§.2006年・年頭所感|補遺
[十二支獣雑話-事始(本格派「動物占い」)]
(2006 beginning, SUP.)

-- 2006.01.24 エルニーニョ深沢(ElNino Fukazawa)

 ■本物の動物で占う本格派「動物占い」 - バビロニアの肝臓占い
 ★このページは本論(Main-issue)
  2006年・年頭所感-十二支と猫(Chinese zodiacal signs and Cat, 2006 beginning)
補遺ページ(Supplement-Page)です。


 「十二支事始」として本論では十二支の成り立ちと、それがメソポタミア(※1) -中でもメソポタミア中南部に栄えたバビロニア(※1-1)とする説が有力- に発祥した占星術や6進法の影響を受けて居る事、そして十二支占いについて述べました。十二支占いには生まれ年(=生まれ星)に依るものと十二支獣に依る動物占いの両面について述べましたが、このページでは遠い昔に行われて居た”本物の動物で占う本格派「動物占い」(genuine animal fortune-telling)”について述べます。ですから副題の本格派とは”本物派”という意味なのです。
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 占星術の発祥地と目されるバビロニアでは「肝臓占い」が行われて居ました。何しろ生きた羊の腹をかっ捌いて肝臓を取り出し、その大きさ・形・色や斑紋から近未来の吉凶や前兆を読み取ったと言いますから凄い話で、これをヘパトスコピー(hepatoscopy)と呼ぶそうです(△1のp143)。英和辞典を引くと "hepatic" が「肝臓の」という意味ですから、それと "scope" の原意「見るもの」(元はギリシャ語)との合成語でしょう。つまり「肝臓で[近未来を]見る」という事です。
 本当にそんな占いが在ったの?、と疑う方の為に歴とした証拠をお目に掛けましょう。『旧約聖書』の「エゼキエル書」第21章にはバビロンの王は道の分かれ目、二つの道のはじめに立って占いをし、矢をふり、テラピムに問い、肝(きも)を見る。彼の右にエルサレムのために占いが出る。すなわち口を開いて叫び、声をあげ、ときを作り、門に向かって城くずしを設け、塁を築き、雲梯を建てよと言う。」と在ります(△2のp1177~1178)。バビロンとは勿論バビロニアの首都で、その王が道が二股に分かれる所で「肝を見る占い」をしたのです。これこそ「肝臓占い」に他為りません。
 又、別の書物の「バビロニア・アッシリアの宗教」にも「とくに犠牲獣の内臓 -なかでも肝臓- の色や形態による占いは、最も一般的であった。」と記し(△3のp12)、占いの為の肝臓模型の写真を載せて居ます(△3のp13)。
                (-_*)

 古代中国の殷では甲骨文字(※2) -本論でも出て来ました- が使われて居ましたが、亀の甲羅を剥がし(←多分肉は食ったのでしょう)、甲羅を炙ってその割れ目の出来方で吉凶を占った亀甲占い(=亀卜)(※2-1、※2-2)が行われて居ましたが、これも考えて見れば残酷な話です。しかし中国ではここから(※2-3)が生まれて居ます(△4のp206~207)。
 血生臭い話ですが驚くには当たりません。古代に於いては広く世界的に神に生け贄(※3)を捧げる儀式が執り行われて居たからです、しかも可なり日常的に。生け贄を捧げる行為はハレとケの儀式に伴う非日常のものですが、それが”事有る度”に行われましたので人々は日常的に贖罪の生き血を目にして居たのです。或る時は儀式後に犠牲の動物の肉を食べたでしょう。故に古代人は「肝臓占い」など”へっちゃら”と考えるのが道理です。
 そして生け贄の動物ですが、遊牧民族では羊・山羊・牛、アジアの農耕民族では鶏・豚などが一般的ですね。もっとローカルには、その地方で神聖視されてる生き物も挙げられます。
 しかし「動物の血」位で驚いて居ては行けません、人身御供(※3-1)が在ります。これは生きた人間を犠牲に捧げる儀式で、大きな橋や建造物を建造する前に「水の神」「河の神」や「土地の神」に人間を犠牲に捧げるものです。その犠牲には大抵は処女が選ばれました、処女は昔から神聖視されて居ました。これは日本でも古代には行われて居たのです、所謂「人柱」(※3-2)というのがそれです。皆さんも昔の人柱伝説などを聞いた事が有ると思います。又、古墳の殉死者なども該当します。
 人間の場合は血を流さない様に生け贄にする場合が多いですが、生きた人間の心臓を取り出して捧げるなどの儀式も在りました。刑罰では血を流す死刑の方が近世迄は世界的に一般的でした。繰り返しますが、故に古代人は「肝臓占い」など”へっちゃら”なのです。
 動物の肝臓で占った理由は、バビロニアに限らず古代では心臓では無く肝臓が生命力の源と見做されて居たという事の様です。そう言えば今でも「肝心」「肝腎」「肝要」などの熟語が在り何れも「大切」という意味に使われて居ますが、これは肝臓・心臓・腎臓が大切な内臓と考えられて居たからでしょう。又、肝(きも)(※4)と訓読みすると肝臓を指す場合も勿論有ります(※4-[1])が、肝臓を含む内蔵全体を指す場合も有り(※4-[2])、肝臓が内臓の代表格として扱われて居ます。
 まぁ兎に角、占星術や肝臓占いなどバビロニア人は占いが大好きだったと言えます。

