スコットランドの
   古代巨石文化
 
 ストーン・サークルメンヒル 
 Megalithic Stones
   in Scotland      
 
  
 
  Ballymeanoch Standing Stone
 
   Argyllshire 
 
 ある本によれば、オークニー島やヘブリディ
ーズ諸島を含め、スコットランドには約140
箇所のストーン・サークルが残されている、と
いう。
 BC3500年の新石器時代から、BC10
00年の青銅器時代までの間に、先住民族によ
って、ストーン・サークルやケルン、ドルメン
やメンヒルといった巨石文化が栄えた、のだと
いうのである。
 誰によって、何のために、どのような方法で
造営されたか、という謎は大層ミステリアスで
あり、石を組んだその特異な造形にはとても興
味が感じられた。
 今回の旅で訪ねた約50箇所の重要な遺構の
中から、特に印象に残ったものを御紹介したい
と思う。
 辺鄙な牧草地や森の中を歩かねばならず、実
際は見かけの景色の美しさとは違った、湿地と
牛糞との戦いであったが、それは大きな感動の
前の余興のようなものだった。
 観光化された場所を除き、探訪するために最
低でも5万分の1の地図を要する。  
 
 
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リング・オブ・ブロッガー
    ストーン・サークル

  Ring of Brodgar/
       Stone Circle
    
  Isle of Orkney (オークニー島) 
    
 
 
 世界遺産に認定されて以来、ここオークニー
島へは多くの人が訪れるようになった。私達が
感動しながら撮影している間にも、日本を含め
た各国の団体客がやって来ては、15分も経た
ない内に帰って行った。何だ、石だけじゃない
か、とでも言っているような雰囲気だった。
 この「石だけ」以外に、彼等は一体何を求め
てやって来たのだろうか。天をも突くような鋭
い尖石ばかりを、かくも見事に円形に立てた古
代の人々の感性や美意識というものは、果たし
てどのようなものだったのだろうか、と考える
だけでも胸が躍り、立ち去り難い想いでいると
いうのに。
 
 
 Stromness の北東8キロ、Kirkwall の西
北西17キロ、A965からB9055へ曲がり2キロ
行くと見える。サークルの直径は103m、石
の数はかつて60個だったが、現在は29個で
ある。
 最も高い石は4m70
で、写真手前の石でも
3mはある。
 BC2700年頃のものと考えられている。
 
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ステネス
   スタンディング・ストーンズ

  Stennes/Standing Stones
    
  Isle of Orkney (オークニー島) 
    
   
 
 かつてストーン・サークルだった所だが、多
くの石が倒壊し失われたものと思われる。
 20世紀初頭に改修が行われ、倒れた石が立
てられたり、サークルが修復されたりしたとい
う。しかし、古代人は何故石を立てたのだろう
か。それもよりによって、かくも薄く尖った扁
平な石ばかりを。
 求めたのは石の高さなのか、鋭さなのか、見
る角度によって表情を変える扁平の多様性なの
か、或いは通説と成っている暦を知るための、
太陽や月の方位だったのか。
 円の中心に立つと、全ての石がこちらを向い
ていることから、ある種の興奮を感じた。
 ピラミッドの重心と同様、図形の中心という
ものには、ただ一点のみの安定とその周辺の緊
張感とが同居しているらしい。
 円の中心に祭壇らしき遺構が在るが、意味の
ある場所だったに違いない。
 サークルの西北と南東のやや離れた所に、メ
ンヒルが各一基立っているのにも意味が有りそ
うである。   
 
 
 Ring of Brodgar から至近距離に在る。
 B9055に面しており判り易い。A965からはこ
ちらのほうが手前になる。

 従来の円の直径は45mとも37mとも言われて
いるのだが、残念ながら全体的にかなり手が入
っていて明確ではない。
 最も高い石は5.3mで、主要な立石は写真の
3本である。BC2300年前後と考えられている。
 
 
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ステムビスターメンヒル
  Stembister /Standing Stone
    
  Isle of Orkney (オークニー島) 
    
   
 
 現地の遺蹟案内地図に Standing Stone
表記されていると、大半の場合は一石で屹立し
たメンヒルである。前掲のステネスの場合は、
サークルの一部であったと考えられる立石群で
あることで、
Standing Stones と呼ばれている
のだ。
 フランス語では
Menhir と書いてメニール
と発音するらしいのだが、日本では一般的にメ
ンヒルと呼ばれている。先住民族のブルトン語
が語源なのだという。
 ブルトン人やピクト人よりももっと古い謎の
民族が、この辺境の地の海に向かって展望の開
けた崖の上に、いったい何を目的としてこの巨
石を立てたのだろうか。
 写真の方向から眺めると、先端が尖ってやや
扁平に見えるのだが、正面から見ると、先が少
し曲がった妙な矩形に見える。
 立ち込めた霧の中に立つメンヒルの姿は、ど
こか不思議な気高さすら感じさせた。
 石を立てるということは、そこで生じる或る
種の緊張感や存在感を求めての行為であったこ
とは間違いなさそうである。
 
 
 Kirkwallからは国道 A960 を東南に15Km程
走り、B9052 の三叉路を過ぎてから1.5Km行く
と再び三叉路に出る。そこを左折し突き当りま
で走ると、小さな家屋が数軒建っている場所に
出る。
車を止め、その背後に向かって歩くと、
海の見える高台に出る。
 
もうメンヒルは目の前だ。 
 
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ステンシガーメンヒル
  Stensigar /Standing Stone
    
  Isle of Orkney (オークニー島) 
    
 
 
 オークニーの巨石はほとんどと言ってよいほ
ど海岸の見える場所に立っている。牧歌的であ
りながら、とてもエモーショナルな光景だ。
 遠くから眺めると、立石は風景の一部として
とてもロマンティックに見えたのだが、石の横
に立って見ると石の持つ圧倒的な重量感と神秘
性に打たれて、背筋に電流が走るような感銘を
受けた。
 古代人からのメッセージだったのかも知れな
いが、この鈍感な現代人には全く解釈不能だっ
た。
 
