平成22年12月(師走)の短歌
真夜覚めてまっすぐに降る雨を聞く ヒツジガ一ピキヒツジガ二ヒキ

呑まされしカメラが胃袋映しゆく横たわる吾の意に関わらず

基礎検診吾のデーター解く医師はにこやかに言う「また来年いらっしゃい」

靴のひも解けて(ほどけて)結ぶ足下に盲導犬ひたと寄り来て座る

声高く二の段の九九繰り返す下校の子らと行き交う路地裏

舗装路を舞い来る落ち葉は地に返る土を求むか吾を越しゆく

メシイにも主婦にも慣れて賀状書く点字ワープロの音の哀しき(かなしき)

旅先に求めし奴隷の門松をアパート住まいの子に持たせやる

 師走とは思えないほどの穏やかな朝のことだった。玄関先でしきりに鳥が鳴いている。掃除の手を止めて耳を澄ますと、それは確かに小鳥の鳴き交わしているような声である。少なくとも二羽以上いるだろう。地面まで降りているようだ。こんなことは滅多になかったので、そのさえずりを聞きながら「どんな鳥かしら?」などと玄関を開けた瞬間飛び立ってしまった。
 いやな予感に「もしや?」とマンリョウの鉢植えに触れてみると…「やっぱりない!」あんなにいっぱい付いていた実がきれいになくなっていたのだった。
 もう十年近くも前になるだろうか。このマンリョウは、所属している会の「寄せ植え」教室の題材の一つで、剪定と移植を繰り返し私のお気に入りの一鉢なのだ。赤い実を付けた鉢を万年青と共にお正月の彩として重宝していたのに。それにしても、こんな玄関先に置いた鉢植えをよくもみつけたものだ。きっと赤く色ずいた頃を見計らって集団で調達に来たのだろう。厳しい自然界で生きぬく鳥の天性に脱帽である。
 実のなくなったマンリョウと猛暑に負けて実が付かなかった万年青、それに東京の息子たちも引っ越しで帰省できないという。兎年の正月は少々さびしく物足りなくなりそうだ。

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