15. 馬 の 汗

 馬は動物の中でもとりわけ汗かきの部類に属します。
 冬の寒い日でも馬体全体にエネルギーを充満させながら三十分も運動させると、馬は全身汗だくになり、 汗が馬の脚を伝い、蹄に筋をつくって流れるようになります。これを馬術用語では「汗が蹄を割った」といいますが、 もし馬がこのように汗をかいたら、すぐに毛布か馬衣を着せて馬体を冷さぬように心がけ静かに鎮静運動をしてから 厩に帰り、汗をかわかさなければなりません。
 日によって人馬の調和が非常に良く保たれて、気持が通い合った時には馬はダイナミックな 動きをして汗もかきますが、しかしこの汗は厩舎に入れるとすぐに乾いてしまいます。
 反対に人馬の調和が保たれず馬の反抗に会い、最後迄お互いの了解点が見出せなかったような時には、馬も ストレスが残るとみえて厩舎に入った後も汗がしみだしてきてなかなか乾かず、手入れに時間がかかります。
 馬は、会社の帰りに、仲間と一緒に赤提燈で一杯やりながら会社での鬱憤を晴らす方法を知りません。
 次の日もまた次の日も、同じような乗り方をされれば、馬は前日のことを思い出して、なお一層苛立つようになり、 疲れがたまってついには筋肉もかたくなって、跛になったり筋炎になったりします。
 馬の上手な汗のかかせ方は、決して急激に無理な要求はせず、一つ一つ納得させながらじょじょに緊張感を 高めていくべきで、調子が良いからといって次から次と別の運動を要求することは絶対に避けるべきです。
 一日に一種目、一回毎に納得させながら、良くできたと思ったら必らず愛撫を忘れずに、馬を興奮させること なく、しっとりとした汗をかかせるように心がけるべきです。