女学生
引越し後のアパートの清掃を不動産屋に頼まれて行った時、その部屋はひどく汚れていた。
不動産屋は、「女子学生が住んでいたんですが、自分の顔はいつもきれいに手入れしていたんですがねー。部屋も同じくらいきれいにしてくれればよかったのに」とぼやいていた。また、「今は男子学生の方が純情ですよ」と言った
夫婦喧嘩
大手企業のサラリーマンの奥さんに時々仕事を頼まれた。いつも夫婦喧嘩した後だ。仕事を半分して、後は旦那の愚痴を聞くのだった。
一時間も聞くと奥さんはストレス解消になるが、その分こちらにストレスが溜まる。「エネルギー不滅の法則」というものだろうか。仕事とはいえ、決して楽なものではない。
おばあさん
ハウスクリーニングを頼まれていった家のおばあさんは、80歳でチャーミングな人だ。若い頃は男にもてただろう。
仕事を終わってお茶を出されて飲んでいたら、私に向かって、「あなたは歌手の吉幾三に似ていますね」と言った。その脇にいた息子さんが、「この人に惚れたんじゃないか」と冷やかしたら、顔を赤くして、「下品なことをいうもんじゃないよ」と怒った。
後日、枝切りを頼まれていった時、年不相応な真っ赤な口紅を付けて、縁側に立っていた。
そして、「あなたは年の割には白髪が多いね、若い時女遊びをしたんじゃないかい」と、うっとりした目で言うのでした。
ゴミの山
ある日、マンションの住人から、「部屋を掃除して欲しい。だいぶ汚れているので覚悟して来てくれ」と電話で言われた。
行ってみると、本人は背広を着てネクタイをして見なりはきちんとしている。しかし、部屋に入ってびっくり、ゴミがいっぱいで、床がまったく見えないのである。ふとんはゴミの上に敷いてあり、その上に寝ていたようだ。
最近こういう依頼が増えているが、心の病なのかゴミの選別が厳しくなった為なのかよく分からない。
相談
夜に電話が鳴ったので、私が取ったら、「相談に乗っていただけないでしょうか」と言うので、「どんなことですか」と聞いたら、「私は60歳ですが、これまでに電気関係の仕事をしてきましたが、仕事がなくなり、前途に全く希望が持てません。
そこで、お金のあるうちに死のうと思って、医者やNPOに行って相談しましたが、断られました。何とか協力してもらえませんでしょうか。家族もいないので。」と言うことでした。
もちろん断りましたが、このご時世切羽詰っている人がいるものだと改めて思いました
庭木伐採
庭木伐採を頼まれて行った。行ってびっくり、庭木がぼうぼう生い茂り、家が庭木に埋まっている感じだ。
長年この商売をやっていると、庭を見ただけで、住んでいる人の人間性が分かってくるものだ。
案の定、玄関から出てきたお客は、話していると、どこかピントがずれている。常識を弁えないところがある。この商売をしていると、いろいろな人との出会いがある
神様
家具移動を頼まれていったら、80歳位のおばあさんと60歳位の女性がいた。たぶん親子のようであった。
家具があまり大きいので分解して運ぶことにした。しかし、ネジがきつくてなかなか回らない。苦労していると、突然、その親子が家具に向かって、手を合わせて、「神様ネジが回りますように・・・・・」と祈り始めた。
そしてやっとネジが回ったら、また2人でバンザイをして、「神様、有難うございました・・・・。」と手を合わせてお祈りを始めた。この親子は宗教団体の信者さんだと思った。
ステンレス鍋
ハウスクリーニングに行った家で、粗大ゴミの処分を頼まれた。
その中にステンレス鍋セットがあった。それは親戚から贈られた物であり、未使用の物で梱包されたままだった。そこの奥さんは家事をあまりやらない人で、使わないということであった。
その鍋を家に持ち帰り、捨てる前に妻に見せたら、「これはアメリカの一流メーカーのステンレス鍋セットで、買えば十数万円する」と言うので、自分の家で今まで使っていた鍋を捨てて、その鍋を使うことにした。
お医者さん
家具の移動を頼まれて行ったお医者さんの自宅。
家具の移動が終わって、お茶を飲んでいると、お医者さんの奥さんが、「うちの子供はアトピーで、治らなくて困っているのです」と言った。
私は「うちの子供もアトピーで、ドクダミを煎じて飲ませたら、1ヶ月で治りました」といったら、奥さんは、「是非、詳しいことを教えて下さい。早速試してみますから」と言ったので、詳しく教えてきた。
私は現代医学の限界を感じた。
我が人生に悔いなし