Skara Brae, Gurness Broch、などといった
紀元前2500年頃の巨石住居跡の残るこの島の謎
は、歩けば歩くほど深まっていく。
 
 
 Kirkwall のあるオークニー本島から国道
A961 で南下し
Burray 島を通過し、South
Ronaldsay
島へと向かう島の半ばで国道が
左へ直角に大きく曲がる所があるが、そこを曲
がらずに細い地方道を直進する。

 道路から海へと続く草原の緩やかなスロープ
の彼方に、写真のメンヒルがポツンと立ってい
るのが見えてくる。
 草原をしばらく歩いていかねばならない。
 
 
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カラニッシュストーン・サークル
   Callanish/Stone Circle
    
    Isle of Lewis (ルイス島)
    
   
 
 ルイス島には絶海の孤島というイメージが有
ったが、3時間の船旅で着いた島は広大で、開
放的な牧草原の広がる明るい平和な場所であっ
た。但し、風雪の激しい冬季の過酷な気候は、
想像を絶する厳しさなのだと聞く。
 憧れのカラニッシュは、意外に集落から近い
丘の上に在った。
 スコットランドの石林、とでも命名したくな
るような列石。二重の円に十字が重なった石の
列の平面図は、丸でケルトのハイクロスの様な
形をしている。
 壮絶とも言える立石の集積に、時を忘れて石
の間を歩き回る。何時間経ったかも、意識して
いなかった。感動は海より深く、古代人の美意
識に少しだけ触れた気分だった。
 石の列は、太陽や月の動きに関連していると
も言われているのだが。
 
 
 Stornoway から荒野の中を西へ23Km行った
所に在る。A859をSochまで行き、
Acha Mor
を経由してA858をさらに進み、カラニッシュ村
を訪ねればよい。案内標識は完備している。

 
サークルはBC2200頃、初期青銅器時代のもの
と考えられている。3m以上の石が林立してお
り、何本有るか数えたが、何回数えても途中で
判らなくなってしまった。
 
 
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クノック・フィルビル・ベグ
    ストーン・サークル

  Cnoc Fillbhir Bheag/
     Stone Circle
    
    Isle of Lewis (ルイス島)
    
 
 
 カラニッシュのサークルが在る一帯は、丸で
古代の祭祀のための壮大な広場のようである。
カラニッシュほどの規模ではないが、それでも
見事なサークルが主なものだけでも他に4箇所
点在している。
 ここはその内の一つで、とても難しい名前の
サークルだが、別名
Callanish Ⅲとも呼ばれ
ている。他の場所に在ったら、さぞ著名なサー
クルとなるだろうと思われる程、整然としたチ
ャーミングでエキサイティングなサークルだ。
 カラニッシュには観光バスも時折訪れるが、
ここはほとんど無人の別世界だ。
 石達が頭を寄せ合って、さながら円卓会議で
もしているように見えた。
 
 
 前掲の Callanish から、東南東1.5Kmの場
所に位置している。高台に在る Callanish
から、もう一つの Ceann Hulavig Stone
Circle と、このサークルを遠望することが出
来る。
 A858に面した小さな駐車場から、柵を越えて
少しだけ歩けば近い。

 サークルの直径は約13m、主な立石は13本在
った。やや修復整備された気配を感じた。

          
 
 
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クノック・セアン・アガレイド
   ストーン・サークル

  Cnoc Ceann A'Gharaidh /
    Stone Circle
    
    Isle of Lewis (ルイス島)
    
 
 
 Callanish Il とも呼ばれるサークルで、個性
的な石がほぼ完璧な円形を構成している。
 最も背の高い石は3m以上あり、円の中心か
ら見ると北東を指す位置に立っている。大きな
意味が有るに違いない。
 全ての石が円の中心に扁平な面を向けて立っ
ているので、見る方向によって一つの石が全く
異なった表情を示すのである。
 周辺にはケルンもあり、また木炭の発掘もさ
れていて、更に古い木のサークルなどの存在が
確認されているそうだ。
 それにしても、色々な形の変化に富んだ巨石
を集めたものだ。
 
 
 Callanish と先述の駐車場との中間に細い
道が有り、ここへは国道A858から、遺蹟の近く
まで直接車で入って行ける。
 前述のサークルからは、草原の道伝いに歩い
て行くことも出来る。
 ここは入り江まで100m足らずの場所で、
Loch Roag とも呼ばれている。
 
 
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セアン・ウラヴィッグ
    ストーン・サークル

  Ceann Hulavig/Stone Circle
    
    Isle of Lewis (ルイス島)
    
 
 
 ここはカラニッシュのサークル群からは少し
離れているのだが、
Callanish IV と呼ばれてい
る。
 サークルとしては小さい (直径13m) 部類
で、立石の数も5つしかない。この地方のサー
クルはいずれも楕円形で、景色の良い高台に造
られているのが共通した特徴である。
 石の間隔が不揃いなので、当初は6石か9石
だったのではないか、と勝手に推測した。
 隔絶された孤島の中の広大な草原、白雲と紺
碧の空、入り江から吹き寄せるやや強い風、苔
むした扁平な片岩の立石によるサークル、石好
きにとっては出来過ぎと言ってもよいほどの舞
台装置だった。
 
 
 国道A858から地方道B8011へと曲がり、ハリ
ス島方面へと向かって2キロ走った左手の丘の
上に在る。車を路傍に停め、急な斜面を少し登
って行くと景色の開けた場所に出る。
 道を隔てた反対側にもサークルが在ると聞い
たのだが、しばらく歩いても確認出来ず訪問を
断念した。この辺りをガイドする案内は、標識
など一切設けられていないからである。
 
