似ているカラーデザインの謎
カラーリングについて、色々と考察を進めてきましたが、最後に、似ているけれどその理由が分からないものをまとめて取り上げます。カタログカラーを使用したのか、メーカー提案なのか、模倣なのか、譲渡車の流用なのか、判断の根拠がない実例です。これをもって、バスのカラーリングのコーナーは最終回となります。
もしかすると、今後調査を進めて行けば、何か手がかりが出てくるかも知れません。その時は、このページから前のほうのページへ、順次移していくことになるでしょう。
9-01 小田急バスもどき
小田急バス
撮影:調布駅(2016.2.21)
小田急バス(東京都)のカラーは、1953年に採用されました(文献3)。赤と白のツートンは鮮やかで、腰板の赤い部分に白い3本ラインが入るのが特徴です。
>>1-04 小田急グループへ
てんてつバス
撮影:左党89号様(留萌駅 1999.8.2)
羽後交通
撮影:横手営業所(2019.7.21)
てんてつバス(北海道)と羽後交通(秋田県)が、小田急バスとよく似たデザインであることが知られています。
てんてつバスは、デザイン、色調ともに小田急バスとほぼ同じでした。一方、羽後交通の場合、おでこの部分の塗り分けが異なるほか、赤の色調が若干渋めです。
てんてつバスは天塩炭砿鉄道のバス部門を引き継いだもので、バス事業の開始は1961年です。羽後交通は、1960年頃までは都営バスと同じカラーを用いており、1960年代前半にこのカラーを採用したと思われます。
このカラーの導入経緯としては、@模倣、A車両譲渡の二つが考えられます。
絵葉書の中の羽後交通
羽後交通
画像:1960年代発行絵葉書
羽後交通
画像:1960年代発行絵葉書
伝承のヒントとなる絵葉書がありました。1960年代前半の田沢湖を写した絵葉書に、羽後交通の写真がありました。
おでこの赤いリアエンジンバスと、おでこが小田急バスと同じ赤ラインになっているボンネットバスが写っています。これと同じようなボンネットバスを単独で写したのがもう1枚です。
この写真からわかることは、羽後交通にも小田急バスと全く同じデザインの車両が存在したということです。このボンネットバスは1950年代の日野車で車体は富士重工製です。小田急バスは富士重工ボディを好んで購入しており、小田急バスからの譲受車という可能性があります。もしそうだった場合、譲受車がもとで羽後交通がよく似たデザインを採用したという仮説が成り立ちます。
カタログの中の小田急カラー
いすゞBA351D
画像:いすゞ自動車公式カタログ(1957)
いすゞ自動車が1957年に作成したカタログに掲載されている富士重工ボディのBA351Dが小田急バスカラーとよく似ています。時期的には小田急バスがこのカラーを採用した後なので、完成車を元にしたイラストのようです。
てんてつバスや羽後交通がこのカラーを採用する数年前の発行です。
三菱MR520
画像:三菱重工業公式カタログ(1970)
三菱が1970年に作成したパンフレットに掲載されているMR520の写真です。
小田急バスとよく似たカラーですが、おでこが赤いので羽後交通のデザインです。ただし、系統幕付、中ドア引き戸という仕様が羽後交通に存在したかどうかは分かりません。
この型式が発売された1967年のカタログからすでに掲載されていたと思われますが、羽後交通がこのカラーデザインを採用した年号がはっきり分からない中で、どちらが先にこのカラーリングを使ったのかもわかりません。
佐呂間町営バス
佐呂間町営バス
撮影:佐呂間町(2018.7.22)
有名な小田急もどき以外にも自家用などで似たカラーのバスの存在は知られていましたが、佐呂間町営バス(北海道)もこのようなカラーでした。塗り分け、色調共に羽後交通とほとんど同じです。
上の三菱カタログにあるのと同じ型式で、年式も近いことなどから、カタログカラーで購入したと考えることができます。
9-02 西武バスもどき
西武バス
撮影:板橋不二男様(千ヶ滝営業所 1973)
下津井電鉄
撮影:板橋不二男様(1977.6.25)
西武バス(埼玉県)の路線バスは、クリーム地に笹の葉をモチーフにしたピーコックブルーの模様を配したデザインを1953年より採用しています(注1)。
また、下津井電鉄(岡山県)では、西武バスと色違いの赤色カラーですが、これは1964年からの採用とのことで(文献4のP.125)、西武バスのカラーパターンの流用である可能性があります。
カタログに載っていた下津井電鉄カラー
日産 UG592
画像:日産民生ジーゼル公式カタログ(1957年)
日産 U690
画像:日産自動車公式カタログ(1959年)
西武バスのデザインパターンが下津井電鉄に採用された経過のヒントとなるカタログ写真がありました。
1957年の日産のカタログに、西武バスに納車される車両の写真が掲載されています。既に車番や登録番号票もついた状態ですので、明らかに西武バスの車両です。
