■ OSPFエリア
さて、前回OSPFルータのタイプを学習したな。
内部ルータ、ABR、ASBRですね。
うむ。ASBRは自律システムを分割するルータだからとりあえず置いておくとして。
OSPFはABRによって自律システムを複数のエリアに分割するわけだ。
マルチエリアって言うんでしたっけ?
そうだ。小規模ならともかく、中〜大規模になると、1つのエリアではやっていくのは難しい。
なので、複数のエリアに分割する。
[FigureRT09-01:マルチエリアOSPF]
LSUの届く範囲ですよね、エリア。
そうだ。正確に言えば、エリア内部のLSUをそのまま送らないという形になる。
エリア外へは集約した情報しか送らない。LSAタイプを前回やったな。
Type | 名前 | 役割 | 送信するルータ |
---|---|---|---|
1 | ルータリンク | エリア内のルータの各インタフェースの情報 | 全ルータ |
2 | ネットワークリンク | エリア内のルータの一覧情報 | DR |
3 | 集約リンク | 同AS内の他エリア内ルータへの経路情報。 | ABR |
4 | ASBR集約リンク | 同AS内のASBRへの経路情報。 | ABR |
5 | AS外部リンク | 他AS内ルータへの経路情報 | ASBR |
[TableRT08-01:LSAタイプ]
エリア内の情報と、エリア外の集約した情報。
この2つを内部ルータは受け取るってことですね。
キーワードは集約っていうことだな。
エリア外の経路を集約することによって、効率を上げているということを忘れないように。
BSCI第3回でやってますよね、経路集約。
実はこのエリアだが。
複数のエリアタイプがOSPFには用意されていて、この中から選ぶことになる。
複数のエリアタイプ?
その中から選ぶ?
うむ。それぞれのエリアには役割がある。
役割…。
5種類ある。
バックボーンエリア、標準エリア、スタブエリア、トータリースタブエリア、NSSAの5つだ。
ばっくぼーん、標準、すたぶ、とーたりーすたぶ、えぬえすえすえー…?
さっぱりです。
非常に明確な意思の表示だ。素晴らしい。
いやぁ。えへへ。
褒めてねぇ。
はぅっ。
ともかく、さっぱり君の為に順番に説明していこう。
さっぱり君って……、僕ですか?
■ バックボーンエリア
まずバックボーンエリアからだ。
ネット君、バックボーン[backbone]とはなんだね?
ばっくぼーん?
[back]は「後ろ」、[bone]は「骨」? 「後ろの骨」?
なんだね、「後ろの骨」というのは。
[back]は「背中」という意味もあるだろう。
「背中」?
……、背骨!!
ようやっと正解にたどり着いたか。
つまり、バックボーンエリアとはネットワークの中心となるエリアの意味だ。まさしく「背骨」の役割をする。ネット君、人間の背骨の役割は?
人間の背骨っていうと。
まず直立歩行の為でしょ。あと体のすべての神経がまとまって脳に直結していて…。
うむ、そこだ。「すべての神経がまとまっていて」だ。
つまりバックボーンエリアはすべてのAS内のエリアが接続される。
ははぁ。
それで背骨、と。
うむ、そうだ。逆に言うならば他のエリアへのトラフィックは必ずバックボーンエリアを通らねばならない。
必ず?
必ずだ。なので必然的にASの中央に位置することが多くなる。
そしてエリア番号は必ずエリア0だ。
[FigureRT09-02:バックボーンエリア]
上の図ではASBRがエリア0にありますけど。
必ずバックボーンエリアにある必要があるんですか?
いや、これはたまたまだ。
なおバックボーンエリアを位置的に中央に置けない場合。つまりバックボーンエリアに接続するのに他エリアを通過させなければいけないエリアが存在する場合。
[FigureRT09-03:バックボーンエリア・位置的な問題]
バックボーンエリアに接続するのに他エリアを通過させなければいけないエリアが存在する場合?
他エリアを通過してはいけないんですか?
先ほど言ったとおり、バックボーンエリアを他のエリアへのトラフィックは必ず通らねばならない。
なのでこのままではこのルールに違反してしまう。よって仮想リンクを使う。
[FigureRT09-04:バックボーンエリア・仮想リンク]
はぁ。
まぁ、これは先でもう一度説明しよう。
とりあえず、バックボーンエリアを通過しないと他エリアへは送れない、と覚えておけ。
■ 標準エリア
次は標準エリアだ。
これは名前の通りのエリアだな。
標準的なエリアという意味ですか?
何が標準なんです?
うむ。
すべてのタイプのLSAを使用できるという点が、標準という意味になっている。
すべてのタイプのLSAを使用できる、って。
ごく普通なんですけど。
それは残り3つのエリアタイプを説明すればわかる。
■ スタブエリア・トータリースタブエリア
さて、スタブエリアとトータリースタブエリアを説明しよう。
「スタブ」という言葉は以前もでてきたな。
3分間ネットワーキング第31回ですね。
袋小路のネットワークを「スタブネットワーク」と。
うむ。OSPFの「スタブエリア」は「スタブネットワーク」とはちょっと意味合いが異なる。
まずスタブエリアになれるエリアには以下の制限がある。
- ASBRを設置できない。
- バックボーンエリアはスタブエリアになれない。
- 仮想リンクを通過させることができない。
- 通常、他エリアと一箇所しか接点をもたない(複数持たせることも可能)。
まぁ、意味的には「袋小路」というのもある程度あってはいるのだがな。
まず特徴はAS外部ルートを受け取らないという点だ。
AS外部ルートっていうと…。
LSAタイプ5?
