「元禄忠臣蔵」 三人の内蔵助 2009.3.11 W238

歌舞伎座で「元禄忠臣蔵」の昼の部を5日に夜の部を8日に見てきました。

主な配役
浅野内匠守 梅玉
田村右京太夫 我當
多聞伝八郎 彌十郎
梶川与惣兵衛 菊十郎
大石内蔵助

幸四郎(最後の大評定・大石最後の一日)
仁左衛門(仙石屋敷)
團十郎(南部坂雪の別れ)

おりく 魁春
井関徳兵衛 歌六
井関紋左衛門 種太郎
徳川綱豊卿 仁左衛門

お喜世

芝雀
富森助右衛門 染五郎
江島 秀太郎
新井勘解由 富十郎
羽蔵斎宮 我當
瑤泉院 芝翫
仙石伯耆守 梅玉
大石主税 巳之助
磯貝十郎左衛門 染五郎
おみの 福助

「元禄忠臣蔵」のあらすじ(名題をクリックしてください)
江戸城の刃傷

最後の大評定

御浜御殿綱豊卿

南部坂雪の別れ

仙石屋敷

大石最後の一日

2006年の秋、国立劇場で開場40周年記念に3か月にわたって完全上演された「元禄忠臣蔵」ですが、今回は10話中6話の上演。討ち入りの場である「吉良屋敷裏門」が省かれていたので、いつのまにか仇討が終わっていたという感じはしましたが、どの場も気合が入った見ごたえのある舞台でした。

今回は幸四郎、仁左衛門、團十郎の三人によって内蔵助が演じられそれぞれの持ち味が異なる内蔵助像を描き出していたのが面白く感じられました。

発端である「江戸城の刃傷」、刀を振りかざす梅玉の内匠守は落ち着きすぎていて、この人物がはたしていきなり人を殺そうとするだろうかと考えさせられましたが、切腹に臨む場ではいかにも五万石の殿さまらしい物腰が厳粛な雰囲気を醸し出し、家来に残した言葉がどうして尻切れとんぼのままだったのかも理解できるような気がしました。

この場で加藤越中守を演じた萬次郎は、声を聞くまでは一瞬だれだろう?と思いましたが、声は高いでものの、台詞はきっぱりとしていて長袴の捌き方など小気味よく演じていました。もう一人いかにもがっちりとした良い面構えをした人がいると筋書きを見たのは、小山孫六の大蔵でした。

「最後の大評定」では、以前は浅野の家来だったが、今では尾羽うちからした浪人となり殉死の決意を秘めた井関親子が第二の主役として登場しますが、歌六の熱い井関に対し幸四郎の内蔵助があまりにも内向きの演技で、いまひとつかみ合わせが悪く最後までピンとこないまま終わってしまいした。魁春は、たおやかな中に武家の女性の真の強さを表現していました。

「綱豊卿」では緩急自在な台詞、冴えざえとした容姿が際立つ仁左衛門の綱豊卿に対して(声に不満はあるものの)染五郎の富森助右衛門の一歩もひかない対決ぶりが見事でした。助右衛門は重要な役だけに、年配の役者が演じることが多かったですが、染五郎は助右衛門の実年齢に近いのに加え、以前綱豊卿を演じた経験から助右衛門がどう演じるのと良いかを自分なりに考えていたと思います。

仁左衛門は踏み込んだ芝居をする染五郎をがっちりと受け止め、立てるところは十分に立ててやりつつ、自分も思う存分に演じていたという印象。この二人の組合わせは非常に面白く、また見てみたいと思わせました。

富十郎の新井勘解由はまだ台詞が全く入っていなくて、一言一句プロンプターに頼っていたのが残念でした。

夜の部の最初は「南部坂雪の別れ」。團十郎の内蔵助にはどっしりとした大きさ、芝翫の瑤泉院は品格があり一言一言に情が感じられました。

瑤泉院との対面で團十郎もいつものゆっくりしゃべり速めて切り上げるというパターンではなく、じっくりと台詞を言っていました。しかしどういうわけか、内蔵助が仏前におまいりしたいというのを瑤泉院が断る件が曖昧に感じられました。

羽蔵斎宮の我當は、思いっきり憎らしく演じたのが良かったと思います。我當は「時平の七笑い」などを演じる時、持ち味が生きる人だと思っていたので、これははまり役です。

「仙石屋敷」では、内蔵助の仁左衛門が座ったまままったく動かずに、梅玉の仙石伯耆守に仇討の詳細を語り、幕府にむかって公然と裁きをあおぐという、台詞だけで聴かせなくてはならない難しい場。並んでいる浪士の中には今にも寝てしまいそうな人がたくさんいて、やきもきしましたが、実際の赤穂浪士たちもこのころには居眠りするほど疲れていたことでしょうから案外リアルな演技なのかもしれません。^^;

梅玉のくっきりとした口跡が伯耆守に似合っていて、仇討を待ち望んでいた人々の高揚した気持ちを代弁しているように感じられました。

最後は「大石最後の一日」。おみのの福助は仇っぽいところが気になったものの、磯貝十郎左衛門が自分の形見ともいえる琴の爪を肌身はなさずもっていたと知った瞬間の感動はよく出ていて、思わず涙しました。染五郎の若々しい磯貝はとても似あっていて、御浜御殿では完全に割れてしまった声もこちらではコントロールされていました。細川内記を米吉が演じていましたが、最初に家来に向かって「何じゃ」というところが高飛車で、若殿内記のイメージがそこで決まってしまいました。

幸四郎の内蔵助は声を震わせるために、いつも泣いているように見えましたが、この二人に助けられて感動的な大詰め。しかし最後の花道七三で「これで初一念が届きました」という大事なことばを高く叫ぶように言ったのには、首をひねってしまいました。

今回の「元禄忠臣蔵」は全員が丁寧に演じていて、重厚かつ充実した舞台だったと思います。

この日の大向こう

5日は新歌舞伎ということもあり、又序幕は厳粛な場面もあって声をかける方は少なく「江戸城の刃傷」では一階と三階から時折声がかかる程度でした。「最後の大評定」では甲高い「高麗屋」という声がよく聞こえていました。間は悪くなかったですが、静かな場面に空気を切り裂くような掛け声は、ふさわしいとは思えませんでした。

華やかな「御浜御殿」では、その声もしなくなって「あ~ぁ(-.-)」と思っていましたら、ありがたいことにクライマックスには聞きなれた大向こうさんの渋い声が掛かり、見る間に客席が潤ったように思いました。その後から次々と大向こうさんの声が増えて、3人はいらしたようでした。

8日も声はあまり掛かっていませんでしたが、会の方は2~3人いらしていたそうです。「南部坂雪の別れ」で芝翫さんが窓から「内蔵助、さらば」と万感をこめて言ったところで、練れた声で「成駒屋!」と掛かったのが、台詞に見事に呼応していて、この夜のベスト掛け声賞でした。(*^_^*)

3月歌舞伎座演目メモ

「元禄忠臣蔵」
昼の部
「江戸城の刃傷」
「最後の大評定」
「御浜御殿綱豊卿」
夜の部
「南部坂雪の別れ」
「仙石屋敷」
「大石最後の一日」
梅玉、我當、彌十郎、菊十郎、幸四郎、仁左衛門、團十郎、魁春、歌六、種太郎、芝雀、染五郎、秀太郎、富十郎、芝翫、巳之助、福助

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