■ あずさ川畔散策
翌朝,目覚めると既に明るくなっている。
大正池まで行くのは無理としても朝霧に煙るあずさ川をカメラに収めようと,ひとりで昨日夕方偵察した田代橋まで出かける(午前6時)。途中,ザックを背負った初老の男性に追い抜かれる。沢渡に車を置いてシャトルバスで今着いたばかりで,これから焼岳に日帰りで登り(ちなみに「登り3時間・下り2時間」だとホテルで貰った「上高地散策マップ」に書いてあった),明日は涸沢まで行く予定だと言う。羨ましい限りの健脚ぶりである。
田代橋からの山の眺望,川霧ともいまひとつ,対岸のホテルに泊まっているツアーグループだろうか,添乗員らしき人に先導されてこちらも朝の散歩らしい。左岸遊歩道を河童橋方向に向かっていった。
帰り,ホテルの近くで,ニホン猿の親子連れ5匹に出遇う。ホテル周辺で残飯でもあさりに来たのだろうか。一瞬襲っては来ないだろうかと歩を止めて警戒したが,何事もなく前を通過して右手の木に登って枝をゆすりながら木の実を頬張っていた。
7時,ホテル帰着。
朝食は,ダイニングルームでの洋食。利用時間は07:00~09:30,わたし達は8時ごろに利用。
Tシャツ・半ズボン・サンダル・登山靴はご遠慮下さいとある。
卵料理はゆで卵・スクランブルエッグ・目玉焼きの中からチョイス。肉はソーセージかハムを好きなように選んで組み合わせる。サラダ。ジュースは,トマト・アップル・パイン・オレンジ・飲むヨーグルト・・・・と種類が豊富。パンはトーストタイプかロールタイプの2種類から選ぶ,どちらも超美味かった。
さて,今日はあずさ川沿いの遊歩道をぶらぶら散策する予定。
まず,「帝国ホテル前」09:02発のバスでひと停留所下って「大正池」バス停へ(料金はなんと320円!ちょっと高いな~,道路沿いに歩くとおよそ1.5kmくらい,時間の節約と車道は大型バスやタクシーがひっきりなしに通るので危険でもあるし,折角上高地に来たのに排気ガスを吸うのも愚の骨頂!まっ仕方ないとするか)。
■ 大正池から穂高橋・田代橋へ
「大正池ホテル」脇の小道を下るとすぐに大正池の畔に出る。左手下流側に,微かに噴煙を上げる「焼岳」が,粘性が強いので溶岩ドームが形成された独特の山体を見せてくれる。大正池は,大正4年(1915)の大爆発の際の泥流で梓川が堰き止められて出来た湖水で,堆積土砂で年々浅くなっているという。
上流側に目を転じると,右から明神岳・前穂高岳・前穂高・奥穂高岳の雄姿が迫る。湖面には幻想的な立ち枯れの木・・・・・・・・。しばし雄大な眺めを堪能し,居合わせた若いカップルと,それぞれの写真を撮り合う。
田代橋への散策を開始。湿原に架けられた桟道,右岸からのガレ場,林間の小径を抜けてやや開けた場所に出る。右手に少し入ったところに澄んだ水をたたえる田代池。湧泉があり,冬でも全面結氷しない田代池は,以前はもっと広い水面を輝かせていたが,霞沢岳から流れ込む土砂によって年々小さくなりつつあるという。浅い池に,イチョウバイカモの緑が揺れる,霞沢岳と六百山が正面に見える。キャンバスに向かっている人が何人もいる。ここでわたしたちと同年代の母親を連れて散策する親孝行な息子さんに出会う。マイカーで来て今晩は平湯温泉に泊まるそうだ。この親子とは河童橋までの道中でまた何度も顔を逢わすことになる。
河原に降りて,穂高や焼岳をカメラに収めたりしながら、田代橋へ。
ここでトイレ休憩。
|
|
|
|
|
大正池から焼岳 |
湖面に浮かぶ枯れ木 |
田代池 |
田代橋付近から焼岳 |
大正池から前穂高岳,奥穂高岳・西穂高岳 |
■ 穂高橋・田代橋から河童橋へ
ここから河童橋までは梓川の両岸に散策路が設けられている,どちらも25分から30分の行程である。わたし達は,途中に山荘やホテルがあり,昼食を摂るのに都合がよい右岸沿いの道をとる。
