変化とバリエーション
バスのカラーデザインは、時とともに変化します。その変化の理由としては、時代の流行、車両デザインの変化、塗装技術の変化などが考えられます。バスのデザインの場合、地域に根差しているという側面から、大きなイメージチェンジを図ることにはリスクがあるため、同じようなデザインを小さく変えてゆくという手法が見られます。
また、ワンマンカーの導入、低床車や低公害車の導入などの際、カラーデザインの一部を変えて、その機能をアピールする例があります。また、近距離バスと長距離バス、特定の路線に使用するバスなどを区別するためにも同様の手法が取られます。
ここでは、元デザインや色彩を生かしながらの変化やバリエーションを取り上げます。
カラーデザインの近代化
バスのカラーデザインの変化のきっかけは、外的な流行であったり、バス会社側の合併やCIなど内的原因であったりします。そんな中で、基本的なデザインは継承しつつ、変化を遂げる例があります。例えば、ワンマンカー、低公害車、ノンステップバスなど新たな機能を持った車両の導入に合わせて、イメージチェンジや識別のための変更を行うことがあります。あるいは、スケルトンタイプの車両への移行に合わせて、角張った外形に合ったデザインへの変更が行われることもありました。
ここでは、そんなカラーデザインの近代化のいくつかをご紹介します。
6-01 京王帝都電鉄
原形(1948年〜)
板橋不二男様(八王子営 1973)
裾デザイン廃止(1972年〜)※
国立駅(1980.8.10)
簡略塗装(1975年〜)
国立駅(1986.8.11)
京王帝都電鉄(東京都)では、塗り分けの簡略化傾向が見られます。
1948年に朱色と黄色のデザインを採用し、長期間同社のカラーとして定着していました。当初は車体裾はオレンジ色1色でしたが、1950年代初めには、そこに白い2本線(一部は3本線)が入るようになりました。これは恐らく、サイドモールをデザインに取り入れたものと思われます。
1972年頃の新車から、その車体裾の塗り分けを廃止し、塗装簡略化を図り、在来車も塗り替えが行われました。
さらに1975年から採用された本格的な簡略化塗装では、白色が廃止され、黄色地に朱色ラインのシンプルなものになりました。
※印は、白黒写真をカラー化したものです。
>>1-03 京王グループカラーへ
6-02 国際興業グループ
旧カラー(1959年〜)
撮影:長谷川竜様(釜石営業所 2014.6.21)
新カラー(1998年〜)
撮影:長谷川竜様(盛岡駅 2014.5.24)
国際興業(東京都)では、使用色を明るくする変化が見られます。
1959年にグリーン系のカラーリングを採用していますが、1998年にノンステップバスを導入するに当たり、それまで草色だった明るいほうの緑色を明るめのライトグリーンに変更しました。合わせて、正面や側面の塗り分けも若干修正し、ライトグリーンの面積を増しています。初期の新カラーは、側面と正面の斜めラインに曲線を取り入れていましたが、これは間もなく直線に戻されました。
また、旧カラーを新カラーに塗り替える際には、元の塗り分けを踏襲しているようです。
(写真は岩手県交通への転籍後)
>>1-02 国際興業グループカラーへ
6-03 神奈川中央交通
基本カラー(1951年〜)
撮影:戸塚駅(1985.4.2)
直線カラー(1987年〜)
撮影:若葉台駅(2016.5.4)
神奈川中央交通(神奈川県)では、曲線塗り分けを直線基調に近代化しています。
1951年に黄色地に朱色帯、裾に赤色が入るカラフルなデザインを採用しました。明るい色彩が好まれる時代背景と、ボンネットバスに見られるフェンダに沿った波形という当時の流行が表れています。
このデザインは長く続きましたが、スケルトンタイプの車両に外形が変わる中で、1987年に直線的な塗分けに変わっています。即ち、車体裾の波形は直線に、正面の金太郎腹掛けスタイルは台形に、それぞれ変わりました。
一般の利用者にとっては特に気づくものではなく、時代に合わせて変化を遂げた好例ではないかと思います。
6-04 川崎鶴見臨港バス
原形(1949年〜)※
川崎駅(1977.8.29)
裾デザイン廃止(1980年〜)
ポンコツ屋赤木様(綱島駅 1987)
簡略塗装(1989年〜)
