捺印のために出社した日、帰宅途中に書店に寄った。
頼りになる駅前のK文堂書店。今日発売の新刊がちゃんとあった。
この本を入手しやすい新書で出してくれたことはとてもありがたい。
多くの人の目に届くことを願う。
まえがきにある「記憶の解凍」という言葉が心に響く。記憶を理解するには、氷が解けるように長い時間がかかる。受け継ぎ、語り継ぐには尚更。
写真がカラーになったからといってすぐに「あの頃」を理解できるわけではない。
写真を見て、体験者の声を聴き、想像力を働かせて、それでもなお時間がかかるだろう。
時を費やすことを恐れてはいけない。
むしろ、簡単にわかった気になることを警戒したほうがいい。
写真にさえ残されていない人々の「暮らし」と「気持ち」を理解し、語り継ごうというのならば。
本文の写真を見る前に、著者二人のあとがき、渡邉英徳「ふたりが見つめた未来」と庭田杏珠「時を刻みはじめる」を読んだ。本書がただの写真集ではなく、「物語」であること、だからこそ「記憶」という言葉が冒頭に使われていることがよくわかった。
人々の物語を知ることから「歴史」を理解することがはじまる
本書はそのことを静かに、鮮やかに教えてくれる。
片渕須直が帯文を寄せているのも、そこに共感したからだろう。
以上は読後感ならぬ読前感。本書を手にとったときの第一印象。
これからゆっくり見ていく。
少国民だった母に本書を見せたら、鮮明な色彩に記憶が呼び覚まされて、これまで聞いたことのない話が聞けるような気がする。
ここから読後感を書くつもりだったけど進まない。色鮮やかな写真に圧倒されるばかり。子どもの、夫婦の、そして家族の「暮らし」がそこにある。兵士の、捕虜の、そして特攻の「戦い」がそこにある。文字の並んだ教科書ではない、一冊のアルバムがそこにある。
戦場のカラー写真には見覚えのある有名な写真がある。印象に残るのは家族の写真。何気ない団らんや記念写真。戦前の家族写真をカラーで見たのはおそらく初めて。
ほんとうにあったことなんだ
そんな言葉しか今は思いつかない。想像力が足りない私には歴史の理解はまだまだ遠い。本書は、そんな私が歴史を理解する手助けになってくれるだろう。