 
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クレイティールメンヒル群
  Cleitir/ Standing Stones
    
     Isle of Great Bernera
      (ルイス島に隣接する)

    
 
 
 フィヨルドのように入り組んだ入り江には、
無数の島々が浮かび、夢のように美しい景観を
見せていた。頼りになる手元のOS地図によれ
ば、入り江は
Loch Ròg an Ear という。
 
Callanish の対岸となるこの島へは、狭い瀬
戸に架けられた細い橋で容易に渡ることが出来
る。
 海辺に面した絶壁の上に立つ写真のメンヒル
群は、石の全てが海に向かってやや傾斜した姿
がとても印象的だった。
 周辺に倒壊した巨石も多くみられ、かなり修
復されたメンヒル群で、当初はおそらく壮大な
サークルだったのではないかと思う。
 この遺蹟はほとんどの書物には掲載されてい
ないのだが、ストーノウェイ港の観光案内所で
教えて貰った穴場なのである。
 
 
 Callanish から入り江に沿って走る。
 B8011からB8059へと入ると、今度は入り江
の対岸を北西に進むことになる。6~7キロで
海岸線に出るが、そこで Bernera 島に架かる
橋を渡ることが出来る。遺蹟は橋を渡ったすぐ
左手の崖の上に在り、橋からも立石の存在を確
認出来る。
 
 
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クラック・ミック・ロイド
    マックロッド石

   Clach Mhic Leoid/
     Macleod's Stone
    
    Isle of Lewis (ルイス島)
    
 
 
 ヘブリディーズ諸島を代表するルイス島とハ
リス島が、地続きの一つの島であることを現地
で知った。ルイス島の南側半分をハリス島と呼
ぶ、といえば分かり易いだろう。
 突き出た半島の小高い丸山のてっぺんに立つ
このメンヒルは、やはり海を望む絶景の地であ
る。石は量感のあるやや角ばった石で、材質そ
のものは好みではないのだが、余りに劇的な場
所に立っていたので、そのシルエットが忘れら
れない。高さ4m弱の巨石である。
 写真に写っている後方の島は、ハリス島の北
に位置する
Taransay 島である。
 この後は、家内が是非寄りたいと言う“ハリ
ス・ツイード”の工房を訪ねるために、プロク
ラポル
Plocrapol という小さな村を探した。 
 
 ルイス島からハリス島へと向かってB859をひ
た走り、ハリス島の中心 Tarbert へと向かっ
た。町を過ぎてからさらに12キロほどで、右
手に干潟のような目にも鮮やかな白砂海岸が出
現する。
 その海岸線の続きに丸山の半島があり、半島
の付け根を横切った向こう側の海岸線に車を停
め、山の頂上へと歩いて登る。片道約1キロは
あるので30分はかかってしまうだろう。
 
 
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ロッホビュイ
    ストーン・サークル

  Lochbuie/Stone Circle
    
     Isle of Mull (マル島)
    
 
 
 アイオナ修道院や野鳥観察などを目的にして
この島を訪れる人は多いが、このサークルの存
在を知る人はほとんどいない。
 私達が訪れた時は、周辺が濃い霧に覆われて
いたが、何故かサークルの周りだけには霧が無
かった。陰鬱で荒涼たる湿地の草原を歩く私達
にとって、ピンクの石楠花だけが恐怖心を和ま
せてくれた。
 石も小さく、規模も大きくないが、手付かず
のサークルである。
 鋭く高い立石は、形それ自体が説得力を示す
が、この小さな石の円形は何を意味するのだろ
うか。
 この霧深い湿地帯では、太陽神崇拝のための
祭祀とか、天体観測のためのサークルといった
説には大きな疑問を抱かざるをえない。
 
 
 Craignure の港からA849を Strathcoil ま
で南下、分岐を Lochbuie 方面に曲がる。
 Loch Spelve の湾岸を Lochbuie まで12
キロ行く。小さな集落である。
 村外れに Stone Circle と書かれた粗末な
看板が在り、それに従って湿地帯をかなり歩い
て行く。
 サークルの直径は13mで、写真より手前に
2m弱の尖石が立っている。
            
 
 
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グレンゴーム
   
スタンディング・ストーンズ
  Glengorm/ Standing Stones
    
     Isle of Mull (マル島)
    
 
 
 港町トバモリー Tobermory に泊まった日
に、島の北部に庭園の美しい城館が在り、しか
もその近くに立石遺跡が在ると聞いて早速行っ
てみた。
 石楠花が満開で楽しめたが、城の背後に広が
る牧場の中に在る遺跡は抜群の美しさだった。
 マル島の観光案内所でくれた本の表紙にもな
っている、貴重な
Standing Stones メンヒル
である。
 見渡す限りの牧草地で、丘のむこうは断崖と
なって海に落ち込んでおり、羊と牛が放牧され
る中に、このシンボリックな石が3個立ってい
る。サークルの名残かもしれないが、日本庭園
の三尊石組に通じる美意識が存在するかのよう
に見えることに感動した。
 古代の人々の感性の中に、どんな信仰心や美
意識が存在したのだろうか。
 
 
 Tobermory から地方道を西北に約10キロ
進むと大きな森に突き当たる。
 そこが Glengorm Castle で、メンヒルは
城館の遥か背後、森を抜けた牧場の中に在る。
 牛の群れの動きを注意しながら、草原をかな
り歩かねばならない。
 
 
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ダーヴェグメンヒル
   Dervaig/Standing Stones
    
     Isle of Mull (マル島)
    
 
 
