−− 2003.07.18 ハリケーン上田
[編集:エルニーニョ深沢(ElNino Fukazawa)]
2001(平成13)年7月4日(水)、デンパサール国際空港に到着したのは午後7時15分、関西国際空港を飛び立ってから6時間35分、待望のバリ(BALI)島に一歩をしるしたのだ。「あゝ、よかった。無事でまだ生きている!」と、航空機恐怖症候群の小生がつぶやいた。東南アジアの地図を開いて貰おう。
地図−東南アジア(Map of Southeast Asia, -Multinational-)
ここはインドネシアだ。スマトラ島(SUMATRA)島、ジャワ(JAWA)島と西から東に並び、その東にある小さな島がバリ島、観光のメッカとして日本人をはじめ各国の旅行客がやって来る。
そもそもインドネシアは、昭和20(1945)年8月に独立を遂げた「インドネシア共和国」と云う、赤道直下に無数ともいえる東西に伸びる島々から構成されている国、標準時が3つある。バリ島、セレベス島では日本より1時間遅れ、ジャワ、スマトラ、ボルネオの各島では2時間遅れている。ニューギニア島は日本時間と同じだ。
面積190万ku、首都はジャワ島のジャカルタで、人口2億人を擁する大国、民族はマレー系、ジャワ系、その他で、言語はインドネシア語、宗教はイスラム教徒が約90%を占める。
私たちが訪れたバリ島とジャワ島、それは我々税理士仲間の会の厚生部が企画した4〜5日程度の短期の親睦団体旅行、観光もバリ島やジャワ島の総てを堪能することはとても出来ない。ごく一部分だけしか楽しむことが出来なかったことは、心残りであった。しかし、その一部分の観光旅行の中から、心に響いた幾つかを紹介してみよう。
インドネシア全体では少数派のヒンズー教(※1)ではあるが、バリ島ではヒンズー教徒が90%以上を占めているという。このうち、バリ島の面積は5,600ku(国全体の3/1000弱)、人口約300万人(国全体の1.5%)と云うチッポケな島であり、主としてヒンズー教徒である。このチッポケなバリ島が、何故こんなに人気を呼んでいるのか?、どこに魅力があるのか?
それは大自然、動植物、文化、どれをとっても、興味ある旅が出来るからだ。それに加えて、エメラルドに輝く海は、世界中のダイバーたちに注目されているとか。トロピカル・フィッシュや魚群、マンボウ、サンゴ礁など、バラエティーに富んだダイビングポイントが点在する。また、日本と同じように、海に囲まれた島国のインドネシア、矢張りシーフードは美味しい。そして楽しみは何と云ってもマリンスポーツだろう。
インドネシアの中でもバリ島は、一年中がお祭りと云われる程、祭礼が多彩で、特に寺院の建立祭が多いと云われている。そしてバリ島は神々の降り立つ島、南海のパラダイスと云われ、単なる観光地とは異なる独特な雰囲気というか、魅力をもつ島である。飛行機を降りた瞬間から、バリ島の自然を身近に感ずるのである。それは、幼い頃見た田舎の自然にも似た雰囲気を感ずるからだろうか。
まずその第一、バリ島の伝統芸能についてである。その筆頭は何と言ってもバロンダンス(Barong Dance)(※2)ではないだろうか。村々の悪霊を鎮めるための儀式であったチャロナランを、観光客用に解りやすくアレンジしたのがこのバロンダンス、聖獣バロンと魔女ランダの永遠の闘いを描いたバリ島伝統の舞踊劇だ。日本で云うならば、歌舞伎に当たるのではないかと思われる。
物語は様々だが、何れも善と悪のバランスの上に世界は成り立つという、バリ島の宇宙観を象徴しているようだ。なかでも多い物語は「マハーバーラタ」(※3)の一節だ。生贄になる運命にあるサデワ王子は、シワーの神の力で不死身になる。魔女の手下カリカが王子に闘いを挑むが、勝つことができない。ついにカリカは魔女ランダに、サデワ王子はバロンに変身して、闘いを繰り広げる。バロンの信者達が、ランダの呪術にかかり、自ら胸をクリス(短剣)で突く終幕もまた見ものである。
