2.アルミホイール、センターキャップ (3/4ページ)

 さて、まるで目の検査か、間違い探しゲームのような、外観の話から入ってしまいましたが、ホイールを選定する上で最も重要なのは、やはり走行性能に関わるディメンジョンだと思います。口径、リム幅、オフセット、それぞれに走行性能に関わってきます。まず、口径ですが、口径が大きくなるとタイヤのサイドウォールのハイトが低くなり、タイヤの横変形が小さくなりますから、ハンドリングはよりクイックに、ダイレクトになります。同時にタイヤの縦変形も小さくなるため、乗り心地は硬くなります。GOLF4では18インチまでが一般的な許容範囲ですが、乗り心地とのバランスを考えるなら17インチに留めておいた方が良いようです(このあたりは、いろんな意見があるかとは思います)。私は、前記した外観上のバランスも考慮して、17インチを選択しました。(以下、主に17インチの場合について書いていきます)

 次に、タイヤサイズです。ノーマルの205/55/16から外形サイズを変えないで17インチにする場合、一番近いのは225/45です。215/45でも問題なく履けるのですが、タイヤ外径が小さくなる分だけ、フェンダーアーチとの隙間は大きくなります。また、車高は215/45の方が僅かに下がりますが、見え方としては車体に対するホイールの位置が変わらないので、どちらでもほぼ同じ車高に見えるはずです。他、乗り心地面ではサイドウォールのハイトが高くなる225/45の方がやや有利(重くなる分は不利ですが)、加速では外径が小さく軽い215/45が有利です。私は、車全体の固まり感を大切にしたかったので、タイヤがタイヤハウスの中にミッチリと一杯一杯に納まっているように見せたいと思い、また乗り心地でも有利な225/45を選択しました。

 ホイールのリム幅はタイヤサイズとの関係で決まってきます。225/45に対して、スクエアになるリムサイズは、7.5Jです。上の絵3つのは、7J,7.5J,8Jのイメージで描いていますが、7Jは僅かに絞り気味、8Jは僅かに引っ張り気味になります。いずれも、タイヤのメーカーが指定する適合範囲に入っていますので、可能な選択肢です。リム幅を違えて、タイヤを絞り気味〜引っ張り気味に装着すると、外観以外にも乗り心地やハンドリングに影響がでてきます。どう影響するかの傾向を示したのが、下の図です。もちろん、これはイメージであって、タイヤの銘柄や車との相性によって一概には言えませんが、大ざっぱな傾向としては、以下ようになると考えられます。

 つまり、タイヤを絞り気味にすると乗り心地は良く(柔らかく)なり、引っ張り気味にすると悪く(硬く)なります。一方、ハンドリングはスクエア付近か、もしくはほんの僅かに引っ張った程度のところが最も良く、絞った場合は反応が鈍くなり、引っ張りすぎた場合は踏ん張りが効かなくなります。ハンドリングと乗り心地の面で、バランスが取れているのはスクエアの時で、乗り心地重視なら少し絞り気味、ハンドリング重視なら少し引っ張り気味というのが狙い目になります。極端に引っ張った場合は、ハンドリング、乗り心地ともに悪くなりますので、専ら見た目重視ということになります。私は、見た目的にも端整に見せたかったのと、やはり乗り心地とハンドリングのバランスを重視して、7.5Jを選択しました。

 次に、オフセットの選定です。ホイールのオフセット値を小さくすると、タイヤの位置がボディに対して外側に出てきます。外観上は、タイヤを外に出してツライチにするとカッコイイとされますが、オフセットを変更した場合のハンドリングへの影響は重大です。オフセットを小さくしたときの影響範囲は、ロールセンターが上がる、ロールモーメントが減少する、縦バネのホイールレートが下がる、トー剛性が下がる、キャンバー剛性が下がる、キックバックが増える、など、多岐に渡ります。これらは前輪、後輪ともに影響が出ますが、数mm程度の違いの範囲であれは、大ざっぱに言うとタイヤが外に出た分だけ踏ん張りが効くようになると考えても、当たらずとも遠からずです。これらの詳細は次項以降に譲るとして、ここでは、オフセットの変更が最も深刻な影響を及ぼすと思われる、スクラブ半径の説明をしたいと思います。

