発生理由が明確なカラーデザイン
これまで、系列会社であったり、模倣や流用であったり、共同運行であったりと、同じようなデザインが各地に存在する理由を中心に紹介してきました。しかし、どうしてそのカラーデザインを採用したかという理由については、明らかでないものがほとんどでした。そこで、ここでは、デザイン採用の理由が比較的分かりやすいものについて、実例を紹介します。なお、カラーデザインの導入の根拠理由が公表される場合がありますが、デザイン選定に当たっては、どちらかと言えば根拠理由は後付になるケースも少なくありません。つまり、優れたデザインをまず決定し、導入事業者に合った理由を考えるという手法です。
それらを含めて、記録が埋もれてしまったものも数多くあるのだと思われます。
地域の名物等をモチーフにしたカラーデザイン
7-01 阿寒バス
阿寒バス
撮影:摩周営業所(2016.6.12)
地域の名物を車体のデザインとして活用した代表的な実例が阿寒バス(北海道)です。
北海道、特に釧路地方に多く生息するタンチョウ(丹頂)を側面いっぱいに描き、その特徴的な赤い頭頂部が前面両脇に描かれるというダイナミックなデザインです。創業時から続くデザインだということです。側面には、「Welcome To Akan」の文字も入れられています。
阿寒バス
撮影:釧路駅(2016.6.12)
阿寒バスには複数のカラーデザインがありますが、こちらは「まりもカラー」と呼ばれるもの。雌阿寒岳とまりもがデザインされています。
赤系の色のくさびのような模様は、鶴が飛び立っている姿をデザインしたもので、阿寒バスの他のデザインにも展開されています。
7-02 くしろバス
くしろバス
撮影:釧路駅(2016.6.12)
くしろバス(北海道)では、レインボーカラーが2羽の鳥の形を描いています。これは、阿寒バスと同様に、釧路のタンチョウをデザインしたものです。
1990年代に貸切バスに採用された後、路線バスにも拡大されたようです。
7-03 ふらのバス
ふらのバス
撮影:旭川駅(2016.6.11)
ふらのバス(北海道)では、地元の名産でもあるラベンダーをデザインしたカラーリングを採用しています。
ボディに書かれた愛称も「LAVENDER」です。
7-04 北海道北見バス
北海道北見バス
撮影:北見駅(2018.7.22)
北海道北見バス(北海道)は、1998年に北見バスから分離された会社ですが、地元密着をアピールするため、カラーデザインの変更を行いました。
一見、牛の模様のようなので「牛カラー」などと通称されることもありますが、それぞれの形は沿線市町村を象っており、小さい文字ですがローマ字で自治体名も入っています。
7-05 平和交通
平和交通
撮影:稲毛駅(2017.7.15)
動物や山など自然を題材にしたデザインが多い中、平和交通(千葉県)では、街路をイメージさせるデザインになっています。
同社は千葉市の団地輸送を行うことを目的に設立されており、1990年代にこのカラーデザインを採用しました。
7-06 富士急行
富士急行
撮影:双葉SA(1986.8.18)
富士急行
撮影:新宿(2016.4.30)
富士急行(山梨県)では、1954年に富士山をイメージしたカラーデザインを採用しています。「グリーンベルト」と呼ばれるこのカラーは、正面は逆さ富士、側面は片富士を表現した細かいグリーンのラインが入っています。屋根の白は富士山の雪を表しているといわれていますが、会社としての公式見解は不明。
1989年には、ボルボの高級観光バス「リゾート・ウィンド」導入の際、白地に富士山を描いた新デザインを採用、これがのちに貸切バス、高速バスの標準カラーとなっています。富士山の表現方法は「グリーンベルト」と共通していますが、稜線がより本物の富士山に近いカーブを描き、麓の部分がグリーンのラインなのに対し、雪の頂上付近をグレーで表現しています。車体裾に「RESORT」の文字が入ることから、「リゾートカラー」と通称されることがあります。