第二にケチャックダンスを挙げよう。円陣を組んだ上半身裸の男性が、上半身や腕を揺らしながら、”ケチャ、ケチャ”とエネルギッシュに声を掛け合う合唱パフォーマンス。夫々のリズムパートが決まっていて、絶妙に響き合う声と燃え盛る炎が、神聖な雰囲気を醸し出す。円陣の中では、ダンサーによって「ラーマーヤナ」(※3−1)の物語が演じられる。
妻シータをさらわれたラーマが、猿王ハノマンの力を借りて、妻を救い出すと云うストーリーで、男たちは猿の軍団を演ずるのである。この国の民族の伝統、魂を今そこに見ているようで感慨が深い。
第三、これも踊りの一つ、レゴンダンスと云う踊りを紹介しよう。正式な名称は「レゴンクラトン」と云い、宗教性の強い踊り、ガンブーとサンヒャンの二つの要素を取りいれたものと云われる宮廷舞踊。女性3人が優美に舞うレゴンは、宮廷音楽として古い歴史を持つ。
物語は、ランケサリ姫をめぐるラッスム王とパンジ王の闘いを描いたジャワ島のパンジ物語が元になっているそうな。
バリ島にはまだまだ見どころは沢山ある。ガムラン(Gamelan)音楽(※4)もその一つ、バリ舞踊に欠かせないのが「青銅交響曲」と称せられるガムラン音楽、現在では世界的に有名になり、海外公演も盛んになっている。青銅製の打楽器で編成され、バリ舞踊の序曲や伴奏として演奏される。強烈な響きと緩急巧みなリズムは、時には踊り手をトランス状態に導く。ガンサ(鍵盤楽器)、クンダン(太鼓)、ゴング(銅鑼)などならなり、通常はクンダンの演奏者が全員の間合いをはかる指揮者の役割を担うのである。
また、国際空港のあるデンパサール(Denpasar)、ここは、南国の強烈な匂いが漂うバリ島の中心地である。ここにはバリ博物館(Museum Bali)がある。伝統的な建築様式で建てられた三棟からなる。バティックとイカット、バリの伝統儀式、バリ舞踊で使用されるガムランやバロンなどが展示されている。
そして、ジャガッ・ナタ寺院(Pura Jagatnata)、ここは、バリ博物館の隣にあり、デンパサールでは一番大きい寺院だ。拝観に際しては、黄色い腰布を巻き、お布施を置くとよい。
また、バドゥン市場(Pasar Badung)、ププタン広場(Medan Puputan)などもデンパサールにある。前者はバリ最大の市場で、朝から活気に満ち、様々な食料品が所狭しと積まれ、特に生鮮食料品売り場は迫力満点。後者はデンバサール市民が集う憩いの場、広場の入口にはオランダの侵略を受けた当時のバドゥン王国の戦士のモニュメントがある。
次は芸術の分野を見てみよう。バリ芸術の中心地、それはウブドである。ウブドは神秘の島として人気が高い。ハイレベルな絵画を集めた美術館や、伝統工芸の工房が多く見られるのがウブド。豊かな自然の中ではぐくまれた芸術に触れてみてはいかがですか。では先ずネカ美術館(Museum Neka)でインドネシア人画家とバリで芸術活動をした西洋人画家の作品を集めた、バリの神秘を感じる美術館である。次にアルマ(Museum Arma)、96年ウブドの絵画収集家アグン・ライ氏がオープンしたもので、絵画だけでなく、写真、彫刻など広くバリの芸術を展示するアートミュージアム。ウブド最大の展示場である。
バリ島の観光、まだまだ限りがないが、そのバリ島だけに止まらず、その周辺の島々もまたバリ島と同じような観光スポットの宝庫と云って過言ではないだろう。
バリ島の東35kmにあるロンボク島は、第二のバリ島として人気がある。先住民族でイスラム教を信奉するササック族の村が点在し、伝統的な住居、踊り、工芸文化などが見られ、島の西方は白砂のスンギギビーチに代表されるリゾート地として知られる。
編者から一言:ハリケーン先生、折角バリ島へ行きながらキンタマーニ(Kintamani)を訪れてないのは、ちょっと残念ですな。バリ島のキンタマーニと言ったら、1400mの高原地帯で数寄者には結構有名なスポットなんですよ、何故かって?、この名前を聞けば解るでしょ!
