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2月4日〜2月27日
2月4日(火) 「恋の季節」
実はボク、ここ3日ばかり家を空けていたんだ。3日ぶりに家に帰ってくるとDorianさんたちは大騒ぎをして、「どこに行ってたのよ!」「心配したんだぞ!」「車にひかれたのかと思った」などと口々にわめいている。そんなことはどうでもいいからはやく何か食わせてくれ〜!お腹が空いて死にそうだよ。
張り子のトラみたいに首を振ってガツガツとお皿にてんこ盛りの缶詰とカリカリを食べ、牛乳を飲んだらやっと人心地(猫心地)がついた。でもこうしちゃいられない・・・
この3日間どこにいたのかって?実はボクもよく覚えていないんだ。最近カラダがおかしくて、メス猫の姿を探し求めて歩いていたんだけど、この辺には可愛いこがいないんだよね。しかたなく少し足をのばしたら、ハンティングエリアの外に出ちゃったんだ。
帰り道はわからないしメス猫はいないしお腹は空くし、もう最悪だった。でも無事に家がみつかってお腹もいっぱいになったら、またまたムラムラしてきて、再びメス猫を探しに夜の街に彷徨い出て行くのだった・・・
これが「節分猫」っていうんだね。
2月5日(水) 「祭りの後」
きょうは一日コタツの脇で寝ていた。なんだか眠くて仕方がないんだ。でも食欲だけはあるから、ときどき起きてはご飯を食べて、また寝る。Dorianさんの胸で指しゃぶりもしたよ。なんだかフヌケになったみたい。
でも・・・でも・・・頭のどこかで「こんなことしていていいのか」って気持ちがある。ボクはどうすりゃいいんだ〜〜〜!!
2月10日(月) 「役割」
ボクの恋の季節も終わり、また退屈な日々が戻ってきた。でも朝帰りのクセは直らないけどね。
外から帰るとき、ボクは表の通りからニャ〜オ、ニャ〜オと鳴きながら帰ってくる。かなり遠くから「今帰ったよ〜」と言わないと、すぐに戸を開けてもらえないからね。台所の外でニャ〜と鳴くとドアがスーッと開く。ドアを開けるのはだいたいオドだ。いつもキッチンのテーブルで酒を飲んでいるからね。
それからまっすぐご飯のお皿のところに行く。ご飯をくれるのはDorianさんだ。オドは面倒なことは嫌いだから、ネコ缶を開けるなんてことはまずしない。だから最初からオドには頼まないんだ。
でも、牛乳はオドにもらうことにしている。オドは酒も飲むけど牛乳もよく飲むので、オドが冷蔵庫を開けると飛んでいって「ボクにも〜」と言うと牛乳をお皿に入れてくれるんだ。そのくらいのことはしてもらわなくちゃね。
Dorianさんちには大きいお兄さんがいるけど、このお兄さんはすぐにボクを抱きあげて体をさわりまくる。抱かれるのはいいんだけどタバコの臭いが付いちゃうので、あとでなめて臭いを消すのが大変なんだ。もう少し気をつかってもらいたいよね。
2月13日(木) 「バレンタイン伝説」
あしたは人間の世界ではバレンタインデーとかいって、女のコが男のコに告白する日なんだって。でも今どきの女のコは、べつにそんな日を決めなくてもどんどん男のコに迫っているし、そういう日を作ってもらいたいのはむしろ、気弱な男のコのほうだと思うんだけどね。
バレンタインの由来はもうみんな知っていると思うけど、3世紀のローマに実在した聖バレンタインという司祭の命日なんだね。このバレンタインさんは、結婚を禁止した皇帝に背いて、密かにわかもの達の恋の手引きをしていたんだって。それが皇帝にバレて処刑されたんだ。その処刑の日が2月14日っていうんだから、ほんとうはとても悲しい日なんだよ。
それがどうして愛を告白する日になったかというと、いろいろな説があるらしいけど、ボクが気に入っているのは「小鳥たちが春に向けて結婚相手を捜す日」というのがあるんだ。14世紀ごろ誰かが2月14日と決めたらしいけど、小鳥だけじゃなくて、猫だって犬だってこの頃になるとみんな相手を捜してうろつき回る。これは子孫繁栄のための神聖な欲求なんだ。
この日にどうしてチョコレートを送るようになったかというと、これは某お菓子メーカーの策略で、日本人はまんまとその策略に引っかかったというわけだね。チョコレートを送るのは日本だけで、外国ではお互いにプレゼントを交換し合うらしいよ。