 鬱蒼と繁った森は深く、昼間だというのに薄
暗く湿った小径をしばらく歩いた。
 突然、頭の上が開けてぱっと目の前が明るく
なった。この円形の広場だけが、スポットライ
トを浴びたように輝いて見えた。
 そして、その広場の中央には、二本の立石が
飄然と立っていたのだった。
 メンヒルとしては小さな2m弱の石だが、と
ても存在感があって胸を打たれた。
 周辺に倒れた石が幾つも見られたので、列石
の一種かサークルの一部であった可能性はある
だろう。
 前掲のサークル跡とは場所も近く、石の種類
も似ているようだ。
 だが、古代の巨石遺蹟というのは、どうして
こうも劇的な場所にばかり在るのだろうか。
 
 Tobermory から地方道 B8072を約10キロ
行くと、そこは尾根の頂上で、右手には深い森
が見える。
 そこは先述の城あたりから続く Glen Gorm
と呼ばれる森で、遊歩道のある森林公園の入口
となっている。メンヒルやケルンが点在する、
巨石遺蹟の集中した特異な場所である。
 駐車場に車を停めて十分も歩けば、容易にこ
の遺蹟へ着くことが出来る。
 
 
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バリスケイトメンヒル
  Baliscate/Standing Stones
    
     Isle of Mull (マル島)
    
  
 
 マル島には、印象的なメンヒルなどの遺蹟が
数多く存在する。今回の旅では、4日間島に滞
在して14箇所のメンヒルとサークルを訪ねる
ことが出来た。
 そんな中で、雨と霧と泥沼のような牧草地と
戦った思い出が余りにも強烈だった事で、この
メンヒルが最も忘れられない存在となってしま
った。
 場所はトバモリーの町から1キロほどの判り
易い所だったのだが、車を停めて崖の上の草原
を歩き出してからが問題だった。
 前日まで降り続いた雨がまだ残っており、足
元の草地はドロドロ状態で、草と泥と牛糞が入
り混った道無き難路を数百m歩かねばならなか
った。
 ちなみにこれ以降の巨石探訪の為の私達の携
行必需品に、ゴム長靴が加わることとなった。
 二基のメンヒルは地面に根が生えたようにど
っしりと立っており、堂々たる存在感はマル島
での白眉といえると思う。
 前述のメンヒルもそうだが、二基の立石の間
に伏せられた石が置かれている。この形式がな
ぜかアバディーン地方の、サークルの横石のよ
うな存在となる石組を連想させる。
 伏せて置いたのか、単に倒壊したのか。
 
 
 国道A848を走ってくると、Tobarmory の町
に入る少し手前左側に陶器工場が在る。その角
を曲がった突き当たりに車を停める。

 
遺蹟はその右手上の高台に位置している。通
常は単なる牧草地なのだろうが、雨降りの後が
要注意かもしれない。但し、雨は無くとも、牛
糞にはくれぐれもご注意を。
 
 
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ポッティーメンヒル
   Pottie/Standing Stone
    
    Isle of Mull (マル島)
    
   
 
 アイオナ島やスタッファ島へ渡るための船が
出る、フィオンフォートの港へと通じる国道か
ら少し入った丘の上に立っている。
 羊の群れ遊ぶ何とも牧歌的な風景の中に、2
mと小さいが天を突くイメージを持ったメンヒ
ルが立てられていたのだった。
 4,000年近くもこの場所にこの姿で立ってい
たとすれば、今日にまで残されたことはこの荒
廃していく地球上にあっては奇跡的としか言い
ようが無い。
 しかしこの地が、牧草地としてしか利用価値
が無かったからこそ、という皮肉な理由で今日
にまで伝えられたのだから面白くもある。
 先人の残した文化や歴史といったものが、今
日を生きる人々にある種のメッセージを持って
いるのだとしても、古代人との隔絶した時間が
余りにも長過ぎて謎は解けない。
 この立石を見て何とも感じない人もいれば、
小生のように血が騒いでしまう人もいる。何を
求めて古代人は石を立てたのか、を知るための
資格を持っているのかもしれない。どういう資
格なのかは丸で不明なのだが。
 
 
 Craignure のフェリー港から、国道A849を
西へと向かう。約45キロで Fionnphort の
港だがその2キロ手前に、南に広がる牧場へと
入っていく小径がある。

 
メンヒルは突き当たりの牧場の手前の、右側
の牧草地の中に立っている。
 
 
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マクリ・ムーア
   ストーン・サークル (II)

  Machrie Moor/
    Stone Circles (II)
    
    Isle of Arran (アラン島)
    
 
 
 アラン島はその狭い島の中に、古代の石造文
化の名残を数多く留めた遺跡の島である。
 特にこのマクリ・ムーア地区では、大小10
個のサークルや3個のメンヒルを見る事が出来
た。
 写真の立石は、
Machrie Moor Ⅱ呼ばれ
るサークルの遺構である。
 かつてはサークルを構成していたこの3本の
尖石は、草原のどこからでも眺められるほど雄
大な存在である。
 全て扁平な板石で、揃って円の中心を向いて
いる。円は小さいが石の高さは迫力に満ちてお
り、12個は在ったと思われる往時の姿を想像
してみれば、オークニーやカラニッシュにも匹
敵するであろう雄渾なサークルだった姿が思い
浮かぶはずである。
 
 
 BrodickからB880を西へ約20キロ行くと、
Blackwaterfootに着く。さらにA841を北へ5
キロほど行くと、サークルを示す標識が出てい
る。
 広大な草原をかなり歩くことになるが、遊歩
道が整備されていて、7つのサークルを比較的
容易に巡ることが出来る。
 Ⅱは直径13mのサークル、材質は砂岩で近
在の山から掘り出されたものらしい。初期青銅
器時代のものという。
 
 
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マクリ・ムーア
   ストーン・サークル(V)

  Machrie Moor/
     
Stone Circle (V)
    
    Isle of Arran (アラン島)
    
 
 