川崎駅(2017.2.12)
川崎鶴見臨港バス(神奈川県)では、塗り分けの簡略化と色調の近代化が行われています。
1949年に京浜急行電鉄の子会社となった際に、当時の同社のバスと同じ銀色に青帯のカラーデザインが採用されたようです。
この基本デザインは長く続きましたが、1980年に窓下の帯のみを残す簡略塗装に変わりました。同時に正面の塗り分けも、曲線から直線に変わりました。
さらに、1989年には、地色が銀色から白に変わり、青に細い赤帯を配したデザインに変わりました。
※印は、白黒写真をカラー化したものです。
6-05 神戸市交通局
濃緑(1953年〜)
板橋不二男様(1975頃)
ローングリーン(1975年〜)
六甲道駅(2016.5.7)
ライトグリーン(1998年〜)
須磨一の谷(2016.3.5)
神戸市交通局(兵庫県)では、1953年に採用した伝統の塗り分けを維持したまま、デザインの細部と色調を変化させながら、現在に至ります。
当初は側面後部に曲線のデザインが入っていましたが、これは1965年納入車からなくなっているようです(注1)。
色調は、1975年に緑色が若干明るくなり、1998年導入のノンステップバスから更に明るい色使いに変えました。神戸市の公式サイトによると、これまでの深緑はローングリーン、ノンステップバスの黄緑色はライトグリーンと呼ばれます。
1998年以降は、ノンステップバスに新色を、ワンステップバスには旧色を用いてきましたが、最終的には新色に統一される見込みです。
6-06 関東鉄道
原形(1965年〜)
板橋不二男様(水戸市 1978.4.13)
青色に統一
つくばセンター(2016.5.14)
低床車カラー(2001年〜)
つくばセンター(2016.5.14)
関東鉄道(茨城県)は1965年に常総筑波鉄道と鹿島参宮鉄道が合併して成立した会社で、合併後に窓下に3本線の入る新デザインになりました。ブルー系のカラーですが、初期には窓上のラインと車体裾がエンジ色でした。これは、元々常総筑波鉄道のバスがエンジ色系、鹿島参宮鉄道のバスがブルー系だったためかも知れません。
1970年代にはブルー系に統一されています。
2001年より導入されたワンステップバスとノンステップバスは、色はそのままにデザインが変わりました。窓下の3本ラインが大胆な曲線に変わり、前からのラインは上に、後ろからのラインは下に下がるようデザインされました。ノンステップバスにはロゴも入ります。
6-7 新潟交通
基本カラー
撮影:板橋不二男様(1974頃)
赤屋根(1990年〜)
撮影:新潟駅(2017.8.26)
新潟交通(新潟県)では、1932年の新潟合同自動車成立から、銀色地に青帯のカラーが採用され、長きにわたって使われています。
1990年に、それまでの基本カラーをベースに上半分を赤くするデザイン変更を行いました。これは新潟交通の前身であり1922年に設立された新潟市街自動車が「赤バス」と呼ばれていたことに因んだものだそうです。インパクトが強すぎたせいか、間もなく側面部分は銀色に戻され、妻面と屋根のみを赤くする通称「赤屋根」となりました。
なお、分離子会社は赤屋根にはならず、基本カラーを維持しています。
6-08 東海バス
基本デザイン
板橋不二男様(石廊崎 1987頃)
斜めライン形(1982年〜)
板橋不二男様(土肥町)
直線形(1999年〜)
修善寺駅(2016.6.4)
東海自動車(静岡県)は、オレンジ色とクリーム色のカラーデザインが特徴ですが、塗り分けに関しては、時代ごとに簡略化されてきています。
当初は翼を象った優雅なデザインでしたが、1982年からは直線的で斜めラインを入れたものに変わりました。
1999年からは白色が省略されるとともに、斜めラインもなくなり、かなり簡素化されました。
6-09 遠州鉄道
基本デザイン
板橋不二男様(細江営 1973.12)
段差ライン
浜松駅(2015.1.11)
ノンステップバス(1997年〜)
浜松駅(2015.1.11)
遠州鉄道(静岡県)では、銀色地に深緑色のライン、裾に茶色というカラーデザインを長く続けていました。終戦後遅くとも1953年にはこのカラーになっています。
1970年頃に、窓下のラインに前の方で段差をつけるという変化を与えました。
