英国ウェールズの古代巨石文化
            Megalithic Stones in Wales
             
              
  同じ英国でありながら、ウェ
 ールズには独特のイメージが存
 在する。
  それは、アングロ・サクソン
 によってケルト(ブリトン)人
 達が追いやられた辺境の地とし
 てのものだろう。
  アーサー王伝説を筆頭に、多
 くの民話や神話が伝えられてお
 り、それは深い霧に包まれた神
 秘的なイメージなのである。
  ストーンヘンジに使われたブ
 ルーストーンは、ウェールズか
 ら運ばれたとされている。

  2007年の初夏、フィッシ
 ュガードとバンゴールに各3泊
 づつしながら、古代の巨石遺跡
 を中心に原野を歩き回った。
 
 
  Moel Ty Uchaf Stone Circle (Clwyd) 
                         

     
    
     トレレックハロルドの列石
       Trelleck/Harold's Stones
      
                    Gwent (Monmouthshire)      
     
   イングランドとの国境に近い町モ
  ンマス
Monmouth の南の集落で、
  遺跡は更に南へ下った道沿いに残っ
  ている。
   牧草地のような一区画で、三基の
  巨石が一列に並んでいる。一番背の
  高い左側の石の高さは4.5m強で、
  三基共微妙に左右に傾斜している。
   建造された紀元前三千五百年から
  傾いていたとは思えないが、石は傾
  斜することで不均衡な緊迫感を生み、
  新たな表現力を示すものである。
   当時の人々が、そうした遊び心の
  ような表現力を発揮していたのだっ
  たら凄いのだが、と勝手な想像を膨
  らませていた。
   ウェールズでは数箇所の列石を見
  たがいずれもやや傾いており、その
  意味からも大いに楽しめたのだった。
   
Haroldとは後世のサクソン王の名
  だそうで、古代巨石とは直接の関係
  は無い。
                

    
    
     セント・ラザンズドルメン
       St Lythans/Dolmen
      
                    South Glamorgan (Vale of Glamorgan)      
      
   ウェールズの中心都市カーディフ
  
(Cardiff) から、西南に約1マイル程
  行った所にこの小さな町が在る。
   ドルメンはその町外れの、道沿い
  から少し小高くなった牧草地の中に
  残されていた。
   板状の石三枚を「コ」の字型に組
  み合わせ、その上にキャップストー
  ンを載せた最も素朴なドルメンだ。
   一方のみが開いているということ
  は、ここが入口であり、内部は石室
  ともいうべき空間であるのだろう。
   人ひとりがようやく入れる程の大
  きさであり、儀式を行ったり、墳墓
  として埋葬を行うには狭すぎる。
   ここはやはり小生の説である“見
  えざる何らかの存在が降臨する場”
  として構築された、とするのが最も
  適しているように思える。
   大都市近郊とは思えぬほど牧歌的
  な風光であり、現実から通じる説話
  の世界の入口に立っているような錯
  覚を感じていたのだった。  
        

     
     
     ティンキンズウッドドルメン
       Tinkinswood/Dolmen
      
                    South Glamorgan (Pembrokeshire)      
                       
   前掲のドルメンから北西へ半マイ
  ル程行った広大な雑木林に囲まれた
  一画に、この妙な形をした遺跡が保
  存されていた。
   車を停めた場所からは、草原の中
  を少し歩かねばならない。案内表示
  が完備しているので、ほとんど迷う
  ことはなかった。
   最も驚くべきは、何と言っても天
  井石の大きさだろう。横幅は8m以
  上ありそうだ。奥行きは約3m程度
  である。
   残念なのは、そのキャップストー
  ンが途中でへし折れてしまったため
  に、近年になって支柱が後補されて
  いることだろう。両端の柱だけで支
  えられていた当初は、スパンの大き
  な迫力に満ちた構造だった筈である。
   地図には
Long Cairnとあり、この
  ドルメンを指すのか、周辺全体がケ
  ルンであったのかは判らなかった。   
       

     
     
     レイノルドストンドルメン(アーサーの石)
       Reynoldston/Dolmen (Arthur's Stone)
      
                    West Glamorgan (Gower Peninsula)
      
   カーディフの西方、スウォンジー
  
(Swansea) の町から入っていくガウ
  アー半島は、夏にはビーチリゾート
  として知られる著名な観光地だが、
  ここが古代遺跡の密集地であること
  は余り知られていないだろう。
   半島の中心とも言えるこの丘から
  は、周辺の美しい牧草地や遠くの入
  り江までが展望出来る。
   アーサー王の石と命名されたこの
  石は、かつて石室だった構造がドル
  メン状に残ったものである。
   この大石はドルメンのキャップス
  トーンであり、25トンもある石英
  の巨石だそうだ。
   石室は新石器時代のものであり、
  周辺には小石を積み上げたケルンも
  残っている。
   車を停められるスペースから、原
  野を片道30分は歩かなければなら
  ない。
     