 数あるマクリ・ムーアのサークルの中では、
最も整然とした優美なサークルである。
 このサークルが他と違うのは、内側に8個、
外側に15個の石を並べた二重のサークルだと
いうことである。
 石は比較的背が低く丸いので、緊迫した迫力
よりもずっしりとした重量感に満ちている。動
物がうずくまった様な格好に見える。
 ここでは石を“立てる”のではなく、“並べ
る”事に意義があったのではないか、と感じら
れる。
 サークルと同心円の土塁も築かれており、何
かの祭祀の舞台であったかのようにも見える。
 背後に明媚な山が見える平原に広がる、壮大
なサークル群遺蹟である。
 
 
 前記のサークルへ行く遊歩道を歩くと、最初
にこのサークルが見えてくる。Vは直径18m
のサークルで、”Fingal の釜戸”という妙な
別名がある。フィンガルは、ヘブリディーズ諸
島のスタッファ島・フィンガルの洞窟で知られ
る伝説の巨人である。
 
 
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ブロディック城
   
スタンディング・ストーンズ
  Brodick Castle/
     Standing Stones
    
    Isle of Arran (アラン島)
    
   
 
 アラン島に点在する数多くのメンヒルの中で
は、そのロケーションと共に最も印象に残った
ものの一つである。
 豊かに実った黄金色の麦畑の中に、2本の尖
石が天に向いてすっくと立つ姿が見えた。
 何という美しい景色だろうか。もっとも、こ
こはブロディック城の領域内であり、この豊穣
は勿論、古代への夢までも独占できる貴族のス
ケールの大きさには驚嘆せざるをえない。
 貴族が所有すればこそ、開発の嵐から貴重な
森林や遺跡が守られた、という皮肉な現実も存
在するのだから文句を言う筋合いではない。
 そんな偏見や羨望を超越して、この立石の姿
は真に崇高で美しかった。足元が麦の群生で見
えないので判らないが、純粋なメンヒルであっ
て、おそらくはサークルの石ではなさそうだ。
 麦を傷めない様に畔に沿って穂をかき分けな
がら進み、撮影ポイントを探すのに苦労した。
 苑路を隔てて反対側の牧草地に、もう一つの
メンヒルが在り、どうやらこの2石と一列にな
っているように見えた。
 
 
 Brodick Castleを見学した後、町側の出口
である南門へと向かう苑路の右側、深い生垣の
向こうにこの広大な麦畑が在る。普通に車で通
過すると全く見えない。

 Brodick の町の中2箇所にも、鋭く延びた
立石のメンヒルが在った。島全体が古代巨石文
化の遺跡のようである。
 
 
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オーチェンカーメンヒル
  Auchencar/Standing Stone
    
    Isle of Arran (アラン島)
    
 
 
 高さが5m以上もある迫力満点の、文字通り
の巨石メンヒルである。無数の羊がゆったりと
放牧された草原を、かなり奥まで歩かねばなら
ないのだが、牧場の入口辺りからでも、立石の
存在は確認できる。
 石の白く見える部分は苔で、石の材質はマク
リ・ムーアと同じこの地方の砂岩らしい。
 これだけの巨石を立てる作業は半端な労働力
だけでは遂行不可能であり、やはり何らかの大
きな権力が発揮されたのか、また別の次元で、
例えば宗教的な統率力など、人々を動員しうる
何らかの力が存在したのだろう。
 一頭の羊が微動だにしないで、じっと不意の
闖入者を睨んでいた。まるでメンヒルの番をし
ているかのように。
 
 
 Machrie Moor からさらに国道A841を約2
キロ北上すると、小さなT字路がある。そこを
右に曲がり、小径を進むと広大な牧場に出る。
草原のかなたにメンヒルの姿が見える。

 左手の柵を越えて、牧草地を300mほど歩
けばよい。
 
 
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ネザー・ラーギーメンヒル群
  Nether Largie/
      Standing Stones
    
  Argyllshire (アーガイル州)
    
   
 
 キルマーティン峡谷と呼ばれる一帯の広大な
草原の中に、それぞれ2本・3本・2本の立石
集団による3つのメンヒル群が、平行線の幅の
中に一定の間隔をおいて並んでいる。
 写真は一番手前の、二基の立石である。右の
石は妙な形をしているのだが、おそらく上部が
破損したのだろうと思う。先端の尖った石は多
いが、古代人の嗜好にはこうした奇形は無かっ
たものと私は思っている。それでもこれは、と
ても印象的な佇まいだった。
 この平行に立つ二石の向こうに大小三石が三
角形の位置に立ち、さらに向こうには平行して
二石が立っているのである。
 一列か二列に並列する列石は多いが、ここの
石はその種類ではない。サークルの遺構でもな
さそうだ。
 この草原はまことに古代巨石文化の一大展示
場のようなもので、次掲のストーン・サークル
や大小のケルンやドルメンが密集しており、石
好きにはたまらない楽園である。新石器時代か
らの古代の墓が集中する、広大な墓地の谷なの
である。
 
 
 マル島からのフェリーが着く Oban 港を出
発して、国道A816 を約50キロ南下する。
 Kilmartin の村を過ぎた辺りの右手は広い
草原になっており、その中にこの遺蹟がある。

 
遺蹟の近くまで車で近づくことが出来るので
分かり易い。
 南の Lochgilphead からはA816を10キロ
北上することになる。
 
 
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テンプル・ウッド
    
ストーン・サークル
  Temple Wood/Stone Circle
    
  Argyllshire (アーガイル州)
    
 
 
 前述の遺蹟などが密集する草原に隣接して、
この不思議なサークルを見ることが出来る。
 玉石を積んだケルンとストーン・サークルが
複合したものは、幾つかの事例を知っている。
しかしケルンがこんなに大きいのは珍しいし、
写真では判らないが、サークルの中心に石棺の
ようなものが埋め込まれているのが最大の特徴
だろう。
 紀元前2,000年に造られたそうだが、その後
埋葬用のケルンや石棺が造られ、現在見られる
ものは紀元前1,050年頃のものだという。
 北側にはもっと古い、丸太を利用したウッド
・サークルの遺構があり、それは驚いたことに
何と紀元前2,500年のものだそうだ。
 