でもモテない男にとって、明日はユウウツな日になるんだろうね。猫でよかったよ、ボク。
2月15日(土) 「猫マンダラ」
もう気がついていると思うけど、ボクと関係ない話の時は、話題がないときなんだよね。で、きょうは心理学の話などしてみよう。
猫はその特性から、心理療法によく使われる。心理学の世界でも猫はよく研究に使われているけれど、有名な心理学者のバーバラ・ハナという人が、おもしろい図を書いているんだ。
まず真ん中に丸い円がある。それが猫なんだね。その上の方に描かれているのがどう猛、残酷
といった猫の野生の姿だ。その対局(真下)にあるのが気持ちのよいもの、怠惰な姿。つまり日なたでのんびり昼寝をしている姿だね。円の右にあるのは母性、女性的な姿、その対局(左)に位置するのが自立的、自主的な姿だ。
つまり、猫はあらゆる特性を持った動物で、西洋で神と崇められたり、反対に魔物として忌み嫌われたりした猫の歴史は、そのあたりからくるんだろうね。そのバーバラさんの猫マンダラは、四方から八方へと広がっていくんだけど、その先にはエジプトの神話や、グリム童話に出てくる猫の話などにつながっている。
話題がなくなったら、「長靴をはいた猫」の話なんかもしてみようとおもうけど、きょうはもう遅いから、またいつかね。
2月19日(水) 「100万回生きたねこ」
「長靴をはいた猫」はシャルル・ペローという人が書いた童話だけど、日本にも猫が主人公の名作絵本があるんだよね。佐野洋子という人が書いた「100万回生きたねこ」。
主人公のとらねこは「100万回も死んで、100万回も生きた」りっぱな猫なんだ。ある時は王様の猫になり、ある時は船乗りの猫になり、ある時はサーカスの手品師の、あるときは泥棒の、あるときはおばあさんの、あるときは女の子の・・・・猫になり、とても可愛がられるんだけど、そのたびにとらねこは不慮の死を遂げるんだね。でもすぐに生き返って、またまた誰かのもとに現れる。
おもしろいのはこのトラは、王様も船乗りも手品師も泥棒もおばあさんも女の子も・・・みんな「だいきらい」だったんだね。絵本でいきなり「王さまなんか だいきらいでした」なんて書いてあるので、お母さん達は眉をしかめたかもしれないね。
ところがあるとき、トラは「誰の猫でもありませんでした」・・・つまり立派な野良猫になったんだね。トラは初めて自分を好きになったんだ。やがてトラは、まっ白な可愛いメス猫に恋をして、子どもが生まれる。(これも絵本としてはおもしろいね)。幸せな日が続いて、やがて仔猫たちは独立して親の元から離れていく。その時はじめて、トラは、白猫といつまでも生きていたいと切望するんだ。
100万回も死んで100万回も生き返った不思議な猫も、生きたい!と思ったとたんに永遠の死を迎えるんだから、これはまたなんとも皮肉なお話だよね。
この絵本を「大人のための絵本」と評している人も多いけど、そう思って読んでみても、猫の立場から読んでみても、とてもおもしろい絵本だと思うんだ。ボクのオススメ、ぜひ読んでみてね。
2月21日(金) 「長靴をはいた猫」
話題がないからまた童話の話だよ。じつは最近、童話にハマってるんだ。
ペローの昔話にある「長靴を履いた猫」は、猫のボクが読んでも傑作だと思う。なぜかというと、これは猫が人間のために大活躍するお話だからなんだ。
昔、粉ひきの主人が死に、3人の息子が残された。財産と言っても、風車小屋とロバと猫きりない。長男が風車小屋を、次男がロバをもらい、残された三男が猫をもらうことになったんだけど、猫なんか何の役にもたたないと落胆した三男は、猫を殺して食べるしかないと思ったんだ。
ところが、それをきいても猫は怒るどころか「ボクに長靴と袋をください」と言うんだね。その長靴と袋を使って王様に取り入り、ご主人の名前を売り込んで、ついには王様の娘とご主人を結婚させてしまうんだ。
ボクは感動したね。何という博愛主義、無償の愛、頭の良さだ!魔法使いを騙してネズミに変えて食べちゃうところなんか胸がスッとしたよ。やっぱり猫は昔から利口で、「3日の恩は3年忘れない」と言われているとおりなんだね。(?)
