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小説

アフターコロナ


Episode 11 ブタの扮装をしたコメディアンの見解


いらっしゃい。
どうされたの? そんな顔して。
いいえ、私は人間じゃないわ。ブタよ。
人間よりブタに近いのよ。分かってらっしゃるくせに。
確かに、人間は素晴らしい生き物だったわ。この地球に生まれた数々の生物の中で、自分たちで自分たちの住みやすい環境を作り、子孫を増やし、寿命も伸ばしてきた。
数々の自然の脅威にも打ち勝ってきたわ。地震、洪水、大雨、寒波、温暖化、そして伝染病。それらに対して、遺伝子という長いスパンではなく、自分たちの経験と知恵によって、対抗してきた。
ただし、それは、少なからず、他の生き物の犠牲のもとに成り立っていたの。
分かるかしら。
命は尊い。
人間はそう言った。でもその命というのは、飽くまでも自分たち人間の命でしかない。
彼らが数々の病気に打ち勝つために、そして自らの寿命を延ばすために、作った薬の実験台になった小動物は数知れない。
彼らは自分の栄養のため、あらゆる生き物を食料にしてきた。彼らは食物連鎖の頂点にいたの。だから、どんな動物よりも健康で、効率的な長生きをしてきたわ。
それなのに、彼らは言う。人間の尊厳。
彼らをここまで下支えしてきた動物たちに、何の敬意も示さずに、自分たちの尊厳と口にする。それが許されるほど、彼らは崇高な存在になっていたのね。
ブタの姿をする私のことを、人間は蔑んできたわ。
自分たち人間は美しい、でもブタは醜い。ブタと呼ばれることは、侮辱だと。
それこそ思い上がりじゃないかしら。
答えはこの結果が物語っているわ。人間は今回の試練には打ち勝つことができなかった。でも、ブタになった私はこうして生きている。
冷えてきたわね。
もういいかしら。
そろそろお店閉めようと思うの。帰って下さる?

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