仕事を頼まれて、10時に休憩をしていたら、依頼主がお茶を持ってきて、私に向かって、「社長さんは死ぬ時は、我が人生に悔いなし、と言って死ぬんでしょうね」と言った。
一瞬ぎくっとした。少ししてから意味が分かった。どうも、私の経歴や生き方を見て言った様だ。少しうれしかった。
不用品処分
ハウスクリーニングや庭の手入れを頼まれて行く家。
そこは老夫婦だけが住んでいる家で、おじいさんは90歳位で、少しボケかかっていて、時々わけの分からないことを言っていたので、時々おばあさんに怒られていた。
ある日、枝切りを頼まれて、作業終了し帰ろうとした時、おばあさんが、「この次は、物置にいらない物があるので整理してもらおうかしら。家の中にもいらない物が、いろいろと有るのですが」と、おじいさんを見ながら言った。
おじいさんはおばあさんの後ろで、小さくなってもじもじしていた。
精神病の娘
バットを振り回したりして、暴れる娘を、精神病院に連れて行くので、手を貸して欲しいと頼まれた。
指定した時間に行くとその娘と親たちがいた。その娘は美人で身なりもきちんとしていて、とても精神病には見えなかった。
親が合図をしたので、仕方なく、後ろから羽交い絞めにした。長い髪が鼻にかかり、よい匂いだった。ムリムリ車に乗せた。車中で親子の話を聞いていると、どうも親に問題がありそうだ。
その日は後味の悪い思いであった。
ハスキー犬
ハスキー犬は番犬にはならないと聞いていた。それは泥棒のいないエスキモーと、長い間暮らしを共にしてきた為、他人に警戒心をいだかないからだと言われている。
ハスキー犬を飼っている家に草取りに行った時、「この犬は番犬になりますか」と聞いた。そこの奥さんは、「実はある晩に、トイレに起きたら、ガレージの車の中に人影があり、それは車上荒らしでした。
その時、この犬はすぐ近くで、この人に向かって尻尾を振っていた。」と言うことであった。
蜂に刺された日
植え込みの中にスズメバチの巣があるので取って欲しいと連絡が入る。
合羽を着て、防護網をかぶり作業に入った。スズメバチが数十匹、戦闘機のように攻撃してきた。
そのうちの1匹が防護網の隙間から入り、あごを刺した。その蜂を殺し、巣を取った。駆除費三万円を頂戴し家に帰った。
妻が私の顔を見て、「すぐ病院に行って」と言う。私は「行く必要はない」と言った。妻は、「何言ってんの、病院に行かなければ駄目だ」とわめく。私は、「ばか者!俺はいまだかつて、蜂に刺されたぐらいで病院に行ったことはないんだ。大げさに騒ぐな」と叱り付けた。
妻はあわてて鏡を持ってきた。私はその鏡に写った顔を見て、「すぐ病院に行く。車を運転してくれ」と言った。
とても一人で行く気にはなれなかった。鏡に映った顔は腫れ上がって、この世のものとは思えなかった。帰り道にすれ違った人が、私の顔をじろじろ見たのが、初めて理解できた。
病院に行くとすぐ注射を打たれ、ベットに寝かされて、2時間ほど点滴をされた。
医者からは、「2日間、安静にしなさい」と言われた。また、帰る時に、「今度刺されたら、命が危ないから」と言われた。
記者の取材
新聞社から取材をしたいという連絡が入った。体もあいていたので受けることにした。
女性の記者が私の家に来て、いろいろ質問してきた。それに答え、「毎日行く所が違うので、厭きないものです」と言ったら、記者に、「志摩さんは人間が好きなんですね」と言われた。
このように言われたのは初めてである。しかし、後でいろいろ考えてみると、この記者は職業柄か、観察眼が鋭いと思った。
米相場
ハウスクリーニングでお邪魔した家。
そこの主人は60歳代位で、「私は電話の側を離れられないので、運動不足になり、糖尿病になりました」と言った。
この方は米相場で稼いでいるので、瞬時も電話を離れられないということでした。
はたからみると、楽して儲けているようだが、それなりの苦労があるものだなと思った。
ご本尊様
エリートサラリーマンの奥さんから、時々清掃や修理を頼まれた。そのうち段々と悩み事の相談を受けるようになった。
仕事を依頼されて行くと、仕事よりも悩み事を聞く方が多くなってきた。そのうち私のことを、「ご本尊様」と言うようになった。
この方は家庭内の問題から、日本有数の某宗教団体に入っていたが、それでも悩みは解決しないもののようだった。
運不運
毎年、植木剪定やハウスクリーニングを頼まれていた老夫婦の家庭。
ご主人は70歳半ばの老人だが背筋が真っ直ぐでかくしゃくとしていた。
