<中日新聞>
06年を送る 記者余聞 (3) 瀬戸のフェロシルト問題 解決への見通し立たず
2006.12.23 朝刊 14頁 なごや東版 (全1,462字) 

 【愛知県】「赤い水」が流れ出て、フェロシルト問題追及の口火を切った瀬戸市北
丘地区。ようやく撤去が終了した十一月末に現場を訪れた。干上がったダムのように
地層がむき出しになった地形。ごみのような異臭もした。木の切り株が、がい骨のよ
うに残り、長さ十数メートルのコンクリートの塊が横たわっていた。こんな光景を目
にすると、フェロシルト問題が解決に向かっているとは思えなかった。

 北丘地区での撤去をめぐって今年、幾つかの問題と事件が起こった。当初五月十五
日だった撤去期限は延期され、九月からは、ほど近い余床町の民間最終処分場に運び
込まれた。十一月に入ると、フェロシルトを運ぶダンプカーを狙った爆破予告事件が
発生した。

 中でも民間処分場への搬出は市民の反発が大きかった。市外、県外への撤去を求め
る署名活動が起き、約六千五百人分の署名が県と市に提出された。結局は総撤去量の
半分以上がこの処分場に運び込まれた。

 撤去期限の日、北丘地区に近い地元の住民に話を聞くと、「産廃を少し移動しただ
け。地域からなくなったわけじゃない」「他県のフェロシルトが今後、この処分場に
集まってくるのでは」との声が聞かれた。

 この問題で増岡錦也市長は「県が認めた処分場であり、問題はない。運搬時の二次
被害のリスクを抑えられる良い方法」などと繰り返した。「瀬戸だけに、なぜフェロ
シルトが市内に残るのか」といった市民感情への配慮は聞かれなかった。

 「環境」をうたう愛・地球博(愛知万博)が進んでいるさなか、あざ笑うかのように
フェロシルトが市内に運び込まれていたことを考えれば、市としてもっと怒ってもい
い。

 もう一つの市内の埋設地、幡中町の撤去は、製造元である石原産業(大阪市)が県に
撤去命令取り消しを求めて係争中だ。解決の見通しは立っていない。あまりにも膨大
な量であるため現地でのフェロシルトの「封じ込め案」が浮上し、地元には「このま
まフェロシルトが残されるのではないか」という不安がある。

 事態の打開に向け、地元自治会が完全撤去を求める署名活動を仕掛けたのは、裁判
を理由に静観している行政の姿勢に歯がゆい思いをしていたからだろう。

 瀬戸に膨大なフェロシルトが持ち込まれたことと、ごみの不法投棄が後を絶たない
こととは無関係ではない。ごみを持ち込みやすい環境があり、それを許してきた空気
があったのではないかと思う。

 万博が終わった今こそ、「瀬戸はごみ捨て場じゃない」と声を大にして言うべきだ。
森の精・モリコロが住む街として、責任は重い。(細井卓也)

 【5月】

 2日 日進市の東部丘陵地区での陶土採掘事業で、反対する市民団体が都市景観条例
制定を求める陳情書を市に提出

 8日 米ケンタッキー州オーエンスボロ市の訪問団が、日進市入り

 10日 豊明市が、現在の市域となる豊明村が誕生して100年になるのを記念した式典
を開催

 15日 瀬戸市幡中町でフェロシルトの撤去作業が始まる/瀬戸市の瀬戸地下軍需工場
を保存する会が、保存の申し入れ書を市長あてに提出

 17日 談合事件で、名古屋地検特捜部は瀬戸市内の建設会社社長ら4人を逮捕/尾張
旭市の通学路沿いに地元自治会が設置した「おむかえステーション」の開所式

 18日 東郷町のラブホテル建設をめぐる控訴審判決で、名古屋高裁は一審に続き業
者側の訴えを棄却

 21日 瀬戸市幡中町でのフェロシルト撤去命令の取り消しを求め、石原産業が県を
提訴

 28日 豊明市で車内の男児が熱中症で死亡

 31日 東郷町のラブホテル建設問題で、控訴を棄却した名古屋高裁判決を不服とし
て、業者が最高裁に上告

中日新聞社


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