 
  前掲の遺蹟から歩いて行くことも出来る。
 車は Kilmartin から南西へ1キロ強、
Slockavullin へ向かう小径に面している。

 サークルは直径13m×12mの楕円形であ
る。    
 
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バリーミーノフメンヒル群
   Ballymeanoch/
     Standing Stones
    
  Argyllshire (アーガイル州)
    
 
 
 ここもキルマーティン渓谷の中に在る、列石
群の遺蹟である。
 このサイトの表紙にもここの写真を使ってい
るのだが、とに角表情の魅力的な石ばかりが立
っていることに感動したのである。
 写真は並列した4本の板石で、日本の板碑を
連想させる何とも壮絶な光景である。30m離
れた場所に、別の2本の板石が平行して立って
いる。
 前掲のネザー・ラーギーの列石も同様だが、
石の表面に円形や多重リングが彫られている、
というのだが、磨耗が激しく確認は出来なかっ
た。
 いずれも列石の示す方向が、冬至や満月とい
った特定の日時での、太陽や月の出たり沈んだ
りする方向に関係している、という説もある。
 列石の目的や意義は不明だが、方向性だけを
示すのであれば、このような石の立て方をする
だろうか、という疑問を感じた。
 
 
 前掲の遺蹟群からB8025を Ballymeanoch
の村に向かって進むと、すぐ右手にケルンが見
えてくる。Dunchraigang のケルンである。
 メンヒル群はその左手奥に広がっている牧草
地の中にある。幹線道路を外れれば、どこでも
駐車は可能である。
 
 
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トーハウスキー
    
ストーン・サークル
  Torhousekie/Stone Circle
    
    Dumfries & Galloway
    
 
 
 見渡す限り牧草地や麦畑がずっと続く谷間の
台地で、柵のある大きな牧場の一画にこのスト
ーン・サークルが保存されている。
 アラン島マックリー・ムーアのサークルVに
似ており、マウンド状の土塁の上に石が立てら
れている。
 石を数えて見ると19有り、全てこの地方の
花崗岩のようだ。リングの直径はほぼ20m、
古いゴルフ場のグリーンの大きさだ。
 石は丸味がかったものが多く、最も高いもの
でも60
センチ足らずである。
 付近には、3石が並列した立石群やケルンが
数個密集していた。
 さながら古代の祭祀場の跡のようではないか
などと思われたが、気が付けば、牛と羊しかい
ない英国では当たり前の牧歌的な田園の真っ只
中でしかなかった。
 
 
 この地方の中心都市 Dumfries から国道A75
号線を西へ Newton Stewart まで行き、そこ
からA714を10キロ南下すると Wingtown に
着く。さらに地方道B733で西へ5キロ進んだ路
傍に、このサークルを見つけることができる。
 The Machars と呼ばれる、美しい田園地帯
である。
 
 
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グレンキッカン
    ストーン・サークル

  Glenquickan/Stone Circle
    
        Dumfries & Galloway
    
 
 
 Cambret Hill という丘の麓一帯には、古代
の遺跡が密集しており、
Cambret Moor と呼
ばれている。著名なサークルが3つ、他に列石
やケルンやメンヒルが点在しているのだが、道
が無いので車は全く入ることが出来ない。そこ
で、道から最も近い、このサークルまで歩くこ
とにしたのである。
 このサークルの最大の特徴は、リングの中心
にメンヒルのような立石が象徴的に立っている
ことだろう。
 リングの直径は16m×15mの楕円で、か
なり小さな石が周囲に立てられている。数えた
ら29個有った。
 リングの石が小さく低いので、サークルとし
ては迫力に欠けるのだが、遺蹟の集中した神秘
的な空気の漂う場所に立っていたことがとても
印象的だった。
 
 
 前掲のサークルへ行く途中のA75号線を、
Newton Stewart から Dumfries へ向かって
12キロ戻った所に Creetown の町がある。
 そこから Old Military Road という細い
道を、東に向かって3キロ行った所で車を停め
る。目印は全く無く、森を抜けてすぐとしかい
い様がない。写真の背後に写っているのがその
森で、車はその右端辺りに停めた。歩く距離は
400m弱である。
 
 
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ミドゥマー・カーク
    ストーン・サークル

  Midmar Kirk/Stone Circle
    
  Aberdeenshire (アバディーン州)
    
 
 
 そこは何とも不思議な空間だった。
 村の小さな教会堂の裏側、ささやかな墓地に
隣接してこのストーン・サークルが在った。
 円形の内側は緑の芝生で、背はそれ程高くは
ないが鋭い立石によって周囲が囲まれている。
 写真の右側は、
Recumbent と呼ばれる横石
と、それを両側から挟んでいる
Flankers
いう側石とで組まれた、この地方特有の構造の
サークルである。この形式は多くのサークルで
見られたが、この地方だけで様式化したという
ことは何を意味するのだろうか。
 祭壇のようにも見えるし、生贄が捧げられた
場所と見る向きも有ると聞く。
 
 
 Aberdeen の西25キロに位置している。
 B9119 を直進し Echt の村からさらに西へ
と向かう。約4キロあたりに Kirkyard と書
かれた標識が在る。そこを右折し北へ少し行っ
たところにこの教会が見える。
 教会は18世紀、墓地は20世紀になってか
らの創建らしい。
 右の石の高さは2m50、サークルの直径は
17mである。
 
 
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カラリーストーン・サークル
   Cullerlie / Stone Circle
    
  Aberdeenshire (アバディーン州)
    
 
 