7-07 京都市交通局
京都市交通局
撮影:京都駅(2016.3.5)
京都市交通局(京都府)では、1958年にグリーン系のデザインを採用しました。濃い緑色の2本のラインは、鴨川と高瀬川を表すそうです(文献4のP.102)。
7-08 徳島バス
徳島バス
撮影:石川県(2018.9.2)
徳島バス(徳島県)は、貸切バスに鳴門海峡の渦潮をイメージしたデザインを施しています。青の濃淡3色を大胆に渦巻状にしており、前面、後面も同じイメージの曲線を配置しています。
また、上級車のスーパーハイデッカーには車名「うずしお」の文字を入れています。
7-09 四国高速バス
四国高速バス
撮影:松山駅(2016.5.29)
四国高速バス(香川県)も、鳴門海峡の渦潮をイメージしたデザインを採用しています。
使われている色は、1988年の設立当初の出資母体各社(コトデンバス、琴平参宮電鉄、大川自動車)のイメージカラーを表しているそうです。
7-10 伊予鉄道
伊予鉄道
撮影:松山駅(2016.5.29)
伊予鉄道
撮影:松山駅(2018.7.12)
伊予鉄道(愛媛県)は古くから愛媛県の名産である柑橘系の色であるオレンジ色をイメージカラーとしています。
さらに、2015年にCIを導入し、オレンジ色1色のデザインに変更しています。
7-11 高速バス
岩手県北バス「ビーム1」
撮影:品川BT(2018.10.31)
庄内交通「夕陽」
撮影:新宿(2016.3.27)
1980〜90年代初頭にかけて相次いで運行を開始した夜行高速バスには、路線ごとのカラーリングを施すことが流行し、目的地や路線を表現する個性溢れるカラーデザインが多数生まれました。それらは、各社カラーへの移行や路線自体の再編等により、多くが姿を消しました。
その中で、2018年時点で健在のカラーリングを二つご紹介します。
岩手県北バス(岩手県)の「ビーム1」は目的地の宮古市周辺が本州最東端で、日本で最初に朝日が昇る場所であることから名づけられたネーミングですが、ボディデザインも朝日が昇るイメージを表しています。当初は京浜急行電鉄(東京都)も同じデザインでしたが、自社デザインに変わり、現在では岩手県北バスのみがこのデザインを継承しています。
庄内交通(山形県)は自社高速バスを「日本海ハイウェイ夕陽」と名付け、日本海に夕陽が沈むイメージをデザインしています。写真のデザインは登場時のものからリファインされています。
頭文字をデザインしたもの
7-21 新潟交通
新潟交通
撮影:新潟駅(2017.7.26)
新潟交通(新潟県)では、1979年に貸切バスにハイデッカータイプを導入する際、会社の頭文字である「N」をデザインしたカラーを導入しました。
7-22 頸南バス
頸南バス
撮影:本社営業所(2014.11.16)
頸南(けいなん)バス(新潟県)でも、頭文字の「K」をデザインに採り入れています。
同社を含む頸城自動車のグループ(マルケー・グループ)では、1990年代にパステルカラーを採り入れたカラーデザインに変更していますが、1992年設立の頸南バスも使用色には共通性があります。
7-23 徳島バス
徳島バス
撮影:徳島駅(2016.11.23)
徳島バス(徳島県)が1991年に採用した新カラーは、白地に青と赤のラインが入るものですが、徳島の頭文字「T」をデザインしています。
また、このデザインは、徳島県の地図もイメージしているようです。
7-24 かしてつバス
関鉄グリーンバス
撮影:水戸駅(2014.8.23)
通称「かしてつバス」では、平仮名の頭文字「か」をデザインしたシンプルなカラーリングとなっています。