次に今度は、ジャワ島の仏教遺跡を訪ねてみよう。
先ず初めに、仏教遺跡ボロブドール(Borobudur)だ。イスラム教の国インドネシアに残る、数千年を超えるジョグジャカルタの郊外に残る世界最大級の仏教遺跡ボロブドールは、その壮大な石造遺跡の数々の謎は、後世に語り継がれるものだが、これは、1千年以上も土に埋もれていた謎の遺跡で、九つの段層の側面には、釈迦の生涯など仏教に纏わる物語の数々が彫刻されている。
この遺跡観光地、なんと此処は観光客に付き纏う物売りの多いこと、「センエン、千円、千円・・・」と言いながら観光客に日傘をさしかけて、買うまでどこまでも付いて来る。驚いたのは僕だけじゃない。観光バスで次の観光地で下車したところ、もう後を追いかけて来て「センエン、千円・・・」とやっているではないか。すさまじい商魂?、であることよ。
次は、プランバナン遺跡。ジャグジャカルタから車で約20分、プランバナン平原にある巨大遺跡群、ここがプランバナン寺院だ。このヒンズー教寺院は、チャンディ・ロロ・ジョグランと呼ばれ、主堂のシワ堂を中心に南堂のブラフマ堂と北堂のウィシュヌ堂の三つから成っていて、中央のシワ堂は、高さが47mもあり、ラーマヤナ物語が壁面に刻まれているそうな。
以上をもってバリ島・ジャワ島観光旅行のホンの一部を書いて旅行記としたい(△1)。今、思い出が頭の中を駆け巡る。バリ島の西隣ジャワ島の静かな佇まい。そのジャワ島のジャグジャカルタの街、18世紀に初代サルタン(又はスルタン)の命により建造された宮殿、サルタンの離宮として造営された「水の宮殿」、そして本格的なジャワ更紗の工房等々、数えあげれば枚挙に暇がない。
素朴な島、伝統の島、大自然の美しい島、まさに南海の楽園である。かくして4〜5日間の短いバリ島とジャワ島の観光が終わった。
再びデンパサール空港から命がけで航空機に搭乗、7月8日(日)なつかしの大阪に帰って参りました。これをもって航空機恐怖症候群とも、しばし決別するところと相成って、ハッピーエンド、目出度し目出度し!
【脚注】
※1:ヒンドゥー教/ヒンズー教(―きょう、Hinduism)は、古代インドのバラモン教を前身(BC15世紀〜BC6世紀)とし、BC5世紀〜AD5世紀頃に形成された宗教。開祖を持たない。各地の土着信仰を採り入れ、その後、大乗仏教の影響をも加え、5世紀から10世紀に掛けて発展。後イスラム教/キリスト教が入るに及んで一時衰退、19世紀に宗教改革運動が有って再び隆盛。呪物崇拝/アニミズム/祖先崇拝/偶像崇拝/汎神論哲学などの諸要素を含み、多くの宗派に分れる。中でもブラフマー(創造神)/ビシュヌ(保存神)/シヴァ(破壊神)の3神が特に信仰される。カースト制度と深く結び付いて居り、現代のインド人の大多数が信仰する。ネパールやバリ島など他の南アジア諸国にも信者が居る。聖典はヴェーダ(←バラモン教と同じ)。インド教。<出典:一部「学研新世紀ビジュアル百科辞典」、「縮刷版 文化人類学事典」より>
※2:バロンダンスの詳しい内容は、ハリケーン上田氏の取材メモより以下に解説します。
バロンの踊りはガムランというバリ島独特の楽器を使用して行われる踊りです。バリ島の人々は、人の心の中には、良い魂と悪い魂がいつも同時に存在していると信じています。この「バロンの踊り」は、人の心の中にある善と悪の戦いを物語るものであり、結果として善悪両者とも決着のつかないまゝ生き残る(つまり、この世には善悪が永遠に存在する)といった内容です。
この踊りに登場するバロンという動物は良い魂を、またランダという動物は悪い魂を演じています。バロンとランダの戦いを最後までごゆっくりご鑑賞下さい。この踊りは七段階に分かれており、各段階の内容は以下のとおりとなっております。尚、物語の始まる前に歓迎の踊り、簡単な喜劇をお楽しみ下さい。