1997年にはノンステップバス導入に伴い、窓下ラインの段差が曲線的になるとともに、グリーンが3色のグラデーションに変わりました。同時に車体裾の茶色がなくなっています。
6-10 京阪宇治交通
旧カラー
板橋不二男様(宇治営 1975.8)
新カラー(1982年〜)
維中前(2015.2.21)
低床車カラー(2002年〜)
新田辺駅(2015.2.21)
塗り分け自体は時代を反映して、直線化、曲線化の流れをたどったものの、使用色には元デザインへの回顧の傾向がみられる京阪宇治交通(京都府)の一例です。
元は緑系のカラーで、神戸市交通局とよく似たカラーデザインでした。
1982年にイメージの一新を行い、白地に赤茶色の斜めラインが入るカラーに変わりました。使用色は京阪バスと同じかもしれません。
京阪宇治バスとなった2002年から、ノンステップバスなどの低床車に緑色系の新カラーを採用しています。この色は、宇治茶の色を表現したもので、1982年までの旧カラーのオマージュの意味もあるのかも知れません。
カラーバリエーション
6-21 名古屋市交通局
基本カラー
撮影:板橋不二男様(御器所営業所 1976頃)
ワンマンカー
撮影:板橋不二男様(名古屋駅BT 1974頃)
ワンマンカーに赤帯を入れて区別するという一例です。
名古屋市交通局(愛知県)は上半分がクリーム色、下は分が青緑色で、その中間に白い帯が入るデザインでした。この車両もワンマンカーとして使われていますが、前中ドアで車掌乗務もできるワンツーマンカーでした。
ワンマンカー専用車は前後ドア車となり、中央部のラインが赤色になりました。赤帯の所にも「ワンマンカー」と書かれています。
なお、名古屋市交通局は側面に「市営」とシンプルな事業者表記になっていたのが特徴です。
1975年からクリームと緑のカラーに変更されています。
6-22 仙台市交通局
仙台市交通局
撮影:板橋不二男様(1977)
仙台市交通局(宮城県)では、1954年頃から、市のカラーであるグリーンを地色に、青いストライプの入ったカラーデザインを採用しています。いわゆる「ブルーリボンカラー」とよく似ています。
ベースとなるのは写真の青色ラインですが、窓下の帯色については、時期や用途によって複数の色使いが存在しています。
なお、現在では再び青帯のみに統一されています。
白帯車
板橋不二男様(長町営業所 1977)
ワンマンカー(赤帯)
板橋不二男様(長町営業所 1977)
グリーンバス
板橋不二男様(長町営業所 1977)
白帯は、近距離用の三方シートのツーマン車に採用されていたカラーリング。白帯の上下には赤色の縁取りがあります。1977年頃まで存在したようです。
赤帯はワンマンカー。1965年のワンマンカー導入時にはオレンジ色帯で、1973年に後ろ乗りに変更する際に赤色帯に変えました。すべてがワンマンカーになった後、1985年に青帯に戻りました。
緑帯は、廃止された仙台市電の代替路線に投入された「グリーンバス」です。1987年まで運行されました。
6-23 京王帝都電鉄
朱色
板橋不二男様(新宿車庫 1973)
ライトブルー(復刻カラー)
調布駅(2016.2.21)
ライトグリーン(復刻カラー)
新宿駅(2016.2.21)
京王帝都電鉄では、1970年代に入り、貸切バスと高速バスのデザインをアイボリーに細かい朱色ラインの入る新デザインに変更しました。朱色は、路線バスにも使われていたカラーデザインとの共通性を持つものです。
これに1973年頃から、カラーバリエーションが加わりました。同じデザインでライトブルーとライトグリーンの2種類がありますが、これまでの京王バスで使われていた色彩とは異なるものでした。
2015年に登場した復刻カラーは、路線バスに塗られています。
6-24 小田急バス・秋田中央交通
小田急バス
赤
世田谷営(2016.3.27)
青
世田谷営(2016.3.5)
緑
世田谷営(2016.2.21)
1988年にフローラ号で導入された高速バスデザインは、多色化展開されています。
小田急バス(東京都)では、1989年の新宿〜三原間「エトワールセト号」では青色、同年の新宿〜岐阜間「パピヨン号」では緑色のバリエーションを展開しました。カラーバリエーションはその後も続いていますが、路線による区分は早くになくなり、共通運用になっているようです。