田代橋・穂高橋を渡って梓川の右岸へ,突き当たりに「西穂高岳登山道」と記されたら立派な門構えが立つ。55年前,ここから西穂に向かったのかと感無量!その時にはこんな立派な道標(?)は無かった。
すぐ右手に「山ノ神」,上流へ進むと「上高地温泉ホテル」・「上高地清水屋ホテル」。ここで昼食と考えたのだが,まだお腹が空いていない,アイスクリームとパンを買って店の前のベンチでしばし休憩。
今日は朝から一日中,ヘリコプターが上高地の一角から穂高連峰の山あいを一日中行ったりきたりしている。きっと紅葉シーズンに押しかけてくる登山客のために食料品などの物資を山小屋に運びこんでいるのだろうか。
更に進むと左手の岩盤に,明治時代日本アルプスに魅了され,その存在を世界に広めた功労者「W.ウェストンのレリーフ」が掲げられている。この前で,毎年6月の第一日曜日に日本山岳会主催のウェストン際が開かれると云う。 しばらく,梓川の流れから離れ,ダケカンバとカラマツの林間の道を行くと,左手に「上高地アルペンホテル」・「上高地西糸尾山荘」・「五千尺ロッジ」・「ホテル白樺荘」が並び,河童橋右詰に到着。
ここは,上高地の銀座である。紅葉シーズン前のウィークデーにも拘らず大勢の人が行き交っている。
河童橋の名の由来は,昔ここに河童がすみそうな深い淵があったため,あるいはまだ橋のなかった時代に衣類を頭に乗せて川を渡った人々が河童に似ていたからなど幾つかの説があるという。1927年芥川龍之介が小説『河童』の中で,上高地と河童橋を登場させたことでより有名になった。しかしこう人が多いと,そんな神秘的な趣は全く感じられない。55年前は,人が行き違いできる程度の幅の粗末な吊橋であった,こんなに立派な橋ではなかったのに!現在の橋は1997(平成9)年架替えの5代目(幅3.1m 長さ36.6m)。
橋に立って上流を望むと,標高3000m級の偉容を誇る西穂高岳~間の岳~天狗の頭~天狗のコル~畳岩の頭~ジャンダルム~ロバの耳~奥穂高岳~吊り尾根~前穂高岳~明神岳が迫り,真っ白なガレ場が特徴的な岳沢のカールが目に飛び込んでくる。下流を見やればわずかに噴煙をたなびかせる焼岳も控える。上高地一のすばらしい展望がここに凝縮されている。 これらを背景に皆さん記念写真を撮る。一眼レフカメラをぶら下げていると,上手く撮ってくれるだろうと期待されてのことか,何グループにもシャッターを押してくれ頼まれる。それらをこなして,わたしも素晴らしい風景を橋の上から,下流の岸辺へ下った場所から・・・・・・しばらく休憩がてら撮影三昧の時を過ごす。
|
|
|
|
|
西穂登山口ゲート登山計画書提出箱が置かれている。 |
ウェストン碑 |
六百山・霞沢岳の稜線を望む |
河童橋から奥穂高岳 |
河童橋から焼岳 |
■ 河童橋から明神橋往復
今日の散策予定は,ここまでであったが,まだお昼を過ぎたばかり,それにわたしの脚の方もまだまだ歩けそう。
3.5kmほど上流の「明神橋」・「明神池」まで足を伸ばすことにした。
往きは,梓川左岸のカラマツの原生林を抜ける遊歩道(梓川左岸道)を進む。清冽な流れ上高地一帯の上水道源になっているという清冽な流れの清水沢を渡ると,右手に「上高地ビジターセンター」,「小梨平キャンプ場」を過ぎると,道はわずかに峠越えに向かう登りとなるが,きついことは無い。この道は,徳沢,横尾を経て,涸沢,槍ヶ岳・北穂高岳・奥穂高岳あるいは蝶ケ岳~常念岳,そして徳本峠越えへのいわば幹線路である。遊歩道を散策する軽装の客にまじって,大きなザックを背負った本格的登山者も行き交う。5,6人の年配者グループは蝶ケ岳から降りてきたという。これから山に向かう人たちにつぎつぎと追い越されながらマイペースで歩く。50分ほどで前方にやっと明神橋らしき橋がちらっと見えてきた。ここで夫婦連れの老人の男性の方が,歩を止めて立ちすくんでいる。「(河童橋まで)もう半分くらい来ましたか?」と聞くので「いやいやまだまだ,4/5くらい残っていますよと」と応える。聞くと,「徳沢園」に泊まったというから 先の”半分”というのは,”徳沢~河童橋までの半分”という意味だった事に,後で気が付く。わたしらよりご年配の夫婦なのに徳沢まで往復するとは大したもんだと感心する。それにしても往きはよいよい帰りは怖い,あの状態では河童橋まで歩き続けられるのかと心配になった。