でもなんで「長靴」なんだろう?どうしてゾウリや運動靴じゃないんだろう?と考えてみて気が付いたんだ。長靴は強い者の象徴なんだね。ヒーローの履き物なんだよ。だからこの話がいつまでも人気があるんだと、ボクは思うんだけどちがうかにゃー(=^^=;)
あしたは「猫の日」だけど、Dorianさん、忘れてないだろうなぁ・・・
2月23日(日) 「注文の多い料理店」
きのうの猫の日は何にもイベントはなかったよ。Dorianさんはオフなんとかというのに行っていて、夜遅く帰ってきた。それでも悪いと思ったのか「ホタテ貝柱」缶をおみやげに買ってきてくれたんだ。うまかったよ〜(=^^=)。安売りのネコ缶なんか食べられなくなっちゃうかもね。
きょうも童話の話だよ。宮澤賢治の童話にも猫はよくでてくるけど、その中の「注文の多い料理店」という話がおもしろいんだ。
二人の紳士が山奥に狩りに出かけるんだけど、獲物はいないしお腹はすくし、途方に暮れていると、目の前に「西洋料理店 山猫軒」という看板の出ている家があらわれた。二人がよろこんで入ろうとしたら「当店は注文の多い料理店ですがご了承下さい」という注意書きが目に入ったんだ。「注文が多いというからには、とても流行っている店に違いない」と勝手に解釈して進んでいくと次々と扉があって、そのたびに「ここで髪をなおしてください」とか「鉄砲と弾を置いてください」「帽子と外套と靴をおとりください」・・・などと書いてあるんだ。どうやら「注文」とは店側が客にたいして出している注文だったんだね。このあたりは志村けんのコントみたいで面白いよ!
注文はだんだんエスカレートしていって、しまいには「体中にクリームを塗って塩をよくもみ込んでください」なんて書いてある。このあたりでやっと二人はおかしいと気が付いたんだね。「つ、つ、つ、つまり、ぼくらが西洋料理になって・・・うわぁ」
二人が逃げ出そうとしても後ろの扉はカギがかかって開かず、前の扉の鍵穴からは青い目玉がのぞいている。人間を料理して食べようとしている猫の目だったんだ。けっきょく二人は猟犬に助けられて、気が付いたら元の場所に立っていたんだって。
気位が高くてちょっとオメデタい二人の人間の会話がとてもおもしろいんだ。こんなアホな人間を騙すのなんてチョロいもんさ♪
2月27日(木) 「恋の唐猫」
ボスとケンカして右目の上が腫れちゃった。去年の夏に左目をケガし て変な目になったのに、こんどは右目がヘンテコになっちゃった。これでまたシンメトリーになるかな?
猫が縁でダブル不倫に陥る話といったら「源氏物語」(若菜・上下)の 中の柏木と女三の宮(おんなさんのみや)の話だね。
光源氏の正妻である女三の宮に恋した柏木さんは、源氏の屋敷に遊 びに行った時、偶然に女三の宮の美しい姿を見ることになるんだ。そのころは人妻は他の男性に見られないように御簾(みす)の陰に隠れているんだけど、その時、小さい唐猫(からねこ)が大きい猫に追いかけられて逃げるはずみに、猫のヒモが御簾にからんで引き上げられて、女三の宮の姿が丸見えになっちゃうんだね。
それからはもう柏木さんは宮さんのことが頭から離れない。せめてもの慰めにと、あの猫を手に入れちゃうんだね。そして「この猫は彼女の胸に抱かれたにちがいない、ああ、彼女の匂いがする」と朝から晩まで猫を抱いていたんだ。「いままで猫なんか見向きもしなかったのにどうしたのかしら」とまわりの人たちはびっくりしたんだって。それにしても、猫にとってはいい迷惑だよね。
そして4年の月日が流れ、柏木さんは女三の宮のお姉さんと結婚するんだけど、宮さんに対する恋心は薄れることなく、光源氏が紫の上の病気に気を取られているすきに、ついに二人は結ばれてしまうんだ。
やがてその事が源氏にバレて、柏木さんは病気になって死んでしまう。宮さんも不義の子を産んで若くして出家してしまうんだね。もしあの時、猫が御簾(みす)を持ち上げなかったら二人の運命も変わっていただろうに。あの唐猫のやつも罪なことをしたもんだ。
(田辺聖子 源氏がたり(二))より
つづく