16. 停止・後へ進め

 馬場馬術の馬の停止は、四本の足をきちんとそろえて、それぞれの足に平等に体重がかかり、しかも次の第一歩 から大きく前進または後退ができるようにつねに後肢を馬体の下に深く踏み込ませて停止させなければなりません。
 馬を止める場合、一般には「手綱を引きなさい」と教えますが、手綱だけを引かれた馬は反対に口を前に突き出 して、なかば反抗した形で停止するため、四本足はバラバラでしかも背中を張って止まります。
 正しい停止は、手綱の張り具合は軽く、ただ拳を静定し、騎手は騎座と脚で僅かに馬を前に推進してやるのです。 この操作によって馬は強制的に停止を命じられたとは思わず、自分が前に出ようとしたところ銜[はみ]に ぶつかったのだと思い、自分から停止しようと考え、停止の一番自然な形である四本足をきちんと揃えて止まる ため、その姿のままで、いつまでも静止していることができます。
 会社の経営においても、常に順風満帆のときばかりとは限りません。新しい戦略を展開するために、止むを得ず 従来の作戦を停止させるときもあるでしょう、しかしその停止の状態が、正しい馬の停止の姿勢のように馬自身が 納得して後肢を大きく馬体の下に踏み込み四本足を揃えた停止であったなら、その次の第一歩を、それが仮りに 前進であれ後退であれ会社全体の総意として大きく踏み出すことができると思います。
 因に馬術用語では後退のことを「後へ進め」といいます。後にさがるのではなく後に堂々と進むのです。
 なかなか良い言葉ではありませんか。