|
|
|
|
|
清水沢に映える
ナナカマド |
明神橋から明神岳 |
嘉門次小屋 |
嘉門次碑 |
展望デッキから明神岳 |
|
|
|
|
|
展望デッキから |
ホテルの部屋の窓から六百山&霞沢岳 |
|
|
|
間もなく朝焼けの宿として有名な創業400年を誇る「上高地明神館」前に到着。
大勢のハイキング客・登山客が休憩している。わたし達もトイレを借りて水分補給。ベンチの脇にナナカマドが真っ赤な実を
つけていた。間もなく紅葉シーズン到来を感じる。
5分ほどで,「明神橋」。木製の吊橋で平成15年に架け替えられたもの。眼前に聳える明神岳が迫力満点で迫る。
梓川右岸へ渡って,下流方向に少し行き,右手の「山のひだや」の前を左手に抜けると「穂高神社奥宮」がある。穂高神社は,安曇野市にある本宮,ここ上高地明神池畔にある奥宮,穂高連峰最高峰・奥穂高岳(3190m)山頂に嶺宮があり,日本アルプスの総鎮守として親しまれている。
穂高神社奥宮の奥にあるのが荘厳なムード漂う「明神池」。入場するには拝観料300円が必要,帰りの時間が心配なので,入場せず,奥宮にお賽銭を挙げて引き揚げることにする。針葉樹林に囲まれた神秘的な池で手前から一之池,二之池と呼びかつてはその奥に三之池があったと言う。伏流水や湧水を水源とする明神池は氷結せず,四季折々美しい景観を呈するそうだ。
梓川岸辺の道の戻る途中右手に,日本近代登山の父,W.ウェストンの山案内人として知られる上条嘉門次(1847~1917)が1880年(明治13)に開いた「嘉門次小屋」と左手に「嘉門次碑」。
さて,帰路は,歩く距離が少しが長くなるが,同じ道を戻るのも馬鹿らしいので「梓川右岸道」を通って河童橋に戻ることとする(14:30)。
歩き出してすぐ,道は湿地帯に入る。明神池からの清冽な流れが幾条にも分かれて梓川へと下っていく。こちらの道は左岸道と違って,コースのほとんどが池や湿地帯を行く部分が多くよく整備された木道の上を行く歩きやすく快適な散策路である。時として,ハッとするような明神岳・焼岳・六百山・霞沢岳をバックにした美しい景色に出っくわす。
4,50分歩いた頃,右手から前穂高岳からの下山道(妻は若かりし頃,夕闇迫る岳沢沿いのこの道を「まだ着かない!まだ着かない!」と思いながら転がるように必死になって下ってきたという。)を合し,「岳沢湿原」を進む。
間もなく左手上流側が開けた梓川河畔に出る。ここからの岳沢とその上部に聳える奥穂高岳から吊り尾根を挟んで前穂高岳の眺望も絶佳である。目を凝らすと,2006年雪崩で焼失した旧岳沢ヒュッテのあった場所に昨年再開した「岳沢小屋」も見ることが出来る。
間もなく河童橋到着。(15:50)
5分ほど離れた「上高地バスターミナル」に向かう道すじで,自分の背丈位もある大きなザックを背負い込んだ二人の若い女性に出会う。うわっこりゃどこかの女子大学山岳部の猛者だ!「どこから下りて来たの?」と尋ねると「薬師!」「山岳部OBです,今3年生」と応える。さすがだ,薬師岳といえば入山は富山立山方面から黒部源流の山々(黒部五郎岳・鷲羽岳・三俣蓮華岳・樅沢岳)を縦走して槍ヶ岳から上高地に下山して来たと思われる。何日位かかったのだろうか?真っ黒けに日焼けした顔,疲れた様子が少しも見えない。凄いなあ~ 若いなあ~ この二人,上高地発16時30分の新宿行きバスの乗り込んでいった,今日中に帰宅する筈だ。渋谷辺りでちゃらちゃらしている子がいるかと思えばこんなにも逞しい子もいる。日本も捨てたもんじゃないね!