 アバディーンの町の西側一帯には、実に数多
くのストーン・サークルやメンヒルが点在して
いる。
 ここも町からは至近の、牧草地とはいえ比較
的集落の多い場所に位置している。この一画は
古代歴史公園のようになっていた。
 直径約10mのリングだが、印象的な八つの
石で構成されている。
 特徴はリング中央のケルンだろう。かなり修
復整備されたように見えるので、少しがっかり
したのだが、解説標識を読んで驚いた。
 サークルの石はケルン以前のものらしいが、
ケルンからは火葬された人骨や炭状の樫材が出
土したという。
 サークル墳墓説も説得力を持ってくるが、サ
ークルが建造された時との時間のギャップを考
えると、必ずしも一様ではないと思う。
 
 
 アバディーンの町から国道A944を西へ10
キロ進み、B9119とのY字路を左へ入る。
 6キロ行ったところで、今度はB9125を左折
し、数百mで直ぐまた地方道を左折する。

 
さらに1キロ行くと、そこにサークルの案内
標識が出ている。
 
 
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サウス・イジー
    
ストーン・サークル
  South Ythsie/Stone Circle
    
  Aberdeenshire (アバディーン州)
    
 
 
 訪れたのは04年5月下旬で、スコットラン
ドはいたるところで菜の花が真っ盛りだった。
日本でも珍しい花ではないが、これだけ畑一杯
に咲いていることと鮮烈な黄色とが格別印象的
だった。
 菜の花に囲まれたストーン・サークルが有っ
たら良いだろうね、などと話していた矢先にこ
の場所へ着いたので、夢が即座に叶えられたよ
うで嬉しかった。
 やや小振りな6個の石で構成されており、こ
の遺構はほとんど手付かずのままらしい。
 小高いケルンの上に並べられた素朴なサーク
ルは、むせるような菜の花の香りの中で、悠久
の時を語っている。
 
 
 AberdeenからB999を北へ20キロ程行くと、
Pitmeddenという町に着く。そこからさらに
B999を4キロ行くと、South Ythsieと村名
の書かれた小さな標識が出ている。サークルは
その村外れの、低い丘の向こうに在る。
 
 
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ティレバガー
    ストーン・サークル

  Tyrebagger/Stone Circle
    
  Aberdeenshire (アバディーン州)
    
 
 
 このストーン・サークルの在る場所へは、地
図が無ければ絶対にたどり着く事は不可能だ。
ハリエニシダの繁茂するオフロードの急坂を、
登りつめてからしばらく歩いた。
 鋭い尖石が林立する戦慄的なサークルで、例
Recumbent という横石と両側の立石の石
組が、サークルの要となっている。
 サークルに立っている主石は10個、3m近
い高さのものも在った。
 ここも大きな改修は成されておらず、傾斜し
た立石などは、前衛的な美意識すら感じさせる
程の美しさだった。
 4000年も前の遺跡であるのに、日本庭園に立
てられた石組の感覚にとても似ているような気
がしてならなかった。私は完全に、阿波国分寺
庭園の石組をイメージしていたのだった。
 
 
 Aberdeen 空港の西、 Hill of Marcus と
いう丘の山裾に広がる牧場の外れに在る。
 Dyce Farm という農場を目指して牧草地の
囲いの間を登って行くと、前方遥かやや小高い
丘の上に数個の細長い石が立っているのが見え
る。空港背後の町からは工場の裏へ回りこむ、
農場への最初の入口だけが判り難い。
 
 
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ローンヘッドストーン・サークル
    Loanhead/Stone Circle
    
  Aberdeenshire (アバディーン州)
    
 
 
 アバディーン州では最も著名なストーン・サ
ークルで、一部の旅行ガイドブックには載って
いるものがある。
 行政によって史跡として管理されており、見
学に支障は無い。
 パッチワークのように美しい菜の花畑や麦畑
が望める見晴らしの良い美しい高台で、このサ
ークルは苦難の歴史から解放され、余生を楽し
んでいるみたいだった。
 見事な横石
Recumbent 石組の他に、10
個の立石が並んでいる。
 サークル中央に小石を積んだ円形ケルンが在
るが、各地で見られる様式である。
 BC3000とは思えぬほど綺麗に整備されては
いるが、程好く荒れた手付かずというほうが遺
跡らしい、などと言うのは我が儘というものだ
ろうか。
 
 
 Aberdeen の西北に Inverurie インヴェラ
リーという町が有る。そこからB9001を北へ8
キロ行くと Daviot への標識が在る。
 サークルは Daviot の町の北外れに在り、
案内の表示は完備している。
 
 
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グラッセルストーン・サークル
    Glassel /Stone Circle
    
  Aberdeenshire (アバディーン州)
    
 
 
 深い森の中を歩き回り、ほとんど迷子状態の
まま地図と感を頼りに探し続けてようやくたど
り着いた。帰り道も迷ってしまったほど、何の
標識も案内も無かった。
 暗い森の向こうに明るく輝くスポット光が見
え、そこに荘厳なサークルを発見した時には、
背筋に電流の走るのを感じたものだ。
 サークルは不揃いで、かなりの石が失われた
らしい。写真の右から二番目の石がリングの中
心石で、他の4石がリングのライン上に立って
いる。リングの右半分が喪失したものと思われ
る。
 それでも、サークルの示す神秘的なオーラが
充分感じられる場所であり、深い森の中という
雰囲気が更にそれを増幅させた。
 
 
 アバディーンの町の西、ディー川の上流に
Banchory というチャーミングな町がある。
 Banchory から国道A980を西へ9キロの所
にあるT字路を左折すると、道の左右はすぐ深
い森となる。約800m行った、左に森の中に通
じる私道らしき道のある地点に車を停め、右側
の森の中に踏み込んで行く。かすかな道の痕跡
を頼りに、森の外れ近くまで歩く。
 たった200m足らずなので、何とか見つけ
てほしい。
 