これは鹿島鉄道の廃止代替として関鉄グリーンバス(茨城県)が運行しているもので、地元の石岡市、小美玉市による協議会が主体となって2012年にカラーデザインを決定しました。色彩は「周辺の景色に溶け込み、また景色を写し込むように彩度のない色をベース」に、「か」のロゴは「筑波山を背景に走るバスのイメージ」を表しているそうです。
(国道交通省関東運輸局のWebサイト「鹿島鉄道跡地バス専用道化事業」(PDF)より)
公式サイトの説明があるもの
7-31 はとバス
はとバス
撮影:東京駅(2016.7.30)
はとバス(東京都)の公式サイトによると、はとバスは1979年からレモンイエローになりましたが、これには、バスが大きく見えること、遠くから見ても曇りや日陰でもバスが見つけられること、東京のビル群の中を走っていてもバスが映えることなどが理由だそうです。
(はとバス公式Web「はとバスの歩み」より)
7-32 小田急バス
小田急バス
撮影:二子玉川駅(2016.4.9)
小田急バス(東京都)の路線バスは、古くから白地に赤のラインですが、公式サイトによると、白は忠実と清潔、赤は情熱と誠心、3本の白線は情熱のうちにも理性があるべきことを示すそうです。
(小田急バス公式Web「犬マークとボディカラーについて」より)
7-34 神戸市交通局
神戸市交通局
撮影:六甲道駅(2016.5.7)
神戸市の公式サイトによると、神戸市交通局(兵庫県)のカラーの意味合いは、神戸市街の清潔感を表す白と、緑したたる背山(六甲山など)を表す緑とのこと。これまでの深緑はローングリーン、ノンステップバスの黄緑色はライトグリーンと呼ばれます。
前後の塗り分けは神戸市章を構成する2個の半円をイメージ、側面は大楠公の旗印(菊水)の水の流れをイメージしたとのことです。
(神戸市交通局公式7Web「市バスのデザイン」より)
7-35 西日本鉄道
路線バス「スマートループ」
西日本鉄道
撮影:大橋駅(2024.3.22)
西日本鉄道(福岡県)の公式サイトによると、同社で2008年に導入を開始した新デザインはSMART LOOP(スマート・ループ)と呼ばれ、青色はSAFETY(安全性)、朱色はMOBILITY(機動性)、グレーはAMENITY(快適性)、桃色はRELATION SHIP(対話性)、緑色はTERRA CONSCIOUS(環境性)を表すとのこと。縦線の一つ一つを「輪」に見立て、前方から順に幅が狭くなるように設定されています。
(西日本鉄道公式Web「西鉄路線バス デザイン スマートループ」より)
高速バス「ハーモニー」
西日本鉄道
撮影:博多駅(2024.8.2)
西日本鉄道(福岡県)では、2018年に創立110周年を記念して、九州島内の高速バスに新デザイン「HARMONY(ハーモニー)」を採用しました。
デザインモチーフは「N」「リボン」「五線譜」で、5色のカラーは九州の豊かな自然を表現しています。青色は「海」、緑色は「新緑」、黄色は「太陽」、燈色は「実り」、桜色は「花」を表します。
(西日本鉄道公式Web「西鉄高速バス新デザイン『HARMONY』」より)
デザイナー、デザイン会社によるもの
7-41 神姫バス
神姫観光バス
撮影:神戸営業所(2016.9.25)
神姫バス(兵庫県)では、1990年に地元出身のグラフィックデザイナー永井一正氏のデザインによる観光バスをデビューさせ、「DCブランドのバス」としてPRを図りました(注1)。これまでのバスでは類を見ない斬新なデザインが話題を呼びました。
同社では同時にCI導入も行い、平和の象徴であるハトと同社の頭文字Sを象ったシンボルマークも、同氏のデザインによるものです。
神姫バスの貸切部門は1997年に分社され、神姫観光バスとなっています。ボディの社名の下には、永井氏のデザインであると英語で書かれています。
7-42 両備グループ
両備バス
撮影:岡山駅(2016.11.23)
岡山電気軌道
撮影:岡山駅(2011.11.3)
両備グループ(岡山県)では、岡山市出身の工業デザイナー水戸岡鋭治氏をデザイン顧問に迎え、2002年の軌道線車両MOMOから始まり、バスについても同氏にデザインを依頼しています。
