最後の手紙

烏兎の庭 - jardin dans le coeur

第五部

ほぼ満月

12/22/2015/TUE

How I Named My Daughter and Son


庭師と題したプロフィールのページで書いているように、碧岡烏兎という私の筆名は、自分の娘と息子の名前にヒントを得ている。といっても、娘の名前は「みどり」ではないし、息子も「うと」ではない。

息子の誕生日が近づいてきた。彼は、冬至の日の朝に生まれた。その晩、月が綺麗だった。ほとんど満月だったように思う。そこで太陽と月をあしらった名前をつけた。「烏兎」とは、太陽と月のこと。太陽には三本足のカラスが住み、月にはウサギが住んでいるという伝説に由来する。

太陽と月、という意味から転じて月日を表す。烏兎怱怱といえば、月日が早く過ぎていくさまを意味する。


生まれた日の暦のほか、子どもの名付けにはかなり凝った。自分向けの備忘録として、どんな風に名前をつけたか、書き残しておく。


1. 日本語の響きで奇異でないこと、いわゆるキラキラネームでないこと

名前じたいは、まったく珍しいものではない。漢字の使い方は少し変わっているかもしれない。とはいえ、漢和辞典にも書かれている読み方なので、漢語の規範を逸脱しているわけではない。

偶然なのか、娘と息子が生まれたあと、使用した漢字や読み方が一般的になってきた。私が名付けをしたときも、抵抗感がない程度に普及していたのかもしれない。


2. 音が少なくとも日英仏中の言葉で奇異な意味を持たないこと

多くの人がするように「名付けの本」をたくさん読んだ。そのなかで参考になったのは、外国語では奇異に聞こえる音。

日本語では名前としてありきたりの音でも、別の言語では、人前で口にしてはいけない言葉ということもある。

すべての言語を調査するわけにもいかない。名付けの本には参考事例が多く出ていたので、できるだけ多くの本を参照にした。

友人や仕事上のつきあいで使うのは、日本語以外には英語、中国語、フランス語。ドイツ語は大学で勉強した蓄えが少しある。

知っている範囲、調べた範囲で、奇異に響く音は避けた。


3. 平凡な漢字を使うこと、漢字の意味を名前に込めること

同じ漢字を使っていても、日本語と中国語では、意味が違うことがある。漢和辞典で調べると、漢字の語源とそこから広がった字そのものの意味がわかる。音だけを利用する当て字ではなく、漢字の意味も名前に盛り込みたい。そこで、漢和辞典を購入し、候補の漢字の語源を調べた。

現代の中国語でもいい響きになっているか、名付けのときには検証できなかった。後日、仕事仲間に雑談で訊いたところ、台湾でも大陸でも名前としておかしくはないと言われて安心した。

漢和辞典には、使った漢字を蛍光ペンで印をつけて、栞をはさんである。

小学校低学年で、子どもが自分で書けるくらい、平易な漢字を使用した。


4. 日本語でも、少なくとも英仏中の言葉でもニックネームが作りやすく、呼びやすいこと。

2.と関連して、英語圏、中国語圏、フランス語圏で呼びやすい名前にしたかった。言葉を換えれば、発音では日本語と英語で共通する部分があり、中国語でも人名らしい響きがある名前を探した。フランス語は仕事上で使うことは少ないが、フランス語を話すベルギー人(ワロン人)に親しい人がいたので、フランス語での響きも気にした。

調べたり考えたりしたというより、世界的に活躍している歌手や俳優の名前を参考にした。


5. 生まれた季節や日、時間、その日の逸話などと関わりがあること

こんな季節に生まれたからこんな名前にした、と簡潔に説明できること。

息子は、冬至の日の朝に生まれた。その日は好天で、夜は満月がきれいだった。そこで太陽と月を表わす漢字をあしらった名前にした。

娘が生まれた季節は桜が散ったしばらくあと、初夏というにはまだ早いものの、新緑がまぶしく感じられる頃だった。広々とした公園でビールを呑みながら、新緑や万緑から連想される名前にした。


6. 身近にいる、尊敬し、私たち家族を見守ってくれる人から字をいただくこと

息子の名前は、妻の恩師から一字、頂いた。娘の名前も、日頃お世話になっている親戚の方から一字、いただいた。

3.の条件に合う漢字が偶々、恩師や親戚の名前に使われていたので、こういうことができた。だから、これは後付けの理由とも言える。

また、最初の子を授かるまでに長い時間がかかったので、授かりもの、宝物、という意味も込めた。


7. 両親と異なるイニシャルであること

私の育った家族がそうだった。だから、タオルやシャツ、文房具など、一文字で誰のものかがわかるようになっていた。

できれば、祖父母、叔父叔母、従兄妹くらいまでの中で単独イニシャルであることが望ましい。娘の名前はそうなっている。息子の名前のイニシャルは私の母のイニシャルと同じになった。


8. 「ちゃん」付けでも、省略でも呼びやすいこと

「ちゃん」付けや英語風など、いろいろな呼び方ができるといい。

ただし、からかわれるようなアダ名が簡単に付けられるような名前では困る。


9. 以上の要素が絡み合った複合的・多層的な意味と響きをもっていること

以上をまとめると、名付けの物語になる。つまり、自分が生まれた季節や、どんな人たちに祝ってもらったのか、いつまでも覚えていられる。

もちろん、自己紹介の枕にもなる。


10. 画数の優先順位は上記 1 - 7 の下

画数については、まったく気にしなかった。1-7の条件が揃った名前をネット上の画数占いでみたところ、よい結果ではなかった。

それでも名前は変えなかった。上述の名付けの物語のほうが重要だったから。


写真は、あの日から17回目の夜の月。スマホではこれが精一杯。