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サンハニーストーン・サークル
   Sunhoney/Stone Circle
    
  Aberdeenshire (アバディーン州)
    
 
 
 背の低い石垣に囲まれた広い牧場の向こう側
に、明らかにサークルと判る尖った立石が幾つ
も見えた。近道をと考え、石垣を乗り越えて牧
場を横切ろうとしたのが失敗だった。
 何十頭もの牛がじわじわと私達に向かって、
迫ってきたのは怖かった。
 サークルは大きなリングで、直径は25mは
ありそうな規模である。
 ここにもこの地方特有の、
Recumbent とい
う横石を組んだ要石が、リングの南側に立って
いる。緯度の高いこの地での、月の沈む方向に
関係しているらしい。
 サークルの中心に立ってみたが、全ての石が
そのパワーを中心に向けて放っている様に思え
た。天体の動きとの関連も重要なのだが、私に
は円形に並べられた石そのものの存在感に惹か
れてならなかった。
 
 
 アバディーンから国道A944を走り、B9119へ
と左折してから約13キロ行くと右手に牧場が
見える。その向こうにサークルが確認出来るの
だが、アプローチは牧場の右側から、石垣を伝
わって近づくのが賢明だろう。
 前掲の Cullerlie サークルの真西7キロに
位置している。
        
 
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イースター・アコーシーズ
    
ストーン・サークル
   Easter Aquorthies/
        Stone Circle
    
  Aberdeenshire (アバディーン州)
    
 
 
 緩やかに谷間を見渡せる景勝の地に、この見
事なサークルは立っている。
 ストーン・サークルは決まって絶景の地に在
るが、都市化の開発からは、僻地のみが生き残
ったからだともいえるのだろうか。
 リングの直径は18mという広大なサークル
であり、土塁の上に乗った様な形式になってい
る。様々な色の石が使われており、色と方角を
結びつける説も聞くが、やや考え過ぎのような
気がする。
 ここにも横石が有り、あたかも何かを祭るよ
うな形をしている。インカやマヤでもあるまい
に、生贄説に至ってはついて行けない。
 可能性は否定できないが。
 
 
 アバディーンの西北の町 Inverurie の中心
から、地方道を真西に5Km行った所に在る。
 駐車場が設備されており、アクセスは簡単で
ある。
 
 
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ホワイトブロウ
    ストーン・サークル

  Whitebrow/Stone Circle
    
  Aberdeenshire (アバディーン州)
    
 
 
 ここは相当荒廃した遺蹟らしいのだが、見事
な横石
Recumbent が残されていた。
 数頭の人懐こい馬が放牧された牧草地の一番
奥に、ポツンとこの横石の石組が立っていた。
 単独で存在するはずはなく、おそらく大きな
サークルの一部であったに相違無い。周辺には
その痕跡としての石が一つも見られないのが、
何とも不思議だった。
 同様の遺構がすぐ近くにも在るそうで、何か
の理由で造り掛けのままになったのか、或いは
こういうものが最初から意図的に造られたとい
うことなのだろうか。
 周辺に点在するピクトの立石遺蹟も含め、こ
の地方を旅する楽しみはまことに奥が深い。
 
 
 Inverurie からB9002を16キロ行く。
 Insch という町に着くと、町の中心を抜け
地方道をさらに3キロ西へ行った道路沿いに、
この牧場が見える。
 柵を乗り越え、馬の頭を撫ぜながら草原を横
切れば良い。
 
 
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キネルストーン・サークル
   Kinnell/Stone Circle
    
    Perthshire (パース州)
    
 
 
 緑濃い森林に四方を囲まれた広大な牧草地の
中に、遠くから見ると何かを相談しているかの
如く額を寄せ合うように集まった石が6個、ポ
ツリと立っていた。
 その佇まいの何ともシンボリックな姿に、サ
ークルの原点を見るような気がして感激した。
 6個の石で構成されたサークルは多く見られ
るが、360度という方位から、4、6、12
などといった数を用いる事が想定出来そうだ。
 また横石形式も含め、ある様式化されたパタ
ーンが、青銅器時代のこの地方に伝播していっ
たのかと思うと、一体どんな知性が存在してい
たのかを考えざるを得ない。
 
 
 Perth の西北に Loch Tay という湖が有る
が、その西端に Killin の村が有る。
 Perth からA85を約30キロ走り、A827の
分岐を曲がる。3キロほど行った Killin の
村入口の Falls
of Dochartで、国道の石橋
を渡らずまっすぐ湖に向かって細い道を入って
いく。案内標識は全く無い。しばらく進むと石
垣に囲まれた牧草地の中に、このサークルが見
える。
         
 
 
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クロフト・モレグ
    ストーン・サークル

  Croft Moraig/Stone Circle
    
    Perthshire (パース州)
    
 
 
 パース州で私達に最も印象的な感動を与えて
くれた、忘れられないストーン・サークルがこ
こである。
 石はやや丸みを帯びているが、二重に立てら
れた石のサークルは重厚で、数え切れない程の
石の数である。
 カラニッシュのように際立って崇高な材質が
用いられているわけではなく、ありふれた石が
ひたすら天に向いて立っているのである。並べ
られた石からは美意識よりも、むしろひたむき
さが感じられるような気がした。祭祀のための
手段というよりは、信仰そのものの発露といっ
たような気もする。
 これ以後私達は、つまらぬ城や湖の観光予定
を完全に放棄し、ストーン・サークルのみを探
訪する旅程にと変更したのだった。
 
 
  前掲の Killin から Loch Tay 沿いに、
A827 を東北に進むと Kenmore に着く。橋を
ってなおもA827を3キロほど行った、右側つ
まり国道の南東側の牧場の小高い丘の上に見え
る。案内標識は無いが、BC3000年のもので、
大きな修復が成されていない完璧な美しさを見
る事が出来る。
 
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