両備バスの貸切バスは青色地。岡山電気軌道の路線バスデザインは白地に出入口を強調したデザインが特徴。ドア付近や車体裾のデザインに共通性があります。
7-43 水戸岡鋭治氏
とよたおいでんバス
撮影:豊田市駅(2017.5.20)
おぶせタウンバス
撮影:おぶせハイウェイオアシス(2017.5.5)
水戸岡鋭治氏によるコミュニティバスのデザインも各地で見られます。
愛知県豊田市が2007年から運行している「とよたおいでんバス」は、白をベースに正面と側面をオレンジ色にしています。
長野県小布施町の「おぶせタウンバス」は、2010年にこのデザインを採用しました。色は赤に変わっていますが、豊田市とは正面の塗り分けや文字の入れ方などに共通点が見られます。
同氏のバスデザインは、JRバス関東(東京都)のイエローバス(1994年)や、西鉄バス(福岡県)の「ぐりーん」などがありますが、デザインの傾向には共通性が見られます。
公募・コンペ
7-51 東京都交通局
東京都交通局
撮影:53様(渋谷車庫 1984)
東京都交通局
撮影:板橋不二男様(銀座 1987.8.5)
東京都交通局(東京都)では、カラーを目立たせることにより事故防止と利用者増を図るため、1981年から「明視性の高い黄色」を基調としてマルーンのラインを入れたデザインに変更しました。
しかし、この色は都民や色彩専門家から、公共の都市景観としての配慮に欠けるとの異論が相次ぎ、再考することになりました。
「都バス色彩懇談会」が立ち上げられ、専門家を交えてカラーデザインの在り方が議論された結果、3案が策定され、都民の意向調査を行い、クリーム色地にグリーンのナックルラインを入れたデザインが採用されました。
これは、路線バスのカラーデザインに対し、住民が発言をするという珍しいケースとなりました。
7-52 日本国有鉄道
日本国有鉄道
撮影:板橋不二男様(蒲生支所 1976)
国鉄バスは茶色とクリーム色のツートンカラーを採用していましたが、1960年以降、濃緑色とクリーム色にカラシ色のラインを加えたカラーデザインに変わりました。このデザインの元となったのは、カラシ色を抜いた2色のツートンカラーで、日本鉄道技術会へデザイン研究を依頼して選定されたものだそうです(文献4のP.154)。暖地色として四国・九州地方に導入したものが、評判がいいために標準色となったそうです。
7-53 頸城自動車
糸魚川バス(マルケーグループ)
撮影:本社営業所(2018.12.25)
頸城自動車(新潟県)では、創立80周年を目指して、1991年に地元の県立高田工業高校デザイン科の生徒にボディデザインのコンペを行い、そのうちの1作品を基調に新デザインを施しました。1955年以来のボディデザイン変更になりました。(頸城自動車(2003)「頸城の足として90年」による)
写真は1994年に頸城自動車から分離した糸魚川バスの車両。
7-54 上田バス・草軽交通
草軽交通
撮影:本社営業所(2017.8.26)
上田バス(長野県)は、2012年に地元の長野大学デザインサークルとの産学連携により、バスのカラーデザインを決めています。
上田バスは2009年に東急グループから離脱し、これを機にデザインを一新することになったもの。関連会社の草軽交通とともに、新デザインを採用しました。
貸切バスの新デザインは「蝶が舞うように」というデザインコンセプトで決められたとのことです。
上田バス
撮影:上田駅(2017.8.26)
路線バスに関しては、2013年に同じく長野大学デザインサークルにより、基本デザインを作り、使用色については地元での投票によって決定しました。
デザインはシンプルな2色で、だれが見ても認識できる配色とし、また乗車口は明るい色で目立たせるとともにシンボルマークを配置しています。
