東京地方裁判所 その3

懲戒解雇事由の不存在

プリント作業

  1. コニカは、Tが故意に不良プリントを作成したとして、これを懲戒解雇事由の1つにしている。
  2. 本件プリント作業において、不良プリントが含まれていたことは事実である。しかし、それらには、通常のプリントも多数含まれていたのである。本件は、7N3の取扱に習熟していないTが露光範囲を広げてプリントした結果、適正プリントからはずれたプリントも相当量作成された、という事案である。
  3. A係長証言でもせいぜいTが7N3を使用したのは年5回程度の頻度である旨供述しているとおり、(A係長調書)、Tが7N3に習熟していなかった事実(Tによれば年3回程度)は、争いがない。
  4. 我々が日常経験するように、常時使用している機器や操作であれば、手順どおりスムーズに操作をできる。しかし、たまに操作しようとすると、マニュアル等首っ引きで取り組まなければならないことは、たとえば、ビデオ機器等で予約録画をしたりする際などにも、よく経験することである。
  5. したがって、Tが使い慣れたCRT付ミニラボ機ではなく、年に3回程度使用することがあった7N3による作業は、スムーズに行うことができないものであったことはむしろ当然である。現にA係長が出張から戻った後、同人の指示下に行われた上記プリント作業でさえ、けっして容易な作業でなかったことからも明らかである。
  6. また、コニカは、各ネガのプリントレベルは出ていたと主張している。しかし、実際には、当時、新製品フィルムであるセンチュリアのプリントレベルは出ておらず、借りたカセットテープによるデーターも当時の7N3の状態に応じた適正な設定をに反映できないものであった。このため、最初からプリントレベルを正しく設定し直すためのツールもなく(T調書)、この作業を行うのは、極めて困難であった。
  7. 以上の事実からも、Tが故意に不良プリントを作成したとするコニカの主張は、事実を歪曲するものである。
  8. 本件プリント作業を命じた背景事実をみれば、かかる事実の歪曲の意図するところが、明瞭になる。
  9. コニカによれば、本件プリント作業は、新製品フィルムであるセンチュリアの国内発表用のサンプルプリント作成のため、シーン選定会議用のものであった、とし、また、これは、センチュリアの世界同時発売にとって極めて重要なものであった、とする。
  10. しかし、A係長証言によれば、かかる重要な作業であるにもかかわらず、作業日程は、メモを作成した直前の2日前頃に決まった、とされ(T係長調書)、しかも、同人が出張で職場にいない期間にTに同作業を行うことを指示したのである。
  11. 当時、コニカは、Tからの告発により、労働基準監督署から違法時間外労働の是正措置を命じられていた時期に当たり、Tだけには、時間外労働がされず、定刻に退社をしていた(甲8)。
  12. かかる時期に、コニカの主張によれば、それが遅れるとセンチュリアの世界同時発売も危うくなる、というようなコニカの世界販売戦略に重大な影響を及ぼしかねない重要業務をT一人に一片のメモ(乙4・別紙)をもって命じて、事足れり、としていたというのである。
  13. コニカの上記主張は、余りにも不自然である。
  14. 本当に、本件プリント作業がコニカの世界販売戦略にも重大な影響を及ぼすような性質のものであれば、当時のTに関する上記背景事情(ユニオンに加入し、労働争議行っており、労働基準監督署に告発している者)に照らせば、コニカにおいて、世界販売戦略の死命をを制するような重要作業につき、T一人に任せきりにすることなどとうてい発想しないはずである。それ故、本件作業がセンチュリアの世界同時発売に影響を及ぼすものであったなどとするコニカの主張は、とうてい信用のできるものではない。
  15. コニカは、Tが作成したプリントに不良プリントが相当量含まれていたことを奇貨とし、後になり、強いてこれを懲戒解雇事由にするため、本件プリント作業の重要性を誇張しているものと考えざるをえない。
  16. すなわち、本件不良プリントは、Tに故意がなかったことはもちろん、客観的事実としても、コニカが誇張するような重要な性質の作業ではなかったというべきである。
  17. したがって、本件不良プリントの件は、Tが故意に行ったものではないから、就業規則第96条1号「故意に事業場の機械・工作物その他の物品をき損または紛失したとき」、同条2号「業務について故意に事実上の損害を与えたときに該当しない。
  18. また、上記に指摘した作業の性質及びそれがもたらした結果(新製品の販売が遅れた事実もない。)に照らし、懲戒解雇事由として著しく相当性を欠くことは明らかであり、失当である。

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