このボンネットバスは、ボンネットの形状をモデルチェンジしますが、1959年の日産自動車のカタログに掲載されたイラストは、その色違いとなりました。時期的には下津井電鉄が採用する前のことです。
真実は分かりませんが、下津井電鉄がベースにしたのは、西武バスではなく、このカタログであるという可能性もあります。
9-03 東武鉄道(観光バス)もどき
東武鉄道
撮影:板橋不二男様(中之条出張所)
サンデン交通
撮影:板橋不二男様(1974頃)
東武鉄道(東京都)の貸切バスは、ブルー系の色を使いながら、後ろの方が曲線で下がり、その後ろに複数の太線がつながるデザインでした。同じようなデザインを用いていたのがサンデン交通(山口県)です。
独特のカーブや線の本数などが偶然似てしまうということはないと思いますが、その発祥は不明です。
9-04 東京急行(観光バス)もどき
東京急行電鉄(復刻カラー)
撮影:渋谷駅(2016.4.9)
東京急行電鉄(東京都)では、1953年から貸切事業を開始しますが、その際に、アイボリーとブルーグレーのシックなツートンカラーを採用しました。側面のブルーグレーの模様は、東京急行のTをデザインしたそうです。
このカラーは、1967年に白、赤、銀の貸切カラーが登場するまで使われました。また、系列会社の上田交通(長野県)では、1990年代までこのカラーが使われています。
頸城自動車
板橋不二男様(直江津営 1977)
三原市交通局
板橋不二男様(1977頃)
宇和島自動車
道後温泉(2016.5.29)
東急バスの観光カラーのモチーフは、いくつかのバス事業者でも使われています。もともとが東急の「T」をデザインしたのであれば、これらの事業者のオリジナルではないと考えられます。しかも、東急と同じグレー系のカラーを使用しており、何らかの理由で東急カラーが伝わったと考えられます。
川崎市交通局(神奈川県)、頸城自動車(新潟県)、三原市交通局(広島県)、宇和島自動車(愛媛県)、若松市交通局(福岡県)などで見られます。
9-05 近鉄もどき
名阪近鉄バス
撮影:板橋不二男様(1976.5)
近畿日本鉄道(大阪府)が採用したカラーデザインで、側面が流れる雲のように優雅にデザインされています。系列の名阪近鉄バス(愛知県)などでも同じデザインを使っていました。
宮城中央バス
撮影:板橋不二男様(丸森営業所 1977頃)
濃飛乗合自動車
撮影:板橋不二男様(高山営業所 1973.8.28)
このカラーデザインは、全国各地のバス事業者に影響を与えたようで、側面のモチーフは、多くの会社で採り入れられています。
ここでは、色使いまでよく似ている2社をご紹介します。宮城中央バス(宮城県・撮影時点では宮城交通に合併)は、正面窓下に3本の細いラインが入っている以外は、近鉄とほとんど変わりません。
濃飛乗合自動車(岐阜県)は、赤色の彩度が多少高いように見えます。また、カーブの曲率が単純化されており、塗装の簡略化が図られたものと思われます。
>>0-08 流雲形塗り分けへ
9-06 イースタン観光もどき
イースタン観光バス
撮影:諏訪市(1986.8.18)
士別軌道
撮影:和寒町(2016.6.11)
イースタン観光バス(東京都)では、マルーンのラインが下がっていった後、後輪のあたりで中央部に持ち直したようなラインカーブを描いています。
これと同じモチーフは、士別軌道(北海道)でも使われています。
9-07 大阪日交もどき
日本交通
撮影:板橋不二男様(米子営業所 1972)
日本交通(大阪府)では、終戦後の1952年頃から、アイボリー地に赤いラインの入ったカラーを採用しています。このカラーは系列の澤タクシー(鳥取県・1966年に日本交通と改称)にも採用されています。窓下の3本ラインが特徴です。窓周りや車体裾の赤色は、太いラインになっているようで、地色のアイボリーが縁取りのように見えるのも特徴的です。
これとほぼ同じカラーデザインで知られるのが、岩手県北自動車(岩手県)、島原鉄道(長崎県)で、日本交通のデザインを各社が採り入れたという説があります(注2)。
日本交通
米子駅(2016.5.28)
島原鉄道
島鉄BT(2018.10.15)
岩手県北自動車
長谷川竜様(八幡平営 2015.6.5)
これら日本交通デザインの現在の姿です。
日本交通の現在の姿は、窓周りの赤色は消え、裾の赤色も縁取りのないベタ塗になっています。地色は黄色系の彩度の高いクリーム色になっています。
島鉄バスは、1980年代に一旦このカラーから離脱していますが、2002年からのワンステ・ノンステなどの路線車で復活しました。これも裾の赤色に縁取りはありません。また、地色は白に近づき、赤の色味も異なります。(注3)
岩手県北バスは、メーカーエンブレムや社紋を付けることで、正面の3本ラインが斜めにカットされるようになりました。また、3本ラインはちょっと太めです。
宮城バス
板橋不二男様(南仙台 1977.5.7)
三重交通(復刻カラー)
津駅(2016.4.16)
瀬戸内運輸
今治桟橋(2016.5.29)
他にも窓下に3本ラインのある類似デザインが知られています。