投票で選ばれた赤色は、真田幸村が大阪城の決戦で使用した「赤備え」の色でもあり、採用となったとのことです。
色彩選択の傾向
最後に、色を選択する上でのよくある傾向というものをコラム的に紹介します。いずれも、個別には色彩選択の根拠理由は別に存在する可能性はありますが、一般論として「○○のバスは○○色が似合う」という意識が先にあって、色彩を決めた可能性がある事例です。公営交通が好む色
緑色というのは、自然環境をイメージさせる色ですので、地域環境に貢献するという意味で、公営交通にはふさわしい色であると言えます。同様に青色も、山や川などの自然環境のイメージカラーであると言えます。そのあたりが、公営交通に多く採用される理由なのだと思われます。
表7-1 公営バス事業者の色彩別分類
色彩 | 事業者数 | 事業者名 ( )内は過去事業者 |
---|---|---|
緑色 | 9 | 青森市、仙台市※、東京都、京都市、高槻市、大阪市、神戸市、伊丹市、北九州市、(札幌市、岐阜市、姫路市、尾道市、熊本市) |
青色 | 8 | 八戸市、仙台市※、川崎市、横浜市、名古屋市、松江市、徳島市、佐世保市、(明石市、呉市、岩国市、鳴門市、荒尾市) |
赤色 | 1 | 長崎県、(函館市、苫小牧市、秋田市、山口市、小松島市) |
その他 | 3 | 宇部市、佐賀市、鹿児島市、(尼崎市、三原市) |
事業者数:数値は現状の事業者数 ( )内の過去事業者を含めても傾向は変わりません。 事業者名:※印=仙台市は、緑色地に青帯なので、緑と青の両方に記載しています。 |
表7-1に見られるように、現行事業者基準でも、過去事業者を含む基準でも、公営バスには青と緑が多いことが分かりました。
しかし、それだけでは「公営バスが好む色」なのかどうかは分かりません。そこで、民営バスの傾向もまとめた上で、下のようなグラフで比較してみました。その結果、民営バスの場合は赤が多いという傾向があり、公営バスとは明らかに異なる傾向があることが分かりました。
(民営事業者の選定基準は、ある程度の広さのエリアを運行している一般路線バスの事業者で、近年分社があった場合は、分社前を基準に1社とカウントしています。また、色彩の基準は、メインとしている色としています)
グラフ7-2 公営バスの色彩
グラフ7-3 民営バスの色彩
東京都交通局
渋谷駅(2016.4.3)
京都市交通局
京都駅(2016.3.5)
大阪市交通局
大阪駅(2017.6.24)
まず上の3枚は、緑色の公営交通の事例です。東京都、京都市、大阪市という主要都市の公営バスが緑色なので、「公営バスは緑色」という印象が強いのだと思われます。他にも、神戸市、伊丹市はじめ、全国にまんべんなく緑色の公営バスは見られます(ました)。
一方、下の3枚は青色の公営交通の事例です。これも横浜市、川崎市、名古屋市という主要都市が名前を連ねます。
横浜市交通局
横浜駅(2017.4.30)
川崎市交通局
川崎駅(2017.2.12)
名古屋市交通局
大曽根駅(2016.8.27)
2階建てバスは赤色
下関市 AECルートマスターRM(1962年式)
撮影:EF210-115様(下関駅 2009.12.23)
イギリスで活躍する2階建てバス、いわゆる「ロンドンバス」というと、赤色というイメージがあります。
このカラーは、元々はロンドン・ジェネラル・オムニバス社が、競合会社の中で目立つように採用したようです。それが、現在では、ロンドンのバスのアイデンティティにもなっており、事業者に関係なく赤色を採用しています。
この「ロンドンバス=赤色」という強烈なイメージから、日本でもロンドンバスは赤色で使われており、それ以外の2階建てバスにも波及しています。
台東区
板橋不二男様(東京都 1988)
江戸川区
板橋不二男様(1990.1.28)
琉球バス
板橋不二男様(1991頃)