[1].サデワ王子は、この日バタリドルガという死神の生贄として捧げられる運命にありました。サデワ王子の母親(女王)の二人の召使は、とても悲しがっています。二人の召使の前に死神の使いである魔女が現われ、サデワ王子が死神の生贄になることを二人の召使に伝えます。二人の召使は魔女が去った後、サデワの国の首相にサデワ王子が生贄にならないよう助けを求めます。
[2].首相と女王が現われます。女王はサデワ王子が生贄にされるのを、とても悲しがっています。魔女が現われます。魔女は女王の気が変わるのを恐れ、女王に呪いをかけ、女王に首相にサデワ王子を生贄にするように命じさせます。
[3].首相はサデワ王子を自分の息子のように愛しており、女王の命令にそむこうとします。魔女はこれに気付き首相に女王と同じ呪いをかけ、サデワ王子を死神の住んでいる家の前に縛り付けさせます。
[4].シワーの神様が現われます。シワーの神様はサデワ王子が樹に縛り付けられているのを見て、哀れみをもち、サデワ王子を不死身の身体にします。
[5].死神が現われます。死神はサデワ王子を見て早く生贄の儀式に取り掛かりたいと思いますが、サデワ王子が不死身の身体になっているのを見て、自分の敗北を認めます。死神はサデワ王子に自分を殺してくれろように頼みます。死神は天国に行くことができました。
[6].死神の第一の弟子のカレカは、同じように天国に行きたいと望み、サデワ王子に死神と同じように殺してくれと頼みますが、サデワ王子はこれに同意しません。そして、カレカは巨大な動物や鳥に変身して、サデワ王子と戦いますが、いずれも負けて仕舞います。カレカは最後の力を振り絞って悪魔の女王であるランダに変身します。サデワ王子はこのまゝではランダにかなわないことを知り、真実の神バロンに変身します。ランダとバロンの力が対等なため、バロンは見方を呼びます。
[7].バロンの見方が現われ、ランダと戦います。しかしランダの魔法にかけられてランダに対する怒りをすべて自分たちに向けて仕舞います。バロンはこれを見て、ランダのかけた魔法を取り除きますが、結局はランダとバロンの終わりのない戦いになります。最後に踊りが終わった後で、お寺の僧たちが代わりに生贄を捧げます。また、踊っていた人達には清めた水を振りかけます。
※3:マハーバーラタ(Mahabharata[梵]、摩訶婆羅多)は、古代インドの大叙事詩。バラタ族に属するクル族の100人の兄弟とパーンドゥ族の5人の兄弟との間に起った戦争物語。現存のものは4世紀頃成る。ヒンドゥー教徒は宗教・哲学・倫理・政治・法律その他有らゆる方面の根本聖典として尊崇。「ラーマーヤナ」と共に、インドの国民的叙事詩。
※3−1:ラーマーヤナ(Ramayana[梵])は、古代インドの大叙事詩。マハーバーラタと併称。ヴァールミーキ作と伝える。コーサラ国の王子ラーマが羅刹王(らせつおう)ラーヴァナに掠奪された妃シーターを奪回するという筋。全7編。現存のものは2世紀末頃の成立。
※4:ガムラン(gamelan[インドネシア])とは、(「叩かれるもの」の意)インドネシアの器楽合奏音楽及び楽器の総称。ガンバンなど木製・竹製・金属製の打楽器を用い、儀式の他に演劇や踊りの伴奏とする。
(以上、出典は主に広辞苑です)
【参考文献】
△1:(株)ラテラネットワーク発行の旅行案内書。
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ハリケーン上田、人生最後は文筆家
(Hurricane Ueda, end of life is writer)
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上田研而税理士、又の名をハリケーン上田(Hurricane Ueda)