その頃
のびぞう 「ノラざえもん! 明日の運動会の徒競走だけやめさせられないかな」
ノラざえもん 「どうして?」
のびぞう 「ボク徒競走苦手なんだよ。毎年ビリッケツでみんなの前で恥かくんだ」
ノラざえもん 「しょうがないなあ。じゃあ、♣さかさテルテル坊主!」
のびぞう 「これって、テルテル坊主をさかさに吊るして、雨を降らすってやつだろ? でも、雨で運動会自体が中止になると、普通の授業になっちゃうんだ。授業はイヤだから、徒競走だけ中止してよ」
ノラざえもん 「じゃあ、♣現実を早送りするリモコン!」
のびぞう 「やった! それよさそう。徒競走の所だけ早送りすればいいんだね」
ノラざえもん 「その通り。ただし、早送りの倍率の分だけ、終わった後の疲れも大きくなるから気をつけてね」
のびぞう 「どういうこと?」
ノラざえもん 「6倍速にすると、普通の徒競走より6倍疲れるんだ」
のびぞう 「ヤダよそんなの。疲れない方法はないの?」
ノラざえもん 「それなら・・・♣5寸釘100本セット!」
のびぞう 「釘をどうする気」
ノラざえもん 「徒競走のコースにばら撒いておけば、学校は万が一の事態を避けるため、徒競走を中止するよ」
のびぞう 「誰が撒くの」
ノラざえもん 「のびぞう君」
のびぞう 「ちょっと待ってよ。見つかったらボクが犯人にされちゃうよ」
ノラざえもん 「当たり前じゃないか。何か得をするためにはリスクが伴うんだ。楽だけをしようなんて、世間が許さないよ」
のびぞう 「う〜ん。もっともらしいことを言うんだなあ」
ノラざえもん 「例えば、徒競走を中止させるんじゃなくて、のびぞう君が徒競走に強くなるように考えたらどうなの」
のびぞう 「でも、そういうことを頼むと、高速ルームランナーとか止まらないスニーカーとか上達するまで追いかけてくる犬とか、そんなものばっかり出してくるんだろう?」
ノラざえもん 「そんな当たり前のもの出すわけないだろう。ボクのポケットから出せるのは・・・♣スパルタ陸上コーチ37歳!」
のびぞう 「いらない、いらない、いらない」
ノラざえもん 「せっかく出したのに」
のびぞう 「だからボクが一生懸命トレーニングするとかじゃなくて、足が速くなるトローチとか出せばいいじゃない」
ノラざえもん 「そういうものか。それなら、♣足が速くなるラッキョウ!」
のびぞう 「ラッキョウ? ボク、ラッキョウ食べられないよ」
ノラざえもん 「のびぞう君。今我慢してラッキョウを食べれば、これから一生足が遅くて恥をかくこともないんだ。でも、今ラクをすれば、一生足が遅くて恥をかき続けるんだぞ。さあ、どっちを選ぶ」
のびぞう 「どっちもやだよ。大体どうしてラッキョウなのさ。足が速くなるトローチを出してよ」
ノラざえもん 「う〜ん。♣歌舞伎が上達するトローチ! しかないんだ」
のびぞう 「それじゃあ意味ないよ」
ノラざえもん 「でも、運動も勉強も苦手なんだから、伝統芸能の一つくらい得意技にしておけば、将来役に立つかもしれないぞ」
のびぞう 「本当?」
ノラざえもん 「本当さ。目先の格好いいことより、他の誰も出来ないことができるなんて、すごく格好いいと思うよ」
のびぞう 「分かった。ノラざえもん。ボク歌舞伎がうまくなるようにがんばるよ。ありがとう」
ノラざえもん 「これでいいのかなあ。目の前の現実から目を背けたいだけのような気がするんだけど」
岩手県のバス“その頃”