2階建てバスの日本への導入が始まったのは1970年代末期のことですが、英国からの輸入車のみならず、赤色の二階建てバスの導入例は数多く見られます。
1978年に台東区商店会連合会(東京都)が浅草寺1300年記念祭の一環として、英国製ダブルデッカーを上野〜浅草間で無料運行します。これが赤色でした。1981年からは本格的な路線バスとして、ネオプランのダブルデッカーを導入、赤色1色に塗られます。
江戸川区では、1989年に小岩駅〜葛西臨海公園間にやはりネオプランのダブルデッカーを導入。同様に赤色に塗られました。
そのほかにも、1985年に名古屋市交通局(愛知県)が「インポートフェア'85」のシャトルバスとして導入した国産ダブルデッカー(名古屋遊覧バスに移籍)、新潟交通(新潟県)などでダブルデッカーを赤色とする例が見られました。
オープントップバスも赤色
日の丸自動車興業(スカイバス)
東京都(2016.7.30)
中国JRバス(めいぷるスカイ)
広島駅(2016.1.1)
近鉄バス(スカイビスタ)
大阪駅(2017.6.24)
次に2階建てバスを改造したオープンバスの一例です。
日の丸自動車興業が2004年から運行を始めた「スカイバス東京」。同社にはもともと赤い色のバスがありましたので、すべてがロンドンバスの影響ではないとは思いますが、赤いダブルデッカーという定着したイメージを生かしています。
次に中国ジェイアールバス(広島県)が2014年に運行を開始した「めいぷるスカイ」です。これも前年の観光巡回バス「めいぷるーぷ」を受け継ぐ赤色という理由がありますが、赤1色のオープンバスというイメージが生かされています。
そして近鉄バスが2014年に運行を開始した「スカイ・ビスタ」で、当初は青と黄色の近鉄カラーでしたが、2016年に赤1色に変わりました。
他にも、西日本鉄道(福岡県)が2012年に導入した「オープントップバス」、WILLERが2016年に導入した「レストランバス」が赤色です。
BRTは赤色
岐阜乗合自動車(清流ライナー)
岐阜駅(2016.10.30)
気仙沼線BRT
長谷川竜様(気仙沼営 2017.6.3)
新潟交通(ツインくる)
新潟駅(2017.8.26)
BRT(バス・ラピッド・トランジット)は、鉄道並の専用線や駅施設を持ち、速達性、定時性に優れたバス輸送システムを指し、2000年代に入ってから内外各地で導入が始まっています。連節バスを導入するケースも多く、これが輸入車に依存することから車種選定が限定され、カラーを赤1色ベースとする事例が多く見られます。
BRTの導入はコロンビアのボゴタにおける「トランスミレニオ」が初期事例ですが、これが赤1色だったようです。また、ブラジルのクリチバ、インドネシアのジャカルタなどでも赤色の連節バスが導入されています。
日本では、2011年に岐阜乗合自動車(岐阜県)が導入した「清流ライナー」の連節バスが赤色です。また、2012年にJR東日本が東日本大震災による被災路線の復旧に際して気仙沼線(宮城県)、大船渡線(岩手県)に導入したBRTも赤色ベースとなっています。2015年には、新潟交通(新潟県)が連節バスによる「ツインくる」をやはり赤色ベースで導入しています。これは日本海に沈む夕陽をイメージしているとのことです。
また、BRTではありませんが、連節バスの赤色の例としては、神奈川中央交通(神奈川県)「ツインライナー」、神姫バス(兵庫県)「オレンジアロー」の例もあります。
主な参考文献
- 日本バス友の会(1994)「日本のバスカラー名鑑」
- 和田由貴夫(1998)「シティバスのカラーリングを考える」(「年鑑バスラマ1998-1999」P.97〜103)
- 三好好三(2006)「バスの色いろいろ」(「昭和40年代バス浪漫時代」P.124〜125)
- 満田新一郎(2005)「昭和30年代バス黄金時代」
- 満田新一郎(2006)「続昭和30年代バス黄金時代」
- 満田新一郎(2006)「昭和40年代バス浪漫時代」