            
           
     ペントレ・アイヴァンドルメン
       Pentre Ifan/Dolmen
      
                    Dyfed (Pembrokeshire)
    
   写真で御覧の通り、まことに美しい
  ドルメンである。
   右側の尖った石の先端の一点と、左
  側に並ぶ四石の内の二石の先端、つま
  り尖った石の先端三点だけで、長さ5
  mもあるキャップストーンを支えてい
  るのだ。
   この重量感を感じさせない軽やかさ
  が、英国一美しいドルメンと言われる
  由縁かもしれない。
   従来は土に覆われた石室墳墓であっ
  たそうで、当初からこのイメージを想
  定して構築されたものではなかったと
  いう話は、ドルメン非墳墓説に傾斜し
  ている小生にとっては甚だ遺憾で残念
  な気がする。
   この地はストーンヘンジのブルース
  トーンの故郷であるプリセリ山地に繋
  がる丘陵で、このドルメンも同質の石
  が使用されている。
   このドルメンは、紀元前三千年前か
  ら造られ始めたとされるストーンヘン
  ジより、さらに五百年も前に構築され
  たと言われる。
                  

     
    
     ニュー・ポートカレッグ・コエタンのドルメン
       New Port/Dolmen of Carreg Coetan
      
                    Dyfed (Pembrokeshire)
          
   このドルメンは規模としてはさほど
  の大きさではないが、現在はニューポ
  ートの町の郊外の、別荘地の庭のよう
  な場所に在ることに驚かされる。
   この遺跡もアーサー王伝説に結びつ
  いており、“アーサー王の輪投げ遊び
  の岩”と呼ばれている。
   こうした巨石によって構築された遺
  跡の不思議さと、アーサー王伝説の中
  の巨人たる王の大きさとが結びついた
  結果の言い伝えなのだろう。
   キャップストーン(天井石)の重量
  感に比べ、四個の支石が華奢なので、
  安定感の無い危うさがとてもスリリン
  グな印象を与えている。
   この構造を見る限り、決して居座り
  の良さを求めてはおらず、むしろ今に
  も崩れそうな緊迫感を楽しんでいるか
  のようにも見える。
   どのような信仰や美意識、いかなる
  工法や儀式が介在していたのだろうか
  を想うと何ともミステリアスで、実は
  何も解ってはいないことに気付かされ
  るのである。
   
       

    
    
     カプル・ガーモンドルメン
       Capel Garmon/Burial Chamber
      
                    Gwynedd (Snowdonia)    
   
   広大なスノードン山国立公園の東
  側に、ベトゥス・イ・コイド
(Betws
  
-y-Coed) という町がある。そこから
  2
Kmばかり東に行くと、牧畜の盛ん
  なこの村に着く。
   この遺跡は村外れの牧草地の中に
  保存されており、周辺には牛が放牧
  されていた。
   現地には
Chambered Long Cairn
  と表示されていたので、現状は立石
  壁で仕切られた溝のようだが、両側
  の支石列の上に屋根石が載っていた
  はずである。
   周囲の土を取り除けば、部屋状の
  空間が幾つか繋がったドルメンとい
  うことになる。
   フランスの
Allée couverte と全く
  同じものと考えて良いと思う。
      

    
   
     モエル・ティ・ウシャフストーン・サークル
       Moel Ty Uchaf/Stone Circle
      
                    Clwyd (Berwyn)   
    
   ここはウェールズ北部の中央
  山地の真ん中とも言えそうな場
  所で、
GwyneddPowys
  境界に近い緑濃い牧草地である。
   チェスターに流れるデー川の
  上流に沿った地方道から、東の
  
Berwyn 山地へと登って行く。
   牧場の入口で車を停め、そこ
  から牧草地の急斜面を約40分
  ほど登ると、見事なサークルの
  残る台地に出る。
   実に見晴らしの良い場所(こ
  のページTOPの写真参照)で、
  急斜面を歩く労苦を忘れさせて
  くれる。
   石はやや小振りだが、完全な
  サークルが残っているのが嬉し
  い。辺鄙な場所にしか造られな
  かったのではなく、辺鄙な場所
  のものしか残っていない、と言
  う方が正しいかも知れない。
   この日は晴れたが、もう一つ
  のサークルである
Druid's を予
  定した日は凄まじい荒天で、登
  山を断念したのが悔やまれる。
        

     
     
