午前中までに答弁書提出を命じるものであった。これは、懲戒というTに対する重大事(刑罰にも匹敵する。)に関し、中1日しか期間を置かないものであり、Tが相談したり、防御の準備をするのに必要な時間をことさらに与えないやり方であった。
  3. また、Tは、初めて示された各懲戒事由について、それぞれについて反論を準備するため、「懲戒解雇される虞のある内容を書くことには、無理があります。充分な時間を(戴きたい。)」(甲5)と当然の要請したにもかかわらず、コニカは、これを無視し、当日、既定方針どおり、懲戒処分を行った。
  4. さらに、当日、出頭したTに対し、弁明を直接聴く機会さえ設けなかった。
  5. したがって、上記懲戒解雇手続は、実体的手続として著しく不当であるばかりか、労働協約に基づく第25条に規定する「懲戒の認定は、慎重に行い、」という趣旨に明白に反するものである(甲7)。
  6. また、同条項が規定する組合との協議については、当時、Tは、ユニオンに加入していたものであるうえ、コニカ労組は、「今後会社と協議していく必要はない。」旨述べて(乙1・別紙9)、その役割を放棄したのであるから、同労組との協議は、全く無意味であり、組合との協議は、当然ユニオンと行うべきであった。しかし、コニカは、ユニオンと上記協議を行おうとしたことはなく、実際にも行っていない。
  7. したがって、本件解雇手続は、労働協約違反の手続的違法がある。
懲戒解雇処分が相当性を欠くこと
  1. コニカにおける懲戒の種類は、譴責、減給、出勤停止及び懲戒解雇の4種類である(甲7)。
  2. 懲戒解雇は、刑罰に例えるなら、労働者にとって、極刑に相当するものであるから、仮に、懲戒解雇事由に該当する事実があったとしても(本件においては、その事実はない。)、直ちに、懲戒解雇処分を行うことが肯定されるものではない。懲戒解雇が相当であるとされるためには、@懲戒解雇に相当する程度に行為や結果が重大であること、A従前の処分歴等に照らし、懲戒解雇処分以外に他に選択しうる懲戒の種類がないこと、等の要件が肯定されなければならない。
  3. 本件において、コニカが懲戒事由として挙げるTの行為は、いずれも、本来懲戒事由になり得ないものや、歪曲と誇張がほどこされたものであるから、とうてい上記@の要件を満たすものではない。
  4. また、Tは、本件懲戒解雇処分を受けるまで、一度として、懲戒処分を受けたことはなく、初めて受けた懲戒処分が本件懲戒解雇であった。つまり、本件は、Tが従前により軽い懲戒処分がなされたが、その後も改善されず、再び懲戒解雇に当たる行為を行い、しかも、懲戒解雇以外に他に処分方法がないような事案ではない。本件は、上記Aの要件を全く満たしていない。
  5. したがって、本件懲戒解雇は、相当性を著しく欠くものである。

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