宮城バス(宮城県、撮影時点では宮城交通に合併)は、正面のラインが曲線になっているほか、窓周りの赤色が正面のおでこ部分にもつながっているのが特徴です。
三重交通(三重県)は、1951年に採用されたカラーだそうです。使われている色が赤ではなく青色になっています。
瀬戸内運輸(愛媛県)は、クリーム地に緑色です。窓下のラインは4本あります。
絵葉書の中の窓下3本ライン
サワタクバス
画像:1950年代発行絵葉書
名古屋市交通局
画像:1950年代発行絵葉書
このデザインのベースは、新三菱ボディの窓下3本のリブを生かした塗装にあるということです(文献3)。
画像は2枚とも1950年代の絵葉書で、サワタク(鳥取県)と名古屋市交通局(愛知県)です。いずれも新三菱ボディを持つ三菱B25型ボンネットバスで、側面窓下の車体リブと3本ラインは同じ位置にありますので、その説は間違ってはいないようです。
>>0-12 窓下三本ライン形塗り分けへ
9-08 山梨交通もどき
山梨交通
撮影:敷島営業所(2015.5.23)
元大東観光バス
撮影:塩尻市(2007.2.3)
山梨交通(山梨県)と大東観光自動車(東京都)とでは、共通デザインのバスを使用していました。廃車体の方は元大東観光バスだと思われますが、薄ブルーの彩度が変わっていますので、自家用バス時代にその部分が塗り替えられているのかもしれません。
9-09 三重交通もどき
三重交通
撮影:津駅(2016.4.16)
道北バス(復刻カラー)
撮影:旭川駅(2016.6.11)
三重交通(三重県)では、白地に緑色のラインが入り、そのラインが後輪付近で下に届いている独特のデザインを採用しています。これは、1953年に貸切バスに採用され、1961年には路線バスにも採用されたとのことです。
これとよく似たモチーフを持つのが道北バス(北海道)です。使用色にも共通性があるのですが、どのような経緯なのかは分かりません。
9-10 名阪近鉄バスもどき
名阪近鉄バス
撮影:名古屋駅(2017.5.20)
三重交通
撮影:名古屋駅(2016.8.27)
名阪近鉄バス(愛知県)は、1985年にスーパーハイデッカーの貸切バス導入時に新カラーを導入、同年に三重交通(三重県)では貸切バスに新カラーを導入しています。
両社ともに近鉄資本ですが、他の近鉄グループにこのパターンのデザインが導入されてはいないため、グループカラーという位置づけでもなかったようです。
(2007年に三重交通ホールディングスの傘下に名阪近鉄バスが入って、現在に至ります。)
伊予鉄道
撮影:松山駅(2010.5.8)
よく似たデザインが伊予鉄道(愛媛県)の貸切バス。後ろの曲線のカーブが逆になっているなどの違いがあります。
三重交通、名阪近鉄、伊予鉄道ともに、日野のブルーリボンを導入しており、想像ではありますが、このデザインパターンには日野自動車のデザイナーが関わっているのかも知れません。
9-11 秩父鉄道もどき
秩父鉄道
撮影:熊谷市(2016.5.21)
東日本急行
撮影:一ノ関駅(1985.10.5)
秩父鉄道(埼玉県)の貸切バスと東日本急行(宮城県)は、同じ塗り分けで茶色と青の色違いとなっています。
独特な角度の直線の組み合わせで、デザイン作成者が同じである可能性が高いと思われます。ちなみに東日本急行は1968年の設立で、その際にこのデザインが採用されています。
9-12 新日本観光バスもどき
岩手観光バス
撮影:盛岡営業所(1985.5.5)
新日本観光自動車(栃木交通バス)
撮影:海浜幕張駅(2017.7.15)
この2枚は、カラーデザイン、写真の撮影時期ともにちょっと隔たりがあるように見えます。なので、ちょっと説明が必要です。
まず岩手観光バス(岩手県)は、1968年に岩手中央バスから分離された会社で、このカラーデザインは分離直前の1967年頃に採用されたようです。1983年の新造車まで採用されていました。
次に栃木交通バス(栃木県)は、2002年までは新日本観光自動車という社名でした。現在のカラーデザインは簡略化されていますが、かつてはこれに近い色調のまま、岩手観光バスと同じ塗り分けラインでした。今でも、境界ラインにあるピンクと青の細い線が当時の面影を残しています。
両社がどのような経緯でこのカラーデザインを採用したのかは不明です。彩度の低い色の組み合わせで斜めラインを持つ塗り分けで、境界線にはピンクと青という独特のカラーリングは、偶然似てしまうレベルのものではありません。なお、両社とも当初は三菱の車両が多かったという共通点はあるようです。
主な参考文献
- 日本バス友の会(1994)「日本のバスカラー名鑑」
- 和田由貴夫(1998)「シティバスのカラーリングを考える」(「年鑑バスラマ1998-1999」P.97〜103)
- 三好好三(2006)「バスの色いろいろ」(「昭和40年代バス浪漫時代」P.124〜125)
- 満田新一郎(2005)「昭和30年代バス黄金時代」
- 満田新一郎(2006)「続昭和30年代バス黄金時代」
- 満田新一郎(2006)「昭和40年代バス浪漫時代」