 上の図は、スクラブ半径について説明したものです。GOLF4の右側前輪を後ろ側から見た絵ですが、分かり易くするために少しデフォルメしてあります。図中、赤い線で描かれているのが仮想キングピン軸ですが、これはストラットアッパーマウントの関節点とナックルジョイントの関節点を結んだ線です。ステアリングを操舵した場合、前輪はこの仮想キングピン軸を中心にして回転します。図中の青線は車輪の中心軸ですが、車輪の中心軸の接地点を接地中心と言います。ブレーキングや加速、旋回時のコーナリングフォースなどは、この接地中心に対して作用すると考えてモデル化できます。スクラブ半径とは、仮想キングピン軸を延長した接地点と接地中心との距離のことです。

  

 上の3つの絵は、右側前輪を上から見て描いたものです。左が一般的なポジティブ(プラス)スクラブ、真ん中がゼロスクラブ、右はネガティブ(マイナス)スクラブです。昔ながらの自動車工学では、スクラブ半径に関する一般的な説明は次のようになってます。「スクラブ半径を+に取ると、タイヤが転がりながら向きを変えるので、ハンドル操作が軽くなり、スクラブ半径をゼロに近づけると、タイヤはその場で捻られるように向きを変えるので、ハンドル操作が重くなる」とか。しかし、これはずっと昔の車の話であって、現代の車には当てはまりません。昔のFR車では、タイヤ幅が150mmくらいしかないのに、スクラブ半径を50mmくらいに設定するのが珍しくありませんでした。これは、パワーステアリングのなかった時代に、据え切りや微低速でタイヤの転がり効果を期待していたためであり、高速域のハンドリングなどをさほど重視していなかった時代の話です。

 現代の車は、ハイキャスター、スモールスクラブの設計になっていますから、スクラブ半径はせいぜい+10数mm、タイヤ幅は200mmを超えていますから、転がり効果は殆ど期待できず、据え切りや微低速では専らパワーステアリングに頼っています。上右の絵は、スクラブ半径がマイナスの絵ですが、これを市販車に始めて採用したのはVWだそうです。「タイヤがパンクした時に、走行抵抗でトーイン向きのモーメントがかかるから、安定性が保てる」というのが売りのようです。しかし、ネガティブスクラブは通常走行時(パンクしていないとき)の操舵感が不自然になります。例えば、右前輪に走行抵抗が掛かった場合、ステアリングを右に取られるのが自然ですが、ネガティブスクラブでは逆に左向きのキックバックが発生します。

 そもそも、パンクした時に主眼を置いてジオメトリーを決めるというのは、如何せんナンセンスです(ほかにブレーキング時の安定などの効果もありますが、これは後述)。このため現在のVW車は、通常走行時のステアフィールを重視して、ポジティブスクラブに改められています。ホンダ車などでは、今でもネガティブスクラブの車が少なくないようですが、これはネガティブと言っても1〜2mm程度(タイヤ幅の1%くらい)なので、タイヤやブッシュの変形を考慮してもスクラブがポジ側に振れないためのネガであって、実質的にはゼロスクラブと同じと言えるでしょう。現代の標準的な技術では、スクラブ半径は0〜15mmくらいに設定するのが、ハンドリングやステアフィールの面で好ましいと考えられているようです。

 以上が、一般的なスクラブ半径の説明なのですが、ユーザーがホイールオフセットを変更して、スクラブ半径が変化した場合、走行安定性とステアフィールに影響が出ます。走行安定性について見ると、スクラブ半径がポジティブであってもネガティブであっても、絶対値が大きくなるほどトー角が振られ易くなります。これは、タイヤに外力が作用した際に、作用点である接地中心と、キングピン軸の距離が大きいほど、タイヤの向きを変えるようなモーメントが大きく作用するからです。ゼロスクラブのときが最も乱され難く、スクラブ半径が大きくなるとステアリングへのキックバックも大きくなりますし、ステアリングをしっかり保持していてもブッシュ類の変形によりトー角は乱され、結果的にトー剛性が下がったかのように走行安定性が悪くなります。

 また、スクラブ半径がポジ側だとブレーキングでタイヤをトーアウト方向に向かせようとするモーメントが発生します。このモーメントをそのまま放っておくと、ブレーキング時にサスペンションの各支持点のブッシュが変形して実際にトーがアウトに向いてしまうので、ポジティブスクラブに設定された車ではそれを打ち消すようなジオメトリを仕込んであります。例えば、GOLF4の場合は、タイロッドに前進角を設けることで、ブレーキング時にトーをイン側に向かせています。上図は、右側前輪を上から見たものですが(説明しやすいようにデフォルメしてあります)、ロアアームの取り付け点Aは、硬めのブッシュが使われており、Cは変形量の大きい、柔らかいブッシュが使われています。

