御所五郎蔵 華やかな絵 2007.11.15

9日と15日、歌舞伎座顔見世大歌舞伎昼の部を見てきました。

主な配役
御所五郎蔵 仁左衛門
星影土右衛門 左團次
皐月 福助
逢州 孝太郎
甲屋与五郎 菊五郎

「曽我綉侠御所染」―「御所五郎蔵」のあらすじはこちらです。
序幕
五條坂仲之町の場
二幕目
甲屋奥座敷の場
廓内夜更けの場

河竹黙阿弥作「曽我綉侠御所染」は1864年市村座で初演。黙阿弥らしい七五調の台詞が楽しめるお芝居です。仮花道が設置されているので、そちらから出てきた五郎蔵とその子分と本花道から登場した星影土右衛門と弟子たちの間に渡り台詞が飛び交い、とても華やかな雰囲気でした。

五郎蔵の仁左衛門の出会いの場の墨絵の衣装は背中に富士山、前身頃に松、袖に朧月とおとなしい感じのものでした。仁左衛門は高めの声が五郎蔵にぴったりで、ほれきった女房がお金を調達するために心ならずも演じた縁切りを本当だと思い込んで、すぐにかっとなる一本気な男になりきっていて、そのために殺人まで犯すという成り行きに全く疑問を感じさせません。

男伊達としてのかっこの良さを見せる出会いの場も、誇りをきずつけられて女房の皐月がせっかく工面した金を断って啖呵をきって去っていくところも、人違いで主人の愛人を殺してしまうところも、全てを美しい絵にしてしまうのが、仁左衛門の真骨頂。

左團次の土右衛門は役を完全に自分のものにしていて五郎蔵とのやりとりを丁々発止と面白く演じていました。皐月が癪をおこして一緒に行けないというのにたいして、「それでは身請けしたかいがない」とふくれるところなどに愛嬌があって、憎めない男だと思いました。

皐月の福助も五郎蔵に愛想尽かしする件で、懊悩する様子がしっとりとしていて良かったです。五郎蔵とのやりとりもよどみがなく、のりの抜けた着物のような花魁らしい風情も充分でしたが、皐月は五郎蔵の妻でもあり元武家勤めをしていた女性なのですから、反対にもうちょっと硬い感じであっても良いのではと感じました。菊五郎が止め男で出ましたが、ほんの短い時間にもかかわらず大立者のずっしりとした存在感はさすがだと思いました。

今回星影土右衛門と五郎蔵が切り合ったあと、二人並んで座り「本日の昼の部はこれ切り」と切り口上で終わりました。顔見世興行としてはたくさんの演目を並べなくてはならないのかもしれませんが、いかにも見せ場だけを垣間見たという感じがして、こちらもまた通しで見てみたいものだと思いました。

昼の部の最初は梅玉の三番叟と孝太郎の千歳で「種蒔三番叟」。孝太郎がとても端正で綺麗な顔だったのが印象的でした。梅玉のとても真面目な三番叟は人柄がにじみでているようで、いずれにしろこの演目は顔見世にふさわしく思えました。

次が吉右衛門の「傾城反魂香」。以前に見た時より吉右衛門の又平の吃りがぐっとリアルになっていると感じました。(特に9日。15日は後の方になるに従い、どんどん判りやすく言っていたようです)前半は又平は身振りだけで一言も口をきかないわけですが、ただしょんぼりと座っている時でも吉右衛門は全身で物を言っているようでした。

雅楽之助が窮状を訴えている何分かの間、花道の付け根に座った吉右衛門が一度も瞬きをしなかったのには、又平の命がけの一途さが見えました。

芝雀のおとくの、本来はでしゃばりでもおしゃべりでもないのに、夫のかわりに必死に訴えているという健気さにとても好感を持ちました。修理之助を演じた錦之助は、若衆姿がよく似合っていましたが、虎と聞いて口をゆがめて「あざ笑う」ところだけはちょっとやりすぎではないかと思いました。歌六の狩野将監には威厳があり、吉之丞の奥方は又平夫婦に対する心遣いの細やかさがよく出ていました。

最後は又平夫婦が二人で花道をひっこむやり方ではなく、ひっぱりの見得で幕になりました。

次が幸四郎の「素襖落」。左團次の大名はいたずらっぽくて愉快なところがぴったりのはまり役。魁春の姫御寮の声が明瞭に聞こえたのに対して、幸四郎の太郎冠者の声はくぐもってよく聞こえず、幸四郎の持ち味はこういうおかしみのある物にはあまり似合わないように思いました。

この日の大向こう

15日は3人来ておられた大向こうさんだけが声を掛けられ、一般の方の声は皆無に近かったです。しかし御所五郎蔵の名セリフ「晦日に月の出る廓も」の花道の見得では、それまで全く声を掛けられなかった一般の方がどっと声を掛けられたのにはちょっとびっくりしました。

皐月の台詞の途中、柝の音にピッタリあわせて「成駒屋!」と小気味よく掛かった味のある声に、気分がすかっとしました。

ところでこのところずっと傍観者の立場に甘んじていた私ですが、ひさしぶりに「御所五郎蔵」に声を掛けました。「御所五郎蔵」にはたくさんツケ入りの美しい見得があり、掛けどころがとてもわかりやすいお芝居で、掛けたのはわずか3回だけですがお芝居の世界が一層生き生きと身近に感じられました。(*^_^*)

ベテランの大向こうさんたちが「大向こうは遊びだ」とおっしゃる気持ちが少しだけわかるような気がしました。

11月歌舞伎座昼の部演目メモ

「種蒔三番叟」 梅玉、孝太郎
「傾城反魂香」 吉右衛門、芝雀、歌六、錦之助、歌昇、吉之丞、
「素襖落」 幸四郎、左團次、彌十郎、魁春、高麗蔵
「御所五郎蔵」 仁左衛門、福助、左團次、菊五郎、孝太郎友右衛門、松江、男女蔵、権十郎、由次郎、

目次 トップページ 掲示板

壁紙:「まさん房」 ライン:「和風素材&歌舞伎It's just so so」