お茶の時間や昼食時は、よく昔話を聞かされた。「戦争中は戦地に7年ほどいたが、1回も弾には当たらなかったが、新兵が初めて戦地に来て、その日に弾に当たって死ぬ人がいる。運なんでしょうねえ」と言った。
その時私はこの人の運の強さを感じた。また、姿勢の良さも運に関係すると思った。軍隊において姿勢をやかましく言うのは、そういうことなのだろう。
こういう老夫婦だけの家庭は寂しさもあり、よく話しかけてくる。話し相手になってやるのも仕事のうちだ。話がしたくて仕事を依頼されることもある。
家庭内暴力
「排水管が詰まったので直してほしい」と連絡が入る。
詳しい話を聞くと、その一戸建ての家には、息子一人だけ住んでいる。自分達夫婦は、息子の家庭内暴力から逃れるために、別のところにアパートを借りて暮らしているということであった。
早速現場に急行する。怖い兄ちゃんが出てくると思って、恐る恐る玄関に入ったら、おとなしそうな20歳位の兄ちゃんだった。家の中も外もゴミは散らかし放題、荒れ放題であった。
こういう現場には何回か出合わせた。息子に殴られて前歯を折ったとか、肋骨を折ったという話も聞いている。
軍人の奥さん
枝切りを頼まれて行った時。門から入っていくと、おばあさんが立っていた。
一見70歳くらいで、背筋が真っ直ぐで毅然とした雰囲気があり、もしかしたら元軍人の奥さんではないかと思った。
挨拶をすると私にむかって、「あなたは昔軍人ではなかったですか」と言われた。「私は終戦後に生まれたんですよ」と言ったら、「私の主人は昔軍人で、その部下にあなたが良く似ていたものですから」と言われた。
一仕事をした後、お茶をだされた。
その時おばあさんは、「私は90歳です。主人は戦前はバリバリの軍人でした。日本が戦争に勝っていたら、日本を動かす地位にいたでしょう。しかし、戦争に負けてからは、すっかり腑抜けになりました。」と昔の話をされていた時、庭の裏木戸から、乞食のような人が、すうっと入ってきた。
その人の顔をよくよく見ると、髭を生やし、立派な顔つきでした。この人が話題の人だと思った。
それ以後、このおばあさんに気に入られたようで、時々仕事を頼まれた。私が電話口に出ると、名前を言わずにいきなり、「わたし!」と言うのであった。
妻以外には、「わたし」と言われる人は居ないはずなのに。
ゴミ屋敷
最近、仙台でもゴミ屋敷が増えてきた。
ある老人から、貸していた家のゴミ片付けを頼まれた。数年間ゴミを片付けないで住んでいたという話だ。
行ってみると一階も二階もゴミの山で床が見えない。そして変な臭いがする。どうも死臭のようだ。
奥の座敷を片付けていると、ねずみの糞やうじ虫の抜け殻があちこちいっぱいだった。台所ならともかくこの部屋にねずみの糞等がいっぱいあるのが不思議だった。
後日老人からいろいろ話を聞くと、住人はそこで死んでいたようだ。それも数週間あるいは数ヶ月経ってから発見されたようだ。
多分、その死体はねずみ等に食い荒らされてたと思う。
夜逃げ後の片付け
不動産屋からの依頼で、夜逃げした家の後片付けをよく頼まれた時期があった。
行ってみると、身の回りの物だけを持って逃げるのだろう。家財道具はほとんど残っている。子供のランドセルや教科書が机にそのままになっている時は胸が痛んだものだ。
仕事を始める前に、先ず、ほしいものを探して車に詰め込む。けっこう、金目の物もあった。
終わったころ、ペンキ屋や内装屋が来る。残った物を、欲しそうに見ているので、「欲しいものを持って行ってもいいよ」と言うと、我先に探し方を始める。
何時になったら仕事を始めるのかと思ったことがよくあった。
夜逃げする人は事業・商売をしていた人が多く、全盛時代に買ったと思われる高価なものが多かった。しかし、ほんとに金目の物しか持ってこなかった。すぐ家の中がいっぱいになるからだ。
ある時、片付け方をしていると、そこの管理をしているという弁護士が来て、「家財道具を運び出すのをやめろ」と言う。
変なことを言う奴だなあと思い、無視して作業をしていると、警察に訴えられ、刑事が3~4人乗り込んできて、「おまえ等何やっているんだ。窃盗罪で逮捕するぞ」と言った。
私は面倒なことになってきたなと思って、丁度そのころ町内会長をしており、名刺の裏に町内会長の判を押していたので、それを出したら、「あ!。町内会長されているんですか、旦那さん」と態度がころっと変わった。
しかし、刑事達には判断できない問題だったようで、本署まで行き、事情を説明し、一件落着した。
