3. 自然のリズム

 馬の調教の基本は、いかなる運動のときでも馬の持っているリズムを損なうことなく、クレッシェンド(音楽用語でだんだんと調子を高めていくこと)させていくことだと思います。
 そしてこの場合のリズムとは、例えてみれば、海岸に寄せては返す、あの波のような大自然のリズムだと思います。
 馬はすべての束縛から解放されたとき、自由にいきいきと、何ともいえない気持の良いリズムで運動します。拍車や鞭で無理矢理にやらせる運動からは決して良いリズムは生まれません。
 木になったまま完熟した果実が一番美味しいように、自然の摂理にさからわず自然に熟して大地に返っていくような調教がもっとも理想だと思います。
 毎日毎日根気よく適当な水と肥料を与えて、馬が自然に自分から定められた運動を実施するように、静かに誘導することが大切です。
 そして良い運動ができたら、間髪を入れずに愛撫してやることです、間を置いてからの愛撫では馬はいったい何を褒められたのか理解できないからです。
 また良い運動ができたからといって、何回も同じ運動を要求したり、なおその上の難しい運動を要求してはなりません。
 あとは騎手自からが、いたわりの心をこめて良く手入をして厩舎に入れて、ゆっくりと休ませてやることです。
 あせらず、決して感情的にならず、その日その日の目標を、あらかじめはっきりと決めて、順序を踏んで、一つ一つこなしてゆくのがもっとも早い調教の途であり、 そうすることによって馬もまたより良いリズムを発揮するようになります。
 仮りに、調教途中で、万一、馬が反抗したとしても、決して懲戒することなく、すみやかに馬を止めて、騎手はゆっくりと大きく深呼吸をして、馬にも一息入れさせながら次の手を考えるべきです。
 一息入れただけでも、次の瞬間、馬は思いもかけないような素晴しい動きをすることがあります。馬もそれ迄、じっと息をつめて、馬なりに悩んだり我慢をしていたのかもしれません。
 自分の気持を相手に伝える方法を知らない馬の悲しさ、その思いをいち早く察してやる愛情と心のゆとりを持つことが、馬の持っている美しいリズムを引き出す唯一のコツなのです。