緩和 03






 時間にして一、二時間といったところか。
 時計の針は二十一時を少し回った場所にいる。
 自分達の重点ポイントを確認したのち依頼に参加可能なメンバーを選出、そして一昼夜の警備という事で昼と夜の班に大まかに分けたところで本日の会議はお開きとなった。
 その時キカは特別何も言わなかったが、ここで一気に見せては勉強どころか混乱するだけだとキリルに気を遣っての事である。
 今日決まった内容をまとめてから出るというキカとシグルドを残し、一足先にハーヴェイとキリルは部屋を後にした。
「お疲れ」
「はい、ハーヴェイさんもお疲れ様です」
 二人並んで歩きだす。
 目的地の相談はしていなかったが、二人とも自然と自室ではなく食堂へと歩を進めていた。
 張り詰めた緊張の中にいたので妙に喉が渇いている。
 身体を動かしていないのにじんわりと疲労感があり、何となく甘いものも食べたい気分だ。
「で、どうだったよ」
「もう三人とも凄いの一言です。僕ではとてもああはいきません。やっぱり無理に自分一人で進めようとせずキカさん達に協力を仰いで正解でした」
「凄いのはキカ様とシグルドだけだって。俺はただ思った事を好き勝手言ってただけだけだしさ」
「でもああいう場面で意見言ってくれる人ってとても重要だと思います。それで気づけたり、もっといい内容に出来たりする事もあるから」
 経験した事のない緊張から解放された事で少々饒舌気味のキリルの頭にハーヴェイは何となく手を乗せ、そのままグリグリと撫でまわした。
 長い時間立ったままダラけずによくついてきたな、の意を込めて。
 キリルは先ほどキカやシグルドだけでなくハーヴェイも凄いと褒めたが、ハーヴェイにしてみたらキリルの方がよっぽど凄いと感じる。
 何せ自分が初めて会議に参加した時は、想像以上に大量な言葉の応酬に次ぐ応酬に早々に根を上げ、自分は戦闘要員だからとさっさと逃げてしまった過去があるからだ。
 これはとてもじゃないがキリルには言えないなと頭を撫でながら明後日の方向を見ていると視界の端に食堂の入口が映った。
「お、ほらついたぞ。早く行こうぜ」
 甘いものと冷たい飲み物を求めて、ハーヴェイは頭から離した手で今度はキリルの背を軽く叩いて急かすような仕草をする。
 突然のハーヴェイの行動に疑問符を浮かべながら、容赦ない撫でにクシャクシャになった髪を手櫛で整えていたキリルは、それでも待ちに待った空間への到着に大きく頷いて歩を速める。
 食事時からは大分ズレた時間だが、酒飲みにとってはここからが本番とばかりに食堂はそれなりの賑わいを見せている。
 しかしそれはこの船ではお馴染みの光景。
 ハーヴェイもキリルも気にする事なく足を踏み入れた。





 


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