     ペンロースベイルー立石
       Penrhosfeilw/Standing Stones
      
                    Gwynedd (Anglesey)    
   
   ウェールズの最北端がアングルシーという、狭
  い水路のような海峡で隔てられた島である。その
  西北端に、さらに
Holy 島という小島が在り、先
  端の港町
Holyhead からはアイルランド行きのフ
  ェリーが就航している。ウェールズ本土からは、
  橋を渡って国道A5号や高速A55号線で直行す
  ることが出来る。

   この不思議な二基の立石は、ホーリー島の西端
  から少し丘陵を登った辺りの、広い牧草地の中に
  すっくと立っている。
   石の高さは3mくらいだろうが、他に立石も倒
  石も全く無いことから、当初からメンヒル状の二
  基が立っていたものと思われる。
   二基の巨石は丸で門の柱のようにも見えるし、
  また並んだ方向に何らかの意味があるのかもしれ
  ない。
   アイリッシュ海から吹きつける烈風の中、荒涼
  とした風景の中に茫洋とした風情で立ち尽くす扁
  平な二基の石。石の材質も魅力的であり、立って
  いる姿が実に良い。

   このアングルシー島には、石室・ドルメン・メ
  ンヒルなどの、石器時代から青銅器時代にかけて
  の巨石遺跡が高い密度で分布している。
      

    
    
     ティ・ニュイッドドルメン
       Ty Newydd/Dolmen
      
                    Gwynedd (Anglesey)    
           
   アングルシー島を走る国道A5号線
  のほぼ真ん中辺りで、大きな交差点を
  南へと折れる。
   しばらく行った牧草地の中に、この
  純朴なドルメンがどっしりと座ってい
  るのが見えた。
   分厚いキャップストーンを三基の無
  骨な石で支えており、残念ながらもう
  一基は補修用の人工柱だった。
   ペントレ・アイバンのドルメンのよ
  うな研ぎ澄まされた鮮烈な印象とは対
  極の、何とも不細工で重々しい印象を
  受ける。
   しかし、それがかえって、朴訥とし
  た人々が何らかの祈りを込めて造り上
  げた純粋な精神を物語っているかのよ
  うにも見えてくる。
   ほとんどのドルメンにおいて、重量
  感のある象徴的な石がキャップストー
  ンとして用いられており、あたかもこ
  の巨石を天に向かって捧げているよう
  にも見える。
   青銅器時代の人々はもしかしたら、
  この巨石を敬って祀ることにより、見
  えざる大きな力に対して奉献している
  のかもしれない。  
      

    
    
     スランフェッチェル三角立石
       Llanfechell/Triangle Standing Stones
      
                    Gwynedd (Anglesey)    
   
   この立石群の在る場所は、アン
  グルシー島の北端に近い牧草地の
  奥に位置している。
   この辺りには古代のメンヒルや
  ケルンが信じられないほどの密度
  で分布しており、案内の標識など
  は一切無い。地図の位置を見極め
  て、磁石の方角を頼りにしながら
  牧草地を抜けていくのである。
   ここの立石群は、とても珍しい。
   三基の扁平な立石が、中心に対
  して正面を向け、それぞれが正三
  角形の頂点に立っているのである。
   四石のサークルは最も単純な環
  状とされるのだが、三石のサーク
  ルだったのだろうか。
   いや、やはり正三角形にこそ意
  味があった、と考えるほうが自然
  だろう。
   そしてここでも、見る方向によ
  って全く異なる表情を示す扁平な
  石の潜在的な魅力を、古代の人々
  が知っていたであろうことが伝わ
  ってくるのである。
        

    
   
     ボドウィアドルメン
       Bodowyr/Dolmen
      
                    Gwynedd (Anglesey)    
   
   このドルメンはアングルシー島の南
  東部、ウェールズ本土に最も近い場所
  に在る。観光地である世界一長い名前
  の駅から、南西へ少し行った牧草地の
  中に、鉄柵に囲まれて保護されている。
   キャップストーンが扁平な三角錐の
  形をしており、離れて眺めたシルエッ
  トはまるで、昔映画で観た宇宙人の姿
  に似ていた。
   キャップストーンを支える支石は、
  三石がコの字型に組まれた基本形であ
  る。開口部には扉のような留石が置か
  れており、内部の空間が格別の場所で
  あることを象徴しているように見える。
   ここの看板にも
Burial Chamber
  書かれているので、公式にも埋葬用の
  墓を想定しているのだろうが、どうし
  ても小生にはドルメンを古代の墓とす
  る考えが持てない。
   墓にしては個々の巨石の規模が荘厳
  すぎるし、かと言って権威のある人の
  墓にしては数が多すぎるのである。
             

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