うむ、その通り。
ASBRがルート再配布して作り出す、自AS以外へのASへのルート情報だ。
で、でも。
それだと他のASへのルートがわからなくなってしまいますよ。宛先ネットワーク不明になってしまいます。
うむ。なので代わりにABRがデフォルトルートを伝える。
スタブエリア、TSA内の内部ルータはデフォルトルートを使って外部ASへのルートを設定する。
ははぁ。
外部AS宛のルートはABRまかせにして、ABRに送る形にするんですね。
そうだ。
さらにTSAはエリア外ルートもデフォルトルートとして受け取る。
[FigureRT09-05:スタブ・TSA]
このことによって、何が起きるかと言うと。
スタブエリアの内部ルータのルーティングテーブルには、エリア内部ルート、エリア外同ASルート、デフォルトルートの3つかエントリされることになる。
そうなりますね。外部ASへのルートのLSAがデフォルトルートになってしまうんですから。その3つだけになりますよね。
つまり、ルーティングテーブルを小さくできる。
TSAになるとさらに顕著で、エリア内部ルート以外は、デフォルトルートしか持たなくなる。
そうですね、確かに。
大規模ネットワークになると、ルーティングテーブルとデータベースが肥大化する。
これは前も言ったな。
ええ。そのための経路集約でしたよね。
だが、BSCI第3回を見ればわかるように、連続したネットワークしか集約できない。
ネットワークが大きくなればなるほど、集約でだけでは間に合わなくなる。そのためスタブエリアやTSAにしてルーティングテーブルを小さくする。
ははぁ。
デフォルトルートを上手く使ってその肥大化の問題を解決するためのエリアが、スタブエリアやTSAなんですね。
■ NSSA
最後はNSSAだ。これはちょっと特殊なので、概論だけ知っておいてくれればいい。
NSSAはASBRがあるスタブエリアだ。
あれ?
でもさっきのスタブエリアの制限の中に、ASBRはあってはいけない、と。
うむ。なので「ちょっと特殊」といったのだ。
まずASBRはLSAタイプ5を全エリアに送り出すということを知っておいてもらいたい。
LSAタイプ5、AS外部ルートですよね。
うむ。何度か言っているように、EGPから入手した外部ASへのルートをOSPFにルート再配布して作り出すLSAだ。
これは全エリアに送られる。
そうですよね。でないとAS内部に外部AS宛のルート情報が届きませんから。
だが。NSSAの場合、ASBRはスタブエリア内にある。
スタブエリア内にLSAタイプ5を送ってはいけない。
う、うぅ?
[FigureRT09-06:スタブエリア内ASBR ]
これでは外部ASルートが他エリアに届かない。
よって、LSAタイプ7を使う。これが流れるスタブエリアの事をNSSAという。
[FigureRT09-07:NSSA]
ははぁ。
なんか面倒ですね。
まぁ、そう言うな。ルーティングテーブルとデータベースの肥大化の弊害がそれだけ大きいということだ。
なので、スタブエリアやTSAを増やしていくとこういうエリアも必要となる、という話だ。
なるほど。
肥大化すると、ルーティング処理にまで影響がでますからね。
うむ、ではまとめてみよう。
エリア種別 | 使われるLSAタイプ | 役割 |
---|---|---|
バックボーン | すべて | すべてのエリア間トラフィックは必ず通過する。エリア0。 |
標準 | すべて | LSAに制限のない、スタブ以外のエリア |
スタブ | 1,2,3 | LSAタイプ5(外部ASルート)を受け取らないエリア。 |
TSA | 1,2 | エリア内部以外は受け取らないエリア。 |
NSSA | 1,2,3,7 | ASBRが存在するスタブエリア。タイプ7を使用する。 |
[TableRT09-01:エリア種別]
マルチエリアOSPFにはこのエリアタイプが必須だ。
これがわかっていないと構築すら難しい。エリアを識別できるようになってくれたまえ。
う〜。
結構難しいですよ、これ。
精進だ、若者よ。
精進ですか。
う〜ん、なんとか頑張ってみます。
さて、今回はここまでだな。
了解です。
30分間ネットワーキングでした〜♪
- 中〜大規模
- 大体ルータ40〜70台を越えるとマルチエリア化するとかしないとか。
- スタブエリア
- [Stub Area]
- トータリースタブエリア
-
[Totally Stubby Area]
TSAと略されます。
Cisco独自のエリア概念。
- NSSA
-
[Not So Stubby Area]
IOS11.2以降でサポートされたエリア。
- バックボーンエリア
-
[Backbone Area]
トランジット[transit]エリアとも呼ばれる。
トランジットは「通過」という意味。
- 仮想リンク
- [Vertial Link]
- ハイパーネット君の今日のポイント
-
- エリアはそれぞれ役割によって5種類にわけられる。
- バックボーンエリアは、すべてのエリア間トラフィックが通過する。
- スタブエリアには外部ASルートが送られない。
- TSAにはエリア外部と外部ASのルートは送られれない。
- スタブ、TSAを使うことによってルーティングテーブルを小さくすることができる。
- エリアタイプは区別できるようにしておこう。