 ブレーキを掛けた際には、その反力でボディに対してタイヤが後方に押されますが、押された力はナックルジョイントのDに伝わり、ロアアームはAを支点にして時計回りに変位します。このとき、Cのブッシュが変形して、力を受け止めます。ロアアームが時計回りに少し回転することで、D点は後ろに下がり、同時にタイロッドエンドのE点も後ろに下がるのですが、タイロッドに前進角が設けられているため、E点は真後ろに後退せずにタイロッドに押されてやや外側に出されます。これによって、ナックルアームは反時計回りに回転させられ、タイヤはトーイン方向に向きます。

 このトーイン方向への補正が、ブレーキ反力のD点回りのモーメントによるトーアウトをちょうど打ち消せば、最終的なトー変化はゼロになりますし、すこしお釣りがあれば、ブレーキング時に僅かにトーインにして安定性を増すこともできます。しかし、ホイールオフセットを変更して、スクラブ半径が変化すると、こうしたバランスが崩れ、設計意図どおりの動作にならないと言えます。つまり、ホイールオフセットを小さくすると、ブレーキングはとくに不安定になりやすいということです。(バンプステアの影響については、別の項で説明します)

 上の図は大ざっぱなイメージです。ステアフィールへの影響はというと、スクラブ半径をポジ側にすると、手応えが増します。スモールスクラブの車の場合、ステアリングを中立に戻そうとする復元力は、大半をキャスター角とキングピン角に依っていますが、スクラブ半径が大きくなると復元力も大きくなり、コーナリング中の操舵力も保舵力も大きく(操作感が重く)なります。オフセットの変更が数ミリなら操舵が重くなる感じは僅かですが、コーナリングフォースの発生する方向に積極的にタイヤを動かしていくので、ステアリングに戻ってくるインフォメーションは確実に増します。また、同じ操舵角でも、車速や横Gの発生に応じて手応えが増す感じになります。

 これは、ある程度までなら好ましいフィーリングとも言えます。ゼロスクラブは、ステアリングを切っても感触が希薄で切った気がしないような、あるいは速度やGが増しても手応えが増さないステアフィールですが、若干のポジティブスクラブにすることでいかにも運転している実感が伝わってくるようになります。しかし、これも程度問題で、スクラブ半径が大きすぎるとこの手応えが強くなりすぎ、無用なキックバックが増えることとと合わせて、不自然なステアフィールになってきます。このあたりのフィーリングの違いは微妙で、私の経験ではオフセットを2〜3ミリ変更するだけでステアフィールの差を感じ取ることができます。5mmも違えば、かなり違ったフィーリングになります。

 また、ステアフィールは、ステアリングを握る人間へのインフォメーションの問題ですが、別の側面として、車自体の反応がどうかという問題もあります。オフセットを変更すると、スクラブ半径が変わる以外に、上記したロールセンターへの影響などがあるため、これは単純ではありません。しかし、大ざっぱに言うなら、オフセットを数ミリ程度小さくするだけであれば踏ん張る感じが増して概ね好ましい方向にいくようです。ただし、極端に(10mm以上も)スクラブ半径を大きくした場合はステアリングを切り込んだ初期の反応が鈍くなるようです。

【標準装着および純正オプションホイールのオフセット】

195/65−15 ET38mm
205/55−16 ET42mm
225/45−17 ET38mm
(参考)COX CS−6,CS−7 ET37mm

 GOLF4のスクラブ半径は、具体的には01GTIノーマルの場合で2〜3mmのポジじゃないかと思います(私の車での実測)。雑誌の記事では99モデルまでが10mm程度のポジ、00モデル以降はゼロスクラブだと書かれていたりしますが、正確な設計値は定かではありません。また、2〜3mm程度の個体差は十分に考えられます。私は、過去の経験値も踏まえて上記のようなことを総合的に判断し、ホイールオフセットは37mmか38mmが適性だろうと結論づけてホイールを選定しました。これは、VWが38mm、COXが37mmのオフセットを選択しているという事実も尊重した上での判断でしたが、38mmを実際に使ってみた感想としてはポジティブスクラブの感触はわりと希薄です。なので、01GTIの場合は無理に37〜38mmという範囲に拘らなくても、オフセット35mmまでは不自然な感覚なく使える範囲だろうと思います(つまり、市販のほとんどのホイールは普通に使えます、という当たり前の結論に帰着してしまいました)。

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