さて,上高地からの新島々・平湯方面のバスは,「乗車整理券」というものを発行して混雑時の乗車順番を決めている。わたし達も明日の帰りのバス(12:00)の乗車整理券をゲット(整理番号4番と5番)。
ホテルまでは車道のすぐ脇の林間に造られた歩行者道を歩く。すぐ右手に「山に祈る塔」がひっそりと立つ。
北アルプスで遭難し,、亡くなられた方々を慰霊するために昭和37年に建てられ,北アルプスで遭難された方々の名前を刻んだ銅板が納められるようになっており,毎年,ご遺族や関係者が参加してこの塔の前で慰霊祭が行われるという。
10分ほどでホテルへ帰着(16:50)
今日歩いた距離は,朝の散歩も含めて26,500歩,およそ15,6km。足の痛みが出た昨年末以来の最長距離歩きであった。よくぞ歩いたものと自分ながら感心する。
さ~て,お風呂にゆっくり浸かって足腰のケアをすることにしよう。贅沢な注文だが,ホテルのバスタブってえのは,味気ないないなあ~,やっぱり温泉に浸かりたいっていうのが本音!!
■ 今夜はフランス料理!
今夜の夕食は,「ダイニングルーム」でのフランス料理。
17 : 30と19 : 45の二交代制であるが,昼間の散策からの帰り時間を気にしないことを考えて遅い方の時間を選んでおいた。夕食までの時間をロビーラウンジの「グリンデルワルト」で,わたしは生ビール,妻は紅茶で優雅な一時を過ごす。マントルピースに焚き木が燃え,お客はわたし達だけ。席を移してどでかいサイズのTV画面に映し出されている「四季穂高」という,10年にわたって撮り続けられた名峰の迫力満点のハイビジョンDVD映像を楽しんだ。ショップで販売していたので,購入。家でまたゆっくり見ることにする。
|
|
|
|
|
ホテル玄関が描かれているプレート
ショップでの販売価格は¥15,000.- |
フランス料理の夕食コースメニューは,二種類。「白樺」と「神河内」。わたし達は,選んだ宿泊コースから自動的に後者。
ワインは、「グラスワイン 白」 きりりとした澄んだ味わいであった。 (3杯 ¥4851.-)
パンも素晴らしく美味しい。わたしは合計6ケも食してしまったほどだ。
ローストビーフは,レアさ加減もよろしく感激の味。妻は,もう少し焼いてくれと頼んだがあまり変らなかったとぼやく。
妻の残した分まで口に運ぶ。お代わりを勧めてくれたが,パンもいっぱい食べたしもう満腹状態・・・・。
わたしは,好んでフランス料理を食べるという方ではないが,山岳リゾートホテルで,これほど洗練され格調高いフランス料理を食べられたことには,満足するべきなんだろうか。
|
|
|
|
|
フォアグラのフラン |
スープ |
オマール海老と
帆立貝のポワレ |
ローストビーフ |
山葡萄のジュレ
シャンパンのシャーベット |
|