80s岩手県のバス“その頃”裏サイト

小説

アフターコロナ


Episode 07 羽虫の見解


虫を代表して言わせてもらいますが、奴ら、我々のことを、虫けら程度にしか思ってなかったですよ。本当。
足で踏むわ、両手で叩くわ、片手で掴むわ、殺虫剤を噴霧するわ、天井から粘着テープみたいなのぶら下げるわ、やることなすこと腹が立つことばっかり。我々を一体何だと思ってるんだか。
近年では、ゴキブリホイホイに代表されるような粘着型の虫取り剤が発明され、マット式の蚊取り器が発明され、アナログからデジタルへと時代が急速に進化し始めました。
でも、一番無神経なのが、あの自動車という奴ですよ。
羽虫を代表して言わせてもらうけど、あの自動車のお陰で、何匹の仲間が命を失った事か。
モータリゼーションというんですかね、1970年代に入る頃から、自動車の数が急増しまして、我々の飛んでいる範囲にも、あの自動車が飛び込んでくるようになって、交通事故の件数も大幅に増えたんです。
我々は、自分の目に見える範囲での危険性を感知しながら飛びます。
飛んでいく先に障害物はないか、カエルとか鳥とか、天敵がいないかどうか、木とか岩とかが進行方向にないかどうか、きちんと注意しながら飛びます。もちろん、同じ羽虫の仲間が向こうから飛んできて、正面衝突したりしないかどうかも、きちんと注意しながら飛びます。
しかしですよ。自動車という奴は、そういう我々の進路に、勝手に突っ込んでくるんです。
そのスピードは半端じゃありません。我々の仲間は、一瞬で自動車のフロントガラスに張り付いて、命を失ってしまうのです。そして、自動車は、何の躊躇もなく、そのまま走り去るんです。自動車は、自分の前に何があろうと関係なしに、すごいスピードで走り抜けるんです。まるで自分がこの世の中で一番偉いとでもいうように。
我々は、今は何とも思っていません。彼らが絶滅したのは当然のことです。自分の能力の範囲内で行動できなかったバチが当たったのだと思います。
可哀相? いいえ、そんなことも思いません。彼らのお陰で命を失った我々の仲間の数の方が、ずっと多いんですから。

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