競売物件にはいろいろ権利を主張する人がでてくるものだと思った。又、警察官は肩書きで対応が極端に変わるものだと思った。
強制執行
「競売物件を落札したが、退去しないでそのまま住み込んでいる人がいる。強制執行し、追い出すので、屈強な者を連れてきてほしい」といつもの不動産屋からの連絡が入る。
指定された日時に作業員を連れて現場に行くと、依頼主と執行官が待っていた。
まず執行官が入って行った。私たちはこういう仕事は初めてなので、住人が追い詰められて出刃包丁を振り回したりするのではないか、暴力団が居座っているのではないかと想像し緊張して待機していた。
しばらくすると執行官から合図があり、家の中に入って、家財道具を一室に集め、封印した。まったく抵抗はなかった。
作業員にはおじけづくと思い、仕事の具体的内容を話してなかったので、作業終了後、「何がなんだかわからなかった」と作業員は言った。
運が悪くなる
植木剪定・枝切りを頼まれて行った家。
奥さんはきれいだったが、庭にはゴミが散らかし放題で汚かったので、その奥さんに、「屋敷を汚くしていると、運が下がるそうですよ」と言ったら、「ああ!その言葉にドキッとしました。実は思い当たるんです。」と言われた。
その奥さんは大いに反省したようだった。
お寺の奥さん
お寺の墓地の草刈りの依頼があった。2名で3時間18、000円の約束である。
行ってみると門構えや建物の立派なお寺だった。奥さん(60歳代)が出てきて、「うちのパートは時給千円です。お宅は時給三千円に相当するので三倍働いてくれるのでしょう。楽しみにしてますわ」と真面目な顔で言う。嫌な予感がした。
3時間で仕事が終わり、料金支払いの時、「お宅は駄目だね。あと頼まないから。」と言われた。このように言われたのは始めてである。
「あなたは仏の教えを知っているのですか」と言いたくなった。
古い家
スズメバチの駆除を頼まれて行った家。
作業は15分位で終わり、玄関に入ったところ、この傾きかけた古い家の奥の方から年寄りが、よたよたとよろけながら出てきた。それを見て正規の料金(3万円)を頂戴するのはかわいそうだなと思った。
しかしその年寄りは正規の料金を払ったうえに、さらに、たばこ銭として3千円をよこした。
立派な家に住んでいる人よりも、こういう家に住んでいる人の方が、お金を持っているものだなと思った。
詐欺商法で有名な豊田商事の営業マンは、その町の小高い所に登って町を見渡し、古い家を狙ったのが分かる気がする。
反対に門構えの立派な新しい家ほど、金払いが悪いようだ。
団地の奥さん
女性の声で、「軒下の蜂の巣の取り方を教えて下さい」と電話が入る。
「うちは教えるのではなく、取るのが商売ですよ」と断る。しばらくして同じ声の人が、「蜂の巣を取って下さい。その前に下見をしてほしい」と言ってきた。そう遠くないので下見に行った。
「取る段取りを教えてほしい」と言われたので、何の疑問もなく説明し、翌日に作業することにした。
その日の夕方、電話が来た、「蜂の巣は自分たちで取ったのでキャンセルします」と言うことであった。
この人は団地の奥さんである。「団地の奥さん方はシビアで、その人たちを相手に商売できたら、商売人として1人前である」と言われているが、まさにその通りと思った。
けものみち
八木山の住宅街から枝切りを頼まれた。
行って見てびっくりした。一戸建ての住宅で、庭木が数十本あったが、少なくとも十数年は切らなかったのだろう。木が家に覆いかぶさり、家が木の中に埋まっているのである。
昼間でも家の中は暗く、電気をつけている。そこは学生数人が間借りしており、その一人が窓から顔を出し、1メートル先を指を刺し、「これ獣道なんです。時々そこから狸が出てくるんです」と言った。
よく見ると、窓から1メートル位まで雑木や草が生い茂り、その下のほうに直径30センチほどの穴が開いていた。そこから狸が出入りすると言うことだった。
真向法体操
真向法は半身不随になった人が、それを直すために考案した体操であると聞いている。私も健康法として取り入れている。
アパートの掃除や除草を頼まれて行った時、そこの大家さんが半身不随であった。私は得意に、「半身不随には真向法が良いですよ。」と言った。
大家さんは、「実は友人に進められて、健康の為に真向法をしたら、半身不随になったんです。やりすぎたんでしょうね」と言った。
何事もやりすぎるのは良くないと思った。
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