また、側面のロゴは当初の「フローラ号」から「ODAKYU」ロゴに変わり、最近は犬のマークもつくようになっています。
秋田中央交通
赤
左党89号様(秋田営 2001.4.3)
青
武智麻呂様(仙台 1990)
緑
左党89号様(秋田駅 2013.10.5)
秋田中央交通(秋田県)も「フローラ号」は赤色でしたが、1990年の秋田〜仙台間「仙秋号」では青色を採用しました。その後、「仙秋号」は緑色に変わっています。
当初は「フローラ号」などのロゴが入っていましたが、小田急バスと同様に社名に変わっています。
6-25 大阪市交通局
標準カラー
撮影:大阪駅(2016.3.5)
低公害バスカラー
撮影:大阪駅(2016.3.5)
大阪市交通局(大阪府)は通常カラーは緑色のラインですが、低公害車については、ブルーのラインになっています。
大阪市の色違いデザインは伝統的で、1957年に採用された緑色の通称「ゼブラバス」は、定期観光車は色違いの赤色、貸切車は青色でした。
6-26 しずてつグループ
しずてつジャストライン
撮影:藤枝駅(2016.3.20)
掛川バスサービス
撮影:掛川駅(2016.3.20)
1988年に静岡鉄道(静岡県)から分離された掛川バスサービス(静岡県)には、静岡鉄道のカラーデザインの赤い部分を黄色に変えたデザインが採用されました。
このほか、静鉄から移動した車両が色違いに塗り替えられた例としては、秋葉バスサービス(朱色と緑)、藤枝町営(水色、黄緑色)の例もあります。
しずてつジャストライン
清水駅(2015.5.9)
掛川バスサービス
掛川駅(2016.3.20)
秋葉バスサービス
袋井駅(2016.10.30)
基本デザインが同じで使う色にバリエーションを付ける方法は、1999年から導入された静岡鉄道の新デザインも同様です。
静岡鉄道(→しずてつジャストライン)は赤と青の四角い模様が入りますが、掛川バスサービスは赤と黄色、秋葉バスサービスは赤と緑の模様になります。
6-27 防長交通
近鉄カラー(復刻カラー)
撮影:防府駅(2016.5.29)
非冷房カラー(復刻カラー)
撮影:徳山駅(2016.5.29)
冷房車カラー
撮影:防府駅(2016.5.29)
防長交通(山口県)では、親会社の近畿日本鉄道(大阪府)のカラーをそのまま使って自社の長距離カラーにしていました。
これの色違いを展開しており、近距離バスには青色にアレンジして使用、冷房車からは緑色にアレンジして使用しました。
その後、長距離カラーは別のデザインに変わり、近距離の非冷房車は姿を消し、近年では緑色の冷房車カラーのみが残されて、それも新塗装の登場により消える運命になっています。しかし、2015年に復刻カラーが登場したことで、この時点では3色とも見ることができるようになりました。
6-28 徳島バス
受託カラー
徳島駅(2016.11.23)
中央循環カラー
徳島駅(2016.11.23)
南部循環カラー
徳島駅(2016.11.23)
徳島バス(徳島県)では、徳島市交通局からの受託路線や移管路線などに、独自デザインを採用しています。
黄緑色は、徳島市交通局からの受託路線用カラーで、自社カラーの赤と青のラインの部分を黄緑色にしたようなカラーデザインとしています。
その後、2015年に市営バスが運行していた循環線2路線が徳島バスに移管されますが、移管後に徳島バスが導入した車両は、受託カラーの色違いになりました。ピンク色は中央循環線に使われるカラー、黄色は南部循環線に使われるカラーです。
なお、市営バスから引き継いだ車両は市営バスの塗り分けにこのラインカラーを展開していますが、徳島バスが自社で購入した車両は、自社塗り分けで展開する方向性と思われます。
>>4-33 徳島バスの流用カラーへ
主な参考文献
- 日本バス友の会(1994)「日本のバスカラー名鑑」
- 和田由貴夫(1998)「シティバスのカラーリングを考える」(「年鑑バスラマ1998-1999」P.97〜103)
- 三好好三(2006)「バスの色いろいろ」(「昭和40年代バス浪漫時代」P.124〜125)
- 満田新一郎(2005)「昭和30年代バス黄金時代」
- 満田新一郎(2006)「続昭和30年代バス黄金時代」
- 満田新一郎(2006)「昭和40年代バス浪漫時代」