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--- 以上 ---

【脚注】
※1:メソポタミア(Mesopotamia)は、(ギリシャ語で「川の間の土地」の意)西アジアのチグリスとユーフラテス両河川間の地現在のイラクに含まれる。メソポタミアの北部をアッシリアと呼び、南部をバビロニアと呼ぶ。更にバビロニアの内の北部をアッカド、南部をシュメール地方と言う。新石器農耕の開始はジャルモなど北部が先行したが、BC3000年頃シュメール人が南部に来住しエジプトと並ぶ最古の都市文明を発祥させた。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>
※1-1:バビロニア(Babylonia)は、チグリス川とユーフラテス川下流域シュメールとその上流域アッカドを含む、メソポタミア中南部の1つの歴史的な世界。中心市バビロン。南部のシュメールでは、BC3400年頃からウルやラガシュなどの諸都市が形成され、BC2800年頃初期王朝時代に入った。BC24世紀、上流域のアッカド人が全メソポタミアを統一(アッカド王国)。次いでBC22世紀末に始まるウル第3王朝時代を経てBC2000年頃からアモリ人が活躍しBC19世紀バビロン第1王朝が成立、その第6代ハンムラビ王BC18世紀メソポタミアの支配者と成った(バビロニア王国)。その後の変転を経てBC7世紀後半には、南部のセム系カルデア人がアッシリアの支配を覆し、バビロンを首都に新バビロニア(カルデア王国)を建てた。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>

※2:甲骨文字(こうこつもじ、characters on animal bones and tortoise carapaces)とは、亀甲・獣骨などに刻まれた中国最古の体系的文字で、漢字の字形を示すものとして現存最古。骨を火で焼いて表面に出来る割れめの形で吉凶を占い、結果をその骨に記録したもの。殷代に多く、西周前半にも在る。中国河南省の殷墟から多数発見。甲骨文殷墟文字卜辞(ぼくじ)。<出典:一部「学研新世紀ビジュアル百科辞典」より>
※2-1:亀甲(きっこう/きこう、tortoise shell, carapace of a turtle)は、この場合、亀の甲背甲腹甲とから成り箱状。前後が空き、頭や四肢を引っ込める事が出来る。表面は角質の鱗板(スッポンなどでは皮膚)で覆われる。背甲の鱗板は椎甲板/肋甲板/縁甲板などが並び、所謂亀甲模様を形成。鱗板の下には骨質板が在り、実質上の甲羅を形作っている。背甲の骨質板の下には幅広い肋骨が在り、背甲を補強。中国では占い=亀卜)に利用された。日葡辞書「キッコウ」。
※2-2:亀卜(きぼく/かめうら/かめのうら、tortoise shell fortune-telling)とは、亀の甲を焼き、出来た裂け目で吉凶を判じた占い。亀坼(きたく)。亀の甲の裏。万葉集5「―の門と巫祝(ふしゅく)の室」。→卜骨(ぼっこつ)。
※2-3:易(えき、divination)とは、[1].易経(周易)のこと。
 [2].又、易経の説く所に基づいて、算木(さんぎ)と筮竹(ぜいちく)とを用いて吉凶を判断する占法。上古、伏羲が初めて八卦(はっけ)を画し、神農が八卦を組み合わせて六十四卦と成したのに始まると言う。陰陽二元を以て天地間の万象を説明するもので、を示す陰爻「--」とを示す陽爻「―」を3つ重ねた八卦を基本とし、八卦を組み合わせた六十四卦に万象を含むとする。中国古代の宇宙観を示すもの。易占い。易学。「易者・易占」。<出典:一部「学研新世紀ビジュアル百科辞典」より>

※3:生け贄(いけにえ、sacrifice)は、[1].生きた儘で贄(にえ)として神に供える生き物
 [2].(転じて)或る目的の為に生命、又は名利を捨てる人。犠牲(ぎせい)。
※3-1:人身御供(ひとみごくう)は、[1].human sacrifice。生贄として人間を神に供えること。又、供えられる人。犠牲(ぎせい)。
 [2].victim。(転じて)或る人の欲望を満たす為に犠牲とされる人。「組織の―にされる」。
※3-2:人柱(ひとばしら)は、[1].human sacrifice。架橋・築堤・築城などの難工事の時、神の心を和らげ完成を期する為の生け贄として、生きた人を水底・土中に埋めたこと。又、その人。平家物語6「―立てらるべしなんど」。
 [2].victim。(転じて)或る目的の為に犠牲と成った人。

※4:肝・胆(きも)は、
 [1].liver。肝臓。(人間以外の動物にも言う)〈和名抄3〉。「うなぎの―」。
 [2].internal organs。内臓の総称。五臓六腑。万葉集16「わが―もみなますはやし」。
 [3].heart。精神。気力胆力きもだま。推古紀「汝(いまし)は―稚(わか)し」。
 [4].device。工夫。思案。沙石集7「余りにも―過ぎてしてけるにこそ」。

    (以上、出典は主に広辞苑です)

【参考文献】
△1:『エピソード魔法の歴史 黒魔術と白魔術』(G.ジェニングズ著、市場泰男訳、現代教養文庫)。

△2:『旧約聖書(1955年改訳版)』(日本聖書協会編・発行)。

△3:『世界の宗教と経典 総解説』(自由国民社編・発行)。

△4:『暦と占いの科学』(永田久著、新潮選書)。

●関連リンク
参照ページ(Reference-Page):十干や十二支について▼
資料-十干十二支(Chinese zodiacal signs and 60 years cycle)
参照ページ(Reference-Page):占星術の用語▼
資料-天文用語集(Glossary of Astronomy)


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