■ OSPFルータの動作
ネット君。
OSPFルータがコンバージェンスに達して、ルーティングテーブルを作成するまでの手順を覚えているかね。
こんにちはパケットです。
いやもう、そのネーミングが気にいったのはわかったから。
もうちょっと正確に。
え〜っと。Helloパケットで近接ルータとネイバーになって、DRとBDRを選出して。
DR/BDRと隣接関係になって、データベースを交換する。
うむ。その後は、イベントによるトリガアップデートで、LSUを送受信する。
LSUを受け取った各OSPFルータはどうする?
LSUを受け取ると、データベースが変更されるわけですから。
新しいルーティングテーブルを再計算する、ですよね。
うむうむ。よろしい。
えへへ。
[FigureRT08-01:OSPFルーティングプロセス]
■ OSPFの問題点
さて、ここで問題なのは、「再計算」の部分だ。
問題?
なにか問題があるようには見えませんけど。
リンクステート型ルーティングプロトコルを使用するルータは、高性能である必要がある、と以前話したな。
何故だ?
坊やだからさ…。
なんちって、へへへ。
…。
やだなぁ、博士。次の台詞は、
「…、我々に正義があるからだっ!!」ですよ。
やかましい。君と話していると話が進まん。
ともかく、データベースとツリー用のメモリが必要なのと、計算にマシンパワーが必要だからだったな。
あぅ〜。
渾身のギャグが流されてしまった。
あれが「渾身のギャグ」か? もうちょっとエスプリを効かせたまえ。
つまり、この高性能が必要な理由が、ネットワーク内のルータの台数が増えると問題になる。
ルータの台数が増えると問題?
ルータの台数が増えるってことは、それだけデータベースとツリーに大量のメモリが必要になりますよね。
うむ、さらにLSUが増えることによる再計算回数の増大だ。
もちろん、ルーティングテーブルが大きくなることによる弊害も発生する。
は〜。確かにLSUが増えると、データベースの更新が頻繁になって、ツリーの再計算回数が増えますよね。
そりゃ大変だ。
うむ。これをなんとかしなければならない。さぁ、ネット君どうするかね?
LSUはDRから全ルータへ配布されるな。LSUをブロードキャストパケットと例えて考えてみたまえ。
LSUをブロードキャストパケット?LSUが増えるってことはブロードキャストパケットが増えるみたいなものと考えると…。
ブロードキャストドメインを分割することが、その場合の対策だけど…。
そうだ。それでいい。
つまり、OSPFのLSUが届く範囲を分割することが対策になる。これをエリアという。
えりあ…。
■ マルチエリアOSPF
うむ。同一AS内を複数のエリアに論理的に分割する。
このように複数のエリアに分割して運用するOSPFをマルチエリアOSPFという。
[FigureRT08-02:マルチエリアOSPF]
各エリア内は、今まで説明してきたOSPFの動きそのままだ。
むむ?
ということは、普通にLSUをフラッディングするってことですか。
そうだ。違いはエリアを分割するルータで現れる。
大雑把に説明すると、エリア内のルーティングアップデートを他エリアへ送らない。
なるほど、ブロードキャストドメインの分割みたいですね。
ブロードキャストを他のドメインへ送らない。
細かい説明は先々説明するとして。
まず覚えることは、ルータの役割だ。
ルータの役割?
エリアを分割する、とかそういうことですか?
その通り。
マルチエリアOSPFでは3種類のルータが存在する。まず内部ルータ。
[FigureRT08-03:Internal Router]
「IN」と書かれたルータだ。
まぁ、名前と場所で大体わかると思う。
他のエリアと接していないルータですね。
そのエリアの中のルータってことですか。
うむ。
2つ目は、ABR。
[FigureRT08-04:Area Border Router]
これもなんとなくわかります。
異なるエリアを接続するルータですね。
うむ、その通り。
最後が、ASBR。
[FigureRT08-04:Autonomous System Boundary Router]
ABRとASBRでは「A」と「B」がかぶっているが、違う言葉の略語なので気をつけるよう。
他自律システムとの接続を行うルータのことだ。他のルーティングプロトコルから取得した他AS間の経路情報をOSPFにルート再配送して内部に流す
他のルーティングプロトコルからの情報を流す?
ってことは、他のASの情報ですからEGPからの情報ですか?
ちょっとややこしいが、ここで言う自律システムとは違うルーティングプロトコルが運用されているネットワーク群のことだ。なので、OSPF以外のルーティングプロトコルの情報を再配送するルータということだな?
OSPF以外って、RIPとかIGRPとかですか?
うむ。
?
他のASからの情報なのに、RIPやIGRPなんですか?
ネット君がいう自律システムは、「同一組織による同一の管理ポリシーに従って運用されているネットワーク群」という意味だ。
この自律システム間の情報は確かにEGPでやりとりする。
ですよね。
だが、OSPFでのASは、さっきも言ったが「違うルーティングプロトコルが運用されているネットワーク群」という意味だ。
なので、他ASの情報はRIPやIGRPでも送られてくる。
ううぅ?
まぁ、そうだな。ASBRは「OSPF以外のルーティングプロトコルで動いているネットワークと接続する」ルータだ、と覚えておきたまえ。
はぁ。そうなんですか。
■ OSPF LSAタイプ
さて、このルータタイプを説明するにはLSAタイプを説明しなければならない。
LSAタイプ?
LSUの中に含まれるそれぞれの情報がLSAでしたよね。
うむ。その情報の中身によってタイプに分ける。
OSPFでは11種類のLSAタイプが存在する。重要な5種類をまず覚えてもらおう。
Type | 名前 | 役割 | 送信するルータ |
---|---|---|---|
1 | ルータリンク | エリア内のルータの各インタフェースの情報 | 全ルータ |
2 | ネットワークリンク | エリア内のルータの一覧情報 | DR |
3 | 集約リンク | 同AS内の他エリア内ルータへの経路情報。 | ABR |
4 | ASBR集約リンク | 同AS内のASBRへの経路情報。 | ABR |
5 | AS外部リンク | 他AS内ルータへの経路情報 | ASBR |
[TableRT08-01:LSAタイプ]
順に説明していこう。
まずタイプ1とタイプ2。これはエリア内にのみフラッディングされる。つまりシングルエリアでのLSAだな。
ん〜っと。
今までの回で説明してきたLSAのことですか?
そうだ。OSPFのアップデートと聞いて普通に考えるアップデート情報だ。
ASBRもしくはABRが他エリアへは送らない。
ははぁ、そうやってLSAの届く範囲を限定しているんですね。
でも、それだと他エリアの情報がはいってこないことになりませんか?
うむ。なのでABR・ASBRが集約して伝える。
タイプ3と4がそうだ。
[FigureRT08-05:LSAタイプ3・4]
ポイントは集約ってところだな。
集約して送るため、内部ルータはルーティングテーブルのサイズが大きくならないですむ。
BSCI第3回で説明してた経路集約ですね。
へへぇ、便利なものですね。
さらに、他エリアに頻繁にトポロジの変更があったとしても、集約した結果が前と変わらないならば、内部ルータにそれを送る必要もないわけだ。
ははぁ、それで再計算の回数を減少させているわけですね。
そういえば、「エリア内にフラッディング」とありましたが、ABRはDRも兼ねるんですか?
ん? あぁ、そういうわけではない。
もしABRがDROTHERだった場合は、一度そのエリアのDRに送ることによって、そのエリアのDRがフラッディングすることになる。
なるほど。
ちょっとまとめてみよう。
ルータタイプ | 役割 |
---|---|
内部ルータ | エリア内部のアップデートと、エリア外の集約アップデートを受け取る。 |
ABR | エリア外のアップデートを集約してエリア内に送る。 |
ASBR | AS外の経路情報を再配送してAS内に伝える |
[TableRT08-02:ルータタイプ・役割]
というところだ。
特にABRの役割は重要なので、覚えておくように。
博士、LSAタイプ5と、ASBRの説明があまりされていませんけど?
そう焦るな、ネット君。
それは先でやるから安心しろ。
はい。
さて、今回はここまでだな。
いぇっさー。
30分間ネットワーキングでした〜♪
- マルチエリアOSPF
- [Multiple Area OSPF]
- 今まで説明してきたOSPFの動き
- マルチエリアに対して、シングルエリア[single area]と言います。
- 内部ルータ
-
[Internal Router]
インターナルルータとも言います。
- ABR
-
[Area Border Router]
エリア境界ルータ、と訳される。
- ASBR
-
[Autonomous System Boundary Router]
自律システム境界ルータ、と訳される。
- EGP
-
[Exterior Gateway Protocol]
異なるAS間の制御経路プロトコル。
BGP4が代表例。BGP4については先の回で説明します。
- ルート再配送
-
[Route Redistribution]
とあるルーティングプロトコルから取得した情報を、別のルーティングプロトコルで他ルータに情報を送ること。
詳しくは先の回で。
- 集約
-
[summary]
サマリ、と表記されている場合もある。
よって、タイプ3とタイプ4は「サマリLSA」と言う場合もあります。
- ハイパーネット君の今日のポイント
-
- ネットワーク内にルータの台数が多くなると問題が発生する。
- ネットワークをエリアに論理的に分割することによって、問題を解消する。
- エリア内情報(LSAタイプ1・2)はABR・ASBRによってエリア外には送られない。
- エリア外の情報は、ABR・ASBRが集約してエリア内にフラッディングする。
- OSPFルータタイプ